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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第四記:秋国編
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十章 朱ニ染マレ

更新しました。もうね、どこで切ろうかわからなくなってきてます。カット部分がかなり多かったりしますが最後まで読んでくれたら幸いです。藤波真夏

十章 朱二染マレ

 騒動から一夜が明けた。

 蓮が目覚めて心配そうに真聖の顔を見つめた。医者が言った言葉がまだ頭の中をぐるぐる回った。

 真聖が飲んだ毒は少量であると予測される。しかし大量の吐血から毒性が非常に強いことを示している。大人でも命を落とす可能性があり、体にかかる負担は予想を超えている。それを子供の真聖が飲んだ。子供が飲んだ場合、生きるか死ぬかを考える前に常に死の淵に立っていることになる。

「真聖・・・」

 蓮の瞳から大粒の涙が落ちた。真聖の手を握った瞬間、真聖の瞼が動いた。蓮はそれを見逃さなかった。すぐに真聖の名前を何度も呼んだ。その声を聞いた福寿院も目を覚ます。蓮に何があったのか、を聞くと真聖の意識が回復したかもしれないと告げた。

 福寿院も眠気は一気に吹っ飛び、真聖の顔を覗き込んだ。しかし瞼はもう動いていない。福寿院は手を組んで目をつむり、祈り始めた。何をしているんだろう? と福寿院を見つめる蓮。

「師走の華札よ、この子を現世へ引き戻したまえ」

 福寿院がそう言うと真聖の体から黄色い波動が生まれる。それは蓮たちにもわかるほどの強い力。真聖の中にある華札をつついて力だけが目覚めたのである。

「福寿院さま・・・」

「ご安心ください。今、神術で華札をつついて起こしたまでです。あとは華札が真聖を回復させてくれるでしょう」

 福寿院はそう言い切った。華札の力が真聖を昏睡から解放する? と蓮は半信半疑だ。蓮はただ見つめて真聖が目覚めることに祈り続けることしかできない。

 すると真聖がゆっくりと目を開けた。蓮がそれに気づいて真聖の名前を何度も呼んだ。

「真聖! 真聖!」

 蓮の声に反応して真聖がゆっくりと瞳を開ける。倒れた直後は色を失い生気を抜かれたようになっていた真聖の瞳は色を取り戻していた。

「れ、ん・・・?」

 小さな声で真聖の声が聞こえてきた。福寿院がすぐにお医者さまを呼んでくる、と言って部屋を出て行った。

「ごめん・・・」

 蓮は真聖にすがりついてすすり泣いた。目から大粒の涙を流し声をしゃくりあげた。震えている蓮の手を探し少し力のない手で握り返した。それに気づいた蓮が顔を上げると真聖も涙を浮かべてこちらを見ていた。

「蓮。しん、ぱい、かけて・・・ごめ、ん・・・」

「真聖のせいじゃないよ。僕が、真聖を責めた・・・から」

「おた、がいさま・・・。こんな・・・簡単に・・・、僕、たちの・・・絆は切れない・・・からさ」

 そう言った真聖の頭の中にはあの時に理穏が話した言葉があった。


 俺と九穏は双子だ。体は違えど分かつ魂は同じ。すでに心は奥底で繋がっている・・・。それを切り裂くことなど神や仏でさえできない。


 それは蓮と真聖にも同じことが言える。幼い頃からずっと一緒。誰よりも強い絆で繋がっている。それを引き裂くのは神でも仏でも決してできない。

 真聖は上半身を起こした。蓮はそれを支える。

 蓮の視線と真聖の視線がぶつかる。すると蓮が真聖に抱きついた。真聖が目を見開いて驚いたが蓮の口が動く。

「僕たちは華札継承者を探して黒龍を封印する。父上や柊と約束した。その約束を果たさなきゃ・・・、僕たち罰当たりになっちゃう」

「偶然。僕も同じこと考えてた・・・。僕は蓮の味方。そして僕にとっても蓮は味方だよ。必ず成功させて、冬国に帰ろう・・・」

 喧嘩を乗り越えて再び絆を確かめ合ったのだった。

 福寿院が医者を連れてきて再診を行った。その結果、最後に解毒薬を飲んでからの吐血がないことと容体が落ち着いていること、食欲旺盛なところを見て完全に毒素が抜けてもう心配はないという結果が出た。

 福寿院や蓮も一安心だ。真聖の容体が回復し異常がないことを知った理穏と九穏院も急いで部屋へ向かった。理穏と九穏院も一安心だ。

「真聖。本当にすまなかった。苦しかっただろう?」

「理穏陛下・・・。なんか体が勝手に動いてて・・・。でしゃばりました・・・」

「真聖・・・。君は命の恩人だ。秋国での封印が終わった暁には秋国首領、長月理穏として君を讃えさせてくれないか? そうでもしないと恩には報えない」

「理穏陛下・・・」

 真聖は照れくさくて頰を赤く染めた。

 九穏院はお喜びのところ申し訳ない、と一言告げると珠と一緒に透視を行い、首謀者のそばに真聖が見えたと話した。真聖は重要参考人である。あのとき、誰がいたのかを話していただけませんか? と九穏院が聞いた。真聖はためらうこともなく、言った。

「あのとき、僕が見たのは・・・皇太后さまです」

 それを聞いて理穏と九穏院の表情が確信に迫った。証言も得られ、そして珠が見せてくれた透視もある。これで絢妃を追い詰めることができると踏んだ。



 そして数時間後。

 警備していた者に伝えられ、絢妃とその考えに賛同する人間を一斉捕縛した。そして絢妃は現首領の母親でありながら裁判にかけられることになった。罪状は首領暗殺未遂、少年毒殺未遂及び国家転覆。

 絢妃は否認し続けるも即日裁判は行われた。裁判が行われ真聖が証言者として話すことになる。真聖の証言は珠の透視との食い違いはほとんどなく誰もが納得する証拠である。

 多くの賛同者が罪を認め有罪になる中、絢妃だけは否認と黙秘を続けた。罪を認めれば皇太后の地位を剥奪され、牢屋に入れられるのは目に見えている。

 絢妃が言い逃れをしようとすると、九穏院が前へ出て絢妃を見下していた。絢妃は愛しい九穏院に私は嘘などついていない、国家転覆などとんでもない、と。すると九穏院は蓮と真聖に手招きをして絢妃の前へ連れて行った。

「この子たちは・・・、陛下のお客人でしたけど? 詳しくは・・・」

「右にいるのは蓮殿。彼は冬国首領、蓮紀さまの息子でございます。そして今回毒殺未遂に遭った真聖殿は蓮殿の側仕え。もしお二人に何かあったらどうなさるおつもりだったのですか? 冬国の怒りを買い、我々の国は一瞬にして崩壊します。これこそ国家転覆」

「九穏・・・」

「私はたとえ母上でも許しません。今目の前にいる人物すべてが華札継承者の血を受け継いでいる者たちです。これ以上の冒涜は我々を侮辱すること。容赦はいたしません。情けなどありません」

 九穏院は切り捨てるようにきっぱりと言った。それを機に絢妃は裁判中の証言はすべて狂言だと認めた。

 言い渡された判決は地位剥奪の上、追放。

 絢妃らは連行され、秋国の果てへ追放されることになった。



 裁判のあと、九穏院と理穏は心ここにあらずだった。母親を自らの手で追放したことに少し責任と重みを感じているのだ。

「九穏」

「私は・・・いつでも理穏陛下の味方ですよ」

 九穏院は無理やり笑顔を作る。そして考えは変わってないことを伝えた。理穏はうれし涙を浮かべて九穏院の頭を撫でた。

 すると蓮に話がある、と理穏が急に切り出す。なんだろう、とこのまま理穏の自室へ向かった。向き直って座ると理穏が話を切り出した。

「福寿院から聞いた。蓮、お前は無自覚な力があるみたいだね」

「無自覚?」

 真聖と九穏院も首を縦に振る。どうやらそれを見ている目撃者がいるようだ。真聖に聞くと真聖は最初こそ気にしなかったが旅を続けるにつれてだんだんとその現象は目立つようになった。

「僕の目が光る?」

「うん。最初は春国で封印した時。次は七夕さんが見た意識不明の涼羽さんと一緒に寝てた時。その時に体が少し波動を帯びたところを見たらしい。次は夏国で封印した時。そして、清涼院で九穏院さまが見た時。最後は、福寿院さまが見た寝ている僕の手に触れた時」

 聞いた話を含めてすべて蓮に打ち明けた。蓮は本当に覚えてないんだ、と言った。

 蓮すらもわからない無自覚症状を並べられる。

「蓮の目が光った時、生死の境を彷徨っていた人を現世へ戻したと?」

 理穏が言った。蓮は父と同じ鶴の痣を探した。しかし手首にもどこにもその痣は見つからない。その代わりに右腕に巻きつくような龍の痣が浮き出てきた。それを見た蓮は驚きのあまり言葉を失った。

「なんだこれ・・・」

 理穏が蓮の痣を見つめてつぶやいた。これは調べてみる必要があるな・・・、と。怖くて頭の中が真っ白になった蓮に真聖が言う。大丈夫だ、と。蓮にしてみれば真聖の言葉ほど安心するものはなかった。

 すると蓮はそうだ大事な用事を忘れてた、と。その理由を聞くと蓮は岩鉄と約束したという。宮殿へ行く以前に岩鉄の元で硝子の盃を作ったのだ。それを取りに行かなくては行けない。

「蓮。一人で行く気?」

「来た道を戻れば行けるよ。僕こう見えても道覚えてるんだよ?」

 真聖は心配している。すると理穏も行くのは少し考えたほうがいい、と警告した。さらに九穏院も難色を示す。それは珠からのお告げ。

 理穏暗殺未遂が的中したということはまだ何かがある。白き龍がもし蓮だとしたら危険ではあるが、じゃあその証拠はと言われても確証はない。蓮の腕にある龍の痣も謎のまま。すると蓮は短剣を出した。夏国で七夕から餞別品としてもらったものだ。

「僕にはこれがある。最悪の時は抜く。僕は硝子お化けみたいだから怖がって近づかないんじゃないかな?」

 蓮は再び変わった容姿を逆手に取って切り抜ける作戦を実行しようとしている。真聖はわかった、とつぶやいた。しかし条件付きだ。危ないと判断したら戦わずに急いで戻るということだ。

「わかった。約束する」

 蓮はそう言った。

 蓮は短剣を差して荷物を持って行ってきます、と言って部屋を出て行った。蓮は宮殿の裏口から外へ出た。空は雲が多々あるが綺麗な青空が広がっていた。蓮の瞳と同じ色だ。蓮は手で光を遮りながら空を見上げた。

「綺麗な空。ねえ、母上。お空の上で見守っていてください!」

 蓮はそう言うと歩き出した。太陽が高くて気温は高めかと思いきやひんやりしている。秋国特有の気候だ。そのために木々は色付き、いつまでも人間の目を楽しませてくれるのだ。

 すると歩いている先に誰かがこちらに向かって歩いてくる。蓮は気にせず歩き続けたが、次第に近づくに連れ何者かがはっきりする。

「楓・・・ちゃん?」

 蓮がそう呼ぶと楓が蓮をギリッと睨み返した。蓮はその目つきに背筋が凍った。潜在意識が危険と判断し、距離を取り始める。すると楓は言った。

「お兄ちゃんは・・・?」

「紅葉さんなら・・・もう家に帰ったんじゃないの?」

「とぼけないで! あんたがお母さんと同じように妖術で殺したんでしょ?! 私は騙されないんだから!」

 蓮は嘘なんてついていないし、第一妖術なんか使えないと弁明するが楓は一切聞く耳を持たず考えを改めることはしない。すると楓は荷物の中から布に包んだ硝子の破片を取り出して先の尖った鋭利な部分を蓮に向けた。

「私が、お母さんとお兄ちゃんの仇を取る。許さない、硝子のお化け!」

 蓮はゆっくりと腰にある短剣に手をかけた。しかし真聖との約束を思い出す。危なかったらすぐに宮殿へ逃げろ、と。蓮は一歩、後ずさりをして楓から少しずつ距離を稼ぐ。

「僕は硝子のお化けなんかじゃない。れっきとした人間だよ。僕は見境に人を殺すことかんかしない!」

「同じこと何度も言わせないで! 覚悟しろ!」

 楓が硝子の破片で蓮に走って距離を縮めてくる。楓は蓮を殺す気だ。そしてついに二人が交差した。

 その瞬間、血しぶきが飛んだ。血を流したのは蓮だった。蓮が避けきれず硝子の破片が二の腕に直撃し、ぱっくりと割れた切り傷ができた。そこからは真っ赤な鮮血がダラダラと垂れて指から雫となって地面に落ちた。

 あまりの痛みに蓮は二の腕を抑えてうずくまった。真っ白な着物もだんだんと血で赤く染まる。額からは汗をかき、動けない。

「見た? 妖怪は真っ赤な血なんて流さないよ?」

 蓮が痛みに耐えながら言うがやはり楓には聞こえていない。楓を支配しているのは恨みと狂気。目の前にいるのは血も涙もない殺人鬼だった。再び蓮に破片を振り上げ、今度は足を攻撃する。

「っ?!」

 蓮の足も切り傷ができ、血が流れた。足を封じられ、もう逃げることができない。しかも逃げられたとしても血でつけられてしまう。

「さよなら・・・」

 楓がトドメを刺そうと硝子の破片を振り上げた。その時だった。

「何やってるんだ!」

 聞き覚えのある声がした。そこには紅葉がこちらに向けて走ってきた。それを見た楓は驚き立ち尽くした。蓮は助かったという安堵感と痛みに包まれた。紅葉が生きていることに驚いた楓はお化けを成敗しているということを話す。その瞬間、紅葉は楓の頰を一発叩いた。

「お、お兄ちゃん・・・」

「てめえ・・・、何てことをしてくれたんだ! お前はいつまでも硝子妖怪の幻想に囚われている! それと蓮はまったく関係ないんだぞ! しかもだ! 蓮はな・・・冬国の王子さまだぞ!」

「王子・・・? 冬国の・・・?」

 それを聞いた瞬間、楓の顔がだんだんと青ざめる。狂気が抜けて正気に戻り始めたのだ。そしてだんだんと自分が犯したことの重大さを感じた。

「蓮は冬国の王子さまだ! お前はその王子さまを殺そうとしたんだぞ?! これは戦争にもなりかねない大問題だ! お前はそんな幻想に囚われて国を崩壊させようとしてたんだぞ?!」

 それを聞いた楓は手に持っていた硝子の破片を離してその場で力なくしゃがみこんだ。そして涙を流しながらごめんなさい、と懺悔の言葉を繰り返す。そして蓮の元へ駆け寄り安否を確認する。

「蓮! 無事か」

「はい・・・。なんとか・・・」

 蓮の傷を見て重大さを思い知る。出血は止まったが、地面には血が大量に流れ出ていた。紅葉は自分の着物を破り蓮の傷をきつく結んだ。

「俺にはこれしかできない。宮殿で手当てはしてもらえ?」

「はい。でも紅葉さんどうしてここへ? 華札継承者になりたくないって・・・」

「最初はそうだったよ。でも、俺の目の前に初代華札継承者が現れて導いてくれたんだ。あの人は・・・母ちゃんにそっくりだったよ・・・」

「じゃあ?!」

「俺も、華札継承者として黒龍を封印する手伝いをさせてほしいんだ」

 それを聞いた蓮はありがとうございます! と礼を述べた。そして紅葉は妹がしでかしたことに対して兄として謝罪をした。許されることでは決してないが頭を地面につけて謝罪をする。

 それは封印した後にしましょう、と蓮は告げた。

 その瞬間、今まで空がだんだんと暗くなってくる。この暗闇を蓮は知っている。紅葉に大声で言った。

「黒龍が来る!」

「何?!」

 紅葉は楓に隠れているように指示をだし、動けない蓮を抱き上げる。そしてすぐに逃げられるようにする。そして黒い雲の隙間から大きく黒い龍がこちらへやってくる。

「よくも我を縛り付けてくれたな・・・」

「華札もそろそろ揃う。その時はお前を永遠に出てこれないようにするからな! 父上の無念を晴らす!」

 蓮は黒龍を睨みつけた。その目つきは先ほどの楓と同じくらいのものだ。黒龍は蓮のほうを睨み返す。真っ赤な眼光がぶつかる。紅葉は静かに華札の力を動かして黒龍を怯ませようとする。すると黒龍は紅葉を見てお前も華札継承者か・・・とつぶやいた。


「しかし・・・我は、貴様に興味などない。興味があるのはお前だ・・・、白き龍よ」


 黒龍の視線は蓮に注がれた。

 白き龍を指し示すのは蓮のことだった。蓮は全く自覚がない。しかし悟られなくて表情を変えないようにした。紅葉は蓮が目的と知って蓮を庇うような姿勢を見せる。

「華札以外の力が働いて我は動けなかった。だったら、その根源を断てばいいこと」

 黒龍の雄叫びが炸裂し、その力に紅葉の手から蓮が離れてしまう。地面に叩きつけられた紅葉が顔を上げた瞬間、蓮は黒龍に囚われていた。蓮は短剣を抜いて黒龍に突きつけた。蓮は睨んで言った。

「離せ。今すぐ消えろ!」

 蓮の鋭い切っ先はいつでも黒龍にトドメをさせる場所にある。しかしどうしても怪我をしているせいで思うように体は動いてくれない。すると黒龍は笑った。

「お前を捕らえれば、我を抑え付ける脅威は消えるのだ・・・!」

 黒龍は蓮を巻き込み捕らえることに成功する。蓮が動くも黒龍には効果がない。紅葉の華札の力も働いてはいるが、長い間眠りにつかせていたせいでまだ制御ができない。

「鶴の衣を着た龍め・・・」

 黒龍はそのまま雲に隠れて消えてしまう。

「れーん!」

 紅葉の叫びが響いた。様子がおかしいと宮殿から飛び出してきた真聖と九穏院が見たのは紅葉が倒れている光景だった。九穏院が紅葉を起こすと詳細を聞く。

 紅葉は全てを話した。そして蓮が楓によって深手を負っていることも。真聖は地面に流れた血を見た。すぐに察しがついた。この血は蓮の血だと。

「遅かった!」

 真聖は悔しさのあまりに地面に拳を叩きつけた。すると紅葉は真聖に頭を下げて謝った。

「すまない! 俺が華札の力を発揮できなかったせいだ!」

 その様子を楓も見ていた。

 紅葉は楓と共に宮殿の中へ一旦避難することになった。真聖は空を見上げながら瞼に涙をためて唇をかんだ。



 通されたのはなんと珠のいる部屋。薄暗い部屋に楓も紅葉も言葉を失う。そして理穏は珠を呼びことの詳細を語り、協力を要請した。

「私の興味あるものを盗むとは許し難い・・・」

「珠殿?」

「興味あるものは取り返さねばならないですね。陛下、ご協力いたしましょう」

 蓮をモノのように扱っていることには少々納得がいかないが、今は我慢だ。結果として珠の協力を得られたことは大きい。

「珠殿。彼らにその瞳を見せてあげてください」

 九穏院がそう言うと何かを悟ったように目を覆っていた布を取り、虹彩に刻まれた柳の木を見せた。そして自分が霜月の華札継承者である霜月珠であることを伝えた。探しても見つからないわけだ、と真聖は納得する。

 そして本題へ進んだ。蓮が出かけた数分後、理穏と九穏院、真聖は蓮の二の腕に現れた龍の痣について必死に調べていたという。理穏の部屋にある華札関連の書物を読み直し探した結果、ある重大なことがわかった。

「蓮の腕に現れた龍の痣は華札とは違う特別なものだということがわかったのです。しかし資料が古すぎて深くまで掘り下げることはできませんでした。ただ、華札と同等の、いやそれ以上の力を彼が持っていることに確信を持つことができました。その存在のことを『白き龍』と呼ばれることも」

 すべて珠殿の予言通りでした、と続けた。

 それを聞いた紅葉は驚いた。つまり、蓮は華札継承者の血を受け継ぎながら華札継承者としての力は一切ないことになる。それに気づいた時、珠の予言にあった「白き龍朱に染まり、黒き龍によってその身を囚われるだろう」が脳裏をよぎり、謎だった白き龍の正体が蓮とわかってすぐに駆けつけたというわけだ。

 何か打開策はあるのだろうか? と不安視するが珠がふふっと笑った。何がおかしい? と聞くと珠は口を開けた。

「先ほど蓮さまの力は無自覚と申しましたね? でしたら簡単です。蓮さまを奪還する方法など・・・。彼の力は未知数で無自覚。いつ働くかは神のみぞ知る。つまりは・・・」

「そうか!」

 真聖が理解した。つまりはこういうことだと。

 蓮は無自覚であるため、白き龍としての力を使えたとしてもその制御ができるわけではない。捕らえたとしても使えない、ということだ。

「ここには秋国の華札継承者が揃っております。今すぐにでも封印するべきです。その時に珠殿に蓮を引き抜いてもらっては? 珠殿には神の力を借りることもできましょう。理穏陛下、どうかご指示を」

 九穏院がそう言った。理穏はもう言うことが決まっていた。

「長月九穏、神無月紅葉、霜月珠。今すぐに黒龍を封印し、蓮を奪還する!」

 理穏の指示に全員が頭を下げた。時間はない。すぐに出発することになった。楓は理穏と共に宮殿で留守番だ。すると紅葉は珠に言った。

「もし封印が終わった暁には、見てもらいたいことがあるのですが・・・」

「・・・その中身には興味はないが、華札継承者のよしみだ。約束しよう」

 珠は紅葉の願いを承諾した。紅葉の聞きたいことは決まっている。

 母親の死の真相である。

 紅葉は楓に宮殿でおとなしく待っているように言い聞かせて宮殿を出て行った。



 九穏院は馬に乗り、そこに真聖を乗せて、紅葉は珠と一緒の馬に乗って封印場所に向かった。急ぎであるため知らないうちに力が入り、馬に急げと急かす。

 馬の入れない場所は歩いて登った。

 そしてようやく封印場所へ到着する。すると蓮が封印場所で倒れている。

「蓮!」

 真聖が近づくと見えない何かに阻まれ弾かれた。まるで見えない壁が蓮のことを覆い逃さないようにしているようである。蓮本人は気絶しているのか反応が一切ない。すると珠が近づき壁に触れた。

「これは・・・変な足掻きをしてくれる」

 珠は目をつむり、神に問いかけた。華札の力が働いているため予言やお告げが正確になっていく。再び目を開いて珠は言った。

「これは我々にはどうすることもできない。これを抜け出せるのは蓮さまの力だけ

だね」

 蓮の中にある白き龍の力が動けば壁を壊せる可能性があるという。まずは蓮を少しでも動きやすくするために華札を呼び起こし封印するほうがいいだろう、と結論づける。最初に前へ出たのは九穏院だった。九穏院は数珠を手に握りしめて言った。


「私の中に宿りし、『菊に盃』の華札よ。御仏の力とともに、私に力をお与ください・・・」


 九穏院の体に金色の波動が生まれる。九穏院がお経を唱え始めると石碑に描かれている長月の華札に色がつき始めた。それを見た紅葉が前へ出る。少し緊張した面持ちで拳を握りしめて言った。


「俺の中にいる「紅葉に鹿」の華札よ、今こそ呪いを解き放ち、俺に真の力を・・・!」


 紅葉の体に橙色の波動が生まれる。シカトの呪いを解放したときと同じような現象が起こる。そして石碑に手を触れると神無月の華札に色がつき始めた。紅葉が次どうぞ、と珠に促した。

 珠は手を組んで言った。


「私の中にある『柳に蛙』の華札よ、今一度私の元へ参られよ・・・」


 珠の体に銀色の波動が生まれた。珠が石碑に向かって指をさすと霜月の華札に色がつき始めた。石碑には華札の力が溢れる。


「邪悪なものを封印せよ!」


 三人が声を合わせると黒龍の雄叫びが響く。石碑から溢れる膨大な華札のエネルギーが真聖たちを襲う。すると黒龍の声が響いた。

「ふふふ。こっちには白き龍がいる。白き龍が動かぬ限り、華札の封印は意味ない!」

 勝ち誇った言い方をすると珠は甘い、と笑った。九穏院の声がだんだんと大きくなる。お経を唱えている声がだんだんと大きくなってきている。

「なんだ?!」

 黒龍が見ていると、九穏院が数珠を差し出して言った。

「御仏よ、少年の目を覚ましたまえ!」

 九穏院の仏への読経が通じたのか、蓮の目が開いた。それを見た黒龍が「なにっ?!」と驚いた。真聖はこっちに来い! と手招きをする。

 すると蓮は目を一度つぶり、数秒後にまた開ける。すると蓮の瞳が光っている。水色の炎が燃えていた。蓮の力が動いていることに黒龍は動揺し力でねじ伏せようとした次の瞬間、

「近寄るな」

 そう言った瞬間、蓮の中にある力が黒龍を抑え込んだ。そして壁から外へ出た。すぐに三人の華札継承者たちは力を強める。

 黒龍は蓮の力と華札の力で石碑の中へ閉じ込められ、静寂が戻った。


 秋国の華札、封印完了---。残り三枚。

 終わりが見えてきた。しかしそれ以上に蓮の力が活躍した。不可解な現象はいずれ大きな味方になったのだ。



 封印を終えると蓮は怪我のせいでぐったりしていた。すぐに手当てが必要だと急いで宮殿へ戻った。蓮はすぐに怪我の手当てがされた。運良く止血しており、あとは消毒をして包帯で巻くだけだった。

「真聖。ごめん、約束守れなくて」

「今更! 別にいいよ。蓮が生きてるんだもん。それだけで安心だよ」

「やっぱり真聖は僕の大親友だよ!」

「それ、僕の台詞!」

 蓮と真聖は再び笑いあった。ひとまずは一件落着。しかしまだ解明しなければならない謎が残っている。それを解決するまで冬国には帰れない。

「僕、やっぱりどこか違うんだね」

「蓮・・・」

「珠さんに見てもらう。僕の正体を・・・」

 蓮はそう呟いた。真聖は何度も言った。僕は蓮が何者であろうと親友であり側仕え。ずっと味方だ、と。蓮はそれで複雑な心を落ち着かせた。



 謎はこの二つ。

 一つは神無月の華札継承者である神無月紅葉と楓の兄弟。母親を謎の通り魔事件で失った。その真実。

 そしてもう一つは、蓮の中にうごめく「白き龍」の力と彼の正体・・・。

 さあ、準備は整った。

 神の御前で覆った闇を取り除き、光を誘う。真実をここに明らかにしよう---。


最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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