S・O・S ~僻地からの救難信号~ Part.2
グリムがスカーレットと話しているのと同じ頃、テューレはかすれた意識の中で見慣れた天井を見つめていた。整った石造りの天井に馴染み深さを感じるのは、そこが彼女とメアが寝起きしている城の客室であるからだ。
しかし、何故ここにいるのかがテューレには分からなかった。
瞼を閉じる彼女が感じているのは、身体を流れていく液体の感触。繊細なガラス細工を洗うように、丁寧に注がれる水の肌触り。数度その感触を堪能したテューレは、まだ霞の掛かった意識の中で、傍らにいるメアの姿を認識した。
「……メアちゃん? なにを、しているの?」
水盆に横たわったままの弱々しい問いかけに、だが安堵したように微笑むメアの手には、聖水入りの小瓶があり、彼女はその手を濡らしながら、丁寧にテューレの身体を流している。
「まだ動かぬ方がよいぞ、テューレ。お主、研究所で気を失っておったのじゃ」
「…………え?」
「根の詰めすぎじゃな。同じ部屋暮らているのにしばらく顔を見ないと思ってはいたが、入れ違いになっているどころか、まさか休み無く調査をしていたとはのう……。助手達が見つけねば、大変なことになっていたやもしれぬ。見てみろ」
テューレの身体を注いだ聖水は、彼女の内側に溜まっていた澱みを洗い流していて、風呂の残り湯とでも呼ぶべき汚水は、水盆の底が隠れるくらい濁っていた。
「集中出来すぎる環境というのも考え物じゃな。日が分かるように、せめて窓くらいは付けるべきかも知れぬ。そうすれば寝るのを忘れることもないじゃろ」
「…………ええ、そうね。……ごめんなさい」
看病してくれたメアに感謝しつつも、テューレはどこか上の空だった。
というのも、気を失う前の記憶がまだ思い出せていなかったのである。それこそグリムに手伝ってもらってから、寝食を忘れて調査を続けていたのだ。寝るまでを一日と考えたならば、テューレが過ごしたこの一日は、思い出すのに苦労するほど長すぎた。
突貫作業でジェネレーター出力調整装置を作り
翻訳と記憶装置の調査を同時進行
搭乗していた『星渡りの蝗』が残していた記録を見つけて、それから――
――――……
「あぁ、大変!」
中々思い出せなくても、きっかけがあれば記憶は一気に花開く。ただし、そこに内容の善し悪しは関係ない。目を見開いたテューレは、それこそ、そのまま飛びそうな勢いだった。
「待つのじゃテューレ、まだ動いては――」
「メアちゃん! 私、どれくらい寝ていたの⁈」
「え……、一時間くらいじゃな」
あまりの慌てっぷりにメアが面食らっている間に、テューレはサッと羽ばたいて近くにあった服を身につけていた。
「こうしちゃいられないわ! メアちゃんも一緒に来て、王様に会わないと!」
「なんじゃなんじゃ! 一体どうしたというのじゃ、テューレよ⁈」
「解読した『星渡りの蝗』の記録装置は情報の宝庫よ。戦車一両が抱えるには過ぎた情報量だったけれど、いま大事なのはそれじゃなくて――」
急がねばと――テューレが上げる必死の声を遮るように、無情な爆音が響いた。
身震いする窓ガラスの向こうで、城下町から煙が上がっている。
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