#2 白い津波
「な…なんだ、これ!?」
北穂高岳の南陵テラスに到着すると、遭対協の民間救助隊や県警のレスキュー隊の面々が雪原に埋まっていた。
ここで一体なにが起こったというのか? 木暮は積雪を掻き出し、一人一人の生死を確かめた。
「……死んでる」
雪に埋まった8人全員が事切れていた。確かこのものたちは行方不明者の捜索に出向いたチームのはずだ。
その途中、なにかに出会って襲われたのか?
遭対協も県警レスキューも山登りのプロだ。滑落して死んだとは思えない。
「うう……」
突然、うめき声が少し離れた場所から聞こえてきた。
だれかいる?!
まだ、生きてる!
木暮は声の聞こえた方へゆくと、雪面から突き出た腕をみた。その腕がわずかに震えている。
「いま助ける!」
木暮は急いで周囲の雪を手で掻き出した。
顔がでてきた。
若い女だ。顔は雪焼けしておらず、登山初心者のようにもみえる。行方不明になった三人組パーティのひとりだろうか?
「大丈夫だ。チカラを抜いて」
木暮は震える若い女をはげますと、両腕の脇の下に手を差し入れ、一気に引きずりあげようとした。
と、そのとき――
ドドドドド……。
東面に張り出した雪庇が崩れて雪崩が発生した。
雪の津波が物凄い勢いでこちらに向かってくる。
木暮は背負っていたザックを素早く足もとに下ろすと、なかから例のジャケットを取り出した。
案の定だ、特殊な変換信号波を発する専用スマホは内ポケットに仕込まれてあった。
雪煙が唸りをあげて押し寄せてくる。
木暮はスマホにコード番号を入力すると、声高く叫んだ。
「リメイション!!」
瞬間、木暮はスマホの発するまばゆい光につつまれた。
次回へつづく
なにもいうまい、語るまい(-"-)