プロローグ とある戦士の憂鬱 ★
どうも、お久しぶりです。
ほぼ一年ぶりの更新となりますが、どうぞ楽しんでいってください!
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女は飽いていた。
戦いの中に生まれ落ち、幼き頃から戦いに興じ、戦場の中で暮らしてきた。命のやりとりこそが彼女にとっての日常であり、死が満ちる場で強靱苛烈に生きてきたからこそ、静かに夜空を見上げる口元からは、誰にも聞こえない溜息が漏れる。
女は飽いていた、どうしようもなく。
どれだけ酒を煽ろうとも、いやむしろ呑めば呑むだけ空虚さが増すばかりで、ゆったりと流れていく雲さえも恨めしく思えてしまう。
鎮座する星々、牛歩の月。それらは平穏退屈この上なく、いっその事、猛る嵐のなかにでもいた方が気の紛れることだろうが、そう願ってみたところで世界は穏やかな表情ばかりを彼女に向ける。
女は飽いていた、戦いを愛するが故に。
敵はなくともギラついた眼光。
しかし無情にも、彼女の心が躍るような好敵手はすっかりいなくなってしまった。魔族、人間を問わず幾千と打ち倒してきた先にある頂、他者はそこに絶景を求めるのだろうが、広がる空に虚しさを感じる者もいるということだ。挑み続けてきた者にとっての頂上とはむしろ絶望に近いのかも知れない。いっそ殺風景、彼女にとってはそうだった。そこにある乾きは独りで満たされるものでは決してなく、比肩する者の存在が不可欠だから。
故に彼女は飽いていた。高みへ至った力、その矛先を失って。
その五体に遺った傷痕すべてに意味と歴史があった。血湧き肉躍る闘争の歴史書、文字などでは到底語れない、強者達との邂逅、その記録である。無数の切り傷に刺し傷は、酸いも甘いも呑み込んだ愛しい、愛しい想い出なのだ。
しかし、悲しいかな。もう長いこと彼女に傷を付けた者はいなかった。
亡くした左腕、包帯で覆われた肘の断面が寂しさに疼く。思えばコレが最後であった。愉しかった記憶に想いを馳せ、一つ一つを遡っていく。近頃の愉しみといえば過去に奮えた戦の中に戻るくらいで、そうして時を過ごしていくと、最後には失った右目が猛烈に痛むのだ。
抑えがたい幻肢痛は、身を捩りたくなるような激痛なのに、彼女の右手は一層愛おしそうに眼帯を撫でていた。
最も苦い戦いこそ、愛するに相応しい記憶であるから。
ふと、残された左目が月の中に影を見た。
近づいてくる無音の羽ばたきが、吉報を届けてくれるといいが――




