#3 悪の戦隊
そこはまるで雲海のなかの景色であった。
辺り一帯は白一色に染まり、深い霧のなかに閉じ込められたようだ。
そんななか、ぽつりぽつりと人影がひとつふたつ差した。
ヒュウウウウウ……。
尾根から吹き下ろしてくる風に押されて、立ちこめていた雪煙が次第に晴れ渡ってゆく。
雪原に二本の足で立っている人影は異形のものたちであった。
がっちりとした体躯の、鷹を模した強化スーツをまとった男――デッドホーク。
そして、若干小柄でしなやかな体型のギルタイガー。虎をイメージした強化スーツをまとう彼は身を屈めて辺りをキョロキョロと見回している。
「うーん。これじゃあ、どこに埋まっているのかわからないや」
「いや、そこだ」
どこをみているといわんばかりに、デッドホークが確信を持って手前の一点を指し示した。
「ホント……?」
ギルタイガーが疑わしげな声をあげた。内蔵されてある赤外線カメラの精度はデッドホークもギルタイガーも変わらない。
自分が捉えられないものがどうやってわかるのか?
それでも警戒しつつそろそろとその一点に猫足で歩み寄ってゆくと――
ドウッ!!
突然、音をたてて雪床が噴きあがった。
「わわっ!?」
ギルタイガーが思わず尻もちをつく。
雪煙を蹴立てて人影が舞い上がると、そのものは颯爽と二人の眼前に降り立った。両腕に若い女を抱えている。
「黄金の心で悪を討つ!
黄金戦士オウルマン!!」
オウルマン――それはフクロウを模した強化スーツをまとう黄金色の戦士だ。かつての築地での闘いで二人は彼を仕留めきれなかった。
「遭対協や県警レスキューを殺したのはおまえらだな!」
オウルマンがバイザー越しに怒りの視線を放ってきているのがわかる。
「それがどうした?」
デッドホークこと鷹匠陣が仮面の内側からにらみ返す。
「とりあえず、こいつは返すぜ!」
なんとオウルマンが抱えていた若い女をデッドホークに向かって放り投げた。 宙高く放り投げられた女は空中で一回転すると、デッドホークの傍らに寄り添うように着地した。
まるでくノ一のような鮮やかな身のこなしだ。
「やっぱりあんた、こいつらの仲間か」
「どうしてわかった?」
若い女がオウルマンの問いに反問した。
「雪崩に飲み込まれたとき、あんたは目をつむらなかった。普通なら、目を固くつむっておれにしがみつくはずだ。
だけど、あんたは抱きつきもせず、雪崩とは別の方向をみていた。おれがブオトコだからという理由だけではないはずだぜ」
「フフフ……どっちみちおまえは死ぬ。遭対協やレスキュー隊と同じく、雪のなかに埋まってくたばるのさ」
そういうと女は着ていたヤッケを脱ぎ捨てハイレグレオタードの姿をさらした。
「なんだ、こんなところでお色気攻撃か?」
「リメイション!!」
女が持っていたスマホをかざした。
まばゆい光が発せられ全身をつつむ。
その光を受け、レオタードは強化スーツに形状変化した。
「ベムシャーク!」
若い女――鮫島凜花が名乗りをあげた。サメを模した強化スーツ。築地での闘いで海から現れた女戦士だ。
――リメイションシステム!
女の変身シークエンスを見て、オウルマンこと木暮は仮面の内側で舌打ちを漏らしていた。
オウルマンと変身原理は同じだ。形状記憶強化繊維のメタモルナノファイバーが特殊な信号波を受け、強化スーツに変換着装する。
(……やっぱりそうだったのか)
リメイションシステムの開発者である白鳥泰蔵の義理の息子・石動稜はワジャフに身を投じ、強化兵士プジェクトを推し進めてきたに違いない。
おそらく彼らのスーツには木暮がまとっているそれとは違って副作用はないのだろう。開発者自らが改良に改良を重ねた完成品の可能性がある。
フェイスガードの内部で木暮はお香のような匂いを嗅いだ。泰蔵の手紙にしたためられていたメッセージ物質だ。鼻腔内から脳の血管を通って神経細胞に働きかけてくれる。
だが、その効力は約20分だ。20分を過ぎると、脳神経が誤作動を起こして筋繊維痛症にも似た激痛を引き起こす。
「ここはボクに任せてくれないかなあ」
ギルタイガーが虎の仮面を巡らせて背後のふたりをみた。
「三人で一人の敵を倒すなんて、まるで――」
「まるで、なんだ?」
言葉を区切ったギルタイガーに向かってデッドホークが続きを促す。
ギルタイガーは視線を目の前のオウルマンに戻すといった。
「ボクの嫌いな、戦隊ヒーローみたいじゃないか!」
いうが早いかギルタイガーはとびかかった。
鋭い爪を振り立て、まっすぐオウルマンの頭部に向かって一撃を放つのだった。
次回へつづく
テレ東の「じっくり聞いタロウ」にT氏がでていたが、疑惑に関してはなんの説明も釈明もなかった。
「真相を激白」するのではなかったか? 看板に偽りあり!!