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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第二記:春国編
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一章 花舞う都

第二記:春国編の一章目・花舞う都を更新しました。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

一章 花舞う都

 蓮は春国を謳歌していた。花びらが年中空中に舞っている国などどこを探してもないだろう。なんて綺麗なんだろう、と目を輝かせた。蓮だけでなく真聖も夢中だ。

 蓮たちを春国の人たちはじろじろと見てくる。蓮の銀髪が珍しいのであろうか、と真聖は心配するがそんなことではなかった。蓮たちが来ている服装は冬国の服で寒さに強く厚く出来ていたのだ。冬国の服装は春国の人たちからみたらミノムシ状態で歩いているようなものだった。

「なんかジロジロ見られてるね」

「多分、この格好がダメなんだと思う。早く簡単な格好になろう。ちょっと暑いし・・・」

 蓮はそう言って真聖と家の影に隠れてきていた厚手の着物を脱いだ。すると一気に涼しくなる。少し汗で滲んだ着物をバサバサと振る。厚手の着物を手に持って再び歩き出した。

「ねえ、これからどこに行くの?」

「とにかく、春国の首領様のとこに行ってみる?」

 真聖はそう言った。

 出発する前に柊からあることを言われていた。


 いいか、真聖。

 華札は全部で十二枚じゃ。華札継承者はそれぞれの国に住んでいるはずじゃ。春国には弥生の札、卯月の札、皐月の札が存在しておる。彼らを探し出すのじゃ。体のどこかに華札に関する動物や植物の痣が残っているはずじゃ。

 華札継承者には他の花札継承者の存在を感じることができるのじゃ。しかし完全な場所を察知できるわけではないから少しは時間がかかりそうじゃがの・・・。


 もしかしたら今道を行き交う者たちの中にもしかしたらいるかもしれない、と考えてしまう。真聖も潜在意識の中でもやもやとした気配だけを感じる。

 その気配はとても気持ちのいいものではなく、近いと思えばどんどん離れていく。移動する目的地を追うなど億劫過ぎる。

 真聖はただ道をまっすぐ進んで行くと目の前に立派な宮殿が現れた。蓮と真聖は息を飲んだ。朱色に染められた柱が宮殿を支え、金で出来た獣の細工が光っている。宮殿の壁にはたくさんの花が植えられ花びらを飛ばしている。

「噂には聞いていたけど、すごいな」

「花舞う春国って名前は本当だったんだね!」

 蓮と真聖は宮殿へ入ろうとした。しかし突撃訪問状態であるために追い返されそうになる。真聖が話をしようとしてもなかなか兵士は納得してくれない。最終的には役人たちもやってくる騒ぎになってしまった。蓮と真聖が困っていると役人たちの間をかき分けて誰かがやってくる。

「これは一体、何の騒ぎだ?」

 やってきたのは男性だった。黄色い着物を着て巻物を大量に持っている。黄緑色に染まった瞳をこちらに向けている。男性が歩いてくると蓮と真聖を囲んでいた役人たちが道を開け始める。

 相当身分の高い人間らしい。

「壮さま・・・」

 ソウと呼ばれた男性は蓮と真聖の視線に合わせてしゃがんだ。黄緑色の視線が蓮にぶつかる。心を見透かされそうで恐ろしい。

「お前たち。一体宮殿に何用か?」

「ぼ、僕たちは・・・」

 真聖は悩んでいた。華札継承者だといえばもしかしたら通してくれるかもしれない。しかし柊の言いつけを破ることになる。自分の正体を明かせば子供である自分を利用してくる大人が出てくるかもしれない、と。

 すると蓮が壮の方へ一歩進んだ。

「僕は蓮。冬国首領の蓮紀の息子です。春国の首領さまに会わせてもらうことはできませんか?」

 それを聞いた壮たちが驚いた。役人たちは口々に言う。


 このチビが冬国の王子?!

 いや、しかし冬国首領の家は代々銀色の髪をしていたと聞いたことがあるぞ・・・。本当なのか?

 でもなんで春国に冬国首領の子がいるんだ?


「お黙りなさい!」

 壮の声が響いた。驚いて全員が壮の顔を見る。壮は失礼、と蓮のフードに手をかけた。壮がフードを外すとそこには雪のように銀色に染まった髪が姿を見せる。それを見て周囲は言葉を失った。

 冬国首領は代々銀色の髪を持つ一族であった。

 その言葉が今証明される。

 大人の視線が怖くて固まっている蓮とどうすることもできない真聖に壮は助け舟を出す。壮が集まっている役人たちに大声で言った。

「この子らは私がお預かりする。お前たちは持ち場に戻り、仕事を再開してくれ」

 役人たちは自分の持ち場に戻っていった。数分経つとその場に多くの大人たちの姿はなく、残ったのは蓮と真聖と壮の三人だけになった。

「さて、あなた方にお聞きしたいことは山ほどありますが・・・その前に」

 壮は蓮と真聖の持っていた厚手の着物を取り上げる。それを見ると少し汚れが見受けられる。そして蓮たちの顔を見ると少し汚れている。

「私の屋敷へひとまずいらっしゃい。まずは風呂に入って汚れを落とすのだ」

 蓮と真聖は二人揃って礼を言うと壮の後ろについていった。

 すると真聖に光の一閃が頭を貫くような感覚に襲われた。危険を察知したのだろうか、と思うが今目の前に壮が歩いている。危険なことなどないと思いたい。

「どうしたの?」

「いや、なんか変な感覚があってさ」

「どういうこと? もしかして、華札継承者が近くにいたりして!」

「よく分からないけど、でも気のせいかもしれないよ。だってほら、ここずっと精神尖らせてきたから余計に敏感になっちゃったんだよ」

 真聖は笑った。小声で話しているために前を歩く壮には気づかれなかった様子だった。



「こっちへ」

 壮の屋敷の中へ入るとすぐに荷物を降ろして女官が沸かした風呂へ入らされた。

「あったかーい」

「おなじくー」

 二人は偶然の産物を味わった。風呂など久しぶりだ。疲弊した体を癒す。安堵のため息を漏らした。風呂から上がり着替えを済ませた時、壮の待つ部屋へと通される。

「湯加減はいかがだったかい?」

「ちょうどよかったです」

 蓮がそう言った。壮の黄緑色の瞳が二人を見つめている。

「では本題に入ろう。疑っているわけではないが、本当に冬国首領の子なのか?」

「はい。嘘はついていません」

 蓮のまっすぐな目に壮は静かに頷いた。その瞳をする人間は嘘などつけないだろう、とつぶやいた。そして蓮の隣にいる真聖にお前は何者だ? と尋ねる。

「僕は真聖と言います。蓮の親友で幼い頃から側仕えをしています」

 壮はなるほど、とつぶやくと二人に旅の経緯を聞いた。

 世界を滅ぼしかねない脅威である黒龍を封印していた華札が破られ、黒龍が復活してしまったこと。そして自分の父親が黒龍との戦いで重傷を負い、意識が戻っていないこと。

 再び封印するため、伝説の華札の力を継承している華札継承者を探している。

「なるほどね。確かに、我が国の封印も弾けたと聞いた」

「壮さん。僕たちを春国首領さまのところに会わせてくれませんか?」

 壮は少し唸ると口を開いた。

「ことの成り行きは理解した。しかし、私の身分では謁見は難しいだろう」

「へ?! でもさっき、壮さんのこと『壮さま!』ってみんな言っていたんじゃないですか?」

「確かに私は役人たちを管理・監督する役職に就いている。しかし、首領に会えるのはそれより上の大臣級の人間でなければならない。それだけでなく、それ以上に根深い問題もある」

 蓮は首をかしげた。

 根深い問題とは一体なんなんだろうと疑問が頭の中を回る。柊から聞いた話以外に何か知らないことがあるのだろうか、と。

 それは一体なんですか? と聞こうとした時、壮が中庭を見る。もう時間は流れて夕焼けになっていた。しかしだんだんと夜の闇へと変化していく。

「蓮、真聖。どうやらだいぶ長風呂だったみたいだね」

「す、すいません・・・」

 久しぶりのお風呂で時間を忘れて長風呂をしてしまったようだった。自覚して蓮と真聖は恥ずかしくなり顔を赤くする。壮はずっと真顔を保っていたがふと口元が緩んだ。

「ずっと歩きっぱなしだったんだろう。何しろ冬国から春国だからね。今日はここに泊まって行きなさい。後で女官に部屋を案内させよう」

「はい・・・」

 結局二人は壮の屋敷に泊まることになった。

 野宿を続けてきた二人は久しぶりに布団に寝られる喜びに浸る。過酷な旅で少しは大人になったのかと思いきやまだまだ子供だ。

「ねえ蓮」

「なに?」

「華札継承者見つかるかな・・・。だって首領さまに謁見できないんだよ?」

「そう、だね」

「壮さまも難しいって言ってたけど・・・」

 首領に謁見するという道が閉ざされた今、次にどうするべきなのか分からない。唯一の道が塞がれて蓮と真聖は天井を見上げてため息をついた。



 そして子供が眠る真夜中。

 月の光が壮の屋敷の中庭を照らす。壮は自室から中庭を眺めていた。壮は蓮の顔が忘れられずにいた。特にあの銀髪が印象に残って頭から離れない。


 冬国首領の息子・・・。

 冬国首領の名は華札継承者の睦月蓮紀・・・。彼が意識不明である時点で冬国にある封印は行えない。だから春国に来たのか・・・。知らなかった、蓮紀に息子がいたとは・・・伝わってこなかった・・・。


 壮は着物を脱ぎ、上半身をあらわにさせる。

 普段着物に隠れて見えない場所だが、壮は役人であり兵士のような武芸とは程遠いと呼ばれているが多少の手ほどきは受けている。そのため、身は引き締まり男の体をしていた。

「今、首領に会ったら・・・あの子たちは・・・」

 壮は月を見上げてつぶやいた。



 蓮は夢を見ていた。

 庭で真聖と一緒に走り回っている様子だった。遊んでいるところを優しい眼差しで見つめる蓮紀と柊。いつもの平和な日々。ずっと続くものだと思っていた。

 しかしその平和は一気に崩れる。白い着物が血で滲んで虫の息で倒れている蓮紀の姿を見た。

「父上!」

 蓮は叫んで近寄る。すると今度はそのそばに着物を血で濡らした真聖と柊も倒れている。

「柊! 真聖!」

 蓮はまた叫んだ。真聖の体を揺すると手のひらにベットリと血が付着する。その瞬間、今までに感じたことのない恐怖が襲う。

 視界は全て灰色に変わり声が出なくなる。

 蓮は目から大粒の涙を流し、落胆した。自分を慈しみ愛を注いでくれる蓮紀、自分を厳しくも優しく導いてくれる柊、自分と一緒に日々を楽しく過ごしてくれる親友の真聖。全てを奪われる恐怖に蓮は打ちひしがれた。


 

 蓮は息苦しくなって飛び起きた。首からは汗をたくさん流していた。蓮の隣では真聖が安らかな寝息を立てていた。

「怖い夢・・・」

 蓮はそうつぶやいてまた布団の中に入っていった。もしあの夢が現実になってしまったらと考えるとさらに恐ろしい。これ以上は考えないでおこうと蓮は無理やり目を閉じて眠りについた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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