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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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THE POWER ~緋色の戦姫~ Part.10

 入り口の扉から室内全てを見渡せるボロ小屋がグリムの住処である。


 元は城の庭師が使っていた物置小屋に、申し訳程度の家具を運び込んだだけの部屋なので、テーブルと椅子、空き箱にマットレスを敷いただけのベッドは、はっきり言ってみすぼらしいとしか思えない。火を扱う場所を確保するために無理やり増設された暖炉が、この部屋で一番立派かも知れなかった。


 ともかく、そんなボロ小屋のベッドでグリムは静かに横になっていた。

 単純にヘトヘトなのである。


 城に戻ってくる間に浴びせられた賞賛や問いかけにもロクに応えられず、なんとか部屋まで戻った彼が、重力に任せてベッドに倒れたのは数時間前のこと。だが肉体的には疲労困憊にも関わらず、眠気はまったく訪れなかった。


 脳味噌が興奮し、高ぶった神経はいまだ全力疾走を続けているかのよう。

 それくらいスカーレットとの立ち会いは衝撃的で、閉じた瞼の裏ではまだ戦闘が続いていたため、近づいてくる足音や小さなノックの音にも、グリムはすぐに気が付いた。


『グリム、いるな? フェリシアだ』

「疲れて寝てる。放っておいてくれ」

『……入るぞ』


 溜息一つを吐いてから無遠慮にフェリシアは入ってきたが、それでもグリムは横になったまま目を瞑っていた。


「休めては……いないようだな」

「ご用件は、副団長殿」

「様子を見に来ただけだ、ウォーレン団長に頼まれてな」

「俺よりも王様の心労を心配しとけって伝えてくれよ。魔族の王女様に続いて魔王軍四将の一人が尋ねて来たんだ、そのうちぶっ倒れるぜ? もう暫く休んだら警邏に戻るよ」


 グリムはやはり目を閉じたままで続けた。


「……ってかよ、副長。王様の警護しなくていいのか? スカーレットの力は見ただろ」

「陛下には近衛兵が付いている。謁見もとうに終わり、団長を交えて今後の方針を練っておられるところだ。謁見にしても滞りなく進んだ、むしろ貴様よりも魔族の将の方が礼儀を弁えていたくらいだ」


 聞けばスカーレットは無抵抗で武器を預け、自らアヴァロン王に跪き拝謁したという。その後のやりとりも、言葉遣いにこそ粗暴さがありはしたが、実に落ち着いていたらしい。


「そりゃあ王様に、スカーレットを挑発する度胸がないからだろ」

「蒸し返すつもりか? 貴様の場合は自業自得だ。嘘をついて城に入り込んだのだからな」

「いずれにしても、すんなり話は進んだってワケだ」


 フェリシアがこんなに早く訪ねてきたのがなによりの証拠だと、分が悪くなる前にグリムは話をすり替えたが……


「……断わっておくがグリム、すでに夕暮れだぞ」

「アンタも冗談言うんだな、ちょっと横になってただけだぜ」


 胡乱な声を上げて、ようやく身体を起こしたグリムが緩慢な動きで鎧戸を開けると、橙色に染まった雲が疲れたように流れていた。

 夕焼けに目を細めている彼の感覚的には、数十分程度の休息だったらしい。


「しまった、休みすぎた。グッさんに謝っとかねえと」

「その必要は無い。団長より、休めとの命令だ。私はそれを伝えに来た」

「……え? それだけの為にあんたが来たのか?」

「無論、不本意だ。ついでとばかりに、スカーレット将軍も伝言を預けてくる始末だ」


 さぞ忌々しそうにフェリシアの口元が歪んでいた。


「あいつが? なんて?」

「『時間がある時にゆっくり話そう』と――」

 魔王軍の将からのお誘いを光栄と取るべきか否か、グリムの眉間には皺が寄る。

「……あの女はまだ城に?」

「部下に示しが付かないと城壁の外へ出た、陛下の申し出を辞退してな。ひとまずは西門外に作った魔族居住区で過ごすそうだ」

「言いそうだな。肩書きは将軍でも、あいつは根っからの戦士だ」


 実際に刃を交えたからこその確信がグリムにはあったが、フェリシアにしたらどちらでも同じ事。脅威が近くにあるかすごく近くにあるかの違いだけで、気は休まらない。


「さて、私はもう戻る。仕事が山積みだ」

「おつかれさまです、副長殿」


 ダラッとしたグリムの敬礼に送り出されるフェリシアは、だが戸口ではたと足を止め、肩越しに振り返ろうとしているのを耐えているようである。


「まだなにか?」

「……最後に団長を残して去ったことを除けば、今日の貴様は良い働きをした」

「…………そりゃあ、どうも」


 まさかフェリシアからお褒めの言葉を賜ることになるとは思わず、グリムは暫し呆気にとられていたが、余計な一言は忘れなかった。


「特別手当期待してますよ」

「調子に乗るな、莫迦者が」


 そう言い残すと、フェリシアは力強く扉を閉めて出て行った。

 最後に悪態こそつかれたものの、遠ざかっていく足音を聞くグリムの口元は僅かに笑っていた。どんな形であっても、認められて悪い気はしないものだ。

 しかしだからこそ、自問するが故に笑みは薄れていく。


「……良い働きか、そいつはどうかな」


 小さく溢したグリムの眼差しは、この日再びの火を宿している。


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