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魔王女さまのレコンキスタ 〜勇者と魔王は並び立ち〜  作者: 空戸之間
第二話 魔王女さまと緋色戦姫
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S・O・S ~僻地からの救難信号~ Part.8

 城へと逃げ込む市民の姿はすでにまばら、大半が逃げ終えたあとなのだろうか。そして城門へ続く跳ね橋の正面で前線指揮を執っているのは……、あれはフェリシアとガロウである。


「絶対に抜かせるな! 総員、持ち場を死守せよ!」


 フェリシアが檄を飛ばすと、「応」の声が勇ましく響く。

 その周りで戦っている獣魔たちも似たような状況だった。


「キリがねえぜ、ガロウの兄貴!」

「馬鹿野郎、喋ってねえで手ぇ動かしやがれ! 姫さんがじきに戻ってくるぞ!」


 ガロウが吼えたまさにその時、目抜き通りを突進してくる一台の馬車があった。それだけで、彼らにとっては充分で、ガロウはもう一度吠え立てる。


「姫さんが来たか! 道を作るぞ、野郎共ッ!」


 号令を受けて飛び出した獣魔たちが無理やりに鉄虫を蹴散らすと、開かれた花道をペルシュの馬車が駆け抜ける。荷台のメアはガロウと、そしてフェリシアと一瞬だけ視線を交すと、跳ね橋を越えて中庭へと至り、馬車が止まるなり飛び降りる。


「皆よく頑張ったのう、もう安全じゃ。――誰か、子供達を!」


 メアが呼びかけると数名の兵士達が駆けてきて、子供達とシスターを城内へと連れて行った。


「ペルシュもご苦労、助かったのじゃ」

「お姫様がご無事でなによりです」


 束の間の安堵。しかし話ながらペルシュが馬車の留め具を外していると、二人の頭上から声が聞こえてくる。メアの姿を見て文字通り飛んできたのは、テューレであった。


「あぁよかった! メアちゃん無事だったのね!」

「互いにじゃ。アヴァロン王は無事か? それから状況は?」

「王様は無事よ。調査記録を報告してる時にミサイルが着弾したけど、被害はなかったから。でも状況はかなり悪いわ、城下町に打ち込まれた自立兵器がお城へ向かってきてる。今のところ水際で防いではいるけど、侵入されるのは時間の問題よ」

「それをさせぬ為に妾がいる。急がねば」


 メアが次の行動を決めると、ちょうど馬車から解放されたペルシュが姿勢を正して口を開く。彼女もまた、次に自分が何をするべきなのか理解しているようだった。


「ではお姫様、わたしは戦いに戻り時間を稼いできます」

「任せた、くれぐれも気をつけるのじゃぞ。獄炎の帳を下ろすから気をつけろと、外の皆にも伝えてくれ」

「分かりました、先輩に伝えておきます」


 ガシャリと鎧を鳴らすと、ペルシュは踵を返して城壁の外へと向かっていく。その雄姿を見届けたいメアであったが、彼女も同じく踵を返して城の中へ。避難民でごった返すエントランスを抜けて廊下をひた走る。複雑な内部構造も日常生活の中で自然と頭に入っており、玉座の間まで迷うことはなかった。


「アヴァロン王よ、失礼する! 城を守るためこの場を――」


 玉座の間の大扉を勢いよく開けたメアだったが、その意気が困惑に変わる。外の騒がしさから距離があるとはいえ、あまりにも静かで、無人の部屋にはメアの声が反響する。


「……王は何処じゃ⁈ 何故誰もおらぬ⁈」

「そういえば、近衛兵も見なかったわね。メアちゃん、もしかして……」


 それは充分あり得る話ではあったが、メアは頭を振って沸き立つ感情を宥める。居ない者に怒るより、居る者を守護(まも)る。そのためにすべきなのは行動だ。そう思えば、無人であることはむしろ幸いと言えた。


「……構うなテューレ。いっそ都合がよい。許しを乞う手間が省けるじゃろ」


 それでもテューレはまだ不満そうだった。この憤りを、いっそ魔王女の分までぶちまけてやりたいが、いまは何より時間が惜しいのもまた事実なので、彼女は空の玉座を睨みながらも、一切合切を腹に収める。

 と、静かに魔力を練りはじめていたメアが、瞼を閉じながら彼女を呼んだ。


「テューレよ、一つ頼まれてくれるか」

「もちろんよ! 何だって手伝うわ!」


 非力故に、戦闘が始まってしまえば戦力外であることをテューレは痛いほど自覚していた。腕力は言うに及ばず、扱える補助系の魔法にしたって『星渡りの(ローカスト)』の自立兵器には無力。しかし、まだ幼い魔族の少女が人間の為に力を振るおうとし、その助けになるのであれば微力であろうと協力を惜しまない。


 だからこそ、テューレの返事は力強かったのだ。


「何をすればいいの、メアちゃん」

「妾はこれから、城を覆うように獄炎の天蓋と幕を張る。鉄虫程度であれば、これで防げるはずじゃ。しかし玉座の(ここ)からではどの程度まで覆えているかが見えぬし、感覚で幕を下ろしては味方を巻き込みかねん。……グリムから聞いたのじゃが、お主は離れていても声が聞こえる特別な魔法を扱えるとか」

「《伝心(コネクト)》ね。ええ、使えるわ。それで誘導すればいいのね? でもこの魔法で送れる声はわたしからの一方通行で、メアちゃんからの音声はわたしに届かないから注意して」

「それで充分じゃ、頼めるか」

「任せて頂戴! しっかり誘導してみせるから!」


 《伝心》を掛けること自体は容易いのに、まさしく我が身を賭しているメアを報いようとしてか、自然とテューレの身にも力が入っていた。


《どう、メアちゃん。聞こえる?》


 頭の中で声が響き、メアの眉がぴくりと跳ねた。


「うむ、確かに聞こえる。なんだか不思議な感覚じゃな、これは」

《最初は違和感あるかもしれないけど、徐々に慣れるはずよ。それじゃあ、行ってくるわね》


 メアの首肯に送り出されてテューレは廊下へと飛び去り、空いている窓を見つけるとそのまま城の上空へ出た。



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