Training Day ~地獄の2週間~ Part.4
グリム達がスタートしてから一時間ほど経ったろうか。
暇を持て余したスカーレットは、切り株の上に尻をのせながら自慢の戦斧を握り、グリム達にそうさせたように、時間を掛けてゆっくりと振っていた。
彼等と異なる点は、その振り筋が綺麗に整っていることだろう。わざわざ柄の先端を掴み、より強い負荷を掛けながらも、まるで木の棒でも振り回すかのように軽々と戦斧を扱っている。
と、彼女の元に近寄る足音があった。
草を踏んでやってくるのは狼の獣魔族、先日スカーレットのテント前で、グリムが話した獣魔族の男である。彼は、自称スカーレット一の舎弟であり、事実として彼女の代役を務めることもあるため、騎士団でいうなら副団長に近い立場の男である。
「姐さん、まだここにいたんですかい」
「連中、戻ってきたのかい。ガロウ」
ガロウと呼ばれたその狼獣魔は、小馬鹿にするように肩を竦める。
「俺たちならとっくに戻ってきてますが、人間共は貧弱ですから。姫さんに助力してやろうって姐御の気持ちは理解りますけど、わざわざ弱兵まで鍛えてやる必要があるんですかね。お気に入りのグリムとかいう小僧にしたって、あの『授かりし物』抜きならあの体たらくだ」
「坊やが? そう見えるかい」
「姐さんとの勝負は、よくやってたと思いますよ。でも、あの様じゃねえ」
ガロウは吐き捨てるように言った。
「……不満みたいだね?」
「少なからず。誰も口にはしませんが、昨日まで戦りあってた相手を鍛えてやるなんて、どうかしてると思ってますよ」
ガロウ自身もその一人だろう。
しかし、湧き上がって当然の不満をスカーレットは笑い飛ばした。
「デカい喧嘩の下準備さね。妖精娘に少し見させてもらったんだけど、手強そうな相手だよ」
「『星渡りの蝗』でしたっけ? 説明聞いても、サッパリでしたが」
「まっ戦ってみなけりゃ半信半疑さね。――それから、不満があるなら去るのも自由だって伝えたろう。あたいは魔王軍を抜けたんだから、もう従う必要もないさ」
「……それこそ誰も言いませんが、俺たちが付いてきたのは魔王じゃない。姐さんがやるってんなら、どこにだって付いて行きますぜ。姐さんの我儘は、今に始まったことじゃない」
「なら、牙を研いでおけって伝えときな。今度の相手は、これまでより楽しめるだろうからね」
そう嘯くスカーレットは、不敵な笑みを……いや浮かれた笑みを堪えているようだった。
「坊やたちを鍛えてやるのだって、その為さ。それに、もしどっかで拗れてあいつ等と戦りあうことになったとしても、手応えある方が愉しいじゃないか」
「……わざわざ敵を育てるので?」
「困ることがあるのかい?」
しれっと答えるから、ガロウは溜息を漏らした。
彼女はいつもこうなのだ。戦いに関して純粋で、面白くなるならばどのような不利も厭わない。それによって散った仲間もいるが、結局、集っているのは同じ穴の狢。スカーレットの強さに惹かれた者どもは、どいつもこいつ戦いの中に、満足した顔で去って逝った。
と、ガロウの耳がぴくりと震え、暫くするとグッドサン達が戻ってきた。
九名が先に戻り、最後尾のグリムは大分遅れてのゴールとなったが、まだ息も荒い彼等に向けてスカーレットは更に告げた。
「遅いッ! と、言いたいトコだけど、初日だし勘弁してやるよ。食事休憩したら次に移るからね、時間を無駄にすんじゃないよ」
「………………」
返事する余力さえ無く、グリム達はただ項垂れるばかり。そんな彼等を見下ろすガロウの眼差しは、やはりどこか軽蔑を孕んでいるようだった。
そして食事休憩後、グリム達はスカーレットに従って、腹ごなしついでに魔族居住区のある城壁西側から東側の端まで移動した。
ちなみにだが、出された昼食の味はなんとも評価に困る微妙なもので、翌日からはグッドサンが昼食を作るようになった。簡易的でも、慣れた味の方がマシなのである。
……話を戻そう。
城壁東端に着いたグリム達を待っていたのは、明らかに不自然な置かれ方をしてる四つの大きな岩であった。城壁外周を回っていた時から、全員違和感を覚えていたが、その正体がハッキリしたのである。
置いたのはスカーレットなのだ。
「じゃあ、今日最後の訓練といこうか。やることは簡単、この岩を城壁の端っこまで押してもらう。期限は特訓期間が終わるまでだ。坊や以外(あんた達)は適当に三組に分かれて押していきな、組み分けしたら始めていいよ」
言われたグッドサン達は戸惑いながらも組み分けを済ませて、スカーレットが示した岩を押し始める。ある程度転がりやすく削られてはいるようだが、彼等の身長と同程度の大きさがあるため苦戦を強いられていた。
さて、あとは一人残されたグリムなのだが、スカーレットを見る彼の表情は明らかに渋い。
「……俺も、同じメニューやるんだよな?」
「当然さね」
「一人で押すんだよな」
「なにか問題でもあるかい」
「ある。文句がある」
グリムはそう言って、ぽつんと残っている岩を指さした。
「なんで俺の岩が一番デカいんだよ! 一人で押すんだろ!」
「誤差だよ、誤差。やいやい言わない」
しれっと、確信犯的反論である。
「お前の身長ぐらいあるじゃねえか。これを誤差って呼べるのはドラゴンくらいのモンだぞ!」
「あたいも細かい事ァ気にしないのさ」
「いい加減なだけだろが!」
「まったく繊細な坊やだね、男ってのはちょいと雑なくらいで丁度いいんだよ。それともなにかい、勇者様一行様ってのは、この程度でイモ引く弱虫に頼らなきゃなんない程、人手不足だったってコトなのかい?」
小馬鹿に見下ろすスカーレットからの、なんとも分かり易い煽りであるが、その挑発に乗ったグリムは、邪魔だとばかりに上着を地面に叩きつける。
「やってやるよ、この野郎! 見とけよテメェ!」
そう吼えて大岩にぶつかっていく様を眺めるスカーレットは、さぞ彼の扱いを理解したことだろう。他の組を見に行っては時折グリムの所に戻り、バテている彼を適度に煽ってまた戻っていく。
この調子で『岩押し』は夕方まで続き、彼等は精根絞り尽くしたのだった。
尚、本日の成果は三組共に僅かに前進
グリム、微動だにせずである
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