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糧たるもの

 校門を出たあたりで、先ほどからやけに上機嫌なラピスへと、俺は声をかけた。


「おい、そろそろいいだろ」

「んぅ? 何がかの?」

「トボけんじゃねえよ。さっきのこと、心当たりあんだろ」

「くっく、無論じゃとも。いやいや実に胸のすいた思いじゃ」


 言葉通り、晴れ晴れとした顔でラピスは言ってのける。


「お前なぁ、もうちょっと人当たりよくできねぇのか? どうなることかと思ったぞ」

「むっ。わしとて、誰かれ構わずかよう(・・・)な態度を見せるものか」

「どの口が言うんだか。大体それを言うなら鈴埜に強く当たるなよ」

「……我が君よ、まさかまだ、あのこむすめの事を信じておるのか? 我が君に害なすつもりなど無かったと。(くだん)のことも、偶発的に起こったものじゃと、まだそう思っておるのか?」

「当ったり前だろ。それに言っただろ、第一動機がねぇし、証拠も無いのに犯人呼ばわりできっかよ」

「はぁ~……出おった出おった、我が君の悪癖が。いっそわしより余程神らしく見えるわ。大したお方であらせられることよ。いやいやぁ、まこと敬服の至りにございますのう~?」


 こいっつ……――なんてムカつく面をしやがる。

 しかも顔の左右に両手をやり、ひらひらと掌を動かす動作と共にだ。

 言葉こそ丁寧なものに思えるが、それすらも煽りの一環に違いない。


「俺に喧嘩売ってんだな? そうなんだな、おい」

「まさかまさか。いやしかし、まったく先のこすむめの面ときたら! わしの鬱憤もいくらか晴れようというものじゃ、くかかっ! のう、我が君もそう思――」

「……」


 先ほどの鈴埜の顔――と言うか、態度の変化を、俺は思い出す。

 あれは、勿論自分の言に同意しなかった俺に対する失望もあろうが、どうもそれだけでない何かがあるような気がする。

 そう、そう言えば……一年前、初めて鈴埜に会った時も、あんな顔をされたような。


 思えば、本当に出会った当初は、鈴埜も現在のように俺に対し、今みたいに無遠慮な物言いをする奴ではなかった。

 見るからに引っ込み思案な少女然としていて、何をするにもオドオドしていたものだ。

 それが日を追うごとに、こと俺に対してだけ、物怖じせずものを言うようになっていった。

 ……物怖じせずと言うか、毒舌交じりになっていったという方が正しいか。


 ――初めて出会ったとき、どうしてあんな顔をされたんだっけか。

 それこそ先ほどのように、何かを尋ねられたような気がするが。

 特に記憶にないということは、それほど重要なものでもなかったのだろう。


 しかし、今改めてあの頃の鈴埜を思い返すと――


「くっ……ふふっ」


 今とのあまりの変わりように、自然と笑いが漏れる。

 昔の方がずっと素直で大人しかったのは事実だが、俺としては今の鈴埜の方がいいと思う。

 常に腫れ物を扱うようにして接するのは俺も疲れるし、物事ははっきり言ってくれた方がずっとやりやすい。

 それこそ、はっきり言い過ぎるくらいに言う見本が最近現れたばかりだしな。


「ラピ――」


 その人物へ、俺は声をかけようとするも。

 彼女の名前を呼び切る前に、言葉は止まった。

 と言うのも。


「……なんだ、その顔は」

「むぅぅぅ~……!」


 見れば、先ほどまでの飄々とした笑顔は姿を消し、ラピスはじっとこちらを睨みつけたまま、何ごとも発しようとはしない。

 さらには頬をパンパンに膨らませ、怒り心頭といった顔つきをしている。

 この、僅か数秒の間に何があったというのか。


「なあって」

「――ふんっ!」

「あ、おい!」


 再度俺が問いかけようとするや、ラピスはぷいと顔を逸らすと、俺を置いて歩き出してしまった。

 その足取りは荒く、ずんずんという音が聞こえてきそうなほどだ。


「……なんなんだよ、まったく」


 仕方なし、俺は遅れて後を追う。

 別に放っておいてもいいのだが、そうすると後が怖い。

 あっという間にラピスは随分先まで行ってしまっており、俺は小走りで駆け寄ると、俺の方を見もしないラピスに向け声をかける。


「なあ、何怒ってんだよ」

「別に怒ってなどおらぬわ!」


 ……怒ってんじゃねーか。

 ラピスは相変わらず視線を前に向け続けており、立ち止まるどころか横にいる俺に顔を向ける素振りすらない。

 俺は並び歩きつつ、それでも声をかけ続けた。


「どこ行くつもりなんだよ」

「どこでもいいじゃろうが。どうせ汝はわしとの話なぞより、あのこむすめのことを思う方が楽しいのじゃろ」

「……はぁ?」


 確かに鈴埜のことを考えていたのは事実だが、どういう思考でそういう結論に至ったんだ、こいつは。

 大体、俺の質問の答えになってないぞ。


「まったく、先程はかような行動に出おったくせに。気を抜けばすぐ他の女のことを考えおる。そりゃあわしなぞ、昨日今日会ったばかりの新参者じゃからな。無理もあるまいよ」


 ……なんだか分からないが、とにかく拗ねているらしいことは理解できた。

 自分から話を振ってきたくせに、勝手極まりないやつだ。

 というか、何万年も生きてきた神様がこんなことでいちいち腹立てるなよ。


「わしはてっきりあの時、それがわしじゃからこそ、かように優しく振る舞い、助け出してくれたものとばかり思うておったがの。どうもそれは思い違いだったようじゃ。汝は分け隔てなく、誰にでも同じようにするのじゃろうよ。たとえわしでなくともな」

「……」


 どうも喋り始めたら止まらなくなったらしく、まだラピスは文句らしき台詞を口にし続けている。

 助けたどうこうというのは、鎌を抜いた時のことを言っているのだろう。

 多少の文句であれば軽く聞き流しておこうと思っていた俺だが――ひとつだけ、聞き流せない言葉があった。


「今回のことでも、あのこむすめが何らかの作為を講じたであろうことは明らかじゃというに、まだ汝は信じようという。まったく信じがたいお人よしよ。先だっての件でもそうなのじゃろ、どうせ汝はわしが困った顔を見せておったゆえ、仕方なしにあのような――」

「おい」


 俺は、小指を立てて喋りたてるラピスの手首をひっつかみ、言う。

 突然の俺の行動に、ラピスは随分と慌てる素振りを見せた。

 顔は妙に赤くなり、滝のような汗を流れ出させてさえいる。


「なっ、ななな、なんじゃ! きゅ、急に手を握りおって……お、お驚かせるでないわ!」

「てめえ、それ本気で言ってやがんのか?」

「なっ……何のことじゃ!」


 どうも分かってないらしい死神へ、俺はさらに顔を近づける。

 この時の俺は多少、頭に来ていた。


「お前じゃなくても助けただと? 馬鹿言え、誰が好き好んで自分が死ぬかもしれねえ目にあってまで、アホな格好した得体の知れない女を助けると思うんだ? 俺はあいにく、んな聖人君子じゃねえ。俺はな、お前だから(・・・・・)助けたんだ。次もう一度似たようなセリフ吐いてみろ、尻が腫れ上がるまでひっぱたいてやるからな」

「うぐっ……」


 俺の勢いに飲まれたのか、ラピスは言葉に窮する。

 そして俺はそれまで掴んでいた手を離すと、続く言葉はラピスから視線を外してのものになった。

 理由は単純、照れくさいからだ。

 それに上手く言う自信がなかったこともある。


「渡り廊下でのことは……その、なんだ。えーと……」

「……我が君?」


 先ほどまでとは打って変わり、俺の言葉はしどろもどろな、場当たり的なものになる。


「……ん、そう。あのガキのしつこさに腹が立ってな。見ていられなかったんだ。だ、だから……別にお前が言い寄られてたのが気に入らなかったとか、そういうんじゃねえからな。勘違いするなよ」

「……」


 みっともない本心を悟られぬよう、きっちりと釘を刺しておくことは忘れない。

 これはこの数日間で俺が学んだことだ。

 先を考えて物事を言い、行動すること。

 ――なんだ、やればできるじゃないか、俺。


「――おい、何か言えよ」


 視線を戻すと、ラピスの表情は、疑うようなものに変化していた。

 口調は元の落ち着いたものに戻っていたが、顔の赤さはむしろ増しているように思える。


「……のう、我が君よ。まさかとは思うが、全て計算ずくのことではあるまいな?」

「どういう意味だよ」

「いや、まったく恐ろしい男じゃ。これまでわしは汝のことを見くびっておったのやも知れぬ……」

「???」


 なんだ、こいつは何を言っている?

 まさかまた、俺は失敗してしまったのか?


「ああもう、なんじゃ馬鹿馬鹿しくなってきたわい。――ほれ、もう帰るぞ! どこなんじゃここは!」

「いやここまで歩いてきたのお前だし……家とは反対方向だよ。それも滅茶苦茶に歩き回りやがって、俺だってこんなとこ来た事ねえよ」


 歩きながら会話していたこともあってか、どこかの住宅街の中らしき細道に迷い込んでしまったようだ。

 とはいえ、暫く来た道を戻ればまた見覚えのある大通りに出られるだろう。


「んじゃ、とりあえず戻――」

「どうした、我が君」

「……なんだ、あれ?」


 ラピスとの会話に夢中になっていて気付かなかったが、俺の視線の先に、何か奇妙なものが映っていた。

 距離にして10メートルほどだろうか、先にある電信柱の下から、どこか見覚えのある煙が立ち上っている。

 その黒い煙いや、黒いもや(・・)は、その電信柱の根本にある、ちょうど人ひとり分程度の大きさの、同じく黒い塊から放たれていた。

 仔細を確認しようにも、この距離からではよく分からない。


「おいラピス、あれって……」

「うん? あれとは?」

「いや、分かるだろ。あそこの電柱のとこだよ」

「”でんちゅう”とは、これのことかの?」


 電柱という名称を知らぬラピスは、近くにある同じものを指差す。


「ああ。――それで、ほれ。あそこ見てみろ。根元の方だ」

「んん……そう言われてもの。我が君よ、何がどう気になるのか、わしに教えてくれぬか?」

「何って……見たとおりだよ。ほれ、あそこ。電柱の下だ。真っ黒な塊があるだろ?」


 言わずとも異常ある場所は明らかだろうに、何をすっとぼけているのか。

 怪訝な顔をする俺に構わず、ラピスは質問を続ける。


「ほっほ~う……? もう少し詳しう仔細を言うてみよ」

「そう言われても……こっからじゃよく分からないな」

「つまり、それほどにあの場を覆う瘴気が濃いと、そういうことじゃな?」

「しょう……? ……ん、まあ、そういうことだ。大きさはそんなでもないみたいだが……」


 と、ここでラピスの顔が変化を見せ始めた。

 にやりと口角を上げたその様は、何か良からぬことでも企んでいるような、そんな悪い顔をしている。

 やにわに、ラピスは大声を上げた。


「くかかっ! これは思いがけぬ幸運が舞い込んできたようじゃ。いや、流石わしと言うべきかの、意図せず我等が糧に辿り着くとはな。これは呑気にしてはおれぬ、ゆくぞ我が君!」

「あっ、おいちょっと待て!」

「――くひゅぅ!?」

「あっ……すまん」


 走り出そうとするのを止めようと背中側から服を掴んでしまったせいで、勢いから首が締まってしまったラピスが悲鳴を上げる。


「――げっ、けほ、けほっ! な、何をするかー!!」

「待てって! まずは説明しろ!」


 咳をしつつ抗弁する彼女へ問うと、ラピスは興奮しつつも説明を始めた。


「ん――うむ、確かにそうじゃな。よいか我が君、以前、汝に神としての力が渡ったと伝えたことは覚えておるか?」

「ん、ああ。ここ最近の記憶力の良さもそれが原因なんだろ」

「然り。しかしながら死神の眼の力、その真価とはそんな些末なものではない。もっとも重要なことはな、その眼でもってすれば、その人間が持つ『穢れ』を一目で看破することができる能力にある」

「穢れ……お前の力の源ってアレか。んじゃ何か、先に居るのはその『穢れ』を貯めた人間ってことか」

「うむ。この場からでも視認できるとは、さぞ多くの穢れをその身に宿しておることじゃろうよ。これは捨て置く手はないぞ」


 だから早く、と言いたげなラピスは、逸る気持ちを抑えきれないと言った様子である。


「しかし、なんだって俺に言われるまで当のお前が気付かなかったんだ?」

「我が力は殆ど汝に譲り渡してしもうたでの……しかも限界近くまで力を失っておるわしは今や、元より備わっておる神としての殆どの能力を行使することができぬ。近くまで寄ればわしにも確認できるであろうがの」

「おいおい……」

「感謝するがよいぞ? 人たる身で我が力を得ることができるなぞ、どの次元を探そうと二人とお目にかかれぬであろうよ」


 ……ありがた迷惑もいいところだ。

 どうだと言わんばかりのドヤ顔がまた余計小憎らしい。


「……で、近づいて大丈夫なのか?」

「うむ……そうじゃの。見たところ単なる人間のようじゃし、大丈夫じゃろ。それもかような老体であれば、今の汝であれば万が一戦闘になっても問題なかろうよ」

「おいおい物騒だな……ん? なに? お前今なんつった? ……老人?」

「なんじゃ、それすら分からぬ程の瘴気を発しておるのか? これはますます楽しみじゃ、ほれ、そうと分かれば奴が留まっておる今を逃す手はないぞ、ほれ!」

「あっちょっ、こら、引っ張るな!」


 ラピスに手を引かれながら、俺は電柱の元まで駆け寄る。

 距離にして数メートルというところまで近づいたところで、ようやく俺にも詳しい造形が視認できてきた。


 なるほど、確かに人――それも老人だ。

 最近珍しい甚兵衛を身に纏い、履物は草履という、絵に描いたような古めかしい佇まいの老人である。

 丸メガネをかけたその男性は、電柱にもたれかかるようにしてうずくまっている。

 年の頃は、少なく見積もっても70は越えているように見えた。

 短く揃えられた頭髪は一様に真っ白で、黒髪は一本として残っていない。


「ぐ……うむむ……」


 すぐそばまで近寄った俺の耳へ、老人から発せられたであろう声が届く。

 腰を落とし電柱に寄り掛かる老人は、見るからに苦しそうな様子である。

 それだけ見れば、弱弱しい、どこにでも居そうな老人に見えなくもない。

 しかし、やはり――例の瘴気は、やはりこの人物から放たれているようで、粘ついた黒いもやが、体の至る所に纏わりついている。

 他に特別奇妙な点がないだけに、それが余計不気味に感じられた。


「ほれ、ほれ! 準備はよいか我が君!」

「ちょっと黙ってろ! ――おい、じいさん。大丈夫か?」


 興奮して何をか急かせる様子のラピスを一喝した俺は、眼下の人物へと声をかける。

 戦いがどうだと、そんな事態にはまるでなりそうもない。

 仮にそうなったとして、その図は老人虐待に他ならないだろう。

 そも、こんな苦しげな様子の老体へ危害を加えるなど、俺にはとてもできることではない。


「――ん……君は……」


 地面に視線を落として唸っていた老人は、初めて俺に目を向けた。

 皺だらけの顔を見るに、やはり相当の年配なのだろう。


「どうしたんだ、こんなとこにうずくまって。あんま車通りはないみたいだけど危ないぜ」

「ん……すまんな。いや、持病の腰痛がな……ぐむっ!」

「お、おいおい!」


 立ち上がろうとした老人は、やにわに苦し気な声を発し、横に倒れそうになる。

 咄嗟に手を出した俺が体を支える形になり、そこで俺は新たな発見をした。


「……ん? あれ、じいさん、これ……」

「おお……ありがとう。いや、若い頃に、ちょっとね」


 左半身を支える俺の身に、本来あるべきものの感触がない。

 俺に礼を言う老人の左腕は、根元から存在していなかった。

 この時まで俺がそのことに気付かなかったのは、例の瘴気がその部分により濃く漂っていたことによる。


「いや、ありがとう。ところで君たち、ここいらでは見ない顔だが……僕も普段、あまり出歩く方ではないけどね」


 痛みが収まったのか、尚も危なげではあるが、支え無しで立つことができる程には落ち着いたようだ。

 俺は一歩離れると、老人の言に答える。


「ああいや、この辺に来たのは偶然っていうか……」

「こりゃ! 何を悠長にしておるか! さっさとその者の――」

「やっかましい!」

「はっは、随分元気なお嬢さんだ。君の妹さん――とは違うかな。お友達かね?」


 言いかけて訂正したのは、ラピスの肌、そして目の色を見てのものだろう。


「あーまあ……そんなところです」

「うん、いや何にしろ助かったよ。やはり慣れないことはするもんじゃあ――おうっ!?」

「あー、だから! 無理すんなって!」


 歩き出そうとした老人は、またも痛みがぶり返したのか、がっくりと腰を落とす。

 再度彼の身体を支える形になった俺は、仕方なしに言う。


「ったくもう、気を付けてくれよ。じいさん、家はどこなんだ。連れてってやるよ」

「うむむ……すまないね。ではお言葉に甘えさせてもらおうかな。なに、僕の家はすぐそこだ」

「そっか。んじゃ、このまま行きますよ。――っと」


 このままでは抱えるべき腕がないのでやり辛い。

 右側に回った俺は、老人の右腕を肩に乗せると、彼の指示に従い歩き始める。


「ありがとう。しかし”じいさん”呼ばわりは止めてほしいな。僕はまだ40代なんだ」

「――えっ?」

「はっはは、見えないかね。よく言われるよ」


 いや、見えないってか……そりゃないだろ。

 鯖読むにしてもやりすぎだ。


 ラピスはといえば、見るからに不満げな顔をして後ろを付いてきている。

 ――いや、言いたいことは分かるけどな……そんなあからさまな顔をしなくてもいいだろうに。


 むくれるラピスを従えつつ歩くと、程なくして老人の家だという場所に着いた。

 これまた、老人の印象通りと言うか、かなりの築年齢だと思われる平屋である。

 最近珍しい、伝統的な日本建築といった様相のものだ。

 広さも結構あるようで、そこそこ裕福な人物なのかもしれない。


「ありがとう。そこの呼び鈴を押してもらえるかな」


 言われ、扉の横にあるボタンを押す。

 チリン、という音が家の中から届くも、その後他の音は聞こえてこない。


「ん、家にいるはずなんだが……寝ているのかな。鍵は開いているだろうから、気にせず開けてくれ」

「じゃあ……おじゃまし――」


 老人の言葉通り、扉に鍵はかかっていなかった。

 おいおい物騒だな。

 どうも他に人がいるような口ぶりだったが、この人の妻かなにかだろうか。

 当人の見た目を考えるに、同じくらいの年を召した婆さんだろう。

 40代だとかなんとか言っていたが、俺はそれは冗談にすぎないと決めてかかっていた。


 俺は扉を開け、中に入ろうとし――


「ぶっ!?」

「はぁ~い……あら? 何か……――え、惣一朗さん!?」


 何か巨大な柔らかいものに顔から衝突し、視界がその何物かで塞がれる。

 その上から耳に届く、どこか聞き覚えがある声は――

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