FIELD WORK ~手を汚す価値~ Part.6
「途中で帰ることになってすまぬな、村長。しばらく世話になるが、やはりこのくらいで戻らねばならぬじゃろう」
作業中の農夫達と挨拶を済ませたメアは、見送りに付いてきた村長に、申し訳なさそうに言った。夜になる前に王都へ戻る必要があるとはいえ、やはり途中で抜けるのは気が引けるのだ。
「何を仰いますか。この調子でしたら、何面かは今年中に開墾が終わりそうです。お手伝いまでしていただき、ありがとうございました、メア様」
「くるしゅうない……と言いたいところじゃが、本日の功労者は、皆とガロウであろうな」
時間いっぱいまで地面を踏みつけ回っていたガロウは、本来の役目に戻って、なに喰わぬ顔でメアの傍に控えている。
「のう、ガロウよ。お主のアレは、なにをしておったのじゃ」
「あぁ、あれはGKがやった事と同じですよ、技でもって土を砕いたに過ぎません」
彼が得意とする技の一つ【震脚葬牙】は地面を踏みつける際に魔力を流し込み、大地を牙の様に尖らせて攻撃するもので、彼はその威力を限界まで抑えて用いたのだという。
「ただ見張るってのも暇でしたからね、いい鍛錬になった」
「そうだったのですか。ガロウ様も、ありがとうございました。おかげさまで作業が捗ります」
「ん? あぁ……。別におれは、暇だっただけで……」
村長に礼を言われたガロウは口ごもっていた。
どう受け取れば良いのだろうか。ほんの一ヶ月前まで敵であった人間から、こうして悪意のない礼を言われることを。向けられる純粋な感謝は彼にとって異質に過ぎ、それはきっと他の魔族にとっても同じ事だろう。しかし、この困惑こそが変化の証明であることを信じるメアは、馬車に乗り込みながら僅かに微笑みを浮かべている。
自分以外にも人間と関わりを持つ魔族が増えることは、メアにとって希望が増えることと同義。そうして小さな点と点が繋がり、大きな画を描くことこそが彼女が抱く理想なのだから。
そういった意味では、遠くの開拓地から戻ってきたGK達も希望の一つといえるだろう。
結局、開拓勝負は付かなかったようだが、GKは持ち前の陽気さで、ライノは冷静な判断力でもって、それぞれ農夫達と共に作業に当たっていたらしく、流石に和気藹々とまではいかないが雰囲気は良好だ。
なにしろ別れ際の挨拶までしっかりと交わしていたし、「また来いよ」とまで言われているから、先に馬車に乗っていたメアとしては嬉しくて堪らない。
だが、そんな彼女を乗せた馬車の外では、村長が神妙な表情でフェリシアを呼び止めていた。
「すみませんフェリシア様。この場でお尋ねするのは心苦しいのですが、あの件はどうなっておりますでしょうか?」
「ああ、その件であれば――」
「何か問題でも抱えてんのか?」
口を挟んだのはガロウである。村長の心配そうな声に、思わず尋ねてしまっていた。
「本件は我々の管轄だ。貴様の出番はない、ガロウ」
「なら俺に聞かせても問題ねえな、副団長?」
護衛兼お目付役であるガロウは、メアに迫る脅威の全てに警戒する必要があり、それは実力行使だけとは限らない。謀に対するには頭必要で、彼はじっとフェリシアを見据える。
こちらに関係がないなら、話せるだろうと――
「……分かった。村長、続けて構わん」
「はい。――実はしばらく前から、この辺りでムーンベアが……あぁ、巨大な熊が出るようになりまして、森の傍で村人が二人襲われてしまったんです」
「どこぞの冒険者が住処を荒らし、遊び半分で小熊を殺したのだ」
淡々と二の句を継ぎながらも、フェリシアは最後に不快感を込めて『下衆どもめ』と呟くが、村長は悼むように続ける。
「その冒険者もムーンベアに襲われて亡くなりましたが、それ以来、平原の方にも姿を見せるようになってしまい。騎士団の方に退治をお頼みしていたのですが……」
「人手不足で回せる戦力がなくてな。冒険者ギルドに依頼を出している、というのが現状だ」
「……それでフェリシア様、いかがです? 引き受けて下さる方は現れましたか」
問われた彼女は「まだだ」と首を振った。
「――しかし安心するといい。退治が済むまでの間、ウォーレン団長の計らいで村に護衛を付けることになった。本日同行している兵士数名が村に残り、その任に当たる」
「おぉそれは助かります。これで久方ぶりに安心して眠れそうです」
「うむ。では我々は王都へ戻るとしよう。村長また明日、同じ時間に」
「はい、お待ちしておりますよ」
そうして彼女たちは王都への帰路へ付くことになったのだが、騎乗したフェリシアは視界の端に感じる眼差しに目を向ける。
「……なにか不満でもあるのか、ガロウ」
「…………いいや、別に」
ガロウの視線は汚い物で見るようだったが、彼は口は開かずに握る必要の無い手綱を握った。
夕日を背に進む隊列
穏便に済んだはずの一日に、斜陽の影が色濃く残った。
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