THE POWER ~緋色の戦姫~ Part.4
そうして暫く時間が経ち、大まかな現状をメアが説明したところで、スカーレットから深い溜息が漏れた。
「……なんてこったい。なにか起きたとは思ってたけど、まさか魔王城がそんな事態になってたなんてね。ホント、よく無事だったよ、御ひい様」
「あそこにいる、グリムのおかげじゃ。奴がおらねば妾は助からなかったじゃろう」
「……ふ~ん、あの坊やがねぇ」
スカーレットは胡乱そうな目をグリムへと向けたが、すぐにメアの方へと首を戻した。
「ところで、これから御ひい様はどうするつもりなんだい?」
「どうする、とは?」
「御ひい様が人間の国いるのを知って、あたいは助け出すつもりでここまで来た。だけど、事情が違うみたいだからね。残りたいのなら連れ出しはしない、御ひい様の好きにすればいい」
気軽な、それでいて思いやりのある言葉。
まるで巣立ちを見守る母親のようなスカーレットの口ぶりに、メアは胸を張って答える。
「妾は残るのじゃ。魔族のため、人間のため、この世界のため、そして夢のために。この国だから成せる、この国から成せる。そんな気がするのじゃ」
「チビッ子が言うようになったね」
「言葉にするのを恐れていては、夢のままじゃからな」
「そうかい……。じゃあ、余計な世話だったね」
メアは自分の道を決めたのだ。
それをスカーレットは誇らしげに微笑み、そして彼女に背中を向けた。独り立ちして歩み始めたのなら、別の道へ進んでいくのも人生だ。
そう割り切って、スカーレットはすんなりと引き下がり去ろうとしたが――
「ちょっと待つのじゃ、スカーレット」
――呼び止められ、スカーレットは振り返った。
「ん? まだ何かあるのかい?」
「うむ、頼みたいことがあるのじゃ」
メアは改まった。というより、緊張した。
何故なら彼女が頼もうとしている事は、魔族に対する侮辱と捉えられても仕方の無い、もの凄く繊細で微妙な頼みだったからだ。下手をすればスカーレットの逆鱗に触れ、すべてご破算になる可能性がある。いくら古くから知っている間柄でも、許せぬ線引きは存在する。
だがしかし、その線は踏み行く価値があり、むしろ行かねばならないとメアは感じていた。
喉が張付き、咳払いを一つ。
それからメアは言葉を続けた。
「スカーレット、ここに残ってくれぬか? お主の力を妾に貸してもらいたいのじゃ。妾は、この世界が好きなのじゃ、魔族も人間も。我らの間に積み重なった、戦と恨みの歴史はうずたかく、容易い道でないことは理解している。じゃが妾は希望を見たのじゃ、人魔が共に暮らせる世界、平和な世を――」
「…………」
「しかし、そのまだ見ぬ平和な世が、異星からの脅威にさらされている。守護るには力が必要なのじゃ、我らが抗わねばこの星に生きるすべてが滅びることとなる。比喩ではなく、星が喰われることになるのじゃ。だから――」
「いいよ」
「のじゃッ⁈」
あまりにもアッサリとした返事に、むしろメアの方が驚いていた。
「ヘンな声上げて、そんなに意外かい、御ひい様。あれこれ並べ立てちゃってさァ、あんたの頼みをあたいが断わるとでも?」
「いや、そう言ってくれると嬉しいのじゃが――」
「ただし、条件があるよ」
驚いていたメアを遮り、スカーレットは人差し指を立てる。
再会を喜び、成長を誇っていた先程までとはうって変わって真剣な眼差しだった。
「『星渡りの蝗』だっけ? そいつ等と戦りあうのはいい、最近は張り合いのある相手がいなくて退屈だったしね。だけど人魔の平和を謳って戦うなら、相棒にも相応の戦力を求める」
「つまり――」
「人間共に使われるのは御免って話さ、弱い奴と組むのもね。轡を並べるに値するかどうか、見極めさせてもらう、それが条件。それからもう一つ、納得出来なきゃ御ひい様、あんたを連れて行く」
「……ッ⁈」
メアは唇を固く結び、グリムが口を挟んだ。
「おい! さっきと話が違うじゃねえか! メアの好きにしろって言ったろうが!」
「引っ込んでな坊や、勝負するからには何か賭けるもんなのさ。第一、残るにしても、弱兵共に御ひい様を任せておけるかい」
「よいのじゃグリム、スカーレットの言い分はもっともじゃ。その条件、受けよう」
潔く了承したメアに、またしてもスカーレットは笑みを浮かべ、続けた。
「そうこなくちゃね、御ひい様。――さて、聞いたとおりだ団長さん、誰を出すね? そこの坊やでもいいし、他の兵士でも、もちろんアンタでもいい。なんなら総動員したって構わない、とにかく、ここで一番強い相手を出しなよ」
彼我の戦力差を測り、ウォーレンは沈黙。
この恐ろしく強いであろう獣魔族相手に、果たして正面から渡り合える兵力があるのだろうか。仮に渡り合えたとしても、注いだ戦力に比例した甚大な被害は免れない。
であれば隊長格のみで……いや、それならば自分とフェリシアの二人で応じるのが――
「俺がやる」
沈黙に踏み出し、グリムが静かに名乗りをあげた。
「グリム殿――」
「――と、言うより俺がやるしかないだろ、他の誰でも死んじまう。あんたも副長も、こんな勝負で命張れる立場じゃねえしな」
「しかし勝算はあるんですか?」
グリムは答えなかった。
ただじっとスカーレットを見据え、それから気丈に振舞っているメアに尋ねる。
「残りたいんだろ、お前は」
「も、勿論じゃ!」
「なら決まりだな。――団長、命令してくれよ。一応、いまはアンタの下にいるからな」
「分かりました、グリム。我々を代表して、彼女を倒してきなさい!」
騎士団長の命令に背中を押されて、グリムは一歩前に出た。




