表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華札のクニ  作者: 藤波真夏
第五記:冬国編
46/47

六章 「さよなら」は言わない

最新話を更新します。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

六章 「さよなら」は言わない

 無事に全部の華札が集まり、黒龍が封印されて平和が戻ったという知らせは大陸中に知れ渡った。各国で暮らす華札継承者たちも喜びと安堵に包まれた。

 蓮たちも屋敷に戻り、平和な日常に戻る。

 蓮と真聖は柊に勉強を教わる毎日を過ごしていた。以前ならばわからない、と駄々をこねるところではあるが、やはり過酷な経験をしたおかげで少しのことでは根を上げなくなった。

 柊は口に出して褒めたりはしないが心の中では成長したな、と褒めている。

 蓮は次期首領として頑張っていた。そしてそんな蓮を支えるべく真聖も必死に勉強をする。

 そして最近では二人で剣術の稽古も始めた。まだ子供の二人は夏国で賜った短剣を使った稽古をする。大人になれば短剣は護身用になってしまうが、今の二人には短剣がちょうどよかった。

 勉強の息抜きに行うことが多くなり、剣術は日を追うごとに上達していく。その様子を見守っているのは蓮紀と柊であった。

「本当に成長しましたな・・・」

「それは俺の台詞だ。柊のじじい」

「蓮紀さまの軽口も久しぶりですじゃ。蓮紀さまが重症になられてから滅多に聞かなくなりましたから・・・」

 それは確かに、と蓮紀は笑った。すると蓮紀は話題を変える。

「ところで柊。体は大丈夫か? 俺が言うのは失礼かもしれないけど、もう歳だろ?」

「大丈夫ですじゃ。蓮さまが首領になられる日まではくたばるわけには参りませぬ」

 軽口を叩いて柊に怒られている蓮紀ではあるが、だいぶ歳を重ねた柊を彼なりに心配していた。

 すると柊は心配なさいますな、と続けた。

「儂には息子がおります故、彼が儂の次の華札継承者ですじゃ」

「柊、お前・・・息子いたのかよ?!」

 蓮紀が驚くのも無理はない。蓮紀も知らなかったことである。蓮紀は柊が結婚したことはすでに知っているが子供がいることなど一切知らされていなかった。なので如月の華札継承者が途絶えるのではないか、という今では無駄な心配をしていたのだった。

「なんで教えてくれなかったんだよ!」

「蓮紀さまに秘密にしていたわけではございません。話さなくてもよいと判断したまでじゃ」

「意地悪だな」

 蓮紀は呆れた顔で言った。するとその話が蓮と真聖にも聞こえていて柊の息子はどんな人なのか? と質問攻めにあった。

 柊によると息子は冬国の自然を研究する学者をやっている。植物や動物が大好きな動植物博士なのだとか。現在も研究に没頭して森の中で一夜を明かしたり、家でも研究に明け暮れ、動物たちと触れ合っているのだとか。

「本当に・・・困った息子じゃ」

「柊の息子さん、かっこいい!」

 蓮はそう言った。そんな能天気なことをおっしゃるな、と柊が釘をさす。しかし真聖は柊に対して言った。

スバルさまは凄い人ですよ! 寂しい時は昴さまが一緒に森へ連れて行ってくれたことがあるんです。動物のことも植物のことを聞くと全部教えてくれた。あの人は凄いです」

 本名が師走真聖ではあるが柊の養子である。柊の息子である昴とは蓮と同じくらいに過ごした自然を愛する心優しく博識なお兄ちゃんのようなものだった。それを真聖は忘れていない。

「その昴さんに会ってみたいな!」

 蓮がそう言うと柊は無理じゃ、と答えた。今昴は研究のため冬国を飛び回っているという。黒龍の件が終結してすぐに出かけてしまったのだとか。しかし、柊はこうも告げた。

「昴は儂の次の華札継承者じゃ。能天気に見えるがちゃんと役目と覚悟はできておる。儂が死んだらその任を全うすると誓っておる」

 そうなんだ、と蓮は息を吐く。真聖はすごくいい人なんだーと笑顔で言う。真聖が言うならばきっと本当のことなのだろうと思う。屋敷の中は笑い声で包まれていた。



 次の日にはその笑い声はなく静寂に包まれていた。

 柊と真聖が一時家へ帰ったのだ。柊の妻やもしかしたら帰っているかもしれない昴に会うためだ。そのため屋敷の中は静寂に包まれているのだ。話し相手がおらず、縁側でぼーっと空を眺めている蓮。

「暇だ・・・」

 蓮は足をぶらぶらさせて気を紛らわす。しかしフッと何かを思いつき縁側から蓮紀のいる部屋に向かう。そして少し出かけてくる、と伝えた。蓮紀にそれを止める権利はないがいきなりどうした? と理由を聞く。すると蓮はこう言った。


「白き龍に挨拶してくる」


 それを聞いた蓮紀はそうか、と外出を許す。暗くなる前には帰ってこいという条件付きで蓮は一人屋敷を出た。外は寒い。フード付きマントを付けて歩いて行った。蓮の吐く息は白く、それはすぐに消えてしまう。

 蓮は子供の足でなんとか石碑の前へたどり着くことができた。ほんの数日前はここで壮絶すぎる戦いを繰り広げていたというのに今では静寂に包まれていた。怖すぎるほどに。

 蓮はフードを取ると石碑に手を当てて念じた。

 

 白き龍よ、もう一度僕の前に姿を現してください。


 蓮の願いが通じて石碑が光り輝いて、白き龍の幻想が蓮の目の前に現れる。白き龍は最初に出会った時より穏やかな表情をしている。

「少年よ、どうしてここに来た?」

「お礼が言いたくて。僕を睦月の華札継承者にしてくれてありがとうございます」

 蓮は頭を下げた。白き龍は蓮を見据えた。蓮は君はこれからどうなっちゃうの? と聞いた。すると白き龍はしばらく目をつぶって考えたのち、理由を語りだす。

「黒龍が再び復活するかもしれぬ。俺は黒龍と対になる白き龍。奴を牽制して復活しないように見張るだけだ」

「じゃあもう僕の中にはいないってこと?」

「何を弱気なことを言うんだ。俺はお前の願いである父親の跡を継ぎたいと睦月の華札継承者にしてあげたではないか。なぜ迷っている?」

 蓮はそうじゃないよ、と首を横に振った。じゃあ何故だ? と白き龍は蓮に聞き返した。

「生まれた時からずっと僕の中にいたから・・・なんか寂しくなった。だって毒殺されそうになった真聖も、瘴気で死にかけた涼羽さんを助けたのは僕じゃないでしょ? 白札と言われている君でしょ?」

 蓮はそう言った。戯言を言っているのか、と白き龍は思った。白き龍は蓮のそばまでやってくる。蓮の顔に白き龍は自らの顔をすり寄せた。

「白札の力を無自覚に使うことは普通ありえない。俺は長い間白札を宿した人間を多く見てきたが、無自覚に使った人間は多くない。お前はその限られた人間の中の一人。二人を救ったのはお前だ、少年」

 白き龍は蓮の力を認めている。無自覚なのは白札の力が一人歩きしているわけではない、と白き龍は誤解のないように言い聞かせた。

 だから自分を責めるな、と締めた。蓮はそうなんだ、と呟いた。

 そよ風が吹いて蓮の髪の毛を揺らした。しかしやはり白き龍の離れ離れになるのが寂しいのか表情が暗い。

「永遠の別れというわけではない。俺は黒龍を見張っているが、お前のことも見守っているぞ?」

「どういうこと?」

「お前は俺が選んだ特別な人間だ。しかも数少ないな。お前が生を全うし、この世に別れを告げるその時まで見守るつもりだ。お前は睦月の華札継承者である以前に、白き龍に魅せられた白札であるからな」

 白き龍はきっぱりと言い放った。白き龍は絶対に嘘はつかない。蓮の中でなんとも言えない確信があった。蓮は聞きたくても聞けないことを白き龍にぶつけた。


「また会える?」


「さあな。俺の姿は見えなくとも、お前の中にしっかりと俺がいることは確かだ。それだけは忘れるな」


 おしゃべりの時間は終わりだ、と白き龍が切り上げた。俺はそろそろ行かなくてはいけない、と。蓮は急に呼び出してごめんなさい、と謝罪する。蓮はフードをかぶり直した。そして白き龍に頭を下げた。白き龍に背中を向けて歩き出そうとする。

「清く正しく生きよ、睦月蓮」

 蓮はその言葉に足を止める。今まで蓮の名前を呼んだことがなかった白き龍が初めて蓮の名前を呼んでくれた。蓮は自然と目から涙が溢れる。心が本当に寂しい、離れたくない、と叫んでいる証拠であった。

 蓮は振り返って白き龍に言った。

「『さよなら』なんて言わないよ。僕のこと、ちゃんと見ていてね。僕が死ぬその時まで、ずっと・・・。その時まで、『さよなら』はお預けだからね」

 蓮は涙を流しながら笑って見せた。涙を拭きながら白き龍を背に屋敷へと帰って行く。蓮の背中を見ていた白き龍は静かに見守った。


「睦月蓮よ、強く生きよ・・・」


 白き龍はその言葉を残して消えた。

 蓮は決して振り返らなかった。振り返れば未練が生まれる。白き龍はきっと今も見ているに違いない。そんな気持ちが蓮の中にずっと引っかかって離れない。

 蓮が息を吐く。真っ白な息がすぐに消えてしまった。雪がちらつき、蓮は自然と足を早くさせる。屋敷が見え始めた時に石碑のある方向へ振り返る。先ほどまで白き龍と話していた場所がとても遠い。

 蓮は急いで屋敷へ戻った。



「ただいま戻りました」

 蓮が門を開けると蓮紀がおかえり、と返す。蓮紀は温かい茶を飲んでくつろいでいた。蓮が出かけている間に少し馬に乗って遠出をしたかったが雪が降ってきてこのまま降ればかなり積もると考え、今日は出かけないことにしていた。

 蓮は蓮紀の隣に座った。

「白き龍に会ってきました」

「そうか・・・。なんて言ってた?」

「『俺は黒龍が二度と復活しないように見張る。でもお前が死ぬその時まで見守っている』って言ってました。そのこと、忘れるな、と」

 蓮紀はなるほど、と答える。でもその言葉の裏返しは「もう二度と会うことはできないかもしれないから、その代わりにずっと見守っている」とも受け取れる。蓮紀はもしかしたら白き龍に今生の別れをしたのかもしれないと思った。

「寂しいか?」

 蓮紀は少し言葉を濁して聞いた。すると蓮は嘘をつかずに頷いた。

「でも、『さよなら』は言わなかったです。僕が死ぬ時までお預けだって言いました。僕は寂しくないです!」

 蓮は蓮紀に笑顔でそう言った。蓮紀はそうか、と言って蓮の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「本当に蓮は俺の子供の頃にそっくりだな」

 え、そうなんですか? と蓮は反応する。血が繋がっていないのにだんだんとそっくりになるのは白札であることの所以であろうか。すると蓮の好奇心に火がついて蓮紀が聞いた。

「父上。父上ってどんな子供だったんですか?」

 蓮紀は照れくさそうに頬を掻いた。すると蓮紀は恥ずかしいな、と呟いた。蓮紀は蓮に言った。

「また別の機会に話そう」

 蓮紀は笑った。蓮はわかった! 約束! と言った。



 僕は何者なんだろう。

 最初はなにも考えたことはなかった。でも旅を始めてからその違和感に気づき始めた。知らないうちに力が一人歩きをして無自覚に力を使ってしまった。

 事実が明らかになって僕の中には華札をも凌駕するものがいたことがわかった。そして僕の本当の家族はもうこの世にはいない。父上を責めて自分の殻に閉じこもった。

 でも父上は僕を本当の息子のように大事に育ててくれた。決して僕の中の力に気がついて育てていたわけではないと。

 僕はその力を受け入れる。白札であるという事実を。

 悲劇はいつか喜劇に変わる---。

 僕は経験を持ってそう言える。僕の願いは「父上の本当の息子になりたい」。白き龍は僕を睦月の華札継承者にしてくれた。以前だったら存在意義ができたって言ってたかもしれない。

 でも今はそんなことどうでもいい。僕は白き龍の言葉を守って生きる。

 「さよなら」の言葉を告げるその時まで---、強く生きると誓う。


最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。次回の更新で最終話となります。気長にお待ち下さい。藤波真夏

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ