S・O・S ~僻地からの救難信号~ Part.8
城へと逃げ込む市民の姿はすでにまばら、大半が逃げ終えたあとなのだろうか。そして城門へ続く跳ね橋の正面で前線指揮を執っているのは……、あれはフェリシアとガロウである。
「絶対に抜かせるな! 総員、持ち場を死守せよ!」
フェリシアが檄を飛ばすと、「応」の声が勇ましく響く。
その周りで戦っている獣魔たちも似たような状況だった。
「キリがねえぜ、ガロウの兄貴!」
「馬鹿野郎、喋ってねえで手ぇ動かしやがれ! 姫さんがじきに戻ってくるぞ!」
ガロウが吼えたまさにその時、目抜き通りを突進してくる一台の馬車があった。それだけで、彼らにとっては充分で、ガロウはもう一度吠え立てる。
「姫さんが来たか! 道を作るぞ、野郎共ッ!」
号令を受けて飛び出した獣魔たちが無理やりに鉄虫を蹴散らすと、開かれた花道をペルシュの馬車が駆け抜ける。荷台のメアはガロウと、そしてフェリシアと一瞬だけ視線を交すと、跳ね橋を越えて中庭へと至り、馬車が止まるなり飛び降りる。
「皆よく頑張ったのう、もう安全じゃ。――誰か、子供達を!」
メアが呼びかけると数名の兵士達が駆けてきて、子供達とシスターを城内へと連れて行った。
「ペルシュもご苦労、助かったのじゃ」
「お姫様がご無事でなによりです」
束の間の安堵。しかし話ながらペルシュが馬車の留め具を外していると、二人の頭上から声が聞こえてくる。メアの姿を見て文字通り飛んできたのは、テューレであった。
「あぁよかった! メアちゃん無事だったのね!」
「互いにじゃ。アヴァロン王は無事か? それから状況は?」
「王様は無事よ。調査記録を報告してる時にミサイルが着弾したけど、被害はなかったから。でも状況はかなり悪いわ、城下町に打ち込まれた自立兵器がお城へ向かってきてる。今のところ水際で防いではいるけど、侵入されるのは時間の問題よ」
「それをさせぬ為に妾がいる。急がねば」
メアが次の行動を決めると、ちょうど馬車から解放されたペルシュが姿勢を正して口を開く。彼女もまた、次に自分が何をするべきなのか理解しているようだった。
「ではお姫様、わたしは戦いに戻り時間を稼いできます」
「任せた、くれぐれも気をつけるのじゃぞ。獄炎の帳を下ろすから気をつけろと、外の皆にも伝えてくれ」
「分かりました、先輩に伝えておきます」
ガシャリと鎧を鳴らすと、ペルシュは踵を返して城壁の外へと向かっていく。その雄姿を見届けたいメアであったが、彼女も同じく踵を返して城の中へ。避難民でごった返すエントランスを抜けて廊下をひた走る。複雑な内部構造も日常生活の中で自然と頭に入っており、玉座の間まで迷うことはなかった。
「アヴァロン王よ、失礼する! 城を守るためこの場を――」
玉座の間の大扉を勢いよく開けたメアだったが、その意気が困惑に変わる。外の騒がしさから距離があるとはいえ、あまりにも静かで、無人の部屋にはメアの声が反響する。
「……王は何処じゃ⁈ 何故誰もおらぬ⁈」
「そういえば、近衛兵も見なかったわね。メアちゃん、もしかして……」
それは充分あり得る話ではあったが、メアは頭を振って沸き立つ感情を宥める。居ない者に怒るより、居る者を守護る。そのためにすべきなのは行動だ。そう思えば、無人であることはむしろ幸いと言えた。
「……構うなテューレ。いっそ都合がよい。許しを乞う手間が省けるじゃろ」
それでもテューレはまだ不満そうだった。この憤りを、いっそ魔王女の分までぶちまけてやりたいが、いまは何より時間が惜しいのもまた事実なので、彼女は空の玉座を睨みながらも、一切合切を腹に収める。
と、静かに魔力を練りはじめていたメアが、瞼を閉じながら彼女を呼んだ。
「テューレよ、一つ頼まれてくれるか」
「もちろんよ! 何だって手伝うわ!」
非力故に、戦闘が始まってしまえば戦力外であることをテューレは痛いほど自覚していた。腕力は言うに及ばず、扱える補助系の魔法にしたって『星渡りの蝗』の自立兵器には無力。しかし、まだ幼い魔族の少女が人間の為に力を振るおうとし、その助けになるのであれば微力であろうと協力を惜しまない。
だからこそ、テューレの返事は力強かったのだ。
「何をすればいいの、メアちゃん」
「妾はこれから、城を覆うように獄炎の天蓋と幕を張る。鉄虫程度であれば、これで防げるはずじゃ。しかし玉座の間からではどの程度まで覆えているかが見えぬし、感覚で幕を下ろしては味方を巻き込みかねん。……グリムから聞いたのじゃが、お主は離れていても声が聞こえる特別な魔法を扱えるとか」
「《伝心》ね。ええ、使えるわ。それで誘導すればいいのね? でもこの魔法で送れる声はわたしからの一方通行で、メアちゃんからの音声はわたしに届かないから注意して」
「それで充分じゃ、頼めるか」
「任せて頂戴! しっかり誘導してみせるから!」
《伝心》を掛けること自体は容易いのに、まさしく我が身を賭しているメアを報いようとしてか、自然とテューレの身にも力が入っていた。
《どう、メアちゃん。聞こえる?》
頭の中で声が響き、メアの眉がぴくりと跳ねた。
「うむ、確かに聞こえる。なんだか不思議な感覚じゃな、これは」
《最初は違和感あるかもしれないけど、徐々に慣れるはずよ。それじゃあ、行ってくるわね》
メアの首肯に送り出されてテューレは廊下へと飛び去り、空いている窓を見つけるとそのまま城の上空へ出た。




