FIELD WORK ~手を汚す価値~ Part.9
テューレがジェネレーターを起動させると、断続的な鈍い振動音が蔵の空気を震わせて、同時に発生させたエネルギーを、配線に繋がれたグリムの身体へと流し込んでいく。そのエネルギーは並の魔法使いなら黒焦げになりそうな程に強烈であったが、伊達にグリムはタコ野郎の主砲を受けて生還したわけではない。
繋がれた右手足から一気に流れ込んできた為に最初こそ顔をしかめはしたが、即座に魔力操作で同調し、空いている左足から地面にエネルギーを逃がしている。
「どう、グリム君? 平気そう?」
「……ん、大分掴めてきた。これならいけそうだ。次は?」
「少しずつ記憶装置にエネルギーを流して頂戴。メーターを用意してあるから、それを見ながらお願い。起動に必要なエネルギー量も見極めておきたいの」
「あいよ」
二つ返事で応じたグリムは指示に従ってメーターの針を動かしていく。それはさながら、滝から流れ落ちる水流で小さなカップを満たしていくような、繊細極まる作業であったが、彼の様子を見る限り、傍目にはきっと容易く実行しているように写るだろう。
そして、メーターの針が半円型をしたメモリの真上を指した辺りで、テューレが感嘆の声を上げる。記憶装置が薄ぼんやりと光を放ち始めたのだ。
「動いたわ! グリム君、しばらくそのままで!」
「はいはい、了解」
答えながらグリムが見れば、テューレは空中に出現した光の文字盤を、その小さな指で忙しなく叩いているのだが、やはり彼には彼女が何を行っているのかサッパリ見当付かなかったので、余所見している分の集中力を魔力操作の方へと戻す。
そうして過ぎたのは、五分程だったろうか。
最後に勢いよく文字盤を叩いたテューレは、記憶装置から光が消えるのを見届けていた。
「ありがとうグリム君、もう手を離して平気よ」
言われグリムがケーブルから手を離すと、テューレはふわりと宙を舞っていってジェネレーターの電源を落とした。その表情を見るに成果はあったようだが、喜びの顔色はすぐさま心配に変わる。
ケーブルを掴んでいたグリムの右手から、焦げ臭い煙があがっていた。
「大丈夫、グリム君⁈」
「あちちち、流石にちょいときつかったか」
言い出した手前の意地を張った代償に苦笑いを浮かべるグリムは、心配しているテューレに明るく返した。傷自体は、すでに回復魔法で治療済みだ。
「試したのが俺でよかった、他の魔法使いじゃ黒焦げだぜ。……それで、成果は?」
「え? ええ、勿論だけれど、でも解析には時間が掛かるわ。なにせ『星渡りの蝗』の言語で書かれているから、まずは読めるようにしていかないと」
「……じゃあ、もう一度試す感じか」
この提案に、テューレはだが静かに首を振った。
「必要なエネルギー量は分かったから、なんとか調整装置を用意してみるわ。解読するとなると何時間も通電させなきゃならないし、毎回グリム君に頼んでいたら貴方が参っちゃうもの」
グリムは軽々とやってのけたが、その行為自体は命がけ。いわば地味な綱渡りとでもいったところであり、落ちたら死ぬのもまた同じで、解析の度に、しかも長時間に渡って危険な目に遭わせるわけにはいかないとテューレは言った。
「だから、気持ちだけ受け取っておくわね。ありがとう、グリム君」
「そうか。それじゃあ、また他に手が必要になったら呼んでくれ、できる限り手伝うからよ」
「もう充分に助けてもらってるわ」
「連中をぶっ飛ばすまで、いくらあっても困らねえだろ、お互いに」
「それもそうね。……とにかく、ありがとう」
テューレの礼に肩を竦めて答えると、グリムは通路へ向かって歩き出す。
「そんじゃ、帰って昼寝でもしとくかな。メアの奴も農作業頑張ってるみてえだし、俺も負けてられねえや」
「特訓ガンバってね、グリム君」
「あいよ」
ひらり背中越しに手を振ったグリムを見送ってから、テューレは深く息を吐いた。
振り返るその翡翠の眼差しは、悲しげに記録装置を見つめている。
ここまで読んで戴きましてありがとうございます
『いいね』や気軽な一言感想などお待ちしてますので、どうぞよろしく!
もちろん、評価ポイントも大歓迎ですよ!!
それでは続きをお楽しみに!!




