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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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GOOD SUTFF ~弱者の精鋭~ Part.1 ★


 スカーレットによる特訓が始まってから2週間。試験的に選ばれた弱者十名は、最初こそ特訓に付いていくだけで必死だったが、最終日を迎えた現在では初日よりも余裕を持って一日のメニューをこなせるようになっていた。


 装備を担いで王都外周を回るランニングは昼前に終わるようになり、特にグッドサンたち騎士団から選ばれた九名の成長はめざましく、三名ずつに分かれての岩押し訓練も順調、最終日中程にして城壁東端から西端までの九割強を移動しており、本日中にゴールまでたどり着けるだろうと、彼等を指導してきたスカーレットは確信していた。


 実はかなり無茶な目標を設定したつもりでいたので、彼女としてもこの経過は感心せざるおえなかった。なんだかんだで弱かろうとも騎士団員、根性は座っていたらしい。


 ……さて、問題はである。


 スカーレットはさくりさくりと草を踏み、城壁東側に残っている大岩を覗き込んだ。


挿絵(By みてみん)


「坊や、いつまでこんなトコにいるんだい」

「……気が散るから、黙ってろよ」


 額に汗したグリムは岩を押しながら唸り、なんとか一回転がした。この2週間で動かせるようにはなったものの進捗は全体の二割ほど。スカーレットが左右を見れば、スタート地点の方が近いのだ。


 グリムに関しては、彼女が予想していたよりも進みが悪かった。というのも、彼と騎士団から選んだ九名では鍛えてやる目的が異なるため、訓練の強度と助言を分けており、グリムに対しては口出しを控えていたのだ。


 教えてやれば勘のいいグリムのこと、すぐに成果を挙げるだろうが、早めの助言がいいとも限らない。強くなるには、あらゆる事に気を遣い、そして頭を使う必要がある。

 しかしだ。ここまで気付かないと流石にもどかしい……、というよりも勿体ないという感情の方がスカーレットの中で頭をもたげてくる。


「スジはいいんだけどねぇ」

「うるっせえな、あっち行ってろよ」


 本日何度目かの岩押しに挑むグリムは、額までも岩に押し付けて果敢に押し込む。確かに進みこそ遅いが、『授かりし物』に頼らず、自分の倍はある巨岩を数日で転がせるようになったのは、かなり進歩であることに違いはない。


 頭は悪くないのだ。


 グリムの前進は、無駄なく力を伝える方法を模索した結果で、その手の思考力があることはスカーレットも彼との戦闘の中で感じ取っていた。

 だからこそ勿体ない。端から見ている分には実に分かり易いというのに、やはり自身が抱える弱点に対する気付きとは、かくも難しいものなのか。


「坊やの欠点、なにか分かるかい?」

「……恰好、良すぎる」


 歯を食いしばりながら、グリムはもう一度岩を転がして手を休め、まさに滝のような汗を拭う彼に、スカーレットは少しだけ牙を覗かせて笑う。


「キツい時でも冗談言える精神力は買いだけど、違うね」

「じゃあ何だよ? 欠点ってのは」


 臆面も無く尋ねられ、スカーレットは意外そうに目を丸くした。グリムに助言をしてやりたかったが、自分のやり方に口出しされることを戦士は基本嫌うため、どう切り出すかが一番の悩み所だったのだ。ましてや魔族からとなれば尚更――


「……なんだよ、そのツラは」

「いや、御ひい様の目指してる形ってのが見えた気がしたのさ。坊やから訊いてくるなんてね」

「話振ったのはアンタだったと思うけど、まぁいいや。欠点ってのを教えてくれよ、思い当たる節が多すぎる」

「普段から自信満々って感じの割に殊勝だね」

「自信はあるが、完璧とまで自惚れちゃいねえよ。それに『星渡りの蝗』の動きも不明なんだぜ、早く強くなるに越したことはない。使える物はなんでも使うさ」

「割り切ってるワケだ。こういうトコは潔いのにね。……もう一度、押してみな」


 スカーレットに言われ、グリムは改めて巨岩と向き合うが、じわりじわりと転がす為、やはり時間が掛かっていた。


「……ハッキリ言っちまうとね、坊やはビビってるんだよ」

「俺が? そう見えるか?」

「恐怖を乗りこなす術を身につけてるから自覚はないだろう。精神よりも本能の問題、あとは回復師っていう坊やの立ち位置の所為さね」


 前衛だろうが後衛だろうが、パーティの生命線たる回復師は死なないことが第一にあり、その必然として攻撃よりも防御に寄った戦い方を選ぶ傾向にある。魔力を残したまま先にくたばったら、笑い話にもなりゃしないのだ。


「幸か不幸か、坊やは剣士と回復師の才を持ってて、性にもあってたんだろうね。ただその所為で、攻撃するとき今一歩踏み出しきれないように、あたいには見える」

「踏み込みが、浅い?」

「指の皮一枚分程度にね。反撃されても対応できるよう本能が抑えてるのさ。これ自体は良いことさね、相手の実力を正確に汲んだ上でギリギリまで攻めてるんだから、大したモンだよ」


 しかもグリムの場合は、即死しない限り自らを回復魔法で癒やせる。それを加味した上で攻め込んでくるから、相手をする側としては厄介極まると、スカーレットは彼との戦いを思い返していたが――


「坊やの場合、それが染みついちまってる、身体の奥の奥に。これまでも格上の相手と闘って、決められる時に決めきれなかった経験があるんじゃないかい?」

「……例えば、アンタ」


 斬りつけられた感触を思い出し、笑みを浮かべるスカーレット。

 殺せないまでも、グリムの剣ならば彼女の腹くらいは割れたのだ。


「分かっちまえば理由は単純、岩押し程度に手こずってるのは、この岩が変な挙動するのを警戒してるからか。……思い当たる節はある」

「だけども厄介だよ、坊や、こいつはね。その薄皮一枚は、坊やの本能が命を繋ぐために残した最後の一線、たかが岩一つにも反応する本能だ。頭で理解したトコで簡単にどうこう出来る部分じゃない、こいつを越えるには一つ壊れなきゃね」

「どこもかしこも壊れてるさ。俺がマトモに見えてるなら、そう装ってるだけだ」


 自嘲気味に言いながらも、グリムの気持ちはスッキリしていた。非力の原因が判明すれば、ずっと抱えていた靄が晴れたような心持ちになる。


 なんて単純なのだろうか。もう少しだけ、死を恐れなければいいのだから――


 意志を持たない岩相手に臆して、強敵に迫れる筈もなく、ならばこの場に於いては無心我武者羅、前に出るのみ。そうしてグリムが岩を転がすと、本能が拒む瞬間にスカーレットが合図を出す。「逃がすな、攻めろ」と叱咤する声に背を押されて、グリムは前押しを繋いでいく、段差に岩が突っかかるならより力強く踏み込めばいい。理解した原因を思考で認識し、臆する本能さえも徐々に飼い慣らしていけば、必然、進軍速度は増していく。


 元々、それだけの素質はあったのだ。

 スカーレットの読みは正しく、グリムは驚異的なペースで岩を転がしてくが、如何せん、コツを掴むのが遅かった。


 夕暮れ中、無情に響く時の鐘に特訓終了を告げられて、グリムは影の中から朱色に染まった雲を見上げる。


「…………クソッ」


 乱れた呼吸で悔しさを吐き出して振り返れば、もっと早くに気が付いていればと思わずにいられない。しかもスカーレットからの助言がなければ、未だにスタート地点近くでノタノタしていたことだろう。


「正門は越えたが、ゴールは遠いか……」

「いやいや坊や、上等だよ」


 ずっとグリムの後ろを付いてきたいスカーレットが、誇らしげに言った。


「教えてやりゃ進むだろうとは思ってたけど、こんなに変わるとは。やっぱあたいが見込んだとおり、素質があるさね」

「唯一、目標未達成でもか?」

「え?」


 と、スカーレットは胡乱な声を上げて正門を振り返ったが、しばらく考えた後に言いかけた言葉を別の物にすり替える。


「……まぁ坊やと他の連中じゃあ、内容は同じでも鍛える目的が違ったからね、距離は関係ないのさ。モノにならなかったら、ゴールしてようがもう一週させたろうし」

「鬼か、お前」

「失礼な坊やだね、あたいの怖さはその程度かい?」


 スカーレットは面白い冗談でも聞いたようにカラカラと笑い、グリムを連れて魔族居住区へと戻り、整列して待っていた兵士達に向けて終了の挨拶をした。

 こういう締めるところをきっちり締める様子には、やはり魔将軍足る風格がある。


「さぁて、これにて特訓は終了。よくやりきったね、偉いじゃないか」


 言いながら彼女は、整列した兵士達を、その表情を眺めた。

 2週間前とは打って変わって、全員の目に力強さがある。なによりスカーレットに対する敬意が見て取れるのは、彼女が時折かけた助言が正確であったことが大きいだろう。効果の程は彼等自身が一番よく分かっているのだ。


「……どいつもイイ面構えになったもんだよ。実感は湧かないだろうけど、かなり強くなったとあたいは確信してる、副団長さんも驚くだろう。あとは鍛えた力を発揮するだけさね」

「そういやぁ、スカーレット」


 口を挟んだのはグリムである。

 整列している兵士達の中で、彼だけが崩した立ち方だった。


「成果次第で続けるか決めるって話だけど、どうやってフェリシアを納得させるんだ? 俺たちは実感してるが、それだけじゃ首を縦にゃあ振らねえぞ」

「ンなもん、簡単な方法があるじゃないか坊や。戦えばいいだけさね」


 どれだけ強くなったのかを見極めるのに、これ以上最適な方法があるだろうか。分かりきったことじゃないかと、スカーレットは答えるが、兵士達は互いに顔を見合わせている。


 勿論、彼等のその可能性を考えてはいたものの、いざ戦うとなると自信がないのだ。何しろここに集められたのは、番付下位から圏外の弱兵ばかり、通常の訓練でも負けてばかりなのである。

 しかし、だからこそ意味があるとスカーレットは言う。


「2週間前のアンタ達と、今のアンタ達は別人だよ。これまで手も足も出なかった連中と渡り合えるくらいにね、やってみりゃあ、それが分かるさ。それに気持ちいいよ~? 自分より強い奴を負かすってのは」


 スカーレットとて、最初から強かった訳ではない。同族と交えた数多の死闘、人間の戦士と交わした刃が彼女を獣魔将軍たらしめたのだ。そしてその過程で打ち破った強敵達、その勝利の瞬間には得も言われぬ快感があることを、彼女はよく知っていて、そうやってニタリと浮かべる悪戯めいた笑みは、格上の相手を喰っちまえとグッドサン達に囁いていた。


「……私達にも、やれますでしょうか」

「あったりまえさね、誰が鍛えてやったと思ってんだい」


 確信を持ったスカーレットの叱咤に、グッドサン達は背筋を伸ばす。自然と、そう自然と、彼女の恩義に報いなければと感じたのだ。


 ――と、ゆっくりと挙がる手が一つ。


「ん? どうしたんだいグッドサン?」

「スカーレット将軍。日没までまだ時間があります。最後にもう一本、稽古を付けていただけないでしょうか。やるからには、私達も勝ちたいのです」


 まさかの申し出にスカーレットは驚きながらも、兵士達の顔を眺めていく。なんとさらに驚くことに、全員一致で締めの稽古を希望しているとなれば、彼女としてもその気概を無下にする訳にはいかない。

 それにしても、牙を覗かせた彼女の笑みの、なんと嬉しそうなことだろう。


「しゃーないねぇ。そこまで言われちゃあ、あたいもタジタジだ」


 快諾したスカーレットに向けて、九つの声が「よろしくお願いします」と重なった。



ここまで読んで戴きましてありがとうございます

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それでは続きをお楽しみに!!

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