表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
61/97

THE POWER ~緋色の戦姫~ Part.2


「魔族が、我々と話をしたいだと? 交渉という事か?」


 南城壁に到着したフェリシアは、報告を受けて眉根を寄せた。

 相手は魔族だから疑うに越したことはないし、仮にこれが人間相手だとしても、敵対している以上、易々と信じるわけにはいかないのだ。


「……おかしな事ばかり続くな。ほかに敵の姿はあるのか?」

「いいえ。現在、南方に敵影は見当たりません。東西も同様です」

「今のところは単独か。人間の領地で魔族が単独行動するとは考え難いが……。ウォーレン団長、如何致しましょう」


 アヴァロン王国騎士団長ウォーレンは、指先で顎を撫でながら思案を巡らす。普段の温厚な表情はそのままだが、纏う緊張感はピアノ線より張り詰めていた。


 一見すれば撃退あるのみの、単純な状況に思える。魔王女であるメアは確かに人魔の友好を望んでいて、その為にこの国で活動しており、彼女の言葉に偽りがないことは、彼も信じているところであるが、その想いが他の魔族に伝わっているとは考えにくく、またすぐに同意を得られるとも思えないのだ。


 なにしろ百を超える年月殺し合ってきて、矛は収め所を失っているのだから――


 とはいえ、問答無用で仕掛けていい相手でないことも確かだった。先程、チラと姿を見下ろした一瞬だけでも、ウォーレンがその脅威を認識するのに充分だったのである。


「……ひとまず、城下町を覆う結界を強化するように魔術師達に伝達を。彼女が部下を持っているなら、その強さはこれまでの魔物の比ではない。近衛には万が一の備えをと、そして警邏兵には市民に避難準備をさせ、いつでも行動に移れるようにと」

「ハッ!」


 命令を受けた伝令が、敬礼の後に走り去っていく。

 見送るフェリシアは、さらに表情が険しくなった。


「やはり、それ程ですか。ウォーレン団長」

「私が騎士団長に任命されてから、十を超える魔族の襲撃があった。……キミなら理解出来るはずだフェリシア、いま我々の前に立っているあの女魔族。彼女一人で、これまでの軍勢以上の脅威であることが」

「…………」


 認めたくないが認めざる負えない事実に、フェリシアは黙って奥歯を噛みしめる。


「……こんな時に、グリムはなにをやっている」


 彼女がそう吐き捨てたときだ。「呼んだか?」と気軽な声を出しながら、グリムが城壁に飛び乗ってきた。階段もはしごも使わず、『授かりし者』の能力に任せて屋根を駆け、壁面を蹴って飛び上がってきたのだ。道中で回復魔法を使ったようで、痣もすっかり消えている。


「遅いぞ! 貴様の役割を忘れたか、グリム!」

「がなるなって副長、あんた等が早いんだ」


 なんて軽口で返していたグリムだが、二人の様子から事態を察する。自分と対していた時でさえ、ここまで緊張していなかったはずだから。


「……そんなにヤバイのが来てるのか、ウォーレン」

「見れば分かりますよ、グリム殿。門の前にいる魔族です」


 そう促されグリムが下を覗くと、やはり変わらず女魔族が立っていて、右手をバックルに添えながら退屈そうにしている彼女は、向けられている視線に気付いたのか顔を上げる。


 二人の目があった

 だが両者とも逸らそうとしない

 威嚇とは異なる交差する視線は

 熱く、冷たい

 冷静で、狂気的

 矛楯した様相を呈しながら

 唯々静かに火花を散らしている


 と――


「グリム、聞いているのかッ⁈」

「ちゃんと話は聞いてるよ、副長――」


 フェリシアに呼ばれ、グリムは後ろ髪を引かれながらも作戦会議へと首を戻す。


「――ウォーレンが下に降りるんだろ? 正直、無謀だと思うけどな」

「魔族との戦闘は幾度もありましたが、開戦宣言や使者を送るようなことはなく、ましてや交渉の申し入れなど初めてのことです。しかし、メア殿の例がある。『星渡りの蝗』の脅威を鑑みれば、応じてみるのが得策でしょう。――フェリシア」

「ハッ!」

「私が出向く間、ここの指揮を任せる。グリム殿は一緒に来てください」

「「了解」」


 期せずして重なった返事に頼もしげな微笑みを浮かべると、ウォーレンは地上へと階段を下りていく。護衛役として指名されたグリムも当然それに続こうとしたが、歩き出そうとした途端、フェリシアに呼び止められた。


「役目は分かっているな、グリム」

「そっちこそ、西側城壁外にいる魔族達にも警戒しとけよ。一度負けてメアに(くだ)ったとはいえ、状況変われば掌返すかもしれないぜ」

「すでに警戒済みだ、動くようならば容赦はしない。……しかし意外だな、貴様は魔族の側でもあるのに、奴らが討たれることを心配しているようには思えない」

「俺は一番マシだと思える側にいるだけだ。メアにしたって、連中が寝返るならそれを殺ったとしても納得するだろうさ」


 グリムもメアも、種族は違えど目指すところは平和な世界。

 人魔の平和を成し、『星渡りの蝗』を撃退する。どちらか片方だけでも頭を抱える難題だが、確かに両方解決すれば万々歳だ。夢物語のようでもあるが、そう言って行こうとするグリムの背中に、フェリシアは再度声を掛けるのだった。


 命を懸けて国に尽くしてきた女騎士、魔族は敵だと身を以て知り戦ってきた人生。そうして形作られてきた信念はあれど、賭けてみたいと思うくらいには同じ願いが胸にある。


 だから――


「団長を頼むぞ」

「任せとけっての」


 ――フェリシアは託し、送り出したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ