ロスト・タウンー繰り返される未来―
初めて小説を書きました!不十分なところがあるかもしれませんが楽しんで頂けるなら幸いです。
〈プロローグ〉
「あと、二日持つか分からないな」
そう呟いた元少年兵・修也は、古びたホテルの一室に居た。
二一一二年一二月十日、第三次世界大戦は、終結した。
と、同時にそれは新たな波乱の幕開けでもあったー少なくとも、一人の少年と少女の運命を変えるぐらいにはーこれは、全てが喪われた街〈ロスト・タウン〉繰り広げられる、希望と絶望、そして願いの物語。
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「にしても、本当にど─すっかなぁ」
修也は、塗装がハゲかけている壁に背を預け、これからのことを真剣に考える。
このホテル―おそらく元はビジネスホテルだ―には、何故かよく分からないが、水道もガスもしっかりと通っている。
本当にしっかりと、1つの損傷もなしに、だ。
(…ここまでくると、不自然というか…さすがに、不気味だろ)
元々、このホテルを発見できたこと自体、奇跡だったのだ。
他の家は、ほとんどが半壊、ないしは吹き飛んでいる。
(俺の家も、か)
修也はフリーズしかけた思考を元に戻すべく、1回、2回と軽く壁に頭を打ち付けてみる。
ゴン、ゴンと鈍い音が伝わってくる。と、その時―
「…程度一の自傷行為を確認。シュウちゃんよ、あなたまさかのマゾヒストーうん、いい俳句ができたな」
「確かに五・七・五のリズムになっているけど、どんな俳句だよ。
というか何度も言わせんな、俺は『シュウ』でも『シュウちゃん』でもねぇ、『修也』だ!責任取れ!」
何の責任だよ、と自分で自分にツッコミみつつ、話し相手の方を向く。
その視線の先には、
「心配しないでほしい、今のは辞世の歌だから」
「辞世の歌―ってちょっと待て⁉なんで死のうとしてんのお前⁉」
「※読者の皆様へ
史上最短で逝く身勝手をお許し下さい。
それではシーユーハバナイスデー」
「いや本当勝手だな⁉変な史上初更新してんじゃねぇよ!あと何その変なテロップ⁉」
「見事な三段ツッコミ、恐れ入ります」
終始一貫して無表情な白髪の少女・未来が。
「こんなバージョンもある。
※ハローエブリワン!
アイラブユー♡
シーユーネクストステージ‼」
「一行目はまだ分かるけど二行目でいきなりの告白⁉しかも三行目の『ネクストステージ』って“来世”のことだろ‼」
「大々々々々正解。あとエクスクラメーションマーク大量使用しすぎなのでは?」
いやもうそれどーでもいーよ。
ともかく、今修也との白熱した(?)ボケツッコミを見せ、
何故かフォークを自分の喉に突きつけているこの死にたがりの少女
との出会いは、遡ること数日前―
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「…は…」
嘘だろ、と。修也はよろめきそうになるが何とか踏みとどまった。
『森塚町上里一―五七―八』
確かに、ここで合っている筈、だ。
それなのに、ということは、つまり、俺の家族はもうー
思考が、連鎖していく。
そう。
彼の眼前には、何もなかった。
文字通りに、何も無い。
死体が転がっている訳でもなく、家の部分だけ、ごっそりとえぐり取られた様に無くなっている訳でもない。
ただの、更地。
不意に、彼は得体の知れない寒気と怖気に襲われた。
(え、いや、ちょっと待て。嘘、だよな?さすがに、家族全員―俺以外全員死んでる、なんてことはー)
ドコニ?
へっ?と、冷静な自分は語りかけてくる
ドコニソンナコンキョガアルノ?
ナニモデキナカッタクセニ。
ナニモシヨウトシナカッタクセニ。
アノコノイッテタヒーローニナンテ、
ナレ ナ カッ タ ク セ ニ
「やめろ!」
気が付けば、叫んでいた。
「じゃあどうすればよかったんだよ!徴兵令を拒んで、家族と一
諸に暮らしていればよかったのかっ⁉」
歯を食いしばって。
「それともっ、あの子の望んでたヒーローみたく、颯爽と現れて、皆を救えばよかったのかっ⁉」
…けどさぁ、と、段々と彼の声は小さく震えていく。
「できないだろ、そんなこと…」
できるものならやっていた。
できなかったからここにいる。
その二つの事実が、修也を狭み、苦しめ、俯かせる。
その時だった。
突如後ろから、1台の軽トラがやってきた。
なんだ死体回収車か、と修也は些か物騒なことを考えていたが、やがてあることに気付く。
(回収人なら、自分の回収した遺体の特徴を調べられる筈だ。)
それは、一縷の望みだった。
成し得るべきことを成し得られなかった、
彼にとっての、最初で最後のチャンス。
彼は決意すると、叫びながら軽トラに駆け寄った。
「あのーっ、すみませー…ん?」
どうも様子がおかしい。
数秒たってから、修也はようやく、その違和感の正体に気付いた。
―――車が、動いていない。
通常、こんな町で誰かに話しかけられたら、無視をするか、一目散に逃げるかのどちらかの対応を取る。もちろん、それを承知の上で呼びかけたのだ。
(…無視された、のか?)
気を取り直し、すぐさま軽トラの運転席側に走る。
「あの~、どなたかいらっしゃいません…か?」
修也は、目をみはった。
「…マジか」
そこに居たーいや、在ったのは、
――ホルママリン漬けのびんの様な、
大きく頑丈そうな装置だった。
「…えーっと」
しかし、それよりも何よりも、
現在一六歳、健全でバリバリ女性経験皆無な修也の視線を惑わせたのは、
―白髪で透き通るように白い肌の、
下着だけを着用している美少女だった。
「…い、いやー、まさかね、こんな場所にこんな風にこんなイベントが待ち構えているなんて普通ないでしょ普通⁉」
最後の方は虚しい訴えに変わり、こんなラッキーイベント戦前に起きて欲しかった、なんどとかなり的外れなことを叫ぶ。
「それにしても…」
綺麗な子だなぁ、と思う。
そう、この少女には可愛い、というよりかは綺麗という言葉が似合っていた。顔つきからして、だいたい十四歳位だろうか、と修也が三歩程近寄り、透明な壁に手を触れたその時。
キューンと高い音が鳴り、修也が手を触れた場所から、壁がポリゴンの様に分解され、消滅していった。
「えっちょっ、おわっ!」
つまる所、中の液体―百Lは軽く越えるだろうーが、一気に修也の方へ押し寄せてまた。
「ぶっ…ぐはっ…」
驚く暇もなく、修也の顔に大量の水が叩きつけられる。
あやうく意識を失いそうになった、その時。
水の流れが、急に変わった。
水は修也を残して、すべて元の位置に吸い込まれていった。
そして、そこには。
「…大丈夫ですか?」
先程の白髪少女が立っていた。
どうやら、水は彼女が持っているペンダントに吸収されたようだ。
「えっと…」
聞きたいことは色々ある。
しかし今は、これを一番に言わせてもらおう。
「…とりあえず、服、着てください…」
…これが、修也と未来の出会いだった。
その後修也が軽トラから衣類一式を見つけ、滞在していたホテルに向かったのは、言うまでもないだろう。
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時を戻して、古びたホテル内の一室。
今までの事を回想していた修也は、ふと浮かび上がってきた疑問に頭を傾げる。
「そういえば、そのペンダントって結局何なんだ?」
修也は、未来の胸元に輝く蒼色のそれをみやる。
結局あの後、混乱に紛れて聞けなかったのだが、よくよく考えれば普通の水が普通のペンダントの中に吸い込まれる筈がない。
未来は珍しく―この少女は、感情の起伏が全くもって顔に表れないのだ―顔を雲らせ、
「別に」とだけ答えた。ふてくされた様にベットに潜る。
(地雷踏んだな)
実の所、修也はもうそれが何であるか、薄々感付いていた。
物体縮少保管装置。
文字通り、物体を縮少させ、密閉状態で保管する代物である。
それだけ聞けば便利な日用品でしかないが、これはあまり普及していない―というより、一般に知られていない。それは何故か。
これは、異能力〈フェイズ〉を使用しなければ作動しない装置なのだ。
フェイズとは、古来より伝えられてきた魔術とは全くもって異なるものである。
ある特定の家系のみ受け継がれる、一種の遺伝性質で、多くは念動力、奇少なものだと炎や水などの自然物を操るものだ。
修也は未来が未だモゴモゴと動き、ふてくされているのを確認すると、浅く溜息をつく。
(……やっぱり、『超能力者』だったか……)
超能力者とは、その名通り、〈フェイズ〉を操る者のことである。
外見が白髪蒼眼だから、何となく気付いてはいた。第一、普通の人間があんな試験管の様な場所で、水にひたっている筈がない。
きっと何か、事情があるのだろう。
修也はもう未来を起こすのは不可能だと判断し、仕方なく自分の寝床に戻った。
考えてみれば今は真夜中である。食料の心配は明日の朝にしよう―修也がそう考えていると、
「…ひとつだけ」
未来が、今にも消え入りそうな声で、話始めた。
修也は就寝準備をする手は止めず、耳だけをそちらに傾けた
「ひとつだけ、言えることがある」
「……何だ」
さりげなく聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。
「私は、あなたに尽くさなきゃならない。
私の人生の全てを賭して、私の体の全てを糧として」
修也の手が、止まった。
「私はあなたに未来と名付けてもらった以上、名付け親であるあなたを守る必要がある。例えどんな敵が襲ってきたとしても」
私は絶対に、あなたを守る。
「な……」
何言ってるんだよ、と言おうとしたが、言葉が詰まって出てこない。
―その理屈は、正し過ぎた。
どこまでも白く、白く、一点の矛盾もなければ、反論の余地もない。
確かに修也は記憶を―一般常識以外は―失っている彼女に、未来という名前を与えた。
それは事実だ。
しかし、修也は認めたくない。
「俺はな」
俯きながら、答える。
「そんなこと、されていいような人間じゃないんだよ」
俺はお前が思ってる様な奴じゃない―暗にそう言い放ち、修也はベットに潜った。
未来からの返答は、なかった。
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遠い、遠い、古い記憶。
かすかな残りカス、過去の残影。
人間の夢というものは、そんなものから作られるのだと、前に聞いたことがある。
誰から聞いたんだっけ と考え、そしてすぐに、ああ、兄さんか思い出す。
途端、辺り一面が草野原になった。
(ここは…)
どこだ、と考えるより先に、勝手に体が動き、すぐに息が切れ出す。どうやら走っている様だ。
何分位走っていたのだろうか、ふいた、目の前に人影が現れた。
本人では隠れているつもりなんだろうけど、ぜんぜん隠れきれていない、体全体が丸見えだ。
俺はまだ息を荒くしながら、その人影に向かって、呆れた声で呼びかける。
「…兄さん、丸見えなんだけど…」
「ん?バレたか…?いやまだバレてない筈。よし、もう少しだけ待ってみよう」
「心の声丸聞こえなんだけだけど…?」
人影はようやく自分が見つかったことに気付いた様で、落胆した様子で出てきた。
「バレてたのか…」
「当たり前だよ…バレてないと考えてる時点でもうアウトだから」
案の定、それは―俺の兄・連だった。
「修也は本当に人を見つけるのが上手いな…。」
「兄さんが下手なだけだよ。ったく、かくれんぼの時能力使って逃げるのやめてよ」
俺の兄は森塚家の中でも有数の超能力者―だった。
そう、これは夢。
蓮は、奇少な能力を所有していた為、すぐさま政府の募集する特殊能力兵団に引き抜かれた。―そしてそれは核兵器にも勝る『兵器』
として活用された。
つまり、生きている可能性は無いに等しい。
この夢は、俺の願望。
そのことを理解した上で、俺は今話している。
「ところで、あの子は何処に行ったんだ?」
「…あの子?」
「ほら、あの子だよあの子。この間ヒーローごっこしてたら、途中で入ってきた」
誰だっけなぁ、と呟いている兄さんを尻目に、俺は黙り込んだ。
(―あの子って)
てっきり戦争で死んだものだとばかり考えていたが、言われてみれば…。
『そこの君、私のヒーローになってよ』
あの子は…
「誰…なんだ?」
そして、視界は暗転した。
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目覚めると、もう朝だった。
修也は起き上がって一つ伸びをすると、先程の夢のことを考えた。
(あれは、一体…?)
何か嫌な予感がする。
そう感じた修也は、すぐさま未来が先日寝ていたベットに駆け寄る。
「おい、未来?返事しろ?」
後から考えてみると、この時点で既にフラグは立ち揃っていたと言える。
未来は、
―数多の血痕を残し、
消えていた―
nextStage
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