十一章 真実
最新話を更新します。きりが悪くてもう一章追加します。イレギュラーですいません。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏
十一章 真実
珠の部屋に入った理穏、九穏院、紅葉、楓、そして蓮と真聖。様々な謎が絡まったせいで憶測が飛び交い、傷つけ合ってしまった。
「紅葉、楓、前へ」
珠にそう言われて紅葉と楓は前へ出て座った。珠は早速、二人の額に手を当てて記憶を即座に読み解く。なるほどね、と理解した。
「もうわかったんですか?」
「なんとなくですけど。あなたたちの頭の中の記憶を読み取ったまで。造作もありません」
手を当てただけで読み解くんなんて、と紅葉と楓は顔を見合わせた。そして早速珠は祈りを捧げ始めた。
「我の中に住まう柳に蛙の華札よ、そして秋国を守りし古の神々よ。私の求める願いをこの瞳の前で語り、真実を見せよ!」
珠がそう言った途端、珠の頭の中にはその時の光景が浮かんだ。
見えてきたのは紅葉の母親。買い物に出かけるところであろう。笑顔で手を振り見送る幼い紅葉。母親はそんな紅葉に手を振って出かけて行った。
母親はウキウキで街を歩いた。
買い物を終え、母親は少し急ぎ足で家に戻ろうとした。家には育ち盛り、食べ盛りの子供が二人待っている。楓はまだ小さく少々駄々っ子気質。紅葉が悲鳴をあげる前に急いで帰る。
するとあまりにも急ぎすぎて母親は石につまずいて転んでしまった。いてて、と足をさすっている。立ち上がってやっちゃった・・・と笑いながら痛みを我慢して先を急いだ。そしてあの路地に差し掛かる。そこに差し掛かった瞬間、地面が揺れた。
壁にしがみついてやり過ごした。しかしその直後悲劇が訪れる。母親が動こうとした瞬間、先ほどの地震によって脆い硝子が割れて落ちてきた。
硝子の破片が鉄砲雨のごとく降り注いだ。母親は避けることもできず、体に硝子の破片が突き刺さり血が流れる。虫の息になった母親は這いつくばって帰ろうとするが動くたびに傷が広がり、出血量が多くなる。
「く、れ・・・は・・・、かえ・・・で・・・。ごめん・・・ね。紅葉・・・、生き、な・・・さい。あ、なたは・・・、神無月の・・・けい、承者なんだから・・・っ」
その言葉を最後に母親は意識を手放した。
そして時間が経過して帰りが遅いことが気になった紅葉と楓が駆けつけた時にはすでに手遅れであった。そばに落ちていた破片には母親の血がべっとり付いており、まさに硝子のお化けが刺し殺したと見えてしまう。
母親の遺体にすがりつき、紅葉と楓は泣き崩れた。
全てを見終わった珠は息を吐いてなるほどね、と呟いた。珠は見えたものを全て話し始めた。
「まずは結論からお伝えしましょう」
「はい」
「あなた方の母親は天災事故で亡くなった」
「天災事故?」
楓が首をかしげた。すると紅葉は本当ですか? と聞き返した。珠は楓を見て続ける。
「最初あなたは『お母さんが硝子お化けに殺された』って言ってましたけど、硝子お化けなんて迷信に過ぎない。お母さんは出かけた後、軽い地震が起きてその衝撃で硝子の破片が落ちてきてそれが直撃。死因はそれだろうね」
珠の答えに楓の思考が停止する。今までこの世に存在しない殺人犯を憎みながら生きてきた。そしてその憎しみを蓮に向けて、挙げ句の果てには蓮を殺そうとして怪我を負わせた。
自分はとんでも無いことをしたんだと後悔が支配した。
「彼女のすごいところは大怪我をして大量に血が流れてもなお、あなた方の元へ帰ろうとした。流石、母親。まだ小さい子供の元へ帰ろうとしたみたい。でも怪我した場所が悪く動いたせいで出血量が増してそのまま亡くなった」
紅葉はそうだったのか、と珠の言葉を踏みしめた。珠は紅葉に母親が亡くなる前に口にした言葉をそのまま伝えた。母親は紅葉が華札継承者であることを知っていた。紅葉はまず母親がそんなことを知っていたことに驚きを隠せない。
「母ちゃんはいつから俺が継承者だと知ってたんですか?」
「おでこお貸し」
珠は最初と同じように紅葉のおでこに指を当てて記憶を読み取り、そして神にお告げを求めた。すると珠は紅葉に言った。
「きっと生まれた瞬間に分かっただろうね」
「え?」
「母親が神無月の華札継承者だったんだろう。だからあなたが胎内から出てきて産声をあげた瞬間、この子が次の華札を受け継ぐと確信したんだろう」
紅葉はおもむろに手を痣の部位に当てていた。すると紅葉は蓮の前へ移動して頭を地面に擦り付けるほどに下げて謝罪した。
「蓮。怪我をさせて本当にごめん! 許してくれ、とは言わない! 楓の代わりに謝る。この通りだ!」
「お兄ちゃん・・・。蓮さま・・・。王子様とは知らずに大怪我させてしまって・・・ごめんなさい! 殺人犯扱いしてごめんなさい!」
兄の様子を見た楓も泣きながら謝った。蓮は楓に切られた腕に手を当てる。応急処置はしてあるがやはりまだ痛む。そんなこと・・・と言おうとすると今度は理穏が蓮にこう言った。
「蓮。君は王子様だ。傷をつけてしまっては冬国からの怒りを買うのは必然だ。我が国の民が犯した罪は私の罪だ。私は首領を降りて償いをしようと考えている」
それを聞いた紅葉と楓は驚いて言葉を失った。蓮も驚いている。九穏院が止めようとすると蓮が先に口を開いた。
「それは絶対にダメです。理穏陛下は秋国に必要なお方です。きっとそれは九穏院さまだって同じ考えのはずです。だって、一人の国民の過ちを自分の罪だって言えるくらい思いやりが深いから・・・その思いやりは絶対必要だと思うんです。だから、僕のことは気にしないでください。首領を辞めるなんて絶対にダメです」
「蓮・・・」
蓮はやめないでくれ、と懇願する。それを聞いた九穏院も同調した。この国に必要なのは理穏陛下である、と。そして私は理穏陛下を御支えしますとも伝えた。そうか、蓮がそういうならと理穏が頷いた。
「首領さま・・・」
紅葉が理穏を見て呟くと理穏は紅葉に言った。
「君の妹がしたことは決して許されることではない。その償いを申しつける」
「はい。できることであればなんでも」
「素晴らしい硝子細工を納めるのだ。お前の師匠よりも素晴らしいものを納めるのだ。これが償いだ」
理穏はそう言って笑った。それを聞いた紅葉は頭を下げてかしこまりました! と承諾した。そして蓮に対し楓は謝罪をした。
「蓮さま。ごめんなさい!」
そんな楓に対し、蓮は声をかけようとするも怪我をさせられたことに対し少し憤りを感じているのは嘘ではない。なかなか声がかけづらかった。
「楓さん。僕は正直許したくはありません。でも、これで事実が明らかになったのなら僕には責める権利はありません」
蓮はそう言った。楓は涙をこらえながら何度も頭を下げた。すると紅葉は楓の肩に手を添えた。そして自分を導いてくれた小夜のことを話す。
「俺が華札継承者として覚醒できたのは、最初の華札継承者であるあの人の・・・、小夜さまのおかげなんだよ。俺が母ちゃんの最期の場所で悩んでたときに華札が見せた幻想だったんだ。小夜さまは・・・母ちゃんにそっくりだった・・・」
「お母さんに?」
「そうだよ。きっと母ちゃんは小夜さまの生まれ変わりだったんだよ」
楓は涙を拭って笑った。理穏は書物を取り出した。その書物は華札について書かれたものであった。その書物には初代華札継承者に関することも描かれている。
理穏によると、神無月の初代華札継承者は紅葉の言う通り神無月小夜という女性だったという。彼女は季節を変える不思議な力を持っていて、秋国の気候も彼女が操作したという言い伝えが残っている。しかし華札の力が悪い人間に渡り、悪用するのではないか、という考えもあり心優しい彼女は不思議な力を利用して華札の力を封印する呪いをかけた。
あるきっかけがなければ華札の力を使えない。
優しさが生んだ悲しい鎖である。
「その後、彼女は秋国に留まり結婚し子供が生まれた。その子供から君へと血が繋がっているんだよ」
理穏はそう語る。彼女は華札の力を封印した後、国の平和を願いながら普通の人間として女性として幸せをつかんだのである。きっと紅葉の前に小夜が現れたのは彼女の心の中にある母性が作用したのだとされた。
紅葉はすべての真実を聞き終わり、珠に対し心の底から礼をした。しかし珠はそれに返答することはなかった。
そして次は蓮に視線を注いだ。蓮は少し体を強張らせた。な、なんですか?! と恐る恐る言葉を返すと珠は蓮の瞳をじっと見つめた。
「私はあなたに興味がある」
「きょ、興味?」
「早速始めよう」
蓮の気持ちの整理を完全無視し、蓮の額に手を当てて頭の中を読み取る。珠が読み取ったのは蓮紀や柊、真聖との思い出だった。
珠は一通り見て素敵な記憶だ、とつぶやいた。そして神に対して祈りを捧げ、蓮のことを聞いた。
「なんということだ・・・。何故攻められたのだ・・・。何故・・・」
男の声が聞こえてきた。一回り若い蓮紀の姿が見える。馬から降りて目の前に映ったのは焼き捨てられた家の残骸。そして言葉を語ら冬国の民の遺体がたくさん転がっていた。絶望に拍車をかけるように雨が降り始めた。
蓮紀の叫びが響いた。
すると蓮紀は何かの声を聞いて瓦礫の下を夢中で探し始めた。すると布に包まった赤子を発見する。蓮紀はその子を抱えて馬に乗り急いで屋敷へと戻る。
屋敷で蓮紀の無事を祈る椿は夫の帰還に嬉しかった。が、蓮紀の抱える赤子を見て驚いた。蓮紀は椿を説得している様子だ。
椿は蓮紀の思いに理解し、赤子を抱いた。椿はその赤子を愛おしそうに見つめた。
そして同時刻、柊の屋敷。彼の屋敷の前も家が焼けて壊されていた。すると遠くから赤子の泣いている声がした。柊はその声を頼りに道を歩くと女性の遺体が転がっていた。目を覆いたくなる光景だったが、その泣き声はこの女性の下のようだった。
「まさか・・・」
柊は急いで遺体を退かすとその下に女性物の着物に包まれた赤子が元気な泣き声をあげていた。柊はすぐにその子を抱いた。
「・・・無念だった。冥福を祈ろう」
雨が降り出して涙をこらえながら、雨の降りしきる中黙祷を捧げた。柊はその赤子を抱いて屋敷の中へ入って行った。
『この御子こそ、白札なり。白き龍、睦月の華札継承者を助けれり』
珠は神からのお告げを聞いて蓮の方を見て驚きを隠せない。
いつも意地悪のように断片的に見えていたにも関わらず、ここまで鮮明に見せてくれるのは初めてである。
「どうやら、華札は蓮さまの力には逆らえないようだ」
珠がそう言った。蓮がその意味がわからず、頭をかしげる。珠は蓮に見えたことを話し始めた。
「まず単刀直入に言おう。蓮さま、あなたは蓮紀さまとの血の繋がりは、一切ない」
それを聞いた蓮は固まった。蓮の時間が止まりかける。自分の耳が信じられない。目の前が灰色の世界に変わる。
「血が、繋がってない・・・? そんな、バカな」
蓮が半信半疑で聞き返す。そしてそれを受け入れたくないのか、冗談めいて笑いが起こってくる。珠の発言はあまりにも衝撃的すぎて理穏や真聖たちは笑えなかった。蓮は同調を求めてもどうしても笑うことなどできなかった。
珠は神が教えてくれた、『真実』を口にした。
今から十年前。
冬国に春国が豊富な水資源を求めて軍を送った。秋国よりも軍を要している冬国でさえ、相手が春国ならばその差は歴然。戦は春国の勝利、領土拡大に成功した。冬国には甚大な被害を生んだ。国のほとんどの民が死に絶えた。
蓮さまのお父上である蓮紀さまも戦に参加していて必死に戦ったが、大敗を帰した。自らの屋敷へ逃げ帰る途中で崩壊した国を見て絶望した。泣き叫んで自らの無力さを思い知った。
そんな時、どこからか赤子の泣き声がする。
蓮紀さまはその声のするほうへ向かい、瓦礫をかき分け夢中に探した。そして瓦礫の下から生まれて間もない赤子が彼の手によって救出された。その子を見た蓮紀さまはすぐに屋敷へ戻った。
屋敷では奥様が待っていて、蓮紀さまが抱えている赤子に大層驚いた。蓮紀さまは奥様に説得を行っていた。その詳しい言葉まではわからない。しかしその説得の末、奥様は承諾しその赤子は蓮紀さまの子供になった。
その赤子こそ、蓮さま、あなたなのです---。
説明を聞けばその話は信憑性を帯びてくる。
蓮もそれが現実と受け入れざるを得なくなった。彼にのしかかった実の親子ではないという重すぎる十字架。蓮は言葉すら発せなくなっていた。
すると珠は今度、真聖のほうを見て言った。
「真聖。あなたのことも神は見せてくれましたよ」
「僕のことも?」
「ええ。あなたも蓮さまと同じ戦によって親を失った戦争孤児。母親が命をかけてあなたを守ったようです。母親があなたを無傷で生かしてくれた。その後、あなたの泣き声を聞いた男性が保護し、そのまま男性の養子となった」
「柊さまだ!」
真聖はハッとなった。真聖は涙を浮かべていた。九穏院が真聖に大丈夫ですか? と聞くと真聖は嬉しいんです、と答えた。
「僕は、親に捨てられてなんかなかったんですね・・・」
真聖と同じように蓮も涙を流していたが、意味が違った。蓮が流していたのは悲しみの涙だった。紅葉が蓮のそばに寄る。大丈夫か? と紅葉が聞いても蓮は反応してくれない。
「・・・僕は華札継承者じゃないんですね」
「蓮・・・」
「だから僕には・・・鶴の痣が出なかった・・・。僕は・・・、生きている意味がないってことでしょ・・・。消えてしまいたい・・・」
蓮の心を悲しみが支配する。それには紅葉もどう慰めようか困ってしまう。紅葉の母親不審死よりもさらに重いものがのしかかっていた。
「話にはまだ続きがあります」
珠はそう続けた。蓮は珠の顔を見た。そして龍の痣がある腕をあらわにする。それには紅葉は驚いている。まるで腕に巻きつくように龍の痣があるのだ。
「神からの予言がございました。『その御子、白札なり。白き龍、睦月の華札継承者を助けれり』と。蓮さま、あなたさまは白札なのです」
蓮は白札? と首をかしげた。それを聞いた理穏はもしかして?! と書物を開いた。それを見た珠はそうでございます、陛下、と言った。
「白札は華札と同等、それ以上の力を持つ札です。その役目は華札の誰かが欠けた時、それの代わりや役割を補う力を持ちます。白札の特徴は例え血が繋がっていなくても、育ててくれた人の特徴に影響を受け、そしてどんな傷も病もたちどころに治してしまう脅威の治癒能力。子供の頃は無自覚のままではあるが、成長すれば自覚し始める」
蓮のことを「白札」と言い放った珠。
治癒能力は蓮が旅の中で起こしてきた不可解現象と繋がった。そして理穏はその補足をした。
「白札はかつて黒龍と相対する正義の龍が化身したものという伝説がある。だから白札の証は龍の痣。黒龍を抑え込む力がある。そこからつけられた白札の別名は『白き龍』」
その痣がすべての証だ、と理穏はそう言葉を閉じた。蓮は自分の腕にある龍の痣を見つめた。
「神は予言しているのです。あなたが睦月の華札継承者を助けると」
珠の言葉にハッとする。予言は決して外れることはしない。睦月の華札継承者を助けるということは蓮が蓮紀の次の華札継承者になることを予言していた。
白札である蓮は不可能ではない話であるが、血の繋がりがないという後ろめたさであまり喜びを感じなかった。
これが真実です、と珠は告げた。
こうして神からのお告げは紅葉兄妹だけではなく、蓮にも衝撃的な傷を残して終わった。
紅葉は楓を連れて早馬に乗り家へ帰って行った。
蓮は理穏の部屋にいた。手元には華札に関する書物。そこには白札について書かれた項目が。頭の中に浮かぶのは今までの思い出。今までの美しい思い出はだんだんと霞んで見えた。
父上・・・。
蓮は再び涙を浮かべていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏




