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第3話 人と魔物の混血児

港町ライドは、この島で1番大きな町だ

とは言っても、この他には小さな集落が2つほどしか無いのだが


生活するに必要なものは全て揃っている

船屋はもちろん、そこそこ大きな宿屋もあるし、飲食店や、酒場もある


この島の人口の半数がここで暮らしているらしい


人が多く、活気がある場所を嫌っていた俺は、この島に2年以上住んでいるが来るのは2回目


最初に旅客飛行艇でやってきた時と、今だけだ


飛行艇を手に入れる為に来たので、街に入っても勿論俺の足は真っ先に船屋に向かった


だが


「アベル、アベルっ!みてみて!あのお菓子屋さん美味しそう!あっ、あそこの服は結構良い感じかもっ!!ねーねー、ちょっとだけ寄り道しよーよー」


アリスが俺の腕をぐいぐい引っ張って色々な店に連れ込もうとする


「必要のない寄り道はしない」


俺は辟易しながらそう答えるが


「えー、良いじゃない?ちょっとだけ、ね?」


「もう一度だけ言うぞ、必要のない寄り道はしない」


「うー、アベルのいけず・・・」


俺はアリスを何とかあしらいながら船屋を目指す

なかなかに厄介な女だ


そんなやり取りを続けながら少し歩くと船屋が見えてきた


「あれ?」


「今度はなんだ」


「なんか人集りが出来てるよ?」


「何?」


アリスの指さす方向、船屋からやや西側の飲食店の前に人が群がっていた


「何かあったのかな?」


「さぁな」


どのみち俺には関係無い


そう思い、視線を船屋の方へ戻そうとした時、あるものが視界に入ってきた


人集りの中心に、囲まれるようにして小さな女の子が蹲っている

尻尾が生えているところを見ると亜人種の様だ


どうやらこの人集りはその子を罵っている集団らしい

罵声のみならず、踏み付けようとするものまでいた


「ちっ、・・・こうゆうのは見過ごせないな」


「え?」


驚くティアを他所に、俺は人混みを掻き分け中に入って行く


「どけ」


中心まで来ると、俺は蹲っている女の子の声を掛けた


「大丈夫か?」


突然の闖入者に、亜人種の娘に罵声を浴びせていた集団はピタリと静かになっていた


「・・・え、あ、あ、りがとうございます・・・」


その声は弱弱々しく、体は泥だらけだった

耳の形状から察するに、ハーフエルフのようだ


「やっぱりな・・・」


「なんだ、てめぇ!!そいつはなぁ、毎日毎日、盗みを働いてんだっ!!それをやっと捕まえたところだ!!邪魔すんじゃねぇ!!」


1人の男が怒声を浴びせてくる

そうだ、そうだと周りも囃し立て始めた


俺はその男を睨んで言った


「本当に、理由はそれだけか?」


「あぁ?何が言いてぇんだ兄ちゃん」


「ハーフエルフだからだろ」


この世界でハーフエルフは昔、忌み嫌われていた

エルフは基本エルフとしか子供を作れないが、中には魔物に襲われ、子を宿す場合がある


魔物とエルフの混血、それがハーフエルフだ


魔物の血が混じっている以上、様々人種から嫌われ、差別され、挙句の果てにハーフエルフ狩りなんてものもあったほどだ


そのせいで、魔物が居なくなった今のユグドラシルでは、ハーフエルフ数はとても少ない

なぜこの町に居るのか不思議なほどだ


かくゆう俺も、ハーフエルフに会ったのは3年前の旅の途中以来初めての事だった


まぁ、そもそも引き篭っていたので、他の人種にすらまともに会っていないのだが


そして、ティアはハーフエルフの迫害を許さなかった

ハーフエルフだってこの世界の住民

差別や区別をするのはおかしいと、旅先で困っている様々な境遇のハーフエルフ達を全て救ってきた

俺も当然付き合った

もともと俺は、ハーフエルフに対して興味は無かった

嫌っていたわけではないが、好きでも無かった


だが、ティアと共にハーフエルフ達に接する事が増え、そして、ある出来事があってから気が付けば虐げられているハーフエルフを見ると体が動くようになっていた


今や俺も、ハーフエルフ差別は許せない

ティアの意思とゆうわけではなく、俺個人が許せないのだ


「・・・だとしたら、なんだ」


凄む男達

ハーフエルフに対する情は欠片も無いらしい


「お前ら全員・・・・・・ぶっ飛ばす」


俺は我慢出来ず、左足を引いた

目付きが、変わる


その途端


「待って、待ってっ!!アベル、揉め事はだめ!!」


アベルとハーフエルフ迫害者達が睨み合い、一触即発の空気を、割り込んで来たアリスが吹き飛ばした


「アリス・・・居たのか」


「居たよっ!!居ないわけないでしょ!!いきなり飛び込んで行くんだからもうっ!!ビックリしたじゃない!!」


アリスは明らかに憤慨している


「悪いな、こうゆうのは許せないんだ」


俺は後ろに座り込むハーフエルフの娘を一瞥した


アリスも見遣る


「この子・・・!!」


そして一言呟くとハーフエルフに近付いて、優しく抱き締めた


「可哀想に・・・こんなにボロボロになって・・・」


ハーフエルフの少女を抱き締めるアリスの後ろ姿は、ティア・ガーネットに良く似ていた


そして安心した、こいつもどうやらハーフエルフの迫害を許せないタチらしい

流石は姉妹だ


「アベル」


少女の頭を優しく撫でていたアリスがぽつりと言った


「ん?」


「ぶっ飛ばそう、この人達」


「お前、揉め事はだめだって・・・」


「気が変わったの」


キッパリと開き直るアリス

その瞳には瞋恚の炎が燃え盛っている


少しだけ、俺はこいつが好きになった

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