閑話 第2回 消された記憶
私はある日、自分の妻と一緒に森を散歩していた。
するとスキルに反応した気配があることに気づいた。
あわててその場に行くとそこには、一人の人族の赤子が捨てられていた。
私はすぐに育てることを決めた。
そしてその場で、妻とどのように育てるかを話し合っていた。するとその時だ。
一匹のグランドグリズリーが現れた。
私は何の苦労もせずグランドグリズリーの首を切り落とした。だがあることに気づいた。
グランドグリズリーの首を落とす瞬間を赤子が見ておったのだ。
私はこの子にトラウマを刻んでしまったかもしれないと思うと体から血の気が引いた。いや違う。
私が恐怖を覚えたのはそのことではない。
グランドグリズリーの首を見た赤子の表情は、『笑顔』だったのだ。私は心底恐怖した。
赤子は笑っていたのだ、一つの命が失われる瞬間を、地面に溢れる血だまりを、目の前の赤子はとても愉快そうに笑うのだ。それはまるでおもちゃで遊ぶ赤子のようだった、それはまるで命をもてあそぶ死神のようだった。
これはその赤子が十歳の時もだった。その日は珍しく戦闘訓練に魔物が乱入してきた。
私はいい機会だと思い命を奪うということがどういうことか学ばせようとその赤子に魔物を殺させてみた。
彼女は重力魔法を使ったのか魔物はつぶれ見るも無残になっていた。
次の瞬間彼女は妻に抱き着いていた。
とても怖かったのだろうとわしが思っていたら、見えたのだ、彼女の横顔が。
その横顔は『笑顔』だったのだ。子が親に守られていることを感じ見せる無邪気な笑みではなく、とても禍々しい口が裂けるような狂人の笑みだった。私は恐怖した。
彼は恐怖した。だがその記憶は彼にはもうない。なぜなら彼の目の前の怪物が消してしまったから。