貴方を愛しています(仮)!
息抜きに書いたコメディです、よろしくお願いします。
「わたくしは、貴殿、フィリス・アルガリテ様をお慕いしておりますわ」
「……あ、貴方が優勝です!!」
これはとあるパーティーのイベントにて起きた出来事である。
今はそう、フィリス・アルガリテ様主催のパーティーであり、その途中『どれだけフィリス様に愛しているか』を伝えるという意味のわからないイベントが唐突に開かれる事となった。
そしてなんと、私が優勝するという、これまた意味のわからない事件が発生したのだ。
イベントの授与が行われ、そしてお嬢様方からは憎むような視線を、他の方々からは微笑ましい視線を頂いたのちに私はフィリス様をテラスに招いて尋ねていた。
「………これは、そういうイベントと把握しておりましたが」
「しかし、私は今日招いたお嬢様方全員が私の事を好いていると把握しております」
「…………は、」
確かに、この目の前にいる男は誰もが羨む美丈夫ではある。
アクアブルーの澄んだ瞳はまるで宝石のように光り輝き、スッと通る鼻は作り込まれた彫刻のように高く、その薄い唇が生み出すのは天使の微笑みだと、友人に何度も力説をされている。ついでに白銀に輝く美しい髪を緩く1つに結び、水が流れるかのように肩から腰までするするのつやつやだ。
本当、どう扱ったらあんなんになるのかと最早恨めしいほどではある。
しかし、それだけで女皆んなが好くと思っているのであれば大きな間違いだ!
さも当たり前のように『今日招いたお嬢様方全員が私の事を好いていると把握しております』なんて言っておりますが、私はカケラも好いておりませんけど!
と、声を大にして言ってやりたいくらいに。
だが、今現状彼からは非常に熱い視線を向けられ、両親にはいつ挨拶に行けば良いのでしょうかと尋ねられている。
どうしてこうなった。
私は流れる冷や汗を無視して、自分がいかに冷静であるかを頭で考えた。いや、無理か。そもそもこの様な形の追い詰められ方をした事がないため処理に困っている。
私は伯爵家の次女であり、彼は伯爵家の嫡男であるので身分的に全く問題ないという事も、今に関しては言えば大変問題であった。
しかも彼は私が自分を好いていると勘違いを……。
そうだ。まずはそこをお伝えしなければいけない。
「ああ、アルガリテ様」
「フェリスと、呼んでくださいませんか」
「……フェリス様」
「なんでしょうかリアーティ嬢」
「あっとその………」
言いづらい。
先ほどから少しずつ近づいてくるなとは思っていたが、今は既に柵とフェリス様の腕で監禁状態にされている。
近い近い、いい匂いするし。こんな綺麗な顔で迫られるなど人生で経験出来るなんて今日は運が良いのではーなんて頭が考え始めている。
いやだめだ。
こんな綺麗な方と婚約などという話になったら私は彼のファンからボコボコにされてボロ雑巾となって捨てられる事が目に見える。
意を決して私は勢いよく口を開いた。
「わ、わたくしは、貴方の事をぉ!?」
急に口が開かなくなったかと思えば彼の口が私の口を塞いでいる事が分かった。
数秒後に離れるも、すぐにより深く口づけをされ、私は腰から力が入らなくなってしまう。
やばい、美丈夫からあんなベテランのキスされたら全く太刀打ちできないじゃないか。
腰を抜かした私を彼は支える様にして持ち上げると、ゆっくりとフロアへと戻っていく。
いけない、こんな所を他の人に見られる訳にはいかない。こんなのもう、確実に言い逃れができないではないか。
私からテラスに誘ったのちに私がこんな茹でダコ状態で登場なんて『ちょっと遊んでおりました』と言っているのと同じである。
しかもこんなにがっしりと腰を掴まれて密着されているのだから、この後もしかして何かあるのかもと予想まで立てられてしまう可能性だってあるのだ。
「ちょっと、フィリス様!」
「……ふふ、リアーティ嬢。愛しております」
「………!」
耳元で彼が囁くと、私は体中の熱が頭に集中してなにも考えられなくなってしまった。
そしてまんまと皆の前にこの状態を見せびらかす事となってしまったのである。
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さて、これは私が自分自身でも意味がわらないと思うイベントを開く1年ほど前の事だ。
パーティーで自分の連れが転んでしまった事があった。
自分は側にいたわけではなく、それが自分のファンが連れに仕組んだ虐めだと言う事も、周りを見渡してすぐ判断がつく。
あれほど煌びやかな衣装を纏い、素晴らしい化粧を施したところで貴族の女性は皆汚い人物だと理解はしていたが、その日も連れが転んだ段階で、連れをくすくすと笑いながら私に話しかけてくる女性を『よく、笑いながら私に話しかけられるものだ。』と、冷めた目で見ていた。
そんな時だった。
「大丈夫ですの?」
連れに対して手を差し出して立ち上がらせた女性が居た。更に連れを椅子に連れて行き、飲み物を差し出して私に話しかけていたのだ。
「急に話かけて申し訳ございません。貴方のパートナーが足を挫いてしまったみたいですわ。早く帰って差し上げたほうが良いかと思います」
そう言い、連れの場所を指し示すと彼女はすぐに立ち去っていった。
まるで私の対応が悪かったとでも言う様な目線が私を突き刺して離さない、この感情に名前を付けるとしたら恋だろうとすぐに分かった。
「おい、俺を放っておいてどこ行ってたんだ。お陰でお前のファンに転ばされたわ」
「エディ、恋をしたかもしれない!」
「はぁ!?」
毎回お相手を選ぶ事が面倒だった私は、幼なじみの侍従を女装させて今回のパーティーにやってきていた。
だから、連れがどれだけ転ばされようが別に問題ではなく(寧ろ男なのだから女に転ばされる方が悪い)、むしろ女性にそのような事が無いようにという配慮であったために彼を連れにして正解だったと思っていた位だ。
それなのに、その連れを気遣い、さらに私にあのような視線を送ってくる令嬢がいるなどと。私は長い間節穴の目を持っていたらしい。
しかし彼女はなかなかに難易度が高そうな女性だった。
常に誰に対しても同じ態度でどれだけ顔が良い男に迫られていても微動だにしていない。
そして感じてしまう。やはり彼女は数多くの顔が良い男どもに狙われているという事実。
調べさせた所、4箇所から婚約の申し出が来ているらしく、ダンスの申し込みは常に埋まっている。
これでは普通にアタックをしたところで自分もあの中に留まるだけだ。
こうして、私は様々な準備と手順を踏み、最終的に意味のわからないイベントを開いてまで彼女を手に入れたのだった。
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おまけ
「わたくし婚約のお話がそんなに来ていたのですか?」
「……伯爵が止めていたらしいけどね」
「ダンスも、その、ダイエットの一環で断らなかっただけでして」
「誰と踊ったか考えていなかったの?」
「あんなに密着するのですから、考え始めたら恥ずかしいじゃありませんか」
「なるほど、では今後は私としか踊らないから、毎回私の事だけをしっかりと考えて踊るように。分かった?」
「な、なんでこうなったのかしら……」
なんでこんなイベントにしたのかなんて、意味はない!!
お読みいただきありがとうございます!