S・O・S ~僻地からの救難信号~ Part.12 ★
人間一人を城まで飛ばすなんて馬鹿げた発想である。よくいえば画期的で、悪くいうなら馬鹿の思いつきだが、後悔したところで空中に放り投げられた後では既に遅し。カタパルトから放たれた大岩よろしく、グリムは城に取り付いたタコ野郎に向かって飛翔していき、その頭部を蹴飛ばすと壊れた壁を抜けてメアの前へと着地した。
チラと肩越しに様子を窺うかぎり、とりあえず彼女は無事な様子である。
まぁ安堵を隠して強がるくらいだから、無事には違いないだろう。
「……お、遅いぞグリム!」
「やれやれ、助け甲斐がねえなぁ」
文字通り飛んできたのにとグリムは口をひん曲げる。メアと『星渡りの蝗』の間に、しっかりと大剣を挟みながら。そして彼女を気遣いつつも、視線は敵を捉えたままである。
戦闘は継続中なのだ。
「文句なら後で聞いてやる、結界張って頭下げとけ」
「じゃ、じゃが……」
「似た相手にそう何度も苦戦してられるかよ」
言うが早く、タコ野郎に仕掛けていくグリム。
それこそ勢い任せで飛び出んで来たが、別段策があるわけでもなく、なによりも戦う場所が悪い。狭いうえに、城の下には逃げてきた市民と兵士達がいるので、素早い決着が求められていたが、『星渡りの蝗』は当然迎撃を試みる。
動かせる触手を振り回し、先端から光線を発射。頭部に搭載されている機銃も撃ちまくり、とにかくグリムの接近を阻む。手当たり次第に撃ちまくる程度であれば、きっとグリムにとってはカモでしか無かったのだが、狭い室内という条件が彼の攻め手を制限していた。それこそ平原であれば足下に潜り込むことも、背後から仕掛けることも出来たはずで、結果的に正面から当たらざるおえない状況と、メアを背後に置いているという事実がグリムの足枷になっているのは明白だった。
グリムは、何だかんだでメアを庇いながら戦っていた。
彼が攻めあぐねている姿勢はメアからしても明かで、彼女は自らの無力さを噛みしめる。しかし、ふと見えたグリムの背中に窮地の焦りはない。
なるほど、と嘯く彼の口元は意地悪く歪んでいた。
「なるほど、なるほど……。なんか妙だと思ってたんだ。どこで壊したか知らねえが、テメェ、大砲イカれてやがんな?」
グリムとメアが戦った同型の兵器には、口の部分に地形を削ぎ落とす威力を持った大型のレーザー発射口が装備されていて、それは眼前のタコ野郎も同様である。にもかかわらず遠距離からの攻撃を捨て、突撃を敢行しているという事実と、やけにひしゃげたタコ野郎の装甲がダメージ有り様を表わしていた。
当然どれだけ煽ろうとも返事はなかったが、グリムには確信があった。そして一番の脅威がないことが判明すれば、より大胆に攻めることができる訳だ。
だが最大の武器を失っていても、タコ野郎の武装が脅威であることに違いはなく、グリムは仕掛ける直前にメアの方を肩越しにチラと見て、彼女は力強い眼差しでそれに応じる。
「好きに暴れよ、自分の身は自分で守れるのじゃ」
「……なら、遠慮無く!」
言うが早く飛び出したグリムの攻勢は、これまでと異なる勢いである。
魔力の多くを防御に回し、重ねて飛んでくるレーザーを銃弾を、剣と身で受け突撃する様は暴風雨を突き進む軍馬が如し。大砲以外なら耐えきれると判断しての強攻は、然して彼を敵の懐に飛び込ませた。
慌てたタコ野郎の触手がグリムを襲うが、彼の大剣はその爪を易々と弾き上げる。そのおかげで腹がガラ空きだ。
「とりあえずよぉ……、城から出てってもらおうかァ!」
グリムはそう怒鳴るや、タコ野郎の腹に蹴りを見舞う。
不安定な足場から蹴り飛ばされたタコ野郎の巨体は、グリムの大剣にはまっている魔石の力によって重量を軽減され、ボールの様に城の上空を舞ったが飛距離が伸びない。一瞬の接触で弄くるには、相手の重量がかちすぎた。
勢い任せの無策が招いた新たなピンチにメアが慌てる。
「いかん! 街に落ちるぞ、グリム!」
「わぁーってるよ、クソッ!」
蹴り飛ばしたタコ野郎を追ってグリムも玉座の間から跳躍。……したのはいいが、さてどうするか。噴水広場あたりまで蹴飛ばせればよかったが、このままだとタコ野郎は城下町北側に落下するだろう。
――空中でもう一発入れて城壁の外まで運ぶべきか?
なんて虫のいい発想がグリムの頭をよぎったが、飛ばされながら触手を振り回すタコ野郎を狙った方向に蹴るのは至難だろう。解決策はなく、時間はさらに無い。
いっそ落下地点が無人であることを祈る方がマシなように思えた瞬間だった、グリムが目抜き通りを進む人影を捉えたのは。
混沌とした戦場にあって自己主張の激しい桃色の毛皮。あんな姿を見間違うはずが無く、彼はあらん限りの声を張り上げる。
「スカーレットオォォォッ!」
無論、グリムの声が届くより先に、スカーレットは蹴り飛ばされてきた瞬間からタコ野郎の姿を捉えていた。街中に落下することを察したその眼差しには感心やら安堵やらが混ざっていたが、上空からグリムに呼ばれたことで眉根を寄せ、さらに彼の行っているボディランゲージを見つめると牙を剥いて笑う。
せっかくの戦いなのだ。愉しまなければウソである。
「やれやれ、おいしいトコを師匠にくれるなんて、出来た弟子じゃあないか……!」
なんの因果か育てることになった人間の若者。魔族の姫を守るために命さえ投げ出せちまう意地っ張りの愛弟子が手を貸せと呼んでいるのなら、最上に応えてこそ師匠ではあるまいか。
まだ見せていない全力を注ぐためにスカーレットが身体を沈めて戦斧を構えれば、高まった彼女の闘気が周囲の空気を震わせた。
それは味方にとって頼もしく、敵にとっては絶望的な暴力の予兆であり、然して練られたスカーレットの魔力は、戦斧の刃を通して上空の的へと振り抜かれる。
轟ッ……! と唸って放たれた波涛
合わせたグリムの大剣も魔力の刃を纏っており
大上段の構えから彼は中空で身を翻し大剣を振り下ろす
スカーレットの剛力に応じるとなれば、気合いはいつもの倍以上だ
「旋風一閃・葬牙相喰ィッ!」
例えるならば、同時に放たれた二人の技はタコ野郎を喰らう顎の形を成していた。
より破壊力のあるスカーレットの波涛を最大限に活かすべく、迎え撃つように放ったグリムの剣戟が上顎の役割を果たし、正しくタコ野郎を喰らうようにして、交差した波涛がタコ野郎を四つに割ったのである。
だが当然ながら、それだけは済まない。
損傷したタコ野郎の機関部が眩い光を放ったかと思えば、空中で大爆発。それは誰がどう見ても、文句の付けようのない決着の瞬間といえ、爆炎を眺めているスカーレットは僅かにだが満足した様子である。
引き千切られた金属片が石畳を叩く。
気に入らない戦いだったが勝って終われた。
タコ野郎の破片が降り注ぐなかで気持ちを収め、スカーレットはそう思わせた理由――グリム――が落ちてくる様を目で追っていた。
爆発に巻き込まれたらしいグリムは、何かしら叫びながらスカーレットの近くにあった建物に落下。激しい破壊音から察するに屋根をぶち抜いたのだろうが、最後まで見届けたにも関わらず、スカーレットは落ち着き払っていた。
彼女が動かないのは、あれ位なら平気だろうという信頼からであり、そしてそれに応えるように、しばらくの後にグリムが一階のドアを蹴り壊して姿を現わした。
服はぼろぼろ、身体は傷と埃だらけだが、憎らしいほどに無事である。
「フフッ、よくやったね坊や。格好良かったよ」
「…………うるせえな」
「やれやれ、恥ずかしがりめ」
スカーレットの言葉は本心からのものだったが、この様を指して恰好良かったは皮肉にしか聞こえず、グリムは仏頂面で吐き捨てながらコートの汚れを払う。
ぶっちゃけると辛勝だったので、グリムでも喜ぶ気にはなれないようだった。
「んで、増援はあれで終いか?」
「そうみたいだね。ちっこいのも直に片付くだろうさ」
スカーレットはそう嘯きながら旋回しているハーピィたちの信号を確かめるべく視線を空へと向け直し、それから目をギュッと細める。
「……坊や。あそこ、見て御覧」
「あん?」
呼ばれたグリムは、やっぱり増援かと胡乱げな声で返事をしたが、スカーレットが顎でしゃくった方向に目をこらすと、安堵の息をついた。
ずっと遠く、崩れた城の壁から覗く小さな人影が一つ。
玉座の間から望んでいるのは人間を守った魔王女である。
距離があるため彼女の姿は豆粒サイズで、きっとこちらの姿も見えてはいないだろうが、グリムは胸の内には誇らしさが湧いていた。それは、果たしてメアに抱いたものだったのか、或いは自身に向けたものだったのかは定かではない。
ただただ誇らしい、とそう思えたのだ。
不思議なものである。
魔族の王女が人間を守り、彼女を守るために奔走した人間いた。なにもかもあべこべで奇妙奇天烈な戦いは、しかし歴史に刻まれる世紀の戦となるはずだ。そしてこの点に関して、スカーレットも同意見だったらしい。
「坊や」
と呼びかけた彼女が武器を担いだ右手に代わって無くした左腕を差し出すと、グリムはその包帯捲きの上腕部とスカーレットの顔を見遣り、それから拳を合わせた。
二人の戦士が並んで城を見上げる静かなる勝ち名乗りは、よほど様になったという。
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