四章 白き龍の怒り
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四章 白き龍の怒り
夜が明けて蓮と真聖は準備を整えていた。腰には短剣を差して中庭で待っている。しばらくして蓮紀と柊も準備を整え中庭へ出てきた。
「いよいよだね」
「うん。ついに僕たちの番だね」
昨日まで降っていた雪は嘘のようにやんだ。地面には雪が積もり、中庭には昨日に蓮と真聖に遊んだ跡が残っている。
屋敷の奥から蓮紀と柊が現れる。蓮紀は腰に剣を差して蓮と真聖のいる中庭へ降りる。二人の視線に合わせしゃがんだ。旅の中で華札継承者を探し出し、封印に協力をしてきたことへの感謝を述べる。
すると蓮は蓮紀にこう言った。
「僕は・・・父上の本当の子供じゃない・・・。父上の跡継ぎにはなれないって思ってた。すごく悲しかった・・・」
「蓮・・・」
「でも・・・父上と母上に助けられなければ死んでいた。とてもよくしてくれた。それは絶対に変わらないこと。僕は白札です。どんな華札にでもなれる、そして華札よりも力が強い。僕はどんなことがあっても、父上の・・・、睦月の華札を継ぎます」
蓮紀は少し嬉しそうに笑い、目からは嬉し涙が滲んだ。蓮の口からここまでしっかりした言葉が出てくるとは思わなかったからだ。これこそ神に感謝しなくてはいけないことである。
蓮に続いて真聖も蓮紀に言った。
「僕は蓮にずっと仕え続けます。僕が、守ります」
蓮紀は真聖の頭を撫でてありがとう、と礼を述べた。蓮紀は涙を滲ませて柊の方を見る。
「柊! 冬国の奇跡は・・・こんなに立派に成長してくれたぞ! こんなに嬉しいことはない! そう思わないか?!」
「そうですな・・・。儂も同じ気持ちですじゃ。真聖、儂が見ていない間にこんなに大きくなってな・・・。儂も嬉しいぞ」
「柊さま・・・」
勉学でいつも怒っていた柊も目元が緩んだ。蓮と真聖のことを蓮紀と同じくらいに大事にしていることがわかる。
柊が蓮紀を見てそろそろです、と伝えた。そうか、と呟いた蓮紀は家来に二頭の馬を門の前に準備するように伝えた。その時が近づいてくる。蓮と真聖に緊張が走る。蓮紀と柊の後ろについていく。
門の前にはすでに馬が用意されており、蓮紀と柊はそれぞれ乗った。
「柊さま。馬に乗れたんですか?」
「真聖・・・。儂は馬にも乗れない軟弱者だと思うな。さあ、真聖乗りなさい」
真聖は柊に手を引かれ柊の前に座った。そして蓮は蓮紀にお前はこっちだ、と言われ蓮紀に手を引かれ馬にまたがった。蓮と真聖は目の前にある手綱をしっかりと握った。
「柊。真聖。そして蓮。準備は良いか?」
「いつでも出来ております」
「僕もです」
そして最後に蓮が蓮紀の顔を見上げて力強く頷いた。蓮紀はその頷きから蓮の中にある白札の力を感じる。蓮の中には白き龍と呼ばれる正義の龍が蠢く。
「参るぞ!」
蓮紀がそう声を上げると手綱を思いっきり引いて馬は声を上げて走り出した。蓮と真聖は馬に振り落とされないように必死に手綱を握る。冬国の冷たい風が頬を切った。
石碑に近づくにつれて蓮の胸はだんだんと熱くなってくる。白き龍が憎き黒龍に対する怒りにすら感じた。
馬を走らせて四人は石碑にたどり着いた。
感じるのは今まで封印してきた華札の霊力だった。黒龍の出すものではない、清くて荘厳なものだ。そしてここに師走の華札、睦月の華札、如月の華札が封印されればもう二度と黒龍が四季大陸に出てこられなくなる。
「始めようか・・・」
蓮紀がそうつぶやいた次の瞬間、重い声が響く。
許さぬ。
白き龍め、ここで息の根を止めてやる!
黒龍が石碑から瘴気と共に姿を現した。蓮紀は剣を抜いて黒龍に向ける。
「もう最初とは状況が違う。華札のせいで動けないはずだ。堪忍しろ。真聖!」
蓮紀に言われ、真聖は石碑の前へ立ち短剣を抜き理穏から授かった飾りの音を鳴らし、言った。
「僕の中にある、唯一無二の師走の華札よ。この短剣に宿り、僕に力を!」
真聖の体に黄色の波動が蓄積され、その波動は短剣にも宿る。真聖が短剣を振ると波動が飛んで石碑の師走の華札の部分に飛んだ。石碑に刻まれた師走の華札に色がついた。
次は柊が名乗りを上げて封印をしようとするがそれを阻もうと黒龍が襲いかかる。黒龍が吐く真っ黒な瘴気が柊めがけて襲いかかる。
すると蓮の目が水色に光り出す。
「柊に近づくな・・・!」
黒龍の瘴気を一瞬にして花びらに変えた。白き龍の力だ。黒龍の瘴気から柊を守った。蓮の口から出た言葉はきっと白き龍だったのかもしれない。
「蓮さま・・・」
「柊、大丈夫?!」
蓮が近寄ると柊は頭を下げて礼を述べた。そして柊早く! と促した。柊は老体に鞭打って立ち上がった。手の平にあるウグイスの痣を向けた。
「儂に眠る、如月の華札。黒龍を石碑に封印するのじゃ!」
柊の体から灰色の波動が満ちる。その波動は石碑の如月の華札が色付いた。
柊がよろけるとすぐさま、柊さま! と真聖が駆け寄った。心配する真聖にそんなに心配するな、と諌めた。
「蓮紀さま! あとは睦月の華札だけでございます!」
柊が叫んだ。蓮紀はそれを聞いてご苦労! と叫んだ。蓮紀は息を切らしている。初めて黒龍と戦った際、重傷を負っている。その時の傷は完治しているが後遺症が残っている。最初のように剣を振るうことはできない。
そのせいで蓮紀の体力はだんだんと削られていく。
「お前は諦めが悪いな!」
小癪な! これではどうだ?!
黒龍が長い尻尾で蓮の体を絡め取る。秋国で蓮を連れ去った時と同じ方法である。蓮はとっさに短剣を抜いて応戦する。しかしだんだんと締め付けられて息が苦しくなってくる。気道が狭まっていく。
「蓮!」
蓮紀が顔を真っ青にして黒龍を見る。黒龍だけを狙って斬りつけようとするが後遺症という重い鎖で縛られた今、なかなか動けない。
お前は華札継承者である以前に父親だからこうしてしまえば誰も手出しできん。ああ、この子供は赤の他人だったな。だったらこのまま殺してもどうってことない・・・!
蓮が苦しそうな顔をして蓮紀に手を伸ばす。
く、苦しい・・・! このままじゃ・・・。
蓮は苦し紛れのうちに意識を手放してしまった。力なく落ちた腕を見て蓮紀は言葉を失った。蓮紀が蓮の名前を呼ぶ声が響く。それを聞いた真聖も柊も言葉を失う。
「そ、そんな・・・。まさか、れーん!」
真聖が叫んだが蓮はピクリとも動かない。三人が絶望にうろたえる姿を見た黒龍は高らかに笑った。
白き龍は・・・死んだ!
自らの勝ちを予感している。蓮の体を揺らし、「蓮は死んだ」と嫌ったらしく見せつける。蓮は力なくグッタリしている。
黒龍が蓮を放り投げようとした次の瞬間、蓮の体から水色の波動が満ちてくる。その波動の力は華札継承者よりも大きい。黒龍が波動の根源を見ると蓮が黒龍のほうを睨んでいた。
「貴様・・・、俺を怒らせたな!」
蓮ではない誰かである。その誰かが蓮の口を使って黒龍に対して怒りをあらわにしたのだ。水色の瞳が光っている。白き龍が発する波動によって蓮は解放された。
「蓮・・・?」
「いや、蓮さまじゃない。白き龍じゃ・・・。白き龍が蓮さまの体を動かしとる・・・! しかも白き龍の怒りが満ちておる・・・。このままでは蓮さまの体がもたぬ!」
なんと白き龍が蓮の体を操っているというのだ。蓮の口から出たあの言葉は白き龍が発している。白き龍はまるで正義感に溢れた闘志むき出しの若者のようだった。蓮本人の怒りの顔はあまり見ないが目の前にある怒りは、長年に渡って積もり積もったように見えたのだった。
白き龍よ。なぜ、我の邪魔をする・・・?
黒龍に対し、白き龍は蓮の口を動かしてこう言った。
「平和だったこの大陸がお前によって分断し、多くの者が死に絶えた・・・。自らを犠牲にするほどの力でお前を押さえつけた華札継承者も、罪を悔いて各地へ散った・・・。その罪は重いのだ!」
白き龍ははっきりと言った。白き龍が振り返るとそこには蓮紀がいる。黒龍にやられた傷を抑えていた。白き龍は振り返る。
蓮紀はきょとんとしている。白き龍は再び黒龍に向き直り、叫んだ。
「俺は四季大陸を守る白き龍だ。この力を持ってお前の息の根を止める!」
黒龍も怒りが溜まって白き龍に襲いかかる。白き龍はとっさに短剣を抜いて応戦する。華麗に黒龍の攻撃をかわしていく。明らかに蓮の体を支配しているのは白き龍である。
黒龍は白き龍の繰り出す攻撃に引き気味であるが、それと同時に蓮の体は傷ついていく。蓮は息を切らす。このままでは白き龍によって蓮が潰されてしまう。
白き龍が短剣を黒龍につき刺そうとした瞬間だった。
それを阻止するために剣が交わる鋭い音が響いた。真聖が駆け寄ると白き龍の短剣を蓮紀の剣が押さえつけていた。蓮紀の行動に白き龍は真意を問う。
「何をするのだ」
「これ以上、俺の大事な息子を虐めないでくれないか?」
「何を言っている・・・。この少年はお前とも死んだ嫁とも血のつながりは一切ないのだぞ。お前がこの少年を守る義理はない」
白き龍は蓮紀に冷酷な言葉を言い放った。それに対し蓮紀は剣の力を緩めず、力を込めた。後遺症など知ったことかと。
「この子は俺の跡継ぎだ・・・。俺と椿が愛情を注いだ大事な一人息子だ! この子を守るのは俺が・・・蓮の父親だからだ!」
蓮紀がそう言う。
真聖が蓮紀の名前を呼び安否を確認した。蓮紀はその問いかけに大丈夫だ! と返す。僕がお助けします! と短剣を抜いて近づくと蓮紀はそれを退ける。
「真聖は来るな! 柊と一緒に少し離れていなさい! 柊! 生きてるか?!」
蓮紀が今度は柊に向かって話しかけた。柊も生きております! と大声で返す。それを聞いた蓮紀はよし、と呟いた。
「柊! 真聖と一緒に控えていろ!」
「かしこまりました・・・。真聖! こっちへ!」
柊は真聖を呼んだ。蓮紀の説得のおかげで真聖は短剣をしまい、急いで柊の元へ走っていった。真聖が柊の場所へ向かったことを横目で確認した後、再び全神経を白き龍に注ぐ。
白き龍が動揺しているようで蓮の瞳が揺れた。
「恐ろしいほどに・・・、冬利にそっくりだ」
蓮紀がその意味を聞こうとしたその時、黒龍が間に割って入り双方に波動を浴びせる。蓮紀と白き龍は吹き飛ばされた。
「ぐはっ?!」
蓮紀は地面に叩きつけられ、白き龍は石碑に背中を激突させた。背中に痛みが走った。
黙って見ていればお互いに殺し合いか。我の手が省けると思ったがそうでもないな・・・。覚悟せよ!
黒龍が白き龍に攻撃をしようとした時、待った! と声が聞こえた。
黒龍が見ると短剣を抜いた真聖が黒龍を見据えて睨んでいた。その後ろには柊が控えていた。真聖を支えるように。
「僕の中にある、唯一無二の師走の華札よ。この短剣に宿り、蓮を守って!」
「儂の中に眠る、如月の華札。師走の華札を援護し・・・救うのじゃ・・・」
師走の華札だけではなく、如月の華札の波動も短剣に集約される。柊は真聖の持つ短剣に触れた。波動は短剣が指し示す先へ飛んでいく。波動が蓮を守るように包み、黒龍をはね返した。
黒龍は姿を消した。波動に圧倒されて一時避難といったところだろう。白き龍は背中に強い衝撃を受けて気を失った。
柊が真聖にでかした、と褒める言葉をかけるが、真聖は立ち上がれなくなるくらい疲弊していた。真聖の体を支えた。
初めて華札の力を使ったことで蓮紀は救われたが、幼い体に見合わないほどの膨大な力を使いすぎてしまったのである。初めてにしては上出来ではあるが、その代償はあまりにも大きい。
「真聖・・・。少し休むのじゃ・・・」
「す、すいません・・・」
真聖は声を出さずに頷いた。
静まり返った石碑の前。ちょうどその頃、気を失った蓮の潜在意識の中で蓮と白き龍が対峙していたのであった。
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