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「ねえ、あたしはどうしたらいいの」
娘達は、エーレの言葉にまともに反応しなかった。ふたりくらい、顔を見合わせたのが居たが、すぐに目を伏せて声も発しない。
エーレは風呂にはいって、用意されたドレスを着、テーブルいっぱいに並んだご馳走を前に胸が悪くなっている。
エーレは今まで、精々がとこ、パンとチーズくらいの食事しかとってきていない。それだって、金まわりのいい時の話だ。最近は、近所の畑で捨てられている野菜をこっそり拾ってきて、スープにして食べていた。買っていたのは塩くらいだ。
エーレは匂いから、テーブルの上に並んでいるのが食べものだということはなんとなくわかっていたが、だからといって即座に手を伸ばす気にはならない。あのぬらぬら光ってる、生の肉みたいな気持ち悪いのはなんだろう。こっちには花みたいなものもある。
手をつかねていると、物音がして、娘達が一斉に出ていった。「ちょっと」
エーレは椅子から立ち上がる。娘達を追おうとしたが、その前に、陛下が這入ってきた。
エーレは口を噤み、すとんと椅子に納まる。「喋れるようだな」
陛下は淡々と云い、エーレの向かいの椅子をひいた。どさっと腰掛けて、右手で花のような食べものを掴み、かじる。
「先程は黙っていたから、口がきけないのだと思った」
エーレは俯いている。
陛下は用意されている布で手を拭いて、水差しからゴブレットへぶどう酒を注ぎ、あおる。その目が抜け目なく、エーレを見詰めている。
「明日から三日間、糸を紡げ」
エーレは顔を上げた。陛下はゴブレットを置いて、生の肉のようなものを掴んでがつがつと食べている。エーレはそれを見ていると戻しそうになった。
「それが終わったら、お前をめとる」
エーレは椅子を蹴って浴室へ走った。吐く為にだ。
自分がやけに高いところに閉じこめられたというのは、窓から外を見てわかった。落ちたら間違いなく死ぬとわかる。それだけ、地面が遠い。
「エーレさま、お食事です」
娘のひとりが、やわらかくて優しい声で云う。窓辺に居たエーレは、テーブルまでなんとか歩き、席に着いた。娘達は同情するような、心配するような顔で、テーブルにパンやスープ、なにかよくわからないが食事である以上食べものには間違いないだろうなにかなどを並べる。
エーレはパンをかじり、器を持ち上げてスープをすすった。室内にはベッドと、糸車と、テーブルと椅子、小さなつづら、それに暖炉がある。隣の浴室には、便器と浴槽があった。夜の間に、そちらは娘達が綺麗にしてくれたらしい。
気分の悪いことに、部屋の隅には糸になっていない亜麻が大量に積み上がっていた。あれを糸にしなくてはならないのだ。
エーレは横目でそれを睨んでいる。糸紡ぎは、できないわけではない。ただ、二年もしていないから、またその時のように糸を紡げるかどうかはわからなかった。それに、どちらにせよ、金の糸はどうやっても紡げない。
エーレはスープを飲んでしまって、器を置いた。パンとチーズを口いっぱいに詰め込む。どうせ、今日中には金の糸を紡げないことがわかって、処刑されるのだ。最後に好きなものを腹一杯食べたって、お天道さんも怒らないだろう。
エーレが手を洗いたいと云うと、娘達は残った食糧をさげはじめた。ひとりがたらいに水を持ってくる。エーレはそれで手を洗った。娘達は丁寧なお辞儀をして出ていき、エーレはつづらのなかにあった布を頭にかぶせてうなじのところで縛り、糸紡ぎにかかった。どうせやることもないんだし、糸を紡いだってばちはあたらない。




