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結婚式はつつがなく……というよりも、大騒ぎになった。
国をまもる妖精達の呪いが解けたのだ。貴族達は大喜びしている。これで他国に攻められることもないと。
司祭が来て、正式に王后になったエーレは、貴族達に何度も礼を云われた。陛下が嬉しそうにしている。
そして、貴族達の挨拶の後、おばさん達が……妖精達がやってきた。
「エーレ、ありがとうね」
「わたし達の可愛い娘」
「レヒト、大事にするのよ」
「云われなくとも」
陛下が、心外だ、とばかりに応じる。エーレは目を白黒させた。「あの……あたし、まだ事情がのみこめないんですけど……」
「ああ、そうよね。あのね、わたし達は呪われてたのよ」
「わたしとトロイが喋れなかったのは、前に失敗した子達に、呪いのことを詳しく話そうとしたからなの」
「あたしは慎重だったからね。かくして、このエーアリヒおばさんだけは声を失わずにすんだのよ」
三人はにこにこしている。陛下が云った。
「お前に詳細を知らせる訳にいかなかったのだ。そういう呪いだからな。わたしが声をなくしてしまったら、政務に差し支える」
「あの、呪いって?」
「わたしの母が、わたしの兄にこの国を継がせようとした」
エーレは頷く。たしかに、王子はふたり居ると、聴いたことはあった。
陛下は顔をしかめる。
「それ自体はよかったのだ。だが、母は余計なことをした。わたしが王位を継ごうとしないように、わたしを亡き者にしようとしたのだ。この怪我はその時にできたものだよ」
顔を示す陛下に、息をのんで、エーレは口をおさえる。
「しかし、我が国をまもるこの三人の妖精達が、すんでのところでわたしを救った。当然、母は捕まったのだが……」
「誰かに悪い知恵をもらったらしくってね」
「わたし達とレヒトを呪ったの」
「ただ、呪いが強すぎて、ゲートミューティヒ……レヒトのお兄さんまで呪ってしまってね。あの子はそれを悔やみながら死んでいったわ」
「お兄さんも」
「大丈夫だ。兄の呪いも解けている。君からもらったパンくずはおいしかったそうだよ」
エーレは寸の間考え、はっとした。「あのからすが?」
「そうだ。兄上は隠居すると云っているが、そうはさせない。どこかに領地を持ってもらう。……あのひとは優しいのがすぎるから、何人か監視役はつけるがな」
エーレは言葉が出ないまま、妖精達を見る。
「でもあの……金の糸は? なんだったんですか」
「呪いをかけた当人が死んじまったからね」
「主にお伺いを立てたのよ」
「そうしたら、心の優しい娘に金の糸を紡がろってね」
娘に三日間、金の糸を紡がせる。その金の糸で布を織り、ドレスをつくって妖精が着、それを見て娘が糸紡ぎを手伝ってくれた女達だと気付けば呪いは解ける。
呪いを解くくわしい手順は明かしてはいけない。そして、娘が優しい心を失ったら糸は金にならなくなる。
呪いが解けない場合、娘はその間の記憶を失う。
呪いが解けたら、レヒトと娘は結婚する。
「難儀したよ」
「最初は、レヒトの婚約者にしてもらったんだけどね」
「あたし達を見ても妖精と気付かない。くわしいことは云えないし」
妖精達は苦笑いになった。「で、あたし達の存在を隠して、自分の手柄にしようとした。そうしたら、糸は金にならなくなった」
「次の子は、あたし達に全部やらせようとしたんだよ」
「自分はなんにもしないでね」
「勿論、糸は金にならない」
「三人目が君だった」
レヒトが云う。エーレは頷く。
「じゃあ……あたし、おばさん達の役に立ったんだね」
「もちろんだよ、エーレ」
「あんたのおかげ」
「これで国も安泰ね。こんないい子を奥さんにもらえて、よかったじゃないの、レヒト」
「ええ、おばさまがた」
「心の優しい娘は居ないかって、国中さがしたものね」
「金の糸を紡げるって聴いて、騎士達がつれてきたから、大丈夫かと思ったけど」
「いい子でよかったよ」
エーレは四人が親しげに話すのを聴いて、はっとした。
「おばさん達」
「なあに、エーレ?」
「それじゃあ、あたしのドレスは金の糸じゃなくったってよかったじゃない。あたしに布地をくれたから、おばさん達がそんなちんちくりんになっちゃったんでしょ?」
妖精達はにっこりして、声を揃えた。「可愛い娘の結婚式だよ、いいドレスを着せてあげたいに決まってるじゃないの!」




