透明な会話の彩度を上げてみた
ただの思い付きだす。特に凝ったわけでもないけど良かったらどうぞ!
友達は貴方の言葉をどう受け取っているのでしょうね。
視点A
視点B
超時空時間軸的事故
の三本です。
なんてことない会話
「……なぁなぁ」
「…どうしたの?」
「この俳優かっこいいよね」
「あー……かっこいいんじゃない?今流行りのイケメンって感じで」
「何その微妙な反応」
「…ごめん」
「そういう所だよねぇー」
「……今度の日曜日休みだったよね。どっか行く予定ないの?」
「行かなーい」
「そっか」
視点A
「……なぁなぁ」
僕の右隣から発せられた声の主は、最近買った新品の人をだめにするアレにうつぶせになり携帯を触りながら特に目線を向ける訳でもなく問いかけてきた。
対する僕は、適当に取り出した椅子に座り、窓際から覗く太陽に照らされながら読書に興じていた。
先ほどまでの労働に対する適切な対価と言えば大仰に聞こえるが、時計の秒針の音すらも新鮮に聞こえるこの部屋では、十分心安らぐ時間に違いない。
そんな静寂を打ち破るような問いかけに、こちらも本から目線を外さずに答えた。
「…どうしたの?」
こんな時の問いかけは大体些細なことなのが鉄板だ。
ゆさゆさと左右に揺れながら彼女はこう切り出した。
「この俳優かっこいいよね」
なんというか、答えようのない質問だよなぁ。
というのが正直な感想だったが、一度本から目を離して彼女へ目を移すと、自分の目に入りやすいように精一杯手を伸ばしながら、携帯の画面を向ける彼女の姿が映る。
それから画面に目を移すとなるほど、一言で表すならかっこいいという文字がぴったりな俳優だ。
ミドルな髪形にパーマをかけ、目にかかるかどうか位の前髪でシンプルなファッション。
それよりも気になるのは、先ほどからプルプルと震えている彼女だ。
うつ伏せからこちらの目線に合わせるべく伸ばされた手は非常にキツそうな体勢らしく目を瞑ったまま維持する姿は控えめにいって愛らしい。
そればかりに目が行って中々件の俳優に目がいかなかった僕は
「あー……かっこいいんじゃない?今流行りのイケメンって感じで」
その言葉と共に一気にパタン…とうつ伏せに戻った彼女は顔だけをこちらに向けてむくれた。
「何その微妙な反応」
不服そうにこちらを見られるが、原因が「君を見ていた」なんて絶対に言えない僕はちょっとバツが悪そうに。
「…ごめん」
そう答えるしか無かった。
そんな心情を察したか否か彼女はポツリと
「そういう所だよねぇー」
と言って再び画面を見る作業に戻ってしまった。
不機嫌にさせてしまったのだろうか。なんて不安は無いがなんとなく間の悪い沈黙に思案する。
……そういえば今週の日曜日彼女は休みだったはずだ。
確か、昔馴染みで同じ職場の保育士にしておくには勿体ないと思うほどパワフルで活気あふれた友達が居たはずだ。
馴染まない街も馴染みある友人と歩けばそれは楽しい休日になるに違いない。
そこまで考えた僕は、これは名案とばかりに彼女に切り出した。
「……今度の日曜日休みだったよね。どっか行く予定ないの?」
そんな僕の提案に一瞬思案したようにも見えたが…
「行かなーい」
そっけなく答えられてしまった。
友達の予定でも合わなかったのだろうか。なんて憶測を片隅に置き
「そっか」
とだけ答えた。
折角の休日だから拘束はしたくないけど、もし彼女が暇ならまた当日にでも遊びに誘ってみよう。出来るだけ色々な場所を巡ろう。
なんて勝手に妄想しながら頭に入らない読書に戻るのだった。
視点B
「……なぁなぁ」
折角の休日で、作業もひと段落した折角の時間に私は……。
会話に飢えていた。
それもそのはずでここ数日は仕事もプライベートもバタバタしており、ゆっくりした時間も無く。
こうなんというか……会話に飢えていた。
くっそぉなんか無いのか!とこっそり顔を上げて視線を彼に向ける。
窓際に出した椅子に腰を掛けて読書をする彼は控えめに言って絵になっていると思う。
普段ならただ眺めていても良いのだが、今はそれ以上に使命感にも似た気持ちを抱いていた。
何気なく、さり気なく、自然に。
携帯を見ながら何もありませんよ。感を出して彼を呼ぶ。
我ながら意味不明なほど不器用な行為に内心呆れながら帰ってくる言葉を待った。
「…どうしたの?」
こちらが携帯に目線が言っている事を確認した彼は、再び本に視線を向けなおしてそう答えたのだが……それはいいのだが……。
特に何も話題を考えていなかった自分に気づく。
同時にとんでもない焦燥感に包まれ今すぐにでも転がり続けて外に出たい欲求に駆られるがニューストピックに映し出されている俳優が目に映り咄嗟に答えた。
「この俳優かっこいいよね」
なんというか、答えようのない質問だよなぁ。
というのが私の素直な感想だった。
彼は少しだけ顔を傾けて思案する。
考えている彼もかっこいいのだがそれ以上に勢いと気合のみで突き出した手は到底人類に想定された体勢でないため全身の体感がブルブルと限界を知らせてくれる。
とはいえ今更引くに引けず感想を待つ時間は永遠に感じられた。
「あー……かっこいいんじゃない?今流行りのイケメンって感じで」
そんなあっさりした回答に
……ですよねー!と一気にパタン…とうつ伏せになる。
絶望的な会話選びのセンスに内心恨みながらも
「何その微妙な反応」
と恥ずかしさを打ち消すようにぽっそり呟く。
我ながら面倒な性格だなぁと感じはするが
「…ごめん」
何故かバツが悪そうに謝る彼。
温厚な彼らしいというか何というか。
包み込まれるような雰囲気はついつい身を預けすぎてしまう。
「無理をさせていないか」だとか、「果たして私は相応しいのか」だとかそんな考えは何年も一緒にいる内に考えるまでもなく距離感を合わせられるようになった事を実感させられる。
以心伝心なんて絶対に出来ないけれど、その思い違いすらも受け入れられる様になったのだから十分成長したのだなぁなんて大人になったのか老けたのか分からない状態に内心苦笑し
「そういう所だよねぇー」
それでもたった数舜の会話だけど、十分すぎる程の充実感を感じながら再び沈黙が流れる。
「……今度の日曜日休みだったよね。どっか行く予定ないの?」
不自然な沈黙……に感じたのは私だけではなかったのだろう。ふと思い出したかのように彼は話を振った。
遊ぶ予定だった友人は急遽予定が入ったという事で休日は暇になっている事を思い出した。
折角だし彼を誘うのもありなのかもしれない
……。が彼もまた貴重な休日なのだ。
誘えば空けられるように工面するんだろうなぁなんて思いを胸に
「行かなーい」
と答えておいた。
「そっか」
まぁ当日予定なさそうなら誘ってみるか。
折角だし街を歩くのも良いのかもしれない。
なんて予定とすら呼べない予定の内容に頭を悩ませるのだった。
超時空時間軸的事故
「……なぁなぁ」
そう問いかけられたとき、凡そ三千通りの想定を脳内で働かせる。
(これはつまりどういう意味の問いかけなのか)
深刻な話なのか、それもとも軽い話題の可能性もある。
そればかりか冗談を思いついたのかもしれない。
ブラックジョークだった場合は笑うのが適切なのだろうか、余りに豪快すぎる笑いは相手に自身に人格を疑われてしまうかもしれないし、あまりにも引いた反応は相手を自身とは価値観が合わないと判断する要因にもつながる。
逆に軽いギャグを思いついた場合も大変だ。
とれる選択しは多くあるが簡単簡潔に分類するなら3つ。
乗るか反るか、ハクナマタタである。
しかしその選択しは話聞いた段階で判断する必要があるだけに、今自分がとれる行動は「どのラインの何にはこう反応する」という条件分岐である。
……。決めたぞ…。
万里の長城を築きたいといえば殴ろう。
宇宙に行きたいといえば蹴ろう。
総理大臣になりたいと言えば
内閣が総辞職した場合、又は内閣総理大臣が欠けた場合、日本国憲法第67条の規定により、国会において文民である国会議員から内閣総理大臣を指名する。為即効で、内閣を総辞職に追い込こもう。
そう命の覚悟を決めた僕は神妙な顔をして問いかけた。
「…どうしたの?」
するとあいつは顔色一つ変えずにこう切り出すのだ。
「この俳優かっこいいよね」
……………………。
……………。
……………。
【これ待ち針に見える。】
(全ての意味を悟ったぞ)
一瞬の間に煌めく流星が如く相方の意思をくみ取る
なるほど宇宙だ!
これは宇宙なんだ
(お前……お前は総理大臣になりたいんだな!!!!!)
胸が熱くなる。
この何気ない会話には多くの情報がこれでもかと詰まっている。
かっこいいよな=こんな感じ似合うかな
という会話ロジックの中で高度な問いかけをしているのだ。
詰まるところこれは似合うかどうかという問いかけにどんな意味があるのかなんて考えずともわかる。
確かに総理大臣になるためには選挙にまず受かったうえでなければその道は開かない。
(だからこそ今やるべきことはまず……)
「自分磨き」
なんと聡い奴なのだろう。
総理大臣を目指すならば、おそらくやりたいことはあるのだろう。
就職の問題か、賃金の底上げ?税金の使い道。
才能を開花させるための土台作り?
多くの問題要素はあるだろうがお前ならこなせるだろう。
流石だ。その若さでその次元の視座を持っているとは。
しかしその上で必要なのは…
「国民の支持」
人は外面だけではないという論調には首を縦に振るが、一つも評価に関わらないとなれば答えはNOだ。
自分の外見は第一印象を決定する因子にほかならず、どう見せるのか考える事は必至!!
そして彼が見せてきた人物は今流行りのYONEDUスタイル。
つまり狙う層は若者だと言える。
(若者に向けて何かに憤りを感じているのか!!お前は!!)
高鳴りを感じる。
今僕は歴史の分岐点に立っているのかもしれない。
「あー……かっこいいんじゃない?今流行りのイケメンって感じで」
盗聴を恐れ、まるで日常会話みたいな体を装い返事するが…
「何その微妙な反応」
…ちくしょう!!
深い後悔の沼に沈んでいく感触を確かに味わう。
これほどの沼に出会うとは…人生長いとは言うが正にその通りだろう。
少し不自然だったことを指摘され、己の不甲斐なさに心底嫌気がさした。
「…ごめん」
「そういう所だよねぇー」
そう…己の不甲斐なさは不甲斐なさとして受け入れ何と言われようとお前の味方で居続けるために努力を怠らない姿勢を見せる。
さて、ここで少しあいつのスケジュールを確認する必要がある。
次の日曜日は空いていたはず…もしかすると選挙カーが必要かもしれない。
そうなれば十全な準備を行う必要がある。
「……今度の日曜日休みだったよね。どっか行く予定ないの?」
「行かなーい」
「そっか」
こいつの野望は長期的に及ぶらしい。
詰まるところ好機は今ではないという事だろう。