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誤月

作者: 古川アモロ
掲載日:2018/01/01

 


 正月。


 なにが正しい月なものか。

 誤った月ではないか!


 新春と呼びながら春ではなく、睦月(むつき)にもかかわらず、(むつ)まじいことなど何もない。

 祝日と言われながら、私は祝うことなど何もない。


 そうだ、正しい月なんかじゃない。


 誤った月。

 誤月(ごがつ)だ。


 私だって正しいことなんかしないぞ。

 だれがするもんか。


 そういうわけで私は、元旦から泥棒に入ることにした。


 考えてみれば、これほど容易に窃盗ができる日は、他にないのではないか?

 一家そろって出かけている家も多かろうし、あるいは社員寮なら住民がすべて帰省中のケースもあろう。


 いや、もしも盗みの最中に見つかったとして、相手は朝から大酒を飲んでいる。

 酔っ払いと取っ組み合いになっても、そうそう負けはすまい。

 ましてそんなフラフラの状態では、追いかけて来ようもないではないか。


 私はある学生アパートに目をつけた。

 学生ならば、間違いなく里帰りをしているだろう。

 アパート中、もぬけのカラに違いあるまい。


 はたして学生たちは、部屋に金品を置いているだろうか。

 いや、それはどうでもいいのだ。

 金品はどうでもいい。


 私は、正月を「正しくない月」にしたい。

 それだけなのだ。

 だから、被害も被害者もどうでもいいのである。


 2階建ての木造アパート……私は片っぱしからチャイムを押した。


 ピンポーン。

 ピンポーン。

 ピンポーン。

 ピンポーン。

 ピンポーン。


 しめしめ。

 思ったとおり、誰も出てこない。

 人の気配はまったくない。


 持参したカバンから獅子舞(ししまい)の面を取り出し、すっぽりと(かぶ)った。

 そしてフロシキを身にまとう。


 この姿なら、だれかに見られても年始回りの獅子舞にしか見えない。

 くだらない風習のおかげで、盗みがやりやすくてしかたがない。

 これだから正月は誤月だというんだ!


 私はカバンから、電動ノコギリを取り出し、スターターを引いた。


 ギュルルルン!

 ブオオオオオオオン!!!


 いきおいよく回転する刃を、ボロい木のドアに押し当てる。

 ギャオオオオオオオオ!!

 バリバリバリバリ!

 ドウンドウンドウン!!

 ガリガリガリ……!!


 舞い飛ぶ木屑(きくず)

 うなる轟音―――どんどん切れていく。


 切断されるドア。

 じつにあっけない。


 私はカバンから、家庭用掃除機ロボットを取り出した。

 正しい商品名はなんだったか……サンバとかタンゴとかそんな名前だったはずだ。

 

 サンバのスイッチを入れ、あたり一面散乱した木屑を吸いこませる。

 証拠隠滅(しょうこいんめつ)―――


 完璧だ、なんのぬかりもない。


 ブイイイイイイイン!!

 ズオオオオオオオ!


 チャンチャカチャンチャン♪

 チャッチャララーラー♪


 ところでサンバが作動しているときに勝手に流れるミュージックは、どうやったら消せるのだろうか?

 説明書を読んでもよくわからない。

 まあ、べつに鳴ってても構わないが。


 ララララララララララ~♪

 ズンチャッ、ズンチャッ、ズンチャッチャ♪



 さて、いよいよ室内を物色と行くか。

 ふーむ、やはりロクなものがない。


 8畳ほどの1部屋。

 風呂とトイレはあるようだが、まあ一人暮らしの学生ならこれで十分か?

 それにしても片付いている。


 自分の学生時代には、テレビ、ステレオ、とにかく物だらけだったものだが……


 もっともそれは10年も前の話。

 いまの学生は、パソコンとスマホがあれば、生活必需はほぼ(まかな)えてしまうのだろう。

 それこそ、勉強にもほとんど本など使わないのではないか?

 私の若いころは、紙のなかで生活しているようなものだったがね。


 いや、紙にとどまらない。

 最近の家電製品の小さいことよ。

 テレビも薄型で場所を取らないし、コンビニも自販機もどこにでもあるだろうから、冷蔵庫だって小型のもので十分なのだろう。


 自分の学生時代と比べて、なんと恵まれた生活なのか。

 私は無性に懐かしくなってきた。

 夢と希望に満ちあふれていた、若き日の情熱よ、青春の日々よ……


 私はカバンから、学生時代のアルバムを取り出した。

 ベッドに寝転がり、ページをめくる。

 なにか頭が重いと思ったら、まだ獅子舞を被ったままだった。

 乱暴に脱ぎ、窓をあけて隣家の庭へ放り捨てる。


 ふたたびベッドにごろりと転がって、アルバムをながめた。


 当時付き合っていた彼女と行った、遊園地。

 サークルのみんなと過ごした文化祭。

 成人式、懐かしき友よ……


 写真をながめているうちに、私はたまらない気持ちになってきた。

 涙がこぼれて、こぼれて……


 酒だ。

 こんなときに素面(しらふ)でいられるものか。


 私はカバンからシャンパンを取り出した。

 勢いよく栓を開く。


 ポォン!

 パリィィィィイイン!!


 飛んでったコルク栓が蛍光灯を砕く。

 それがどうした!

 私はこぼれまくるシャンパンで忙しいのだ。


 あわててラッパ飲みをする。

 美味い、美味い、う、うま……


 ブバッ!!


 ものすごい炭酸。

 マーライオンのごとく、ふき出してしまった。

 じゅうたんに、カーテンに、染みがしゅわしゅわと広がっていく。


 い、いかん。

 唾液が部屋中に飛び散ってしまった。

 もし警察が来てDNA鑑定をされたら、私の犯行だと一発でバレてしまう。


 なんということだ!

 これでは盗みを働くことが出来ないではないか!

 ああ、なんということだ……


 私は迷った。

 一年の(けい)は元旦にあり。

 それが、いきなり初志を曲げてしまっていいのか?


 私は悩みつつ、カバンから明日の新聞を取りだした。

 地方版の記事をながめ、自分の犯行が載っているかを慎重に探す。

 地方版、地方版……あった!


『○○アパートにて空き巣逮捕』

『獅子舞の姿で侵入、天才的手口』

『現代のルパン捕まる!』


 間違いなく私のことだ。


 最悪だ。

 やはり、このまま窃盗を続けるわけにはいかない。

 この記事の通りになってしまう。


 私は、カバンから予備の獅子舞を取り出して被った。

 誰にも見つからないよう、そっと部屋をあとにする。


 チャララ、ラッタララ、ラッタラ♪


 私はサンバを回収し、カバンに仕舞った。

 獅子舞の姿のまま、アパートの駐輪場にあったスクーターにまたがる。

 ピンク色の、ものすごいぴかぴかのバイク。


 こんなのに乗って通学するヤツの気が知れない。

 一度、持ち主の顔を(おが)んでみたいものだ。


 だが、キーがない。

 ああ面倒くさい!


 私はカバンから、バイクの鍵を取り出してエンジンをかけた。

 猛スピードで公道へ向かう。


 風にあおられる獅子舞の頭。

 首がもげそうになる。


 最低だ。

 なにも盗めなかった。

 やはり正月なんてロクなもんじゃない。

 誤月だ。


 誤月は、なにももたらさない。

 誤月に生まれる小説なんか、誤りだらけだ!


 ストーリーの整合性もなにもあったもんじゃない。

 どうせ初夢でしたとかいうオチで、締めくくるつもりだろう。



 そうはいくもんか!


 この不条理を、この「正月」という文化を根絶するべく、私は社会に訴えねばならない。


 そのためにはどうすればいい?

 なにをすればいい?

 そうだ、世の人々に私は訴えるべきなのだ!

 正月の不要を、正月の不必要を!


 私はカバンから、スマートホンを取り出した。

 小説家になろうのアカウントを開き、バイクを走らせながら両手で一心不乱に小説を打ちこむ。



 タイトルは「誤月」。



 正月。


 なにが正しい月なものか。

 誤った月ではないか!


 新春と呼びながら春ではなく……






菜須よつ葉さん企画、【よつ葉お正月企画】参加作品。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 暮伊豆さまのレビュー帳から参りました。 ハチャメチャ! 新聞のシーン、めっちゃウケました! 面白かったですw
[一言] 暮伊豆様のレビュー帳から来ました。 すごいノリですね。 扉を電鋸でぶっ壊すくだり、○ンバと、ツボでした。 めっちゃ笑いましたよ。
[良い点] 『カバンから明日の新聞を取りだした。』 ぬおーー! 頭がおかしくなりそうですよ! 同じ日を繰り返すアレですか!? 成功するまで繰り返すアレですよね!? 面白かったです!
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