GOOD SUTFF ~弱者の精鋭~ Part.2
スカーレットによる特訓の成果を計る対抗戦の形式は以下のように決められた。
一試合の制限時間は十分
形式は一対一で、勝利数にかかわらず全試合を行うこと
場所は練兵場の広場が選ばれ、線を引いただけの武舞台を囲うようにして、非番の兵士の殆どが観戦の為に集まっていた。静かながらも、商才のある者がこの件を知っていれば、町中での催し事に変えたであろう事が想像できるくらいの熱気が、両陣営を中心にして漂っている。
「なんだかんだで、皆気になってんだな」
ちょっと高めに作られた即席の観戦台に立って兵士達を眺めるグリムが呟くと、隣に佇んでいるウォーレンが答えた。
「私の前では控えていましたが、この二週間、スカーレット殿がどのような特訓を施しているのかで持ちきりでしたよ。なにせ元魔王軍の将軍が人間を鍛えているのですから、気にならないはずがない」
「……あんたも?」
「恥ずかしながら。何度、話題に混じろうと思ったかしれません」
「内容としちゃ特別なことはしてねえよ。でも濃い二週間だったからな、面白い勝負になる」
「それはそれは、実に楽しみです」
スカーレット側が強くなったのは確かだ。その成長度合いはグリムも認めるところであるが、同じ事は騎士団側にも言えそうである。彼女の申し出は明らかに反感を買う物であったから、対抗戦の話が出た時点で、彼等だって訓練に熱が入る。しかも対抗戦自体は二週間前から決まっていたとなれば、備える時間は充分にあったはずだ。
騎士団側をフェリシアが率いる事になっていたのを思えば、入れ込み具合は想像に難くない。
とはいえ、それを加味しても相手次第で良い勝負にはなる。
グリムがそんな事を考えていると、忙しない声が近づいてきた。スカートをたくし上げて駆けてくるメアは、まるでパーティーを待ちきれない子供のようである。
詫びながらも、表情はニコニコだ。
「すまぬな、ウォーレン団長。会議が長引いてしまったのじゃ、待たせたかの?」
「遅ぇぞ、メア」
ひょいっと壇上に飛び上がるメアを見ながらグリムはなじったが、当の彼女は武舞台脇で特訓組と話しているスカーレットに向けて、軽く手を挙げて挨拶していた。
「まぁまぁグリム殿。――丁度始まるところですよ、メア殿。ところで、陛下とご一緒では?」
「あぁ、それがレリウス王は、また別の会議が入ってしまい残念ながら来られぬと。隣国とのやりとりに関する事では、妾がいては邪魔じゃろう? 故に早々に席を外させてもらった」
「そうでしたか。ではメア殿はご着席を、間もなく――」
と、ウォーレンの言葉を遮るように正午を告げる鐘が鳴り響き、兵士達の視線が、自然と壇上へと注がれる。
ついに開始時刻がやってきたのだ、開会の挨拶は勿論ウォーレンが務める。
「諸君、これより特別訓練成果対抗戦を開始する。知っての通り、本対抗戦は人魔友好を形作る一つとして、また新たなる脅威に対抗する手段を模索するため、元魔王軍・獣魔軍団将軍スカーレット殿の提案により開催する運びとなった。対抗戦に参加する訓練組、並びに騎士団各員は、正々堂々とした戦いを見せてもらいたい。なお、本対抗戦は以下の取り決めに――」
「……なんか、固っ苦しい挨拶だな」
「し~っ! グリム、静かにせぬか」
試合形式を説明するウォーレンの後ろで、退屈そうにぼやくグリムをメアがたしなめていると、不意に彼女へ水が向けられた。
「――メア殿。メア殿から、一言御座いますか?」
「う、うむ、そうじゃな……」
急な指名に、考えながら立ち上がったメアは壇上から兵士達を見下ろす。だが、言いたいことの大半はすでにウォーレンが代弁してくれていたので、彼女の挨拶は短くまとめられる。
「余計な事は言うまい! この場に於いては、ただ全力を。妾が望むのはそれだけじゃ!」
「ありがとうございます、メア殿。――ではジャッジ、ここからの進行はキミに任せるよ」
「了解です、ウォーレン団長!」
ウォーレンは完全に成果を見極める側にまわるため、進行には関与するつもりはないらしく、レリウス王が座る予定だった椅子の後ろで、控えるように待機するらしい。
まぁその所為で振り返らなければならないので、メアは話しにくそうだったが……。
「のう、ウォーレン騎士団長。騎士団側の選手は誰が出るのじゃ?」
「残念ながら、私にも分かりかねます。公正を期すために対抗戦の話がまとまった時点から、本件はフェリシアに一任しておりますので」
「真面目な男じゃな。――ではグリムよ、特訓組は誰が出るのじゃ? グッドサンがいるとは聞いたが、他の者について教えて……」
と、グリムを見上げながら、メアはのじゃっと気が付いた。
「……そういえば、何故ここにおるのじゃ? お主は戦わぬのか」
「特訓の成果を見るための対抗戦に、俺が出たって意味ねえだろ。どうせ勝っちまうし」
彼は現在の番付一位なので、この言い分には説得力があった。しかも『授かりし物』不使用で勝ち取っているのだから、これはもう疑いの余地がない。
とはいえだ。
いくら事実であっても聞こえよがしに口にされては、耳にする側の心象がよろしくないのもまた事実で、フェリシア率いる騎士団組からは怒りの視線が向けられ、逆に特訓組からは『頼むから余計なこと言って怒らせないでくれ』と、咎めるような視線がグリムへ向けらえていた。
だがまぁ、彼がそんな事を気にするはずもない。
おあつらえ向きに力を示す場が設けられているのだから、不満の類いは剣で示せば良いだけのこと。そして、まるでグリムの言葉を代弁するかのように、スカーレットは表情硬い特訓組の兵士達に問うた。
「さぁてアンタ達、どうして相手が坊やにムカついてるか分かるかい?」
「それはまぁ、馬鹿にしているから……」
グッドサンがおずおずと答え、スカーレットは「悪気はないだろうけどね」と笑ってから続けたが、打って変わって険しい眼付きである。
「じゃあ、アンタ達も気付かなきゃいけないよ、連中に嘗められてるって事に。連中はアンタ達が勝てるはずないと思ってる。……いやさ、連中だけじゃなくここに全員がか。たかが二週間程度で追いつけるものかとね。だから坊やがちょいと煽っただけで苛ついてるのさ」
「…………」
「まっ、その予想は正しいだろう、副団長さんは腕の立つ連中を揃えたみたいだしね。最初から分の悪い勝負だ、賭け率にするならいくらになるね?」
そう訊かれた特訓組は顔を見合わせ、各々が想像する賭け率を答えた。
高倍率なのは言うまでもない、グッドサンの答えた50倍が一番マシなくらいだったが、スカーレットはその卑屈を、いっそ気持ちよさそうに笑った。
「いいじゃないか、いいじゃないか! 負けて上等、勝って重畳! たかが試合さね、負けた所でタマを取られるワケでなし、楽しんで来りゃあいいんだよ! それにだ……」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、スカーレットは声を落として特訓組に囁いた。
「想像してみな? こン中で勝ったら、超気持ちいいさね……!」
それは元獣魔将軍とは思えないほど、短絡的で子供じみた鼓舞であったが、だからこそ彼等の緊張は解されたらしく、それぞれに頷き合っている。
スカーレットの言うとおり、負けて当然と侮られているのならば、負けたところで失うものなどありはしない。ならばせめて、弱者の精鋭らしさをみせてやろうと、彼等は腹をくくったのだ。
そして、特訓組の決意を待っていたかのように、審判が高らかに宣言する。
「それではこれより対抗戦を開始します! 第一試合、先鋒、前へ!」
「よし! さぁ行っといで!」
スカーレットはそう言って「はい!」の返事も頼もしく、武舞台に上がっていく先鋒の背中を、強く叩いて送り出した。
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