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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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THE POWER ~緋色の戦姫~ Part.6

 グリムは、スカーレットの正体を掴みきってはいなかった。

 だが、ただならぬ相手であることは理解していた。


 それこそ、一目見た瞬間から『こいつはとんでもねえ魔族だと』察知していたし、遙かに格上だと理解した上で勝負に臨んだ。


 意気軒昂、気合充分だった。

 惜しむらくは、初撃で決められなかった点である。


 ――クソ、バレてやがる


 絶え間なく大剣を振るい続けながら、グリムは歯がみしていた。

 実力差は明白で、長期戦が不利なことなど重々承知、だからこそ短期決戦を挑むはずだったのに、すんでの所で彼はビビった。いや、積み重ねてきた戦歴と経験が、初手から特攻を選ぶことを拒否したというべきだろうか。


 その所為で、望まぬ長期戦の様相を呈しているのだから世話がない。


 斧を短く持ち替えたスカーレットの守りは堅く、隻腕隻眼という多大な有利を取りながらも、グリムには彼女に一太刀浴びせる形が想像できなかった。


 ――俺の力じゃ崩せねえと、そう踏んでの受け方だぜ


 実際そうだが、彼女の涼しいツラが無性に鼻につく。苛立ちが混じりグリムの剣戟は一層の激しさを纏っていくが、それでもスカーレットの防御は鉄壁のままだ。


 ――と、その時だった。グリムが不意に剣を止めたのは。


 立ち会い開始から五分程だろうか。連続で攻め続けていたグリムの呼吸には乱れがあり、額から垂れた汗が地面に染みこんでいく。


 明らかに攻め疲れていた。


 対するスカーレットは汗一つ掻かずに、そんな彼の姿を値踏みするように見下ろしていた。そして挑発の一つも投げてやろうと口を開きかけたが、代わりに浮かんだのは訝しげな表情である。

 グリムが左手を軽く挙げていた、まるで『ちょっとタンマ』とでも言うように。


 しかし、降参ではない。

 構えを解き、剣を重そうにだらりと持っているが、眼付きは鈍く光ったままで、全身から闘志が滲み出ている。だからこそ、スカーレットは口を挟まずに彼の行動を待ったのだろう。


 彼女と向き合ったままグリムは後ろへ下がっていき、一度立ち止まったかと思えば、少し唸ってから半歩前へ出る。

 そして息を整えると、スカーレット真っ直ぐ見据えて、手招いた。


「……あんたの番だ」

『莫迦な! 止めるんじゃグリムッ!』


 遠くでメアが叫んでいたが、吐いた唾は飲めねえ。無茶苦茶なことを考えていると分かってはいるが、怖じけた顔で戦場に立てるものか。

 不敵にも、グリムはうすら笑った。


「……成程ねぇ、坊や。良い度胸だ、本当に」


 スカーレットも笑っていた。凶悪な、歓喜の笑みで。

 グリムが下がった位置、そこは彼女が全力で斧を振るえる最適な距離だった。身の丈を越える戦斧の特性上、スカーレットの攻撃は技よりも力に重きを置いており、その間合いも広く、どこで当ててもほぼ一撃必殺の威力があるが故に、当て所を選ばない。


 とにかく、一発当てれば勝ち。


 例えば剣で斬るのであれば、鋒から拳一個分くらいの位置が最も力込めて斬りやすい。言い換えると、その間合いが最も危険な距離ともいえる。普通なら、相手の間合いには入りたくないし、空間の削りあいが勝敗を分けるといってもいいだろう。


 グリムは、自らその間合いに立ったのだ。

 スカーレットが全力で斧を振るえる最適位置、再危険位置に。

 そんな真似されたら、嬉しくもなるだろう。


「フッ……、アイツと、同じ真似するバカがいるとはね」

「殴りっぱなしじゃ悪いからな。さっさと来いよ」


 真っ向から受け止めるべく、グリムは足を少し開く。

 スカーレットは笑みを引っ込めた。


「死んでくれるなよ、坊や」


 防御を捨てての全開


 地面が沈まんばかりの踏み込み


 短く持った斧は振り下ろながら滑らせて握りなおし


 グリムの脳天めがけて一撃を見舞う


 打ち込みの音は凄まじく爆発音さながら


 衝撃は苛烈で周囲の地面を吹き飛ばすほど


 だがその一撃を受けとめながらも、グリムはまだ立っていた


「……起きてるかい、坊や」


 直撃こそ防いだが、完全に受けきることはやはり難しかったようである。大きく凹んだ地面になんとか立っているようなグリムの額からは、紅い筋が垂れてきていた。

 彼の口元が微かに動く。


「なんか言ったかい?」

「…………大した事、ねえなって言ったんだ」


 不遜なり――


 グリムは明らかにギリギリであった。刃を防いでも頭部への衝撃はあったために意識も不明瞭、にもかかわらず彼は不遜にもスカーレットの斧を払い、そして再び手招いた。


「来いよ、もう一丁」


 青息吐息のくせに眼は生きている。

 しかも、本気でまだ勝てると思っている眼をしているから、スカーレットはこみ上げる笑い声を堪えるのに必死だったろう。


「堪んないねぇ。人間の戦士ってのはこういうのがいるから面白い」

「……止めたきゃ止めてもいいんだぜ。アンタの負けってことになるけどな」

「冗談だろう? ここで退いたら魔族が廃るよ」


 スカーレットは斧を担ぎ直した。

 その構えは先程よりも明らかに深い。そして発せられる威圧感は、龍さえも尻尾を巻いて逃げ出しそうな程で、ここまで彼女がどれだけの手心を加えていたかを如実に表わしていた。


 恨みっこなし、言葉なし

 睨み合い、数瞬

 …………

 ………………

 動いた!


 やはりスカーレットは防御を捨てた渾身の縦振り


 込められた力は大地を容易く割るだろう


 人間程度では到底受けることなど叶わない


 しかしながら、である――


 獣魔将軍必殺の一撃を


 防御不能な致命の一撃を


 グリムの剣が容易く払った


『のじゃっ⁈』


 驚いたのはメアばかりではなかった

 大剣ごとグリムを叩き割るつもりであったスカーレットも、これには驚きを隠せない。軌道を変えられた斧は、やはり大地を割っており威力は殺されていない。にもかかわらず、まるで木の葉を払うようにして、彼女の戦斧は払われたのだ。


 力を込めていた分、身体が流れ、スカーレットの体勢が崩れる


 ガラ空きになる右脇腹


 その隙を、グリムは見逃さず


 胴斬り一閃で斬り抜けた


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