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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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THE POWER ~緋色の戦姫~ Part.11

 アヴァロン城下町、西門外に急造された魔族居住区。


 そこにはメアに下った魔族たちの為に簡易的な住居と、魔物用の厩舎が建てられており、城壁からの監視はあるものの、メアとアヴァロン王の交渉により、内部の管理は魔族側に委ねられている。そういった事情もあるため、この地区に立ち入るとまず魔族の見張りと顔を合せることになる訳だ。


「あれ? グリムじゃないか」


 斜陽のなか、城壁から出てきた丸腰のグリムに呼びかけたのは小柄なオークである。彼等を率いていた隊長をメアが一騎打ちで破った結果、生き残りは皆、メアに忠誠を誓い現在はここで暮らしていた。


 最初は魔族が相手故にグリムもそれなりの警戒を常としていたが、彼等の中にも意外と話せる相手は多く、この見張りのオークなんかは特に友好的であった。まぁその気質だからこそ、生き残り達のリーダーとして任命されたのだろう。

 グリムとの会話も回数を重ねているため、態度もすっかり砕けている。


「夜も近いのにどうした? 武器も持たずに」


 オークが心配そうに尋ねるのも無理はない。

 なにしろグリムは先の戦闘において、数百を越える魔族と魔物を斬ったのだから、彼を恨む魔族もここに暮らしているのだ。とはいえ、丸腰だろうが関係ないとグリムは返す。


「スカーレットに呼ばれてな。どこにいるか知ってるか」

「ああ、スカーレット様なら広場にあるテントだ。付いてきな」


 そう言ったオークの案内で、グリムは魔族居住区を進んでいく。

 急造とはいえどの家屋も新しく、グリムの小屋よりもいい寝床かもしれない。

 生き残った連中と、さらにスカーレットの部下達を合せれば、ここで暮らす魔族の数はちょっとした町程度にはなりそうだ。


「スカーレットは何か言ってきたか? いままで、お前が仕切ってきた訳だがよ」

「褒められた、よくやったって。すげぇ意外だったぜ、獣魔軍と言やぁ魔王軍の中でも戦闘狂ばかりが集まってるって噂だったんだ。なのにスカーレット様ときたら、俺の肩を叩いて労ってくれたんだぞ」


 畏怖と感動、オークはその複雑な感情をそのまま吐き出していた。


「……正直、ラクになった感じだ。ここの仕切りもスカーレット様がすることになったからな」

「簡単に譲っちまっていいのか? 期間は短いが、メアに頼まれてまとめてたのはお前だろ」

「メア様には悪いが俺はただの兵隊だったんだぜ。あれこれ命令するより、される方が合ってる。それに、全部手放すってワケでもねえんだ。スカーレット様は、俺に同じ仕事続けろと命じてくれたからな」


 要するに、既存の組織形態の上にスカーレットが座る形になったのだろう。これが小物であれば反発もあろうが、座るのが獣魔将軍となれば不満など出ようはずもない。それどころか、彼女が上になったことで安心感さえあるだろう。

 なにしろ、責任者が増えたのだから。


「……まぁ確かに、一番上で仕切るより気はラクか」

「そういうこった。――ほら着いたぜ」


 たどり着いたのは広場奥に張られたテントである。遊牧民が使っていそうな外見のそれは、普段野営で使っている物をそのまま広げたのだろうが、雨風凌ぐのには充分そうな見た目と大きさで、入り口の前には番犬の代わりに一人の獣魔族が立っていた。

 たぶん、狼かなにかの獣魔族だろう。


「なにか用事か?」

「スカーレット様に客が来たと。呼ばれたそうだ」


 狼獣魔はふてぶてしく待っているグリムの姿を上から下まで観察すると、興味深そうに鼻を鳴らした。


「昼間の人間か。……武器の類いは?」

「見ての通り丸腰だ。持ってたところで同じだろうがな」


 グリムの自虐に狼獣魔は短い笑いを吐き出し、それからオークの方に目を戻した。


「お前は見回りがあるだろ、引き継ぐから戻っていいぞ」

「どうも。――じゃあなグリム」

「おう、世話かけた」


 見回りに戻るオークにグリムが軽く挨拶を返していると、今度は狼獣魔がテントを覗き込んで声を張った。


『姐御~! アンタに客が来てるぜ!』

『通してやんな!』

「……だとさ。入っていいぜ」


 しゃっくった顎で入室を促され、グリムはテントの垂れ幕をくぐる。

 ガランとしたテント内には箱と毛布があるばかりで、数少ない彩りといったら床に敷かれた絨毯くらいだが、彼女の桃色の毛並みだけでも彩りとしては充分かも知れない。


「あぁ、客ってのは坊やのことかい」


 重ねた毛布に寄りかかったスカーレットが、煙管(きせる)を燻らせながら口を開く。立ち会いの時の苛烈な印象とは異なり、武器も鎧も置いてリラックスした彼女にはどこか色気があった。


「副長さんは伝えてくれたみたいだね。しかし、話してみたいとは言ったけど、まさかこんなに早く来るとは思わなかったよ」

「俺に話ってのは?」

「ふふっ、単刀直入だね。嫌いじゃないよ」


 スカーレットは嬉しそうに笑みを浮かべ、紫煙をふぅと吐き出した。


「でもここじゃあチョイと落ち着かないし、どうだい? 少し歩かないかい」

「好きにしろよ」

「なら決まりだね」


 スカーレットは煙管の灰を落とすと、そのまま灰皿に預けてテントを出て行き――


「ホラお前達、見世物じゃないよッ! 仕事しな、仕事ッ!」


 ――と、聞き耳を立てていた部下達を一喝して散らせたのだった。


「まったく、戦い以外はすぐサボるんだから困ったもんだよ」

「……落ち着かねえってのはこういう事か」

「内緒の話ってワケでもないけど、あれじゃ坊やも話しづらいだろ。さぁて行こうか、見晴らしよさそうな高台があったんだ」


 そうしてグリム達は、薄暗くなり始めた森の中へと入っていくのだった。


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