七章 大陸に吹く新たな風
『華札のクニ』ついに最終章を迎えました。長かったです。最後まで読んでくれたら嬉しいです!藤波真夏
七章 大陸に吹く新しい風
黒龍を封印してから十年の時が流れた。
冬国の雪が溶けてきたちょうどその頃、首領の暮らしている屋敷では華やかな祝宴が行われていた。屋敷の中庭にはたくさんの来賓が招かれている。すると屋敷の奥から正装をした柊が現れた。その瞬間、来賓たちは静まり返る。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。これより、戴冠の儀を執り行います」
すると蓮紀が登場する。しかし今回の主役は蓮紀ではない。その次に奥から現れたのは、水色の線が入った白い着物、腰まである長い髪を一つに結っている。そして生まれ持った水色の瞳。
十年の時を経て立派な青年に成長した、蓮、その人である。
そのそばには額に鉢巻のような布を巻いて冬国の正装に身を包んだ、真聖も控えていた。剣飾りも剣につけて今でも立派な誇りである。彼も立派に成長し、蓮の信頼する側仕えとなっていた。
女官が丁寧にあるものを運んできた。それは冬国首領の証である銀細工の冠である。これは歴代の冬国首領が身につけてきた歴史のあるものだ。これを被ったものは冬国首領として名前が刻まれる。
それを蓮紀が受け取り、来賓に見せる。
「この美しい国を守り、人々の笑顔を守るのが首領の務め。それを果たされよ」
蓮紀がそう言うと蓮はしゃがみ頭を垂れる。その蓮の頭に銀細工の冠がすっと頭にはまった。雪の結晶が輝く。
「ここに睦月蓮を新たな冬国首領とする!」
言葉が響いた瞬間、拍手が響く。来賓たちだけではない、冬国の人々も若き首領の誕生の瞬間を見ようとたくさん屋敷に押し寄せている。人々からの拍手が止めどない。
「おめでとう!」
「ばんざーい!」
様々な声が響いた。蓮は来賓たちと観に来てくれた人々に頭を垂れて感謝の意を表した。そして蓮は再び屋敷の奥へ戻っていった。
厳かな雰囲気で始まった戴冠の儀は終了し、冬国の人々には酒が振舞われ、来賓たちには豪華な料理などが振舞われた。蓮紀が祝宴の開催を宣言すると、来賓たちと楽しく会話を始める。
一足先に真聖が会場へやってくる。来賓には二人にゆかりのある人物がたくさん招待されていた。見覚えのある人物がいる。真聖はその人物に話しかけた。
「九穏院さま」
「真聖じゃありませんか! 随分見違えましたね!」
長月の華札継承者にして理穏の弟、九穏院であった。
彼は今でも変わらず仏門に励んでおり、僧侶としての位も手に入れた。そして今回は理穏の名代としてやってきたのだ。真聖は剣につけた飾りを見せる。
「俺にとってみればこれは誇りです」
「それは私も同じことです。きっと理穏陛下もお喜びです」
すると真聖を呼ぶ声が聞こえて来る。振り返ると冠を被った蓮がやってきた。蓮の来賓挨拶である。九穏院を見た瞬間、蓮は頭を下げて挨拶をした。
「本日はおめでとうございます」
「ありがとうございます。みなさんはお元気ですか?」
蓮がこう聞くと九穏院はほぼ相変わらずに過ごしていますよ、と言った。実は私以外にも来賓は着ているんですよと告げる。蓮が疑問に思っていると九穏院の後ろに控えている人物を見て蓮があっ! と言う。
「紅葉さん!」
「久しぶり・・・! って言ったら怒られますよね。もう王子さまじゃなくて首領なんですもんね」
少し堅苦しく秋国の正装姿で紅葉も九穏院と共にやってきたのだ。紅葉は近況を聞かれると紅葉は風呂敷を差し出す。それを受け取った蓮は首をかしげた。
「紅葉さん。これはなんですか?」
「いいから、開けてみてください」
紅葉に言われた通りに風呂敷を開くと木箱が現れる。その木箱の蓋をあけるとそこには真っ白な鶴があしらわれた杯があった。その美しさに蓮や真聖、九穏院までが息を飲んだ。これは何? と聞くと紅葉は俺が作った献上品であることを伝えた。
「俺、硝子細工職人になったんです」
「本当ですか?!」
「でも、師匠にはまだまだって言われてますけど、作った作品も献上できるくらいまでになりました」
蓮が驚いている。すると楓のことを思い出して彼女のことを聞いた。すると彼女は現在紅葉の助手をしているのだとか。彼女が蓮を傷つけたことは変えようもない事実。しかしそれを彼女はしっかりと受け止めて生きていると紅葉は言った。
「楓ちゃんによろしくって言っておいてください」
紅葉はわかりました、と頭を下げた。そして同時にその杯をお納め下さい、とも伝えた。九穏院は理穏も首領となった蓮に喜びを感じていることを話す。そして彼が十年の間に妻を娶ったことも話した。今はとても幸せに暮らしているという。
一方の珠も現役で巫女として活躍をしているが、後継者を探しながら続けているという。
「また秋国へいらしてください」
「はい、是非に」
蓮と真聖は頭を下げた。次の挨拶に回りますので最後までお楽しみください、と告げた。蓮と真聖は九穏院たちと別れて歩いた。
次に挨拶に行ったのは春国の姫である瑠姫とお供としてやってきた壮のところであった。蓮が挨拶をすると美しく着飾った瑠姫が祝いの言葉を述べた。
「お招きありがとうございます」
「瑠姫。また会えて嬉しいよ」
瑠姫は十年前こそ世間知らずの箱入り娘だったが、今ではたくさんのことを勉強したいと外交などの貿易の勉強をして見地を広げた。瑠姫は女性でありながら次期首領である。そのための勉強をしているのだ、と伝えた。
「花街のあの方からも伝言をお預かりしてます」
「花街・・・、まさか、小春お姐さんからですか?!」
蓮が聞く。壮の口からは小春の今が語られた。
現在も小春は花街で暮らしている。小春は現在若い花魁の教育などを行う、遣り手になったという。花魁の現役は引退したが、彼女は伝説の花魁として花街に語られる伝説となったのだとか。
「彼女も元気に過ごしております」
「壮さんも?」
「まあ、ありがたいことに」
壮は頭を下げた。すると瑠姫が壮に関することに口を開く。
「実は壮、大臣に昇進したの」
「だ、大臣に?! え?! 十年前は役人だったはず・・・」
真聖が一番驚いた。蓮と真聖の記憶といえば壮は確かにエリートではあるが、まだ役人止まりだった。二人が知らない間に壮は大臣という官僚にまで上り詰めたのだ。蓮と真聖は二十歳にも関わらず、「すごい」としか言葉が出ない。語彙力が驚きで欠如している。
瑠姫は任命したのは父親で、壮の中にある卯月の華札継承者としての実力などを見込んでのことだった。
「こうなった以上、瑠姫さまをお支えするつもりです」
壮も覚悟を決めているようだった。しかしそれ以上に未知への挑戦のような気がしてワクワクしているのは嘘ではない。
「蓮さま。真聖。是非、瑠姫さまの即位式にご招待いたしたく存じます。受けていただきますでしょうか?」
「もちろんです。必ず出席いたします」
蓮と真聖は頷いた。
もう少し先の話になるとは思うが、瑠姫の首領即位式も控えている。その時は是非出席をしてほしいというものだった。瑠姫はその即位式に蓮が呼ばれるということは重要な意味を成すと考えているのだ。
「私たちの国はかつて冬国に悲劇をもたらしてしまった。その溝は残念ながらまだ埋まっていません。私はその溝を一刻でも早く埋めたいと考えています。私たち新世代で悲劇を生まないためにしたいのです」
それは僕も同じ考えです、と蓮も言った。しかし驚いたのは瑠姫が蓮たちよりも年下ではあるがここまでしっかりするなんて誰が想像しただろうか。その理由を聞くと瑠姫は答えた。
「私が少し愚かだったんです。外交などにも積極的に参加して見地を広げたら素晴らしい世界が広がりました。私はもっと知識を増やして春国を素晴らしい国にしたいと考えています。もちろん、冬国との確執も必ず無くします」
その言葉、その通りです、と蓮は同調した。
その時が来たら美しい春国に来てください、と言った。蓮と真聖は次の挨拶回りに行くため必ず、と言ってその場を後にした。
想像ではあるが、きっと次に蓮と真聖が足を踏み入れた時には蓮の髪の毛を忌み嫌う人間は少なくなり、友好関係が増している予感がした。
その時感じた地獄は次第に天国に変わりつつある。そのためには瑠姫が乗り越えなければならないものがある。楽しい地獄のようなものだ。
瑠姫も壮も覚悟はできている様子であった。蓮も真聖も二人の今後を祈っている。
次の挨拶の時二人は緊張していた。見覚えのある男女に近づいて行く。蓮が声をかけた。
「涼羽さん、七夕さん・・・」
十年前に夏国でお世話になった涼羽と七夕の夫婦である。二人も夏国の正装で訪れていた。蓮と真聖の顔見た時、涼羽は少し涙ぐんでいた。
「蓮さま。真聖さま。また会えて嬉しゅうございますわ」
涼羽が丁寧な言葉で蓮と真聖に話しかけるが、蓮と真聖はすごく気持ち悪かった。そこで蓮と真聖は涼羽と七夕にこんなお願いをした。
「僕たちは涼羽さん、いえ・・・母さんたちの息子です。どうぞ、蓮、真聖と呼んでください」
二人は顔を見合わせてどうしようと呟く。すると真聖も声をかける。
「これは俺からもお願いします。以前のように呼んでください」
真聖にも言われてついに涼羽と七夕が折れた。わかったわ、とあの時の口調に戻った。そして涼羽は笑顔で言う。
「蓮。おめでとう」
蓮はありがとうございます! と大声で礼を言った。
「立派な男になったな。前はこんなに小さな男の子だったのに、十年でこんなに成長するとは・・・」
七夕が無意識に蓮と真聖の頭を撫でる。それを見た涼羽が驚いて七夕を止めに入る。
「ちょっと七夕! 何してるの?! 蓮はもう王子さまじゃないのよ?! もう少しわきまえないと!」
「ご、ごめん涼羽。いつもの調子で・・・」
七夕が謝ると真聖はもっと撫でていいんです、と。七夕は夏国にいる間、本当の父親のように慕っていた真聖。息子の成長を喜ぶのは親の証だ。七夕の胸に飛び込んだ。七夕の匂いはどこか懐かしい父親の匂いがした。
そして涼羽には蓮が抱きついた。蓮の肩が小刻みに揺れている。涼羽はそれに気づいたが、きっと旅の中で色々あったのだろうと踏んだ。何も言わずに優しく背中をさすってあげた。
そして真聖も涼羽に抱きついた。それを見た七夕は微笑んだ。
二人の現在はというと、涼羽は女武将に復職を果たし弓矢の腕は健在。彼女の右に出る者はいない。七夕も相変わらずで「番華」が復活したと夏国では大騒ぎなのだとか。
首領の翠徳も現役で首領を勤めている。
そしてシグレ賊の海袮も頭を続けており、変わったことといえば十年前の医術師としての腕が認められて医術師家業を始めたというのだ。二足の草鞋でシグレ賊を支えているらしい。
そして夫婦は彼女も連れてきていた。
「織」
涼羽が呼ぶと涼羽の面影が残る少女がやってきた。それを見た蓮と真聖は懐かしい気持ちに包まれた。当時はまだ小さかった織が素敵な女性に成長していたのだ。
「蓮さま。真聖さま。再び会うことができて嬉しいです」
織も無知ではない。蓮と真聖の立場を理解している。蓮は僕たちのこと覚えてる? と聞くと織は忘れられるわけはありません、と告げた。織はこうして改まっているが蓮と真聖を本当の兄として慕っている。
そしてもう一人。八歳くらいの男児がこちらへやってくる。へ、誰? と蓮と真聖が見ていると男児は織のところへ向かってきた。
「姉ちゃん・・・」
「姉ちゃん?」
「私の弟で伊月です」
なんと十年の間に織に弟が生まれていた。蓮と真聖が驚いているところに涼羽と七夕がやってくる。なんで教えてくれないんですか? とうなだれる。この子たちは蓮と真聖と同じように未来の夏国を背負うと七夕は言った。
蓮はしゃがんで伊月に話しかけた。
「僕、蓮って言うんだ。よろしくね」
「よ、よ・・・よろしく・・・」
言葉が詰まりながら伊月と蓮は握手を交わした。織は伊月に蓮と真聖のことを話しているため彼も兄として慕ってくれている。まさかの展開がありつつ、再会を果たすことができた。
涼羽と七夕も蓮紀と柊との面会を果たし、十年前の感謝を述べた。
祝宴が終わり来賓たちは国へ帰って行った。
屋敷は静まり返る。蓮はフード付きマントを付けて出かけようとした。馬に乗ってある場所へ向かう。風を切って丘の上へ向かった。
丘の上には冬国首領歴代の墓がある。蓮は馬から降りて礼をして手を合わせた。
先代の首領さま、母上。僕は首領となりました。母上、私を慈しんでくれてありがとうございました。父上に拾われ、母上に慈しんでもらわなければ今の僕はおりません。いつまでも見守っていてください。あなたが誇れるそんな人間になります。
もう二度と悲劇を起こさぬよう、努めてまいります。
蓮は墓参りを終えて丘の上から冬国の街を見下ろした。とても美しい街並みだ。子供の頃の景色とはまた違う。
「ああああああーっ!」
蓮は叫んだ。蓮の声は風にかき消された。蓮の長い髪の毛を揺らす風が頬を触る。
思い起こせば生まれた時は地獄のような悲劇から始まった。そして自らを追い込んだ。そして華札をも凌駕する力が潜んでいることが分かって、それを受け入れた。
悲劇はいつか喜劇にへと変わったのである。
その水色の瞳に映るのは美しい未来であってほしいと願う。蓮は屋敷に戻るため馬にまたがった。
「?!」
蓮が振り返った。耳に入ったのは雄叫び。一回だけ響いたその声は知らない間に風に流れた。その雄叫びはきっと白き龍なのかもしれない。蓮はそう言い聞かせた。蓮の心の中には白き龍が宿っていると信じている。
生を全うし、「さよなら」を告げるその時まで---精一杯生きる。
その誓いを胸に、蓮は前を向いて走り出した。
不思議な霊力を持つ華札が守る不思議な大陸、四季。そして様々な因縁と経緯で誕生した四つの国。華札が創り、守った国「華札のクニ」。
そこにいたのは悲しみを乗り越えて、全てを受け入れ、自分の信念に生きようとしている一人の青年の姿がそこにあった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。今まで書いた中で一番長い長編小説でした。そして私が小説家になろうを始めて一番のブックマーク数、評価数、レビュー、感想までいただいて嬉しゅうございます。
もしこれを最後まで読んでいただけた方がいるならば、ぜひ、感想&評価などよろしくお願いします。
そして、執筆に際しアイデアを少し出してくれたT.Sさんに感謝を述べるとともに、読んでくれた全ての方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。 藤波真夏




