FIELD WORK ~手を汚す価値~ Part.2
身体を休めるのも鍛錬のうち。横になったグリムは鼓動に合わせて巡る血流を感じ取りながら、使える時間を回復に当てていた。魔法に頼らず体力を戻す術は色々あるが、一番効果的なのはやはり寝てしまうことだろう。
一応、意識は保っていても草原で大の字になっている姿は、どう見たって昼寝してるようにしか思えない。遠く小屋の陰から隠れるようにして、その様子を眺めている人影もきっとそう思っていたに違いな――
「御ひい様」
「――――ッ⁈」
いきなり耳元で呼びかけられた人影――というかメア――は、叫び声を両手で押さえ込んだまま飛び上がった。ついさっき視界から消えていったはずのスカーレットが、いつの間にやら背後に忍び寄っていたのである。
「ヴェルッ、吃驚するではないか!」
「いやぁ、ごめんよ御ひい様。まさかそこまで驚くは思わなくてね、ハハハ!」
むくれたメアが落ち着くのを待ってからスカーレットは続ける。
顔はニヤニヤしたままであった。
「コソコソ隠れてないで声を掛けりゃいいじゃないか。坊やに用があるんだろう?」
「意地の悪いことを言う。いくら妾でも、頑張っている戦士の休息を軽んじるほど愚かではないぞ。グリムだっていい顔はせぬじゃろうしな」
「おや、そうかい? 御ひい様相手なら坊やは気にしなそうだけどね」
「甘いのじゃヴェル、もうその手には乗らぬぞ」
こうやってスカーレットにからかわれ、メアは何度も痛い目を見たのである。それは甘言に気をつけろという彼女からの恥を伴う教えであったが、おかげでメアは彼女の悪戯心にばかり敏感になっていたし、そもそもとしてメアの用件は別にある。
「それに妾が探していたのはグリムではなく、お主なのじゃ。ヴェルよ、少し話せるか。相談したいことがあるのじゃが」
「あたいにかい? もちろん喜んで、御ひい様」
「ではお主のテントまで行こうか。込み入った話になりそうじゃからな」
――なんてやりとりが行われていた頃。
スカーレットのテント前では二人の人物が入り口の両脇に、まるで石像かなにかの様に立っていた。一人はガロウ、自称スカーレットの一番の舎弟。
そして彼と対を成しているのがアヴァロン騎士団の副団長、フェリシアである。
…………
……
言うまでもなく気まずい。元々フェリシアは気難しいタイプだし、なにより魔族に囲まれているという状況が彼女に緊張を強いていた。今のところ魔族との友好関係はうまく回っているとはいえ、長年戦ってきた相手が其処ら中にいるとなれば、油断など出来ようはずもない。
しかもである。先程から視界の端で獣魔の視線が微かにだが動き続けているので、気になって仕方が無かった。そしてついにというか、彼女は苛立ちを出来るだけ抑えて口にする。
「……私になにか言いたいことでもあるのか」
そう吐き出すフェリシアの顔は前を向いたままである。
「あぁ……、いや、別に」
「ならば前を見ていろ。私は仕事として来ているだけだ。それ以上でも以下でもない」
「…………」
フェリシアは騎士らしい綺麗な立ち姿でただ待つ。
ガロウの方はいかにも荒くれらしく、身体をダラダラと揺らし落ち着きがないし、やはり時折フェリシアの方へと視線を向けていて、ついに――
「……大概にしろ! 言いたいことがあるならばハッキリ言ったらどうだ!」
「おいおい、怒鳴るこたぁねえだろ」
「警告の意味を知らないのであれば、その身に教えてやろうか」
「だから俺は――」
弁明に耳を貸さずフェリシアが詰め寄ろうとした矢先、威勢のいい女の声が飛んできた。
「他人ン家の前でなにを騒いでんだい」
スカーレットである。メアに連れられて戻ってきた彼女はテントの前まで来ると、鼻を鳴らしながら二人を見下ろす。まるで利かん坊をどう叱るか考えている母親の様な表情だ。
「ガロウ……。あんたねぇ、御ひい様に働かせといて自分は呑気に痴話喧嘩とは、いい身分になったもんだね」
「すんません、姐さん」
「大方御ひい様から言い出したんだろうけど、それなら番くらい務めな」
「……うす」
ガロウは一切の反論をせず静かに頷き、次いでスカーレットはフェリシアの方に目を向ける。
「副団長さん、ウチの者が世話掛けたね。なにやら話があるんだって?」
「あ、ああ。そうだ。陛下より賜った相談事がある」
「そりゃあ丁重に伺わないとだね。まぁここまで来て立ち話もなんだし、中に入りなよ」
如何にもらしく振舞ってスカーレットは先にテントへ入ろうとしたが、ふとフェリシアの横で足を止めて彼女の頭頂部を凝視した。
かと思えば、おもむろに手を伸ばしてきたので、フェリシアは反射的にギョッとしてしまう。魔族の、しかもスカーレットのでかい手が不意に頭に向かってくれば、それが掌であっても驚くのが必然である。
「な、なにをッ⁈」
「そんな警戒しなさんなよ、副団長さん。なんか頭に付いてんのさ」
フェリシアの危機感など気にも留めず、スカーレットの指先は女の髪に触れるに相応しい丁寧さで、彼女の髪に付着していた物体をつまみ上げた。
「……野菜のクズかねぇ? 副団長さんも迂闊なもんだ」
そのクズを爪で弾き捨てると、スカーレットはカラカラと笑いながら先にテントに入っていき、メアがそれに続く。
残されてしまったガロウは、やはり気まずそうに黙って視線を逸らしながら待っている。恥ずかしそうに顔を伏せるフェリシアが、テントへ入っていくその時を――。
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