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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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THE POWER ~緋色の戦姫~ Part.9

 グリムとスカーレット。


 この立ち会いが始まってから幾度目かの、そして最大の爆発が起こり、二人の姿はもうもうと立ち上がった土煙に隠れている。

 しかしこれまでと異なるのは、剣戟の音がピタリと止まったことだった。


 ……ついに決着が付いたのだろうか。


 誰もが固唾を呑んで視界が晴れるのを待っていた。途中から言葉をなくしたメアも、土煙を遮ってくれたウォーレンの背から顔を覗かせて、皆と同じく待っている。


 段々と薄まる土色の煙幕

 そこに浮かび上がったシルエットは……


「どちらも立っているのじゃ……!」


 影は二つ。

 しかしながら、グリムの剣先はスカーレットの首筋にあてがわれ、かたやスカーレットの戦斧は狙いを外し、地面に深々と突き立てられていた。


 制止した二人はまるで一枚の絵画のようで、勝敗は決したと、誰もが思った。

 城壁の兵士達も歓声を上げ、メアも静かに拳を握る。

 にもかかわらず、熱い視線はいまだ火花を散らしており、闘争の焔はそこで確かに滾り続けていた。動かないのは呼吸を整えているからだろう。


 そして時が満ちたとき、どちらともなく――


「そこまでじゃ~ッ!」


 彼等が武器を構え直そうとした矢先、今更になって血相変えたメアが二人の間に割り込んできた。彼女も彼女で必死である。


「御ひい様……」

「もう充分じゃろう、スカーレット! グリムの実力は証明されたはずじゃ」

「退いてろ、メア。まだ終わって――」

「うるさい!」


 いい加減にしろと、メアは不満そうなグリムの頭をひっぱたいた。たかが平手でも魔族の平手、グリムが呻く程度には威力がある。


「いってぇな、この! 何しやがる!」

「うるさい、うるさい! お主も剣を退くのじゃ! 終わりと言ったら終わりなのじゃッ! スカーレットもそれでよいな⁈ 目的を果した以上、これ以上続ける必要はない!」

 魔王女の威厳などどこ吹く風で喚くメアは、さながら子供のようだった。

「…………まぁ、御ひい様が言うなら退こうかね。坊やの強さを知るには充分だったし」

「ちょっと待てよ、おい! まだ終わってねえだろうが!」

「そうがなられても気が削がれちまったからね、坊やの勝ちで決着さ」


 グリムは食い下がったが、スカーレットはすっかりやる気を無くしたらしく、引き抜いた戦斧を身体に預けてしまう。漲っていた闘気も霧散して険しかった表情も、いまはどこか優しげですらあった。


「さぁて御ひい様、賭けはアンタの勝ちだ。約束通りあたいも協力しようじゃないか」

「それは有難い! お主がいれば百人力じゃな!」


 メアはすこぶる嬉しいそうに声を張っているが、様子を見守っていたウォーレンからはまだ緊張感が漂っていた。

 その視線は丘の向こう側を覗こうとしている様である。


「スカーレット殿が盟に加わってくださることは嬉しく思います。しかし……」

「どうしたのじゃ、ウォーレン」

「いえ、()()は賛同するでしょうか?」


 スカーレットは魔王軍の一角、獣魔軍団の長である。そんな彼女が単身で、遙か前線の向こう側までやってくるとは思えない。それは至極当たり前な疑問であり、またウォーレンの予想は当たっていた。

 というか、スカーレットは隠そうとさえしなかった。


「無用な心配ってなもんだよ団長さん。他ならぬ御ひい様との約束だ、あたいがいる限り必ず守らせる、街にも人間共にも手は出させない。……勿論、そっちから仕掛けた場合は話が変わるけどね」

「徹底させましょう。しかしながら部下の方々が城下への立ち入ることはお控えいただきます。メア殿の尽力により魔族に対する市民感情に変化は現れていますが、住民たちは魔族に慣れておりません。無駄な火種を増やすことは避けたいのです、そこはご理解を」

「まぁ妥当なトコだろうね。いいよ、その条件で」


 ――と、スカーレットの実力を目の当たりにしながらも、ウォーレンが譲れぬ一線をしっかりと守ったその横で、鈍い風切り音が不満げになる。

 ようやく剣を収めたグリムは、不服を露わにコートを翻して城下へ戻ろうとしている。


「これグリム、どこへ行くのじゃ⁈」

「あとは偉いさんの仕事だろ、疲れたから帰って寝る。――構わねえだろ、団長」

「ええ。後のことは任せてください、グリム殿。お疲れ様でした」

「じゃあ、そういうワケで」

「あ、これ! グリム~ッ!」


 呼び止めるメアに手を挙げて応えただけで、グリムはそのまま門へと戻っていってしまう。

 メアでさえ呆れるほどに我儘な振る舞いといえるだろうが、その遠ざかる背を見つめるスカーレットだけは、口元に笑みを湛えていた。


「あの坊や、やっぱり面白いね。御ひい様が気に入るだけのことはある」

「そ、そうじゃろ? 無礼なところもあるが、あれで根はイイ奴なんじゃ。グリムがこの傷を治してくれたからこそ、妾はこうしていられるのじゃ」


 そうやってメアが見せた背中の傷痕に、その大きさにスカーレットは目を見張ったが、彼女は問いかけるのをぐっと堪えた。


「訊きたいことは山ほどあるけど御ひい様、積もる話はあとでゆっくりしようじゃないか。まずは王様とやらに挨拶に行かないとね。ここの主を待たせちゃ失礼ってなもんさ」

「うむ、そうじゃったな。ウォーレン団長、段取りを頼めるじゃろうか」

「ご案内致します。こちらへどうぞ」


 そうしてウォーレンの案内に従い、スカーレットはアヴァロン城下へと入っていくのだった。



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