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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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FIELD WORK ~手を汚す価値~ Part.11


「ウホホイ! こいつはマジで、やっべぇYO!」


 小脇に老人たちを抱えながら逃げるGKは、前を走る農夫達を急かす。四つ足で追いかけてくるムーンベアはみるみる距離を詰めてきており、掴まるのは時間の問題であった。


 畑を耕している最中に現れたムーンベアに対し、監視役として同行していた騎士達は農夫を逃がすべく立ち向かい、GK達は逃げ様に足の遅い老人連中を担いだ。流石に十名を超える騎士ならば、野生動物くらい楽勝だろうと二人は余裕をブッこいて逃げていたのだが、戦闘は数分足らずでケリが付き、斬りつけられたことでブチ切れたムーンベアが、彼等を追いかけてきたのである。


 もっと早い段階であれば、GK達は老人を下ろして迎撃するという選択肢を取れたはずだが、ここまで距離が詰まってしまうとそれも無理だ。ムーンベアの方が速い以上、突破されたらおしまいなので、とにかくなんとかしてくれと助けを求める他ないのである。


 だが、救援も間に合うかどうかという瀬戸際に、農夫の一人が転んでしまう。


 思わず立ち止まり、手を貸すGK


 彼を追い抜いたライノが振り返って叫ぶ


「後ろ!」


 影に覆われたGKは肩越しに迫る鉤爪に目を剥いて驚き、しかし切り裂かれることはなかった。飛び込んできたガロウの拳が、ムーンベアの顔面を殴り飛ばしたからである。


「「兄貴ィ!」」

「邪魔だ。さっさとじじい共を連れてけ」

「了解だぜ、兄貴YO!」

「兄貴、助かりました」


 指示に従って逃げていくGK達を送り出したガロウは、唸るムーンベアと対峙してよくよく相手を観察していた。


 体格差は5倍、重量は更にその倍はあるだろう。こと打撃に於いては重量が威力に直結するため、肉弾戦を得意とするガロウにとっては不利な条件ばかりが揃っている。もしも人間がムーンベアの相手をするならば、よほど修練を積んだ格闘士でないかぎり、一撃の下に肉塊となること請け合い、剣士であっても並では苦戦必至だろうし、肉体強化の魔法を掛けたところで、あの膂力の前では紙切れ同然だ。


 しかしである。


 握り拳を鳴らすガロウは、獣魔のファイターであった。

 その戦力を、ペルシュに跨がってやってきたフェリシアは確かに見る。彼の実力はまさに圧倒的で、手玉に取るとはこういう事をいうのだろう。


 ガロウはおもむろに歩いて距離を詰めると、ムーンベアが仕掛けようとする予備動作、その『起こり』を察して、小さく速く、先に打つのだ。しかも小柄に反して打撃は重く、5倍はあろうムーンベアの巨体を確実に後ろへと押し込んでいくのだから、フェリシアの表情が険しくなるのも当然のことだった。

 しかし、圧倒しているにも関わらずガロウの表情は浮かない。


「はぁ、なんだかなぁ……」


 ひたすらに腹を殴られ続けて呻くムーンベアを見据えながら彼が呟いていると、鎧の音が前へと歩み出た。下馬したフェリシアはすでに剣を抜いている。


「……横取りってのはいただけねえんじゃねえか、副団長さんよ」

「私の仕事だ、貴様は下がっていろ」

「おいしいトコだけ譲れってか」

「私の、仕事だ。下がれ」


 にべもなし。


 一瞥さえくれない彼女の横顔をしばらく見つめたガロウは、鼻を鳴らして一歩退いた。どんな話も聞く耳持たずと言われては、言葉を尽くすだけ時間の無駄。ならばお手並み拝見に回るくらいしかやることがないのである。


 ガロウとしても、少なからずフェリシアの実力に興味があった。


 剣の腕前は、そのまま構えに現れる。そこで見ると、なるほど彼女は副団長の座に相応しい様子。正面に構えた鋒に乱れなく、ピタリと静止する様はいっそ美しくさえある。人間を前にして激昂しているムーンベアの咆哮を受けて尚、動じることもない。


 先に動いたのはムーンベアだった。


 フェリシアを肉塊にすべく一直線に突進してくる巨体は岩の如しで


 受け止めることはまず敵わない


 だが彼女は間合いに入るや恐れることなく一歩踏み出し


 すれ違い様に心臓を一突き


 そして動きが止まったムーンベアの背後から跳躍し


 その脳天に向けて剣を突き立てれば


 悲鳴すら上げずにムーンベアは地に倒れた


 決着が付くまで、僅かに数秒。


 しかし、血払いして納剣するフェリシアは、正しく仕事をこなしただけという雰囲気で、巨大な敵を倒した感慨さえないようだった。

 すると、ガロウと並んで戦いを見守っていたペルシュが、ぽつりと呟く。


「……先輩」

「ん? どうした?」

「あの人、強いですね……」


 その点は疑いようがなかった。

 まだまだ余力がありそうな事を思えば、GKやライノ辺りとも良い勝負をするだろう。或いは自身とも渡り合えるかもしれないとガロウは感じたが、彼女の実力を目の当たりにしても、彼の眉間には皺が刻まれている。


「そうだな」と応じた声は、どことなく複雑そうだった。



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