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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第一記:はじまりの記憶
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四章 旅立ち

お久しぶりです。遅くなりましたが更新します。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

四章 旅立ち

「蓮さま。真聖。くれぐれも気をつけるのじゃぞ」

 二人は返事をすると、屋敷に背中を向ける。振り返るとそこには見送る柊の姿がある。名残惜しい、涙が出そうになるが堪えて前を見て屋敷を出て行った。

 柊も二人が見えなくなるまで見送った。

「華札よ、どうかあの子達をお護りください・・・」

 柊は黒龍が封印されていた場所を向いて祈り続けた。



 森を歩いて歩く蓮と真聖だが蓮が行きたいところがあると言って道を外れ、向かったのは小高い丘。

「ここは?」

 真聖が聞くと蓮は奥にある石碑を指差した。近くまで行くと手を揃えて祈った。

「おじいさまと母上のお墓だよ。六歳の時に父上に連れて行ってもらったんだ・・・」

 蓮はその時のことを思い出していた。


「蓮。挨拶をするんだ」

「僕、母上に会いたい・・・。蓮一人はいやだよぉ〜」

 蓮紀に手を引かれ、自分よりも大きな石碑を見上げる。なにか文字が掘られているが幼い蓮には難しいものばかりだった。蓮紀は口癖のように言っていた。

「ここに来れば母上に必ず会えるんだ。お前はいつも母上に守られているんだ」

 蓮紀がそう言うとそうなの〜? と蓮は言った。


 それから四年の月日が経過し、今は少しばかり大きくなった蓮と真聖と手をあわせる。椿が亡くなった時の記憶はだんだんと薄れてきている。蓮はこれからのことを刻み付けながら祈りを捧げた。

 そして丘を下りて春国に向けて歩き出す。

 馬に乗れない二人にある唯一の移動手段は足である。少し華奢な足を一歩ずつ前に進めて道を歩く。風が前から吹くと蓮の銀髪を揺らした。

「風、なんか生温かいよね」

「冬国は冷たい風なのに、なんか不思議だね」

 しかし真聖は少し違う感覚を味わっていた。いつもより空気が重い気がするのだ。今まで感じたことのない感覚だったが不安定ながら感じる。

 真聖がハッとなって空を見る。すると空が次第に黒くなり始めあたりは邪悪な瘴気に包まれる。真聖と蓮は体をくっつけて離れないように固まる。黒い瘴気の中から黒いマントで顔を隠す男が現れた。

「誰?」

「・・・我の邪魔をする者は排除せねば」

 男はニヤリと笑い、蓮のそばまで寄ってくる。真聖と蓮は動けずにいると真聖の体が輝き出し邪悪な瘴気とは違う綺麗な波動が男を弾き飛ばした。

 蓮も驚いているが当人の真聖も驚きを隠せないようだ。真聖の黄色の瞳も輝きに満ちている。

「お前・・・何者だ。まあ、お前たちのような子供なら簡単に殺れるからな。覚悟しておけ」

 男は瘴気の中に消えていった。すると瘴気は晴れ、元に戻った。

「真聖・・・、今の・・・」

「僕、今何をしたの? わからないよ」

 戸惑う真聖に驚く蓮。一体何が起こったのだろうかと固まる。

「華札の力なのかな?」

「じゃああの男の人はまさか、黒龍?!」

 二人は信じがたいが、あの人物が現れた瞬間にただならない瘴気が立ち込めたというのは間違いなく黒龍だった。

 二人は危ない危ない、と胸をなでおろした。


 あたりは暗くなった。

 旅をしている以上宿がない場合は野宿という方法を取る。柊が教えてくれた通りに森の中に生えている山菜を摘み火を起こし焼いて食べた。

 しかし火を起こすのも一苦労。二人は交代しながら気の棒を擦り付ける。二人の手は冬国特有である夜の寒さで手は真っ赤になって切れた。痛みに耐えながら火を起こす。

 山菜を食べた後、二人はを掛け布団替わりにして眠りについた。

 しかしいつものように眠れずに二人は満点の星空を見上げながら話し始めた。

「父上と柊、大丈夫かな・・・?」

「大丈夫だよ、多分」

「多分って・・・、なんでそんなに分かるの? 華札継承者だから?」

「違うよ。なんとなく」

 父親が華札継承者。しかし蓮の体には痣はどこにもない。正直、真聖にはある華札継承者の証がちょっとばかり羨ましく感じた。真聖は起き上がって蓮を見た。

「見て! 流れ星!」

「え?! どこどこ?!」

 蓮も起き上がって真聖と夜空を見上げる。二人は体育座りをして空の星を数える。夜空なんてあまり見上げなかった。あまりの綺麗さに二人は言葉を発せなかった。

 真聖はそのまますぐに眠ってしまった。蓮は一人仰向けになって夜空を眺めていた。蓮紀が今何をしているのか、心配でならない様子だった。しかし、これは自分で決めたこと、きっと父上は許してくれるはずと自分自身を奮い立たせていた。


 もし黒龍が四季を覆ったらこの綺麗な星空も見えなくなるのかもしれない・・・。僕は、父上のように強くもないし、柊のように頭がいいわけでもない、かといって真聖のような不思議な力もない---。

 僕にできることはないかもしれないけど、僕がやらなきゃ僕が納得できない!


 流れ星が自分に降り注ぐような感覚に陥る。

 今までこんな綺麗なものを見たことがない。まだ十年しか生きてはいないがなんだか感慨深くなってしまう。

 頑張ろう・・・、僕なりに・・・。

 そう呟いて蓮は目を閉じた。



 翌朝。

 蓮が目をこすりながら起きて隣を見ると、真聖がいない。どこに行ったのか、とあたりを見回すがそれらしき人物の姿はない。

「うわあっ?!」

 真聖の叫び声が響いた。蓮は真聖に何か起こったのかと慌てて声のする方向へ走っていくと真聖が茂みの中で逆さまの状態で足をバタバタとさせている。

「真聖! 何してるの?!」

「蓮! 助けて! 早くッ!」

 蓮は急いで真聖を引っ張り上げる。すると助かったー、安堵の声を出した。真聖の手にはキノコが握られている。蓮が経緯を問うと真聖は朝食の材料を探していた際、茂みの中にキノコを見つけた。採ろうとしたその時につまずいてそのまま茂みの中に突っ込んでしまったという。

「驚いたよ」

「ごめんね、蓮。でもほら、これで柊さまに教えて貰った美味しいキノコのスープができるよ」

 蓮と真聖は元の場所に戻るとすぐに火を起こして鍋の中に刻んだ野菜やキノコを投入し、美味しいキノコのスープが完成した。香ばしいこの香りは周囲に広がり、二人が朝食にありつく時には森の動物たちに囲まれていた。

 たくさんの動物たちに囲まれて二人は朝食を頬張った。動物たちにも採ってきた果物をおすそ分けして時間はゆっくりと過ぎていった。

 片付け終わると旅支度をしてまた歩き出した。

 十歳にしては小さい体である蓮についに疲労の兆しが見え始める。前に進むことをやめることなどできない。乱れる息を整えながら真聖と一緒に進んで行く。


 まだ頼りない背中のまま、蓮と真聖は前へ前へと歩き出した。

 この先、何があるのか知らないまま希望を胸にただ進んでいった。蓮の銀髪が風になびく。そしてその風はほのかに暖かい。

「暖かい風だ・・・」

 蓮がそう呟くとどこかで咲いていたであろう花びらがこちらへ飛んできた。薄桃色の綺麗な花びらだった。蓮は花びらを掴んで真聖に見せる。

「花びらが飛んできたよ」

「蓮! もうすぐだ! 花びらが飛んできたってことは、もうすぐ春国だよ!」

 真聖が指差した道をまっすぐ進むと最初の目的地である春国に到着する。まだ冬国を出たことのない蓮は心が躍った。

 一体、この先に何が待っているんだろう。

 興奮する心を抑えながら二人は花びらが飛んでくる方角に向かって歩き出した。

最後まで読んでくださりありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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