S・O・S ~僻地からの救難信号~ Part.3
「なんだ、いまの音は……⁈」
魔族居住区にいても、その爆音は驚くのに充分すぎた。獣魔族も、そして派遣されていた兵士達も、一様に音源を振り返り立ち上がる煙を見つめている。
グリムも彼等と同じく混乱し一瞬固まっていたのだが、隣にいたスカーレットの声に我に返る。彼女は飛んできたハーピィに問いかけていた。
「何を見たんだい?」
「城下町の東側で大きな鉄の塊が動いてました! いまの爆発もそいつがやったのかも」
「報告ご苦労。空に戻って監視を続けな」
「了解です、姐さん」
風を捲いてハーピィが飛び立つのを見送ると、スカーレットはグリムに問うた。
「坊や?」
問われたグリムはただ頷く。内容など聞くまでもなく明らかだ。
「『星渡りの蝗』だ。まさかこんなに早く攻めてくるとはな」
なんて話をしてる間に、数人の獣魔がスカーレットの装備を担ぎながら駆けてきて、彼女が鎧を付けるのを手伝っている。流石は百戦錬磨、戦場を渡り歩いてきた強者共だ。たかだか数分の間に戦える獣魔達は戦闘準備を整えて、城壁前でスカーレットを待っていた。
彼等をまとめているガロウに一瞥をくれると、スカーレットは群れの前に立つ。
しかして第一声は――
「デカブツの相手はあたいと坊やでする! アンタ等は待機だ!」
同時に獣魔達から声が上がるが、それはスカーレットを案じるものではなく、ズルいだなんだと湧き上がる、純粋な不満の声であった。
「ええい喧しいねぇ! いいから待機だよ! 待機ッ!」
批難を鬱陶しそうに撥ね付けているあたり、これが彼等にとっての日常なのだろう。緊張感もなにもあったものではないが、ガロウを呼びつけて耳打ちしている時だけは、スカーレットは真剣な眼差しを覗かせる。
有事の際に騎士団へ協力することはすでに決定済みなのだが、獣魔達の指揮権はスカーレットが有したままであり、命令を確認しようにも伝令を頼めそうだった兵士達は、爆発を聞いてすぐ持ち場に戻ってしまっている。
だからこそ、慎重になる必要が彼女にはあった。
「勝手に動いて下手踏んだら事だ。騎士団の連中から要請されるまで馬鹿させるんじゃないよ」
「あったらどうします?」
「要請の範疇で好きにさせな。ただし、人間を襲うのはナシだ、いいね」
「なんだかんだでここが気に入ってる。襲われない限りこっちからは手ぇ出しませんよ」
「いいだろう、後は任せた。――坊や、行くよ!」
「お前待ちなんだよ!」
駆けだしたグリムたちが門を抜けて城下町へ入ると、そこは大混乱である。爆発地点は城下町の反対側だが、通りはパニックなった人々で溢れかえっており、先を急ぐグリム達は最短ルートとして屋根の上を選んだ。
快適ではないが、人混みを掻き分けるより数段早い。それぞれ大きな得物を担いでいるのに、身動きは軽業師の如しである。
「しかし、分からないね。城下町は結界で覆われてるのに、どうして攻撃が通るんだい」
スカーレットにとっては当然の疑問であった。人間が暮らす多くの街には大抵結界が張られており、これは魔族の侵入や魔法を拒む。強力な力を持つ彼女であっても正面から結界を破るのは至難なのである。
「そりゃあ、結界が魔族や魔法の魔力を弾くように組まれてるからだ。だが『星渡りの蝗』共の兵器にはその魔力がない、だから抜ける。想定されてないんだよ」
「厄介だね……。――⁈ 第二波、来るよ!」
東の地平線から延びた白煙の帯が数本。それらは高く上昇すると、向きを変えて城下町へとバラバラに落下してくる。やはり結界をすり抜けて街に着弾。内一発はグリム達が居る隣のブロックで爆発し、その衝撃に対して二人は反射的に身をかがめていた。
舞う土埃
建物の破片がコートを叩く
聞こえてくる無数の悲鳴
着弾の散り方から察するに、『星渡りの蝗』は被害を広める為、わざと狙いを散らしている。
沸き立つ怒りにグリムが歯がみしていると、スカーレットが突然声を張り上げた。
「団長さん! ウォーレン! こっち、上だよ!」
「……! スカーレット殿! グリム殿! ご無事でしたか!」
攻撃を受けて間もない。壁の内側、しかも攻撃地点の反対に位置する城下町西地区いるウォーレンには、いまだ敵の情報は届いていないとするのが妥当だろう。無駄な時間を省くために、スカーレットは、すぐさま知り得る情報をがなった。
「敵は『星渡りの蝗』共だよ! 町の東、数は――……」
言いさしたスカーレットの言葉を遮るように笛の音がどこからか聞こえてきて、不意に彼女が見上げた先では、警戒に上がったハーピィがヒラリヒラリと舞い踊っていた。
「どうされました、スカーレット殿?」
「新手、南、一つ、大型……」
スカーレットの呟きを聞いたグリムもまた、より眉間に皺を寄せていた。
「団長さん、悪い知らせだよ! 南からも新手が来る。東のと合わせて二体だ!」
「お任せしても⁈」
城下の守護者である騎士団の誇り。その役目をスカーレットに託す意味は、きっとウォーレンの頭をよぎったろうが、彼の判断は即座であった。騎士団の総力をもってしても、現状では『星渡りの蝗』の兵器に対して、足止めにさえならないという不甲斐なき確信。だがそれを躊躇えるほどの猶予はすでにない。
誇りよりも実を取る。その潔さや好し。スカーレットが浮かべた笑みは、牙を剥きながらも尊敬に満ちていた。
「当然! デカブツの相手はあたい等でするから、あんたは自分の仕事をしな! 手が足りなきゃウチの連中を使うといい。西門外で待機させてる、指揮はガロウだ!」
「感謝します、スカーレット殿! ご武運を!」
「あんたもね! ――行くよ、坊や!」
サッと報告を済ませたスカーレットは、グリムを伴い移動を再開。やはり屋根伝いに走っていると、東側の空から新たな白煙が帯を引いて昇っているのが見える。
「第三波……。手が早いねぇ……」
あれはどうやったって止められない。
城壁にたどり着いた騎士団の魔法使いたちが打ち落とそうとしているのか、飛翔体に向けて何発か魔法が放たれていたが、的が小さい上に速いので命中には至らない。
しかし、第三波として落下してきた飛翔体は、城下町上空で唐突に爆発した。
「落ちた……? 坊や、結界は抜かれるんじゃなかったかい」
「……メアだ」
丁度、飛翔体が爆散した辺りに目を凝らしていたグリムは呟く。
「メアの奴、町の結界の下に獄炎の幕を張ったな。無茶しやがる」
「町全体を覆ってるのかい? 立派になったね、おひいさま……」
「感心してる暇はねえぞ、いくらメアの魔力量でも長くはもたねえ。速攻だ」
「それじゃあ坊や――」
敵は二手、こちらは二人だ。
「……どっちに行くね?」
「俺が東、あんたが南」
グリムは即答。
すでに撃ち始めている奴と、これから撃ち始める奴。脅威を思えば優先すべきは後者だ。連中の武器が、爆発する飛翔体だけとは限らない。
「いいだろう、しっかりやりな!」
「あんたこそ、ヘマすんじゃねえぞッ!」
城下町中央にある噴水広場。
その手前で二手に別れる影を、メアは広場へと駆けながら確かに見る。
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