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メグル・ゲームミュージック  作者: 痩身
春編
5/122

解説の狂戦士 後編

前編のよくわからんあらすじ


 部会で新入生挨拶、そして部の軽いレクチャーを受けた後、月無先輩と大学内のスタジオ利用説明へ。

 よくわからん機材をよくわからんテンションで説明してもらい、今度は楽器を使って説明、そして先輩の演奏がまた見れると心踊る少しキモい白井。

 はたしてそれは見られるのか、そして無事に済むのか、運命やいかに。



 実演も含め一通りのスタジオ説明が終わったところで、先輩から提案が出る。


「次のパートまだ来てないし~、ちょっと弾いてみる?」


 待ってました、ということでお願いしますと即答。


「え、あたしが弾くの?」


 もちろん、自分に向かって弾いてみるかと言ったのはわかっている。

 でも今はそんな場合じゃないんですよ。


「はい、聴きたいです!」

「え、そんな?」

「はい、聴きたいです!」


 ここは譲りませんとも。先日のファ○通の意趣返しも含め、断固として譲りませんとも。


「じゃ、じゃぁ……何弾こうかな?」


 先日話にでた『メタナイトの逆襲』も是非聴きたいけど……ここは弾いている姿が映える曲がいい、ということでバラードとお願いした。


「おっけー! じゃぁ……FFわかるならエアリスとかどう?」

「弾けるんですね!」

「弾けるんです!」


 自分も弾くし、すごく好きな曲だ。名曲とも名高いものを先輩の演奏で聴けるとは。

 そして先輩は鍵盤の前に座って、すぅっと深呼吸をした。再び鍵盤に目を戻した時にはすでにピアニストの表情、威厳すらも感じるその姿に、いいようのない緊張が走った。


 演奏が始まると……最初の和音だけで鳥肌が立つ。これ以上にない至高の和音。始まりはたったそれだけであるのに、先輩が織りなすゲーム音楽の世界に引きずりこまれるには十分だった。流れるアルペジオも洗練された和音も、自分では到底及ばぬ響きを紡ぎ、ゲーム音楽の枠から解き放たれた実演奏による可能性、その真価を見るような気さえした。


 演奏中の先輩と普段の先輩、どちらも魅力的でどちらも本物の先輩。しかし今目にしている超然として絶対的な存在にすら思える姿は、この演奏が本物のゲーム音楽のようにループしていつまでもつづけばいいとさえ思う、それほど美しかった。


「こんなかんじかな! ……どうだった?」

「……やっぱりすごいです。感動しました」


 言葉は多くは出てこなかったけど、こちらの感動は伝わっただろう。それが自分でわかるくらい、声色と喋り方に出ていた。


 先輩は少し照れながら、嬉しそうに笑った。少し気恥ずかしいような空気に、次の言葉を探していると、スタジオの扉が勢いよく開いた。


「次待ってるぞ! 早く機材片づけろゲーム女!」

「あ! はい! ごめんなさい!」


 怒号が飛ぶ。どうやらパート毎の持ち時間を過ぎていたようだ。急いで機材をかたずけ、追い立てられるようにしてスタジオを後にした。


 §


「いやぁゴメンゴメン、時間過ぎちゃってたね」

「頼んじゃったのこっちですし。ってかさっきゲーム女って呼ばれてませんでした?」


 悪口の類に属しそうな呼ばれ方が無性に気になった。


「あ~、あの先輩あたしのことそう呼ぶの。失礼しちゃうよね!」


 まぁ間違ってないと思うが。


「ゲーム女じゃなくてほんとはゲーム音楽女なのに!」


 ……一瞬頭を疑ったが、ゲームとゲーム音楽を切り離して楽しめる先輩だからこそか。ちょこちょこ理解の範疇を超えてくるので、そうした言動はスルーだ。他に少し気になったことを訊こう。


「それはそうと、さっきのエアリスって聴いたことなかったんですけど、何のですか? 自分が持ってる楽譜のはもっと簡単だった気が」


 そう、弾いたものと一致しないので少しばかり気になっていた。


「お、よくぞ気付いた! 実はあれ、ピアノコレクションバージョンなの!」


 CDは見かけたことあったけど、聴いたことはなかった。先輩が弾いてくれたのが初めてだ。


「それはもう素晴らしいよ! クラッシックにも引けを取らない出来ね!」


 あれだけ素晴らしいのだ、予想はなんとなくつく。是非一度聴いてみたいと言うと、案の定全部所持していて貸してくれるとのこと。ゲーム音楽ならツ○ヤより信頼が置けるかもしれない。


「ナンバリング毎にあるんですね。何から聴けばいいんだろ」

「そうね~、聴きやすいのはⅥかな。有名な曲ばっかだし原曲に割と忠実だし」


 Ⅵか、いい曲多かった。特に好きなのはやっぱりあれだ。ゲーム音楽の中でも特に有名な。イントロから一発でカッコいいとわかる最高の名曲。


「『決戦』とか超カッコいいですよね」


 先輩が止まる。

 ……ん? ……。


 しまったァァァァ!!


「ね!決戦!最高よねあれ!あそこまでストレートにカッコいい戦闘曲中々ないわ!」


 うわ、めっちゃ目キラキラしてる。

 迂闊にも程がある。普通に話していたので部室での一件をすっかり忘れていた。

 仮に気付いたとしても時すでに遅し。


 ――すでに引き返すことは許されない大空洞に踏みいれていた。


「で、ピアノコレクションの決戦のアレンジとか本当にすさまじいの!あのイントロをピアノでこう弾かせるか!っていうね!もうピアノを打楽器扱いよ打楽器!」


 双眸爛々《そうぼうらんらん》と狂戦士は語りだす。


 何故曲名を出すなんて相手にバフをかけるような行いをしてしまったのか。ってかもう最早待ち構えてたじゃん。勘弁してよ。


「しかも二週目に入るところであのクリシェのフレーズを原曲通りに分散和音で弾かせるのがまた粋なの!そこで来ちゃう!?って!!わかる!?和音で重厚な響きで魅せたと 思ったら今度はそのフレーズを細かく粒にわけて二通りの表現でやっちゃうのよ?二度おいしいに決まってるじゃない!このアレンジもいいけど原曲のイントロもいいよな~って思ってるとこにまさかの不意打ち!しっかりやっちゃってくれ!るん!です!サービス精神の塊~中略~」


 いかに素晴らしさを語ろうとも、こちらには意味不明な文字情報の羅列にすぎない。そして先輩にそれはもちろん伝わらないし、正直スイッチの入り方が急すぎてついていけずに立ちつくすのみ。ボム兵かこの人は。


 出来ることと言えば可愛いなぁと先輩の容姿にぼーっと注目することくらいだ。


「ティナのテーマもメロディを最大限に活かした最高のアレンジになっててね!物悲しいイントロから壮絶なアルペジオへの展開!さらにそこから大サビの雄大さへの流れは一度聴いたらもうこれしかないなって思えるくらい完璧に洗練されてるの!魔列車のどこまでも不気味なアレンジもピアノの特性を完璧に活かしたピアノコレクションの魅力ね!暗いわよ~、ドロドロ~って!ちっちゃい子が聴いたらもう泣くんじゃないかって!4曲目に収録されてるスピナッチ・ラグも最高よ?原曲にないピアノコレクションだけに追加されてるフレーズなんて悪ふざけかってくらいの遊び心が詰まっててこれがまた最高なの!ってかまんま三分クッキング!確かに元ネタなんだろうけどこれもアレンジ版ならではの醍醐味ね!初めて聴いた時なんてクスクス笑っちゃったわ!Ⅵのピアノコレクションのいいところはアルバム全体で涙あり、笑いありの冒険エンターテイメントを見せつけてくれるところね!聴き終わって納得するの、あぁ、これピアノだから出来る表現なんだな、って!ゲームをクリアしてから今度は曲でもう一周できちゃうってワケなんだからそりゃもう~中略~」


 本物のマニアにオススメを訊くとリミットブレイクする。いいことを知った。


 ……お、総評っぽい感じになってきたしそろそろ終わりか。


「あ、でもⅦとⅨのアグレッシブなアレンジも捨てがたいわよ?」


 まさか……結局全部解説されるヤツである。っていうかもう状態異常じゃんこれ。


「バンドサウンドなんて特にピアノソロにし辛いのにJ-E-N-O-V-Aなんてピアノソロでどうやってアレンジすんの!?なんて思ったら左手がプログレ的手法を以てオブリガードのフレーズをオマージュした最高にカッコいいアレンジになってるなんて驚愕のアレンジよ!?こんなやり方あったんですか!?こんなんキース・エマーソンくらいか考えないでしょって!もう全身鳥肌モンよ!挙句の果てにはラストの三段譜で鍵盤全体を縦横無尽に駆け巡~以下略~」


 多分もう自然回復を待つしかない。反射魔法リフレクもかかってそうだし状態異常回復エスナも効かない。


 §


 おそらく現実時間はそこまで長くなかったであろうが、体感時間の長さと精神的疲労は相当なもの。頭には入ってこないし、飛び交う言葉はただの記号として意識を素通りした。耐えきった自分に賛辞を贈りたいところだが、不思議と充足感はない。


「ほとんど全部解説された……」

「ご、ごめんね! ついルナティック・ハイしちゃって」

「ルナティック・ハイ」


 ダメだ、この人はもう助からない……。脳にまで達してる。


「FFだと知ってる人多いせいか、つい許されちゃう気がしちゃうんだよね!」

「許されませんて! どこの狂戦士だよ!」


 怒気は込めなかったがしっかりとツッコミは入れる。


「ごめんね……」


 あ、凹んだ。少しかわいそうだったか。

 聴いたもらいたい一心だったのはわかっている。


「で、でも是非聴いてみてよ!」


 無碍にする気もないし、多分借りるし聴くんだろう。


「絶対聴く価値あるから! ね?」


 するとこちらの気も伝わったか、またあの笑顔で語りだす。


「本当にいいものだよ! こんないいアレンジあるんだって! 折角ピアノ弾くんだから、白井君には是非知ってもらいたいんだ!」


 またこれか……反則だって。この前と同じ笑顔に押し切られるのも、わかっていた。それに、言い方も少しずるい。迷惑なところはあれど、結局自分にとっては尊敬対象であるし、この満面の笑みを前にしては、断れるわけも結局のところないのだ。


「さっき一曲実演してもらいましたしね」


 何より、ゲーム音楽が共通の話題であることが、先輩との関わりでとても重要な意味合いを持っている気がする。


「ありがとう! じゃぁ明日全部持ってくるね!」

「全部かー」


 本当に極端だなこの人……。






 隠しトラック


 ――ピアコレと白井 ~自宅にて~


 ピアノコレクション結局全部借りたけど多いなこれ… 

 とりあえず6から聞いてみるか。聴きやすいっていってたし。


 ―――FFⅥピアノコレクションズ視聴中


 ……え。……え、これめっちゃいいじゃんすげぇ。

 ジョニー・C・バッドめっちゃいいじゃん超かっけぇ。


 ―――数分後


 いやマジいいなこれ。7いってみるか。7と9がどうとか言ってたし。


 ―――FFⅦピアノコレクションズ視聴中


 ……え。……え、なにこれムッズ。でもめっちゃいいじゃんすげぇ。

 弾きてぇ……。あ~ゴールドソーサー行きてぇ。


 ―――数分後


 結局7も聴いてんな……。めっちゃよかったわ……。

 あと9は聴いておくか。独りじゃない入ってるし。


 ―――FFⅨピアノコレクションズ視聴中


 ……えマジ? 何このアレンジ……。 

 いやこれはこれで……。めっちゃいいじゃん……。

 メロディーズオブライフはんぱないなこれ……。くっ、ビビ……!


 ―――数時間後


 結局借りたの全部聴いてんなー……。めっちゃいいわこれ……。

『エアリスのテーマ』― Final Fantasy Ⅶ

『決戦』― Final Fantasy Ⅵ

その他 ― Final Fantasy ピアノコレクションズ



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