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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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PREPARE ~備える者達~ Part.6


 真っ直ぐ伸びている目抜き通りは、非常に幅広である。その両側には様々な店舗が並んでおり、しかも通りを成している建物だけではなく、通りの内側にも多数の露天が並んでいるため、実質的な店の数は通り沿いだけでも百を越えているので、大抵の探し物はこの通りを歩いていれば見つかるだろう。


 衣類に宝飾品、魔法道具に回復薬、武器防具までなんでもござれ、目抜き通りの並ぶ品はどれも国からのチェックを受けているので基本的に質が高く、目利きが苦手でも安心できる。

 当然、食べ物だって並んでいる。


「ふぅむ、人間の世界は食物さえも彩りが豊かじゃのう」


 グリムと老女との会話が長くなりそうな気配を察したメアは、一人で露天を巡っていた。護衛だ案内役だとグリムには言っていたのだが、結局彼女は、沸き立つ好奇心には勝てなかったようで、先に向かってしまったのである。


「土が良いのかのう。黒の大陸ではお目にかかれぬものばかりで、どれも実に美味そうじゃ。ただ箱に置かれているだけだというのに、甘い香りが漂ってくるとは……。果物など、魔王城でも滅多に食す機会がなかったが、こちらでは気軽に手に入るのじゃな」


 なんて独りごちりながら露天を眺めていると、店主の男がメアに声をかけた。店主からすれば、彼女は興味深そうに品定めしている客と見えたようだから、極々当たり前の接客である。


「お目が高いね、お嬢ちゃん! 今朝届いたばかりの新鮮な果物だよ。お一つどうだい」

「のじゃ? では有難くいただこう」


 リンゴを取ってしゃくりと一口

 甘酸っぱい幸せがメアの口内に広がった


「うむぅ~! 確かにこれは新鮮じゃ!」

「そうだろう、そうだろう? いい目してるね~! これが一つたったの98ルナ! 5個ならすこしまけて400と80ルナだよ! さぁいくつ買っていくね?」


 と、問われた瞬間にメアは固まり、同時に味覚を失った。なにしろ、問われている事の半分も――いや見栄を張らずに認めよう――彼女は、一体なにを問われているのかが全く理解出来ていなかったのである。


 この一週間、楽しみにしていた人間社会の調査。それに浮かれて惹かれるがままに案内役から離れたメアは、いわば文化的迷子状態だった。興味本位で踏み入った森の中でふと我に返ったような焦りを感じれば、そりゃあリンゴの味もしなくなるというもの。


 ようするに彼女は、はしゃぎすぎたのである。んでもって、メアが明らかに動揺しているものだから、先程まで上機嫌だった店主の表情も段々と訝しむように変わっていった。


「……お嬢さん、もしかしてだが、金がねえなんて言うつもりはないだろうねぇ?」

「の、のじゃ? 金とはいったい……」

「アァッ⁈ 金がねえってのか⁈」

「いや、妾はそのぉじゃな――」

「――なにをしてんだ、お前は!」


 駆け寄ってきたグリムが、勢いそのままにメアの頭をひっぱたいた。


「勝手に消えたと思ったら、こんな場所で面倒こさえやがって!」

「のじゃ~。グ、グリムゥ……」

「うぇ⁈ なんで泣きそうなんだよ、そんな強く叩いてねえだろ」


 打音こそよく響いたが、そもそもメアは魔族であるため頑丈だ。彼女がちょびっと涙を浮かべているのは安堵したからで、グリムの姿をみとめた店主もコロッと態度を変えていた。


「このお嬢さん、旦那のツレだったんですか⁈ すいません、そうとは知らずとんだ失礼を」

「あぁいや、いいんだ。見たとこ勝手に商品かじったんだろ? こいつ何かと世間知らずでな、代金は払うから勘弁してやってくれ」


 そう言いながらグリムは銀貨を指で弾いて店主に渡した。


「よしてください。旦那から金なんて受け取れませんよ」

「あんたも商売だろ、それに筋は通すもんだ」

「……そこまで言われちゃあ断れませんね。ただ旦那、これだと払いが多すぎますよ」

「ならもう一つ貰ってく、それでいいか?」

「ええ勿論。――またいらしてくださいね~!」

「おう、邪魔したな~」


 軽く手を振り返しつつグリムが露天の間を進んでいくと、遠慮がちに後ろに付いていたメアが彼の隣にひょひょいと追い付いた。手にしたリンゴは一度かじったままになっている。


「……助かったのじゃ、グリム」

「魔王女様が盗むとはな。ったく、目を離したすきにフラフラいなくなりやがって、元の姿ならこのリンゴをお前の角に突き刺してやるトコだ」


 愚痴るグリムに対して意見はあったものの、軽はずみな行動だったと自覚していたメアは、反論をぐぅっと呑み込んで、代わりに感謝を口にした。


「しかし、本当に助かったのじゃグリム。危うく盗人になってしまうところじゃ」

「……やけに気にするな? 捕まるのがそんなに怖かったか」

「少し違う。コソコソと盗みを働くなど魔族にとっては恥なのじゃよ、知れれば爪弾きとなる恥辱に塗れた卑劣な行いと言える」

「俺たちの理由とは違うが、魔族でも盗みは御法度なのは分かった」


 なんて雑談をしながら露天を見て回っていると、メアが尋ねた。好奇心が先立ってこそいても、初心は忘れていなかったようで、彼女はしっかりと町で暮らす人間達の行動を観察していたのである。


「のうグリムよ。お主も先程の店主に渡しておったが、あの薄い金属はなんなのじゃ? 皆、並んでいる物と交換するように受け渡しておるようじゃが……」

「なにって……金だよ」

「金、とは?」


 再度尋ねるメアを見下ろしながら、グリムは彼女の疑問を理解しようとしていた。質問に答えるためには、相手がなにを聞きたいのかを知る必要があるから逡巡するのも当然であったが、答えよりも先に感想が彼の口から漏れた。


「マジか、そっからか!」

「欲しい物に相当する『金』と交換することで、物品をやりとりしているのじゃろう? 人々の様子からそれくらいは察したのじゃが、一体どういう理屈で成り立っているのかが分からぬのじゃよ」

「それは……」


 と、説明しようとするグリムだが、貨幣は彼が生まれた時からすでにあり、その成り立ちについてまでは彼も知らなかったし、知ろうとした事すらなかった。手元にあれば大抵の問題を解決できる便利かつ必要不可欠なもの、認識としてはその程度なのだ。


「分からぬのか? 人間は日常的に『金』を使っているのじゃろ?」

「言われてみりゃあ、そうだな。考えた事なかった」

「ふぅむ……。まぁ成り立ちについては城の者にでも尋ねるとするのじゃ、騎士団長あたりならば答えを持っていることじゃろう。……? どうしたのじゃグリム」


 話ながら別の疑問が湧いたのか、グリムは片眉を吊り上げていた。


「いや、お前達はどうしてたんだ?」

「と、いうと?」

「メアの感じからすると、魔族に金はないんだろ? じゃあ、欲しいものがあるときはどうするんだよ。例えば、他の奴が美味そうな肉を持ってて、それが欲しいときは」

「妾は城から出たことが無かった故に疎いのじゃが、物々交換が主だったと聞いているのじゃ。それか或いは――……」


 言いさして、メアは口を開けたまま固まった。

 うっかり喋りすぎたと顔に書いてあるので、グリムが先を促す。


「――或いは?」

「……奪うのじゃ」

「だろうな、訊いた俺が馬鹿だった。よくそれで和平交渉進んでるな」

「これまでの要点は、現在西の城壁外で暮らしてる同胞達の処遇に関してが主だったからのう。この先の交渉で出てくる前に知れてよかっ――」


 ぐぅ~、と唐突にメアの腹が鳴り、そこそこ大きめ主張に彼女は顔を赤くした。


「リンゴかじった上に、今度は庶民の飯が知りてえってか」

「う、うるさいのじゃ! 変身魔法は魔力を消費し続けるから仕方がないじゃろ」

「まぁ、俺も腹減ってるし軽く何か喰いに行くか」


 早朝から練兵に出て食事を摂る間もなくメアに付き合っていたため、むしろグリムの方が空腹で、タイミングとしては丁度良かったのだろう。先導する彼の足取りはどことなく軽い。


「付いて来いよ、メア。良い店知ってンだ」


 グリムは首を傾いで促すと、来た道を戻り始めた。


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