五章 白き龍の問いかけ
最新話を更新します。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏
五章 白き龍の問いかけ
「貴様・・・、俺を怒らせたな!」
白き龍の怒りが爆発したその瞬間が蓮と白き龍を入れ替えた要因だった。白き龍は蓮の体を使い気持ちをあらわにする。そして蓮は潜在意識の中でぼんやりと過ごしている。しかし戦いが激しくなる。潜在意識の中に取り残された蓮の体にもそのときの痛みが伝わる。呼吸が乱れて息苦しい。
ついに蓮は白き龍を蓮紀が止めている光景を心の目で見ていた。体は子供であるが、その中にいるのは華札の力さえも凌ぐ白き龍である。このままでは蓮紀が力負けして斬られてしまいかねない。
「これ以上、父上を傷つけないで!」
蓮の叫びが白き龍に影響を及ぼす。黒龍に吹き飛ばされた瞬間、その痛みが蓮にも襲いかかる。すると白き龍は蓮の前に姿を現した。目の前には真っ白で自分と同じ水色の瞳をしてこちらを見据えている。
「俺を呼び戻すとは・・・、流石だ。俺を宿らせるだけの器はあるようだな」
蓮は口を結んだ。蓮紀をあのような目に遭わせた白き龍を正義の龍だとしても許せない。
「お前はあの男の息子でいたいか?」
「当然」
「俺は長い時を眠り続けていた。まさか俺が宿ったのがお前みたいな少年だったとは思わなかったがな。俺の力を使えば、お前は父親と同じ睦月の華札継承者になれる」
白き龍の言葉を遮るように蓮が問いかけた。
「君は一体誰なの?」
それに対し白き龍は表情を変える。蓮からの質問が突拍子もないことだったからである。蓮にどうしてそんなことを聞くのだ? と理由を聞くと蓮は長い時を眠り続けていたというが、その前に一体どんなことがあったのか? ということが知りたいと。
それを聞いた白き龍は本当に不思議な少年だ、とつぶやいた。白き龍は観念して話し始める。
お前が生まれるずっと前だ。まだこの大陸が四つの国に分裂していなかったときのこと。俺はずっと悪さをしないように黒龍を見張っていた。しかし俺の詰めの甘さから黒龍は俺の見張りを掻い潜り、四季大陸に現れてしまった。
俺はなんとか抑えようとしたが力は及ばず。
そこで俺は大陸に生きる動植物たちの霊力を集め、十二枚の華札を作ったのだ。華札は自らの霊力で宿る人間を決める。そして集められた人間が初代華札継承者となり、黒龍を封じる戦いになった。
華札継承者たちのおかげで黒龍は封印し、全ては終わったと思った。しかし被害は甚大で華札継承者たちは心を痛め俺も悲しみにくれた。結果として四つの国に分裂して元の四季大陸に戻ることはなかった。
継承者たちは罪の意識からそれぞれの国へ散り、平和を保つために尽力した。冬利もそうだ・・・。
「冬利? 誰?」
初代睦月の華札継承者。お前の父親の先祖だ。その銀色の髪に水色の瞳、冬利の血を受け継ぐ証拠だ。冬利は戦いの後、罪を悔いて如月の初代華札継承者の如月元翔、師走の初代華札継承者の師走智聖と共に冬利は冬国に移った。
後に冬利は首領に、元翔は首領補佐に、智聖は結婚して家庭に入った。
彼らなりの償いと幸せを追い求めてこのような結果になったのであろうな。
「君はどうしていたの?」
戦いで深く傷つき、深い眠りについた。俺にも戦いの罪はある。その償いとして我が力を宿す者は欠けた華札継承者の役割を果たすことを思いついた。
俺が集めた華札に選ばれたあの十二人へのせめてもの・・・救いを差し伸べたかった。
白き龍は目から涙を流し身を震わせていた。
そしていつしか黒龍の出現はぴたりと止み、平和な世が訪れた。華札継承者の血が途絶えることはなく白き龍は役目を終えて「白札」となり、宿った者の中で力を出さずに眠りについたのだという。
「君が・・・華札を作ったんだね」
蓮が聞くと白き龍は首を垂れた。蓮は白き龍に近づいて緑色のたてがみを撫でる。品格のある綺麗なたてがみ。白き龍の鋭い視線が蓮の瞳にぶつかる。
「君は救いの手を差し伸べるために自分の体を「白札」という形にして長い時を見守ってきた。僕がここにいられるのは君のおかげでもあるんだね」
白き龍は蓮の体をぐるっと回り、蓮の体をその体に閉じ込めた。白き龍の体が温かく感じる。ああ、やっぱり生きていると実感できる。
「お前はやはり、俺の力を使うにふさわしい少年のようだ」
「白き龍は・・・ずっと一人だったんだね。なんだか・・・可哀想」
蓮はそう言って白き龍に寄り添った。まさかそんなことを少年に言われるとは思わなかった、と白き龍は答えた。でもそれは事実でしょ? と返す。
蓮は無自覚のままに使っていた白札の話をする。黒龍が復活したこと、蓮紀の養子になったことが重なってゆっくりと白き龍は目覚め始めていた。白札としての力を無自覚のまま使い、多くの人物が救われたということを話す。
最初は春国で封印したときに黒龍を縛り付けた。次は夏国で黒龍の出した瘴気で生死を彷徨った涼羽を助けた。夏国で封印した際も黒龍を縛り付けた。次は秋国で理穏を守るために毒を飲んで生死を彷徨った真聖を救った。秋国で封印のときは黒龍に連れ去られたが、そこで白札の力を覚醒させて自分で脱出することができた。
全部、君のおかげだよ、と告げた。
白き龍は黙った。表情はなかなか読み取れないが心の奥底ではとても嬉しいにちがいない。蓮は口に出さないようにした。
「父親は本当に冬利そっくりだ。お前の中に宿りながら華札継承者の子孫を見たが・・・、きっと初代華札継承者たちも安堵と驚きに満ちているだろう。そしてお前が養子になったのももしかしたら冬利の導きかもしれないな」
白き龍は懐かしい気持ちになった。白札の影響で蓮紀の特徴に影響され、髪の毛の色も瞳の色も受け継いだ。蓮はまさに白き龍を宿すに相応しい人間であるということを白き龍は実感する。
白き龍は改めて蓮に問いかけた。
「今一度問おう。お前は何として生きるのだ?」
蓮は最初こそ黙っていたが、もう決意は揺らぐことはなかった。蓮は白き龍にこう告げた。
「僕は、父上の・・・冬国の王子として生きる。睦月の華札継承者として生きる!」
蓮の意志が固いことを悟る白き龍。
「お前の意志。聞き届けよう。お前を睦月の華札継承者、睦月蓮紀の後継者にしよう。黒龍を再び封印したとき、その効果は発揮される。そのときまでは・・・、俺の力をお前に託そう」
「ありがとう・・・」
蓮はそう呟くと白き龍のぬくもりに包まれて眠りについたのだった。
「・・・?」
蓮がゆっくりと目を覚ました。視界がだんだんとはっきりしてくる。静寂に包まれた石碑の前。すると蓮紀が倒れている光景が見えた。蓮は急いで蓮紀の元へ向かい、蓮紀の体を揺らして安否を確かめる。
「父上! 父上!」
蓮紀が目を覚まし蓮の名前を呼ぶ。蓮紀の無事を確認した蓮はしがみついた。蓮紀は驚いているが、蓮は涙を流してごめんなさい! と謝る。蓮紀は抱きしめ返す。
「泣くな、蓮。無事でよかった。よしよし・・・」
傷だらけの蓮紀と蓮はクスッと笑った。蓮紀は蓮の無事を確かめる。腕にはまだ白札の証である龍の痣が残っている。まだ彼の体の中には白き龍がいるということだ。
「僕・・・、白き龍と話したんだ。白き龍は華札を作り出して守ろうとしたんです。でも、初代華札継承者たちが罪悪感から各地に散った。白き龍は華札継承者にもしものことがあった時を考えて救いの手になったんです」
蓮紀が見た白き龍は正義のためであらば、たとえ自分を宿す人間が命を落としても構わない。それがたとえ蓮のような子供であっても。正義のためなら多少の犠牲は厭わないものだと思っていた。
しかし白き龍にも「救いたい」という願いからこのようになってしまった、と考えたのだ。
「僕、白き龍にお願いしたんです。僕を父上と同じ睦月の華札継承者にしてほしいって!」
「蓮・・・」
蓮と蓮紀の安否を確認するため、真聖と柊がやってくる。白き龍によって操られていた蓮と蓮紀の衝突を終わらせるため、華札の力を使ったことを話す。
「蓮、大丈夫?」
「真聖・・・」
心配そうに見てくる真聖に大丈夫だよ、と告げる。柊は蓮紀の安否を確認する。心配するな、と蓮紀は言った。柊は安心するのはまだ早い、と言った。確かにと蓮紀はゆっくりと立ち上がった。
「まだ俺が・・・睦月の華札を封印していない・・・」
蓮紀は一歩また一歩と石碑に近づいていく。蓮紀が手を出して石碑に対して手のひらを向けた。
「俺の中に眠る『松に鶴』の華札よ・・・、力を解放し・・・闇を葬る鎖となれ」
蓮紀の体から水色の波動が溢れる。蓮紀が行け、と呟くと波動は石碑に流れ込む。睦月の華札が色づき始めた。
その瞬間、黒龍が現れ蓮紀に襲いかかろうとする。最後の足掻きである。それを見た真聖と柊が華札の力で黒龍を攻撃する。華札の波動は鎖として縛り付ける。しかし黒龍の力で鎖は引きちぎられた。
「まずい! 蓮紀さま!」
柊が叫んだ。このままでは蓮紀が危機にさらされる。
覚悟せよ!
黒龍が蓮紀を攻撃しようと口から黒い瘴気を吐く。蓮紀はこの場から動けない。蓮紀は覚悟を決めてその場から動かない。
「蓮紀さま! 逃げてください!」
真聖が叫んだ。その拍子に腕に結んでいた叶い紐が切れた。それにも気付かず、蓮紀を助けようと走り出すが柊に止められる。体をがっちり掴まれてしまう。真聖はその縛りから抜けだそうとして暴れる。
「真聖! 危険じゃ! 行くでない!」
「離して! 蓮紀さまが死んじゃう! 柊さま!」
泣き出しそうに叫ぶ真聖。蓮紀を助けられない悔しさで胸が押しつぶされそうだった。黒龍の瘴気が蓮紀に浴びせられ、蓮紀は覚悟を決めて目をつぶった。
しかし、痛みを感じなかった。恐る恐る目を開けると目の前には自分よりも小さな体の人物が前に立っていた。白い着物に銀色の髪、水色の瞳が光っている。
「蓮?!」
蓮が両手を前に出して障壁を張っているようだった。これも白き龍の作る力だ。
「お前の可愛い息子が『父上を助けて!』って言ったからな。少しでも傷がついたら怒りそうだったかたな。お前の息子は俺の力を宿らせる資格がある。それだけ、あの少年には驚かされる。我が力、今こそこの少年に託そう・・・」
蓮の口を使って白き龍が現れた。白き龍は父上を助けてほしいという蓮の叫びに答え、とっさに蓮の体を乗っ取ったのだ。
しかし白き龍はすぐに消えてしまい、蓮本人が戻ってきた。蓮の体から白き龍の気配が消えた瞬間を蓮紀は察した。白き龍の力は蓮に全て託された。
貴様まで立ちはだかるか。こうなれば、親子共々あの世へ送ってやる!
黒龍が本気で二人を殺しにかかろうとした。黒龍の吐く瘴気の威力は増していき、蓮の作り出した障壁が押されていく。障壁に衝撃が走り、蓮も苦しそうな表情を見せる。ついに障壁がパリン! と割れて蓮の髪の毛を結わいていた髪留めが切れた。髪の毛がなびく。
まだくたばらぬか・・・! 白き龍め!
それを聞いた蓮の怒りが頂点に達する。
「僕は白き龍じゃない! 睦月の華札を継ぐ睦月蓮だ!」
それを聞いた蓮紀は蓮の肩に触れて蓮を抑えた。蓮が振り返ると蓮紀が優しく微笑んだ。まるでお父さんがついているから安心しなさい、と言っているかのようだった。
「父上・・・!」
「・・・俺がついている。安心しなさい」
蓮は黒龍を見据えて、口を動かした。
「僕の中に宿る白き龍。睦月の華札を封印せよ。正義の力を解放せよ!」
蓮の体から白い波動が溢れる。白き龍の象徴である。白い波動が石碑にぶつかり睦月の華札の力を倍増させていく。睦月の華札の色が完全についた。これで華札が全て整い、黒龍は完全に石碑に縛り付けられた。
最後のとどめは白き龍の力である。真聖と柊も急いで蓮たちのそばへ行き、華札の力を呼び出す。
「黒龍を封ぜよ!」
四人の声が響く。黒龍が雄叫びをあげて苦しみだす。
黒龍は苦しみの雄叫びをあげて形を失い、瘴気となって石碑の中へ吸い込まれた。その後、石碑の前は静寂に包まれた。
真聖は立ち尽くし、体力を限界まで放出した蓮は足から力が抜けその場に座り込んでしまった。
「蓮!」
蓮紀が近づくと蓮の体が再び輝き始める。白き龍の力が溢れ出る。蓮が袖をまくり、龍の痣をあらわにすると痣がだんだんと薄くなる。痣は最終的に消えてしまったが、その代わりとして睦月の華札継承者の証である鶴の痣が、蓮紀と同じ手首に現れた。
光が落ち着くと再び腕を見返す。そこには龍の痣はなく、蓮紀と同じ痣が現れた。
「父上・・・。これで・・・僕、睦月の華札継承者になれます!」
蓮が見せたそれは自分が持っている痣と同じであった。それを見た蓮紀は言葉を失っている。蓮は擦り傷だらけの顔を笑顔にして言い続ける。
「白き龍が・・・僕の願いを叶えてくれたんです! 父上と同じ!」
蓮紀が自分の手首に刻まれた鶴の痣と並べてみる。それは正真正銘鶴の痣であった。こうして並べて見ると鶴の親子に見える。蓮紀は蓮の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「そうか・・・。父上は嬉しいぞ。お前がいなければ俺はどうなっていたか・・・。きっと天国の母上も喜んでいる。お前が・・・この国を・・・、大陸を救ったんだ」
蓮は最初こそ実感がなかったものの、じわじわと湧いてくる。そして自分は大好きで尊敬する蓮紀の跡継ぎになれるということに喜びを感じている。照れて赤くなる。
「蓮!」
真聖が走ってやってくる。二人で旅をし、時にぶつかり合い、協力をしながら様々な難局を乗り越えてきた。そしてお互いの務めを果たすことに成功した。
「真聖・・・」
「よかったね! 黒龍は封印されたよ!」
二人は喜んだ。
すると先ほどまで暗かった空が白み出して、小さな雪が降ってきた。黒龍が封印され、大気が安定した証拠なのだろう。
こうして冬国王子の蓮とその側仕えで師走の華札継承者の真聖の長い華札継承者を探す旅はこうして終焉を迎えた。
衝撃の事実に絶望した少年は、事実と秘められた最強の力を受け入れる決意をした。その決意に白き龍は答え、少年の願いを叶えた。
「この糸が切れたとき、本当の願いが叶う」
少年を厳しくも優しく見守っていた花蓮の言葉が思い出してくる。言い伝えはあながち間違ってはいないのかもしれない。
少年たちは平和を取り戻し、屋敷へ戻っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏




