反省しなさい、執事ゴドー!
ケネプは大好きな映画館に今日も来ていた。執事のゴドーも同伴だ。ゴドーは映画に興味がなく、最後まで起きていられることは稀だった。そのせいで映画終わりの感想の言い合いができず、ケネプからいつも文句をいわれていた。
今日見る映画は「妖精と妖星」というタイトルだ。二人はドリンクを買い、スクリーンのある部屋に入場した。席につくと、ケネプがゴドーにいった。
「ゴドー、今日は寝ないって約束してね」
CMが終わり、映画が始まった。ゴドーの隣のケネプは、映画に夢中だ。映画のことになるとすごい集中力なのだ。
スクリーン上では、妖精が夜空を見上げるシーンが流れている。キラッと一瞬光った星が、地に向かって落ちていった。
「妖星だ。凶事でも起きるのか」
妖精が不吉の象徴である妖星を見て呟いた。それを見たケネプが、「ただの流れ星じゃない?」とゴドーに話しかける。普段なら一言も喋らないケネプが突然話しかけてきたので、ゴドーは少し驚いた。
その後もケネプは、しがない感想をゴドーに述べていた。ゴドーは、今日はいつになく喋るんだな、と思った。
上映から一時間程経ったあたりで、ゴドーを睡魔が襲った。
「ゴドー、今日は寝ないって約束してね」気づくと、隣のケネプが話しかけてきていた。
「すみません。私今日も寝てしまいました」ゴドーは小声で謝った。
「は? 何いってるの? 寝た? 映画は今から見るんでしょ?」
「え?」
ゴドーはケネプのいっている意味がわからなかった。映画の途中で寝てしまったはずなのに、なぜかスクリーンには上映前のCMが流れている。周りの客も入れ替わっていないし、半分ほど飲んだドリンクも満杯になっている。
まさかと思いゴドーは自分の腕時計を確認してみた。すると、映画が始まる少し前の時刻を指している。
「いや、ありえない……。タイムリープなんて……」ゴドーは映画館の外に出ようとした。
「どうしたの、ゴドー? もう始まるから座って!」ケネプがゴドーの腕を掴む。
本当にタイムリープしたのかを確かめるために外に出るつもりが、ケネプに止められてしまった。すぐに映画が始まった。
妖星のシーンがやってきた。
「妖星だ」妖精が呟いた。同時にケネプも話しかけてくる。「ただの流れ星じゃない?」
その後もケネプは一回目と同じ場面で、同じ台詞をゴドーに向けてきた。
ゴドーは自分がタイムリープしたことを確信した。まず周りの客が変わっていないのはおかしい。もしこれが今日の二回目の上映だとしたら、ここにいる客は同じ映画を二回続けて見ていることになる。それに、腕時計の指す時刻や、満杯になっているドリンクもタイムリープの根拠といえる。
現状を整理したゴドーは、今度は何が原因でタイムリープが起こったのかを考えようとした。だが上映から一時間程が経過したところで、またも眠気がゴドーを襲った。
「ゴドー、今日は寝ないって約束してね」隣の席のケネプが話しかけてくる。
「え? まさか、また……」
スクリーンには見覚えのあるCMが流れている。
「なんでだ。なんでまた戻った」ゴドーは頭を抱え、困惑した表情でいった。
「どうしたの? 何が戻ったかは知らないけど、とにかく座って! 始まるから」
ケネプに座らされ、映画を見始めるゴドー。
「妖星だ」妖精が不吉の象徴である妖星を見て呟いた。
ゴドーは、繰り返し見た映画の、この先妖精に降りかかる凶事を思い出した。
「この後不幸なことが連続して起こるんだ。最後は仲間から裏切られて総攻撃を受けて死ぬんだ」
だがこの映画の尺は一時間半だ。ゴドーは一時間でタイムリープしているため、残りの三十分を知らない。
死んだと思われた妖精は、ラストシーンで生き返った。その一度殺された妖精に、仲間だった妖精たちの長がいう。
「君には反省が足りなかったんだ。みんなの怒りを収めるためにも、やむを得ず一度死んでもらった。だがもうあんなことをしないと誓えるなら、許そう」
「バッドエンドに近い終わり方でしたけど、面白かったですね」映画館を出て、ゴドーはケネプに感想をいう。
「でしょでしょ! ゴドーはいつも大事なところで寝ちゃうから映画が面白くないのよ! 今日はそれをわからせるためにわざわざ面倒な仕掛けをしたのよ!」
「え? 仕掛け?」
「あなたが体験したタイムリープは、私が仕掛けた疑似タイムリープなのよ」
ケネプはゴドーに仕掛けの内容を説明した。睡眠薬でゴドーを眠らせたこと、仕掛け人を周りに配備させたこと、ゴドーが寝たら映画を巻き戻すこと、時計の針をいじったことなどを。
「ゴドーには反省が足りなかったのよ。あたしの怒りを収めるためにも、やむを得ず疑似タイムリープさせてもらったわ!」
「してやられました。もう二度と上映中に寝たりしませんので、許してもらえませんか?」
「今から見る『マジプリレンジャー』を寝ないで鑑賞すると誓えるなら、許してもいいぞ!」
おわり