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姉なのだからと言われるので

作者: 蒼鉛

「お姉様、そのイヤリングとても素敵! 次の夜会のドレスと合わせたいわ! 貸して下さい!」

「嫌よ」

「意地悪言わないで貸して上げなさい。姉なのだから妹に優しくして」


 似たような会話を何回したか分からない。三桁にのぼるのは間違いない。

 快く貸していたのが渋々になり、現在の拒絶になったのは貸した物を自主的に返してもらったことがないからだ。催促しても理由にならない理由を付けて返さない。しかもそれを両親が擁護する。


 なので

「借りパク妹に空き巣姉とか、世も末だわ」

 妹が留守の間に自主回収を行うのだ。


 幸いにも妹の趣味には共感しないので、妹の物を盗んだことはない。最近は回収後に使う気にならず、使用人に下げ渡したり現金に代えている。


 一連のことは執事は勿論、妹のメイドも知っているが両親や妹にどう話しているかは知らない。


「今回のイヤリングは婚約者様からのプレゼントだから売れないわね」


 婚約者に着けてた姿を見せる義務があるし、万が一を考えて保管するのがいいだろう。




 話は変わるが、両親について話したいと思う。

 母は三兄弟で、長男、長女、次女で末っ子の母となる。‥‥勘のいい人は予測がつくかも知れない。

 長女の婚約者を寝取ったのが母で、欲望に負けたのが父である。真実の愛とか流行ってたらしい。嫌な流行である。


 その話しを母方の祖父の葬儀で聞いたのだ。寝取られ被害者本人から。

 私たち家族の様子を見て危機感を覚えたらしい。一人だけ毛色が違う子は自分と似た立場なのでは? と。


 伯母は母の小さい頃から寝取られ騒動まで話してくれたが、‥‥妹とそっくりである。イデンコワイ。


 母は伯母のことを口煩く意地悪で、優しいお姉さんに憧れたと言っていた。血が繋がっているとはいえ加害者の子供に親身になって「何かあれば家に逃げて来なさい」と言える人が意地悪はないな。聖人の間違いでしょ。




 そんな両親とお花畑サラブレッドの妹なので、同じことになっても不思議はない。


「お姉様、来週の夜会は欠席よね? それなら‥‥」

「嫌」

「まだ言ってないのにヒドイ!」

「私の婚約者にエスコートして欲しいのでしょう? お断りよ」


 最近はコレである。両親のやらかしで親戚とは薄い付き合いだからエスコート役に難儀するのは分かる。だからと言って姉の婚約者に何度も頼むのはどうなの? 母と二人で堂々と婚活して来なさい。


「お姉様が嫌がっても了承してもらってますから!」

「‥‥随分と勝手ね。婚活するのに姉の婚約者に色目使うとか神経疑うわ。そんなだから相手が見つからないのよ」

「お姉様ヒドイ! 爵位が付いてくるお姉様より私の方が厳しいのだから仕方ないじゃない」


 そうなのよね。親の因果が子に報いということなのか、まともな家は相手にしてくれない。私の婚約者も成金男爵の三男なのよ。


「あら、可愛いから公爵や王族に見初められるかも! と騒いでいたのは誰よ」

「だって、皆んな家名を聞くと目を反らすのよ! 話しかけられても休憩しようとか、愛人になれとかばかりで‥‥。良くて第三夫人の誘いなんてヒドイわ‥‥」


 確かにヒドイ。でも

「他人の婚約者に色目を使う理由にはならないわ」

「‥‥それは、ゴメンナサイ。だって‥‥」

「だって?」

「手が届きそうな人の中で一番顔が好みなんだもの! 処女くらい好きな人に捧げたいの!」


 未婚で処女を捧げては行けません。ワンアウト。

 好みなのは顔だけ。ツーアウト。

 姉の婚約者なのは無視。スリーアウトチェンジ!


 ここまで来ると笑える。確かに婚約者様はイケメンなのよね。私の好みではないけど。




 と言う訳で

「爵位が手に入れば結婚相手は妹でもいいでしょう?」

「‥‥うん、まぁいいよ。家内の把握に力を入れる必要があるけど、逆に言えばそれだけの差だしね」


 はい、失礼! イケメンだけど毒舌な婚約者だなぁ。

 どう転んでもいいように立ち回ってたのは知ってますよ。


「ありがとう。では話を進めるわね」

「いいけど、君はどうするの?」

「あら、心配してくれるの?」

「つまらないことで恨まれるのは嫌だからね。可能性の芽は摘んどかないと」


 怖い怖い。人間は変わるから用心するのは分かるけど。

「伯母の世話になるから物理的に遠いわよ。安心でしょう」

「辺境か、確かに遠いな」

「妹と両親には言わないでね」

「分かってる」




 身辺整理now。心が軽くて空も飛べるかと錯覚しそう。世界がワントーン明るくなりました!


「勝手に家を出るなんて、どれだけ親不孝か分からないの! 育ててもらった恩も感じないような性格だから捨てられるのよ!」


 BGMが汚ないのも気にならない。自慢の美貌が凄いことになってますよお母様。


「小さな頃から反抗的な目をして、何か気に入らないの! 可愛げのない! 姉が妹に優しくするのは当たり前よ! それをいつまで経っても理解できないで!」


 反抗ポイント分かってるじゃん。笑える。


「あなたの所為で家の空気が悪いことにも気付かないで! どれだけ鈍感なの? あなたなんていらない、出て行って‼︎」


 出て行きます。意見一致。

 あぁ、でも最後だしな、言うだけ言っとくかぁ。


「確かに、私はお母様の理想通りの子供ではありませんでした。

 でも、お母様も母親失格ですよ。母親なのに子供を愛さない。愛せなくとも愛してる振りすらしない。姉妹に格差をつけて更に広げる。

 妹は可愛がってますけど、それも妹の為になっているかどうか」


 お母様、顔真っ赤ですよ。怒りで言葉も出ないようで。


「子も母も失格で丁度よかったですね」


 大きく腕を振りかぶったぁ‼︎

 そんなテレホンパンチならぬテレホンビンタは避けます。


 ゴンッ


 勢い余って床に倒れました。音からして頭を打ったのか?


「誰か、お医者様を呼んで」




 そんなこんなで出立の日。


「お姉様‥‥」


 しょげた様子の妹はレアだわ。

 BGMヒステリックババアが堪えたらしい。妹には良い母ムーブしてたからね。


「本当に行くの?」

「行くわ」


 理由はともあれ、妹に別れを惜しまれるとは思わなかった。


「これからどうすればいいの‥‥」


 家庭内サンドバッグがなくなるのは不安でしょうね。


「旦那になる人を頼りなさい」


 いいように処理してくれるはず。自分が処理されないように気をつけて。


 そうだ、妹に前から聞きたかったことがある。

「あなた、私の物をよく借りていたじゃない? 似合うと思って借りていたの?」


 私は長身で好むのはブルーとか寒色、妹は低身長で似合うのは淡いパステルカラー。趣味も合わないし、本当に共通点のない姉妹なのよね。


「似合うと思ったならセンスがないし、そうじゃないなら意地が悪いか頭が悪いと思ってたのよ」

「‥‥最後にそんなことを言うお姉様は、意地悪です」


 ふふっ。妹のことは不思議と嫌いじゃないのよね。愛嬌は大事。


「お母様に、愛されなかったことは恨んでないと伝えて。お父様には、愛人が何人いるか知らないけれど子供の養育だけはしっかりしろと言って」

「うぇええぇ‥‥マジでぇ」

「じゃあね♪」


 後は野となれ山となれ。

 真実の愛で結ばれた夫婦には、必ず愛人と隠し子がいるのよ。本当に笑える。

登場人物に名前がない話を最後まで読んでいただき有難うございます。

星はいくつでも、付けてくれる優しさが嬉しいです。


ドアマット系の話に対する疑問を詰めた込んだので、不快に思ったら申し訳ありません。完全な自己満足小説? です。

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― 新着の感想 ―
成人のような伯母がいてよかった。 卑屈にならず自己分析をできたからより良い道を選べたのでしょうね。 妹はすこーしばかり家庭の現実に気が付いたかな?理解までは難しそうですが。お婿さんに乗っ取られる道しか…
多分母親と伯母もこんなノリだったんでしょう
テンポ良く読めて面白かったです。 お姉さんすごい!普通に考えるならドアマットなのに悲壮感がない。鮮やかに自分を守っていて小気味良かったです。おばさまの所で幸せになって欲しい。 おばさまはかえってこんな…
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