FIELD WORK ~手を汚す価値~ Part.8
『星渡りの蝗』の兵器はどういった理屈で動いているのか? この謎に対してグリムが役に立てることは少ない。元より専門外な部分であるし、大体、別の星からやってきた技術を調べる術も知識も持っていないのだ。
とはいえ、そんな彼でもこの場にあって役に立てることがある。この兵器と相対する者として、壊す側の視点で見ることくらいはできるのだ。テューレの許可をもらってからしばらく、グリムは黙ってタコ野郎の残骸を調べていた。こいつへの苦戦を思い返せば、弱点を探るのは自明であるが、見ればみるほど攻め所が分からない。
頭部正面の装甲は拳一つ分程度の厚みがあり、側面、上面、背面は僅かに薄くも指半分の厚みがあるため、下準備なしで斬ろうってのはムシの良い話だ。メアの獄炎にも耐えたことを考えると、熱や魔法にも強く、生物ではないから毒や弱体系の魔法の効果も期待できない。
「……マジで、よく勝てたな」
思わずグリムは独りごちる。
こうして冷静になってみると、細い勝ち筋をたぐりきったのだと考えずにはいられないし、単独で相手をすることを考えると寒気がするが、いま彼が探らなければならないのは、まさしく、その最悪な状況下で勝つための方法なのだ。
一撃で殺るのは無理筋。そうなると、まぁデカブツ相手の基本に則りアシを殺すのが優先になる訳で、注目するのは足回りということになる。
タコ野郎の名の通り、こいつは頭部から延びた八本の触手で身体を支えていた。当然の如く金属製でありながら動きは多彩で、それこそローパーも顔負けと言った具合の稼働域を可能にしているのは、触手の一本一本が多数の節で繋がっているからである。勿論、それぞれに装甲が施されているが、頭部に比べれば薄く、また節の部分は更に脆そうなので狙うとしたらここだろう。
惜しむらくは、戦闘の最中に狙うことが難しい上に薄くとも強固な装甲には違いない点。そして、一本切り落とした程度では機動力を削げない点である。
……あまりにも決定力に欠ける。
せめて一発だけでもいいので、ガツンとかませる何かが欲しいところだと、思案に耽っていたグリムは、ふと壁に立てかけられている装甲板に目を惹かれた。
厚みからして頭部側面の装甲板がべっこりと凹んでいるが、グリムの興味を惹いたのは彼が付けた傷ではないからだ。
「やったのはスカーレットさんよ」
グリムの様子に気付いたのか、テューレが机から答えをくれた。
「もの凄い音だったんだから、わたしのコアまで震えちゃったわ」
「心情的に? 物理的に?」
「うーん、両方かな」
冗談も交わすグリムだが、彼の思考はキチンと働いており、スカーレットが凹みを拵えた方法に行き着いていた。いや、別段大した事ではない。方法を察するに余りある証拠が、しっかりと残されているのだから。
凹み中央の形から察するに、固めた拳を魔力で覆って殴ったのだろう。
その様子は簡単に想像できたが、果たしてどちらを褒めるべきなのか。オリハルコン並の装甲板を凹ませたスカーレットか、それとも彼女の打撃に耐えた装甲板か。甲乙付けがたいところである。
「グリム君の感想はどう? 手立ては見つかった?」
「刃のある武器で斬りつけるより、打撃の方が可能性あるかもな。まぁそれでもマシって程度だが、重打が得意な戦槌にウォー・ピックあたりか……、スカーレットはなんて?」
「同じ見解。魔族でもラクな相手じゃないとも言ってたわ。楽しそうに」
根っからの戦闘狂な彼女らしい反応をグリムが想像していると、テューレは更に続ける。
「それから、この装甲板を加工出来ればとも言っていたけど、心当たりはある?」
「鍛冶屋か……。この国にドワーフでもいればなぁ」
グリムは顔をしかめながら応じた。
彼も得物を任せられる鍛冶屋を探したが、眼鏡にかなったのは一件きり。そこの親父は確かに腕はいいのだが、あくまで人間としての腕前であり、金属から産まれるとまで言われているドワーフと比べたらどうしても劣る。
「他の村にもドワーフ族はいないのかしら。アヴァロン王国の領地は広いでしょう?」
「元々連中は、南大陸の鉱山地帯に住んでるし、珍しい鉱石でもなけりゃあ海まで渡らねえよ。この金属を餌にすりゃあ来るだろうが、どのみちすぐには無理だしな」
それにスカーレットのことだ。可能性に気付いた時点でウォーレンにでも相談しているはずなので、進展がないってことはつまり望み薄って事なのだろう。
グリムとしても、装甲板を加工した武器防具には興味があるので、残念なのは同じ気持ちであるが、どうにもならない部分で悩み続けても仕方がなく、彼はこの話題に見切りを付けてテューレの作業に水を向けた。
彼女がなにをしようとしているのかはサッパリ不明でも、だからこそ湧くのが興味なのだ。
「そっちはどうよ? 探してた内容は書いてあったか?」
「いまの所はなにも。外部で発生した魔力の流れを制御する方法を探しているんだけど、どの本も体内にある魔力の制御法しか書いてなくって」
「防御系の魔法は?」
向かってくる魔法に対抗する手段として魔法使いが用いるのが防御魔法。手段は打ち消したり、受け流したりと様々だが、その分テューレの求めている情報に当たる確率は高そうである。
しかし、彼女は残念そうに肩を竦めていた。
「……そもそも、どうして魔力の制御法なんか調べてるんだ」
「勿論、必要だからよ」
テューレはそう言うと、机に置いてある金属製の筒を見遣った。
「これは……、なんていうか、あの兵器の頭脳みたいなものね。操縦していたのは『星渡りの蝗』パイロットだけど、動かすためにはこれがないといけないの。記憶装置も兼ねているみたいだから、何かしらの情報が記録されているはずなんだけど」
「じゃあ、開けてみりゃいいじゃねえか」
中に情報が入っているならば開封すればいいとの単純な発想に、テューレはまたしても困り顔である。自らの常識がすんなり伝わらないもどかしさは、如何ともしがたかった。
筒の中を覗きたいのは山々だが、開封したところで目に映るのは記録装置の部品だけ、当然、電子的に保存されている情報を知ることは叶わない。
秘密を暴くには、まず電源が必要。
幸いな事に、タコに搭載されていた予備のジェネレーターを回収することが出来たため、電源を確保できたまではよかったのだが、出力が大きすぎる為に、そのままで繋ぐと記憶装置を焼いてしまう可能性があり、故にテューレは魔力制御を応用してジェネレーター出力の調整を試みていた訳だ。
しかし難航具合は言わずもがなで、彼女も長期戦になるだろうと覚悟もしていたのだが――
「……なら、俺がやってみようか?」
と、その難度を知ってか知らずか、説明を聞いていたグリムから出し抜けに提案され、そのあまりの気軽さにテューレは呆気にとられてしまう。
「え? いえ、気持ちはありがたいけれど、お城の魔法使いにも無理だと断わられたのよ?」
「魔法使いは魔法使いでも、お前が訊いたのって研究者連中だろ。確かに賢い連中だが、魔法の扱いに関しちゃ甘い。蔵を埋めるのにしたってあれだけズレちまうくらいだ」
グリムが指摘したのは蔵の入り口にある僅かな段差だが、慣れてる魔法を使っておいて段差があること自体、下手の証明だと彼は嘯く。
「魔法の扱いなら騎士団所属の魔法使いの方が上だ。でもって攻撃魔法は使えないが、魔力の扱いに限っては俺の方が上だぜ」
「どう違うのか、イマイチ分からないのだけど」
「細かい説明は省くけど、道具を作るのが上手いヤツと、道具を使って物を作るのが上手いヤツって感じだな。それでいうと俺は前者になるから、都合はいいはずだ」
この点は、グリムの言うとおりであった。
ジェネレーターから発生するエネルギーは魔法よりも、その源となる魔力に近く、であればグリムに頼るのも解決策の一つになり得る。
「とりあえず試してみねぇか? 成功したら儲けモンってことでよ」
彼の口調は軽いものの楽観的な自信があり、その軽薄さがむしろテューレの助けとなった。
完璧な成功など望むべくもなく、すべては挑戦しなければ始まらないのである。
「……いいわ、やりましょう。準備するから、少し待ってて」
「そうこなくちゃ」
やはり軽く返したグリムは、実験の準備に取りかかるテューレをしばし眺めていた。
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