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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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FIELD WORK ~手を汚す価値~ Part.3


 スカーレットの元に持ち込まれた相談とは、端的に言えば人員の手配。急激に増え、そしてこれからも増えるであろう魔族を計算に入れた上での食料消費を鑑みた、農作地増設における労働力の確保である。

 敷物にどっかりと腰を降ろしたスカーレットは、フェリシアとメアが交互に行う説明に耳を傾け、一通り終わったとこで口を開いた。吸い込んでいた煙管の煙が、むわっとテントの中に舞う。そこに敵意はなくとも、彼女が放つ威圧感は充分である。


「なるほどぇ、つまりはこういう事かい副団長さん。あたい等に、人間の農夫よろしく土弄りをしろって話だね」

「最終的には農作業に加わってもらうのが理想だが、農作は一朝一夕でどうなるものではない。なので今回は、その前段階の手伝いを頼みたい」


 フェリシアは立ったままで続ける。座っているスカーレットを見下ろしているはずなのに、まるで抑えつけられているかのような感覚が、常に彼女を圧迫していた。


「陛下はかねてより、安定した食糧供給が平和維持の大きな要因として考えておいでで、その為の農地拡大を計画されていた。だが、農作地の選定までは済んだものの人員が足りず、手漉きの市民を駆り出しても成果は芳しくないのが現状だった」

「――そこで妾から協力を申し出た、という訳じゃ。スカーレットには遅れての相談となってしまったのは申し訳ないがの」


 スカーレットは興味深そうに唸りながら、正面に胡座をかいて座っているメアを、それから直立しているフェリシアをそれぞれ見比べた。


 話としては妥当だし乗ってやってもいいのだが、今後のことを思えば、ただ使われるようになる事だけは避けるべきだろう。メアが掲げる人魔共存を形にするには均衡が大切なのである。

 となれば、知るべきは人間側の意図か。


「具体的に何をさせたいんだい?」

「言ってしまえば開墾だ、土を耕し畑を作ってもらう。作業としては単純だが、なにせ重労働でな。我々だけでは時間が掛かりすぎるうえに、先を思えばその時間が惜しい。この数週間で増えた貴殿とその部下である魔族、そして飼っている魔物の食料を確保するとなると急ぐ必要がある。現状、こちらの食料は狩りで賄っているようだが、それも長くは持つまい。森の動物を狩りすぎれば、いずれ首を絞めるのは明白だ。その点は貴殿も理解しているのではないか」


 国にしても軍にしても、それを成すのは生き物であり、生き物は喰わなきゃ生きてはいけない。食糧問題はまさしく人魔関わらずついて回る死活問題であり、スカーレット以下彼女の部下達も身に染みている難題である。


「ふぅむ、自分たちの食い扶持をつくるってワケか」

「荒廃した黒の大地に生まれ、奪い合うばかりの我らには馴染みないが、妾はこの経験が大きな財産になると考えておる。それに広義でみれば、これもまた戦いじゃ。腹が減っては戦は出来ぬ、そう教えてくれたのは他ならぬスカーレットじゃろ」

「私も同意見だ。特に『星渡りの(ローカスト)』などという未知の敵と戦うのであれば、後顧の憂いは可能な限り断っておくべきだろう。いざ戦場で腹が減って戦えぬとなっては死んでも死にきれん」


 やはりフェリシアも戦士である。

 彼女が言い放った言葉の最後こそ、スカーレットが聞きたかった部分であった。立場や建前の壁があったとしても、なお漏れ出てた僅かばかりの本音にスカーレットはテントに入ってから初めて笑みを浮かべる。


「あたい達の取り分は?」

「新規農地からの収穫分の二割を。膨大な面積だ、現状の人数なら余裕で一年は持つだろう。それから働きに応じた賃金を支払おう」

「賃金?」


 聞き慣れない単語にスカーレットは眉を寄せる。


「あれかい? 人間がやりとりしてる金ってやつかい」

「そうだ、これもメア王女からの申し出でな。貴殿達が城下での売り買いに加われるようにとのことだ。民衆の感情がある故、すぐにとはいかないだろうが、今のうちに金銭のやりとりに慣れておくといい」

「……御ひい様はやったのかい? その売り買いってやつを」

「うむ、買い物はしたぞ。あとは食事じゃな、店で金を払えば料理を出してくれる。とはいえ、その時はグリムが払ってくれたのじゃが」


 あれは貴重な経験だったと、メアは楽しそうに語った。


「物々交換よりも遙かにラクそうだ、便利なモンがあるんだねぇ」

「我々と共存していくには遅かれ早かれ必須になる。そちらにも合わせる部分は合せてもらうぞ。異論はあるか、スカーレット」

「ないよ」


 二つ返事で答えると、スカーレットは煙管の灰を火鉢に捨てた。


「じゃあ今度はこっちが出す番だね、副団長さん。どんな面子が入り用だい?」

「力仕事に向いている者ならば問題ない。もっとも貴殿の部下だ。その点において心配はしていないがな」

「ふぅむ……、ガロウ?」

「ペルシュ、ライノックス、GK辺りが適当かと」


 訊かれることを予期していたのか、傍で待機していたガロウが即答すると、フェリシアが鋭い眼差しで尋ねる。


「その三名、どのような人材か訊かせてもらえるか」

「力自慢だ、アンタの注文通りのな。それぞれの得意分野なら姐さんに比肩するだろう。何をさせる気か知らないが、人間よりは役に立つ。――……ですが姐さん、いいんですかい」

「なんだい? 協力するのに文句はないと、それで話は付いたろう」

「いや、そっちじゃなくて……」


 ガロウの歯切れは悪かったが、続きを聞けばその理由は納得だった。


「――あの三人だと、仕切りが。まとめ役がいねぇと面倒起こしますぜ。姫さんや、騎士団の奴に任せるって訳にもイカンでしょうし」

「なら問題ないさね。あんたが一緒に行けばいい」

「俺がですか⁈」


 他の候補を挙げるつもりが指名されてしまい、ガロウはすこぶる驚いていた。……というか、単純に嫌そうな雰囲気を醸し出していた。スカーレットが協力すると言っているから従っているが、彼も獣魔族の一人である。やはりすぐに納得できるものでもないのだ。

 とはいえ、それはスカーレットには関係の無い話である。


「まとめ役がいるって言ったのはあんただろう? それにこの国にやって来てからこっち、籠もりっきりじゃないか。たまには外に出るんだね」

「それじゃあ、こっちの仕切りはどうすンです」

「連中だってガキじゃねえんだ、あたいの傍でバカはやんないよ。だからガロウ、あんたには三人の仕切りと御ひい様の世話を任せるよ、いいね」


 渋々ながらも、ここまで言われてはガロウは頷くしかないのだが、さりげなく増えていた一名を、彼は不安そうに繰り返した。


「……え、姫さんも?」

「そうさ。――どうせ一緒に行くんだろう、御ひい様?」

「無論じゃ。体験は知識に勝るからのう」


 問われたメアは胸を聳やかして答える。後々報告を受けるよりも、一度は現場に足を運んだ方が見えることが多い。好奇心と効率、その両方を同時に満たせる妙案であり、こうなってしまっては最早ガロウに異論を挟む余地は許されていなかった。


「じゃあ決まりだね、副団長さん。出発は明朝かい?」

「そうだ、早いに越したことはないからな。日の出頃に発つので、その三名を集めておいてくれ。移動用の馬車はこちらで手配する」

「あっと、馬車はいらないよ」


 作業場所は離れているため移動には必須なのだが、どれ程の距離なのか知ってか知らずか、スカーレットはあっさりとフェリシアの申し出を断わった。


「相当な距離だぞ? いくら獣魔とはいえ徒歩ではとても……。大体、貴殿等がよくてもメア姫も歩かせるつもりか」

「そうじゃぞスカーレット! 妾はそこまで歩けぬぞ! すんごい遠いんじゃぞ!」


 当然起こる反論に、だがスカーレットは悪戯めいた笑みを浮かべるだけ。


「まぁまぁお二人さん、心配無用ってやつだよ。明日を楽しみにしとけばいいさね」


 そう言ってスカーレットは快活に笑い、特訓があるからと言って彼女たちを帰したのである。

 具体的な事を教えらないまま付いた帰路の、なんと不安な事だろう。城へと戻っていくフェリシアとメアは、珍しく共通の感情を抱きながら歩いて行くのだった。




ここまで読んで戴きましてありがとうございます

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