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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第四記:秋国編
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九章 蓮の無自覚、紅葉の決意

最新話を更新します。秋国編もついに終わりが見えてきました。最後まで読んで頂けば幸いです。藤波真夏

九章 蓮の無自覚、紅葉の決意

 宴の会場がパニックに陥っているまさにそのとき、紅葉は一人で道を歩いていた。頭の中をぐるぐると巡るのは真聖の言葉。

「俺が華札継承者・・・? そんな馬鹿な・・・。無自覚の華札継承者だァ? ふざけんなよ」

 自分が華札継承者だということが信じられずにいた。それ以上に紅葉らしくない言葉で真聖を突き放したことに対して罪悪感がじわじわと湧き上がってくる。

「お使いお疲れさん」

 声をかけられ振り返った。そこには腰をさすっている岩鉄がいた。すると岩鉄は紅葉がらしくないことに気づきその真相を聞き出そうとする。それを紅葉はかわそうとした。しかし岩鉄には通用しない。

「何があった?」

 紅葉は岩鉄の工房の中へ入り、ことの詳細を話した。そして太ももにある鹿の痣を見せた。それを見た後で岩鉄は紅葉が嘘を吐いているとは考え難いと思った。

「お前はどうしたいんだ?」

「俺はこれ以上人が傷つくのは見たくない。華札の力だって・・・人を傷つけてしまうものかもしれない。だから怖くて・・・」

「怖くて、協力を拒んだと?」

 岩鉄の目が鋭く紅葉を見据えた。それを聞いて一つ息を吐いた岩鉄は紅葉に一言突きつけた。

「紅葉。おめぇ、まだお袋さんの死を引きずってるんだろ?」

「え・・・? 何を言って---」

「お前はお袋さんを殺したのは硝子の妖怪だとガキん頃は思ってただろう。今は信じてないってこの前言ってたな。でもな、まだ心のどこかでは銀髪の坊主の仕業だと・・・小さな破片一つ分でも考えてんじゃねえだろうな?」

 岩鉄の言葉が紅葉の心にグサッと刺さった。紅葉の顔は一瞬にして真っ青になった。岩鉄はその態度を見てなるほどな、とつぶやいた。

 どういうことだよ、と紅葉が聞くと岩鉄は言った。

「そういやお前の中には華札が宿ってるんだったな。しかも無自覚。きっと大昔のご先祖さまは優しさで華札の力を出さないように魔法かなんかかけたんだろう。おめぇがお袋さんの死を乗り越えない限り、おめぇは前へ進めねえよ」

 岩鉄の言葉は正論だった。紅葉は一切言い返すことはできなかった。紅葉は岩鉄の工房にある椅子に座り込んでしまった。岩鉄は頭を冷やしてもう一度考えろ、と言い残し腰をさすりながら買い出しに出てしまった。

 一人残された紅葉は頭を抱えてしまった。

 頭の中に浮かんだのは母親が生きていた過去の記憶だった。


『ねえ、母ちゃん! オレ、硝子職人になる!』

『いきなり何を言い出すかと思えば・・・。なんで?』

『が・ら・すってキラキラしててきれいだろ? オレ、立派な職人になって、母ちゃんや楓に楽させてあげたいんだ!』

『そう? じゃあ将来を楽しみにしなくちゃね。紅葉は優しい子だからね』


「母ちゃん・・・」

 紅葉の目から涙が一つ、また一つ、と流れた。そして岩鉄の言葉が今でも頭の中を離れない。心のどこかで蓮の仕業じゃないか? と思っているのではないか? まるでその言葉が太い針となって心臓をえぐる。

 口では違うと言ってもやはり年月のいうものほど恐ろしいものはなく、心の中の自分は蓮の仕業だ、と肯定する。矛盾である。

 紅葉は岩鉄の工房を出て行き、フラフラと歩いてとある場所にやってきた。そこは岩鉄の工房から数分歩いた路地。そこは昼間でも薄暗く人通りは夜になればなるほど少なくなる死角域。

 この場所こそ紅葉の母親が血を流して発見された場所だ。今はその痕跡すら残っていない。紅葉は地面を触って「母ちゃん、俺はどうすりゃいいんだよ・・・」とつぶやいた。

 するとどこからか声が聞こえて来る。

「誰だ?!」

 すると紅葉の目の前には一匹の鹿が現れた。なぜ鹿? と紅葉は首をかしげた。すると鹿はずっと紅葉の瞳を見つめた。


『そなたが神無月の華札を宿す者か?』


 女性の声だった。紅葉は首を縦に振った。お前は誰だ?! と問う紅葉に鹿はいたって落ち着いた様子で答えた。


『我が名は小夜サヨ。神無月の華札を最初に宿せし者。そして今そなたが見ているのが私の化身・・・』


 小夜と名乗る女性が姿を鹿に変えて紅葉の前へ現れたのだと言う。紅葉は最初こそ動揺していたものの、だんだんと目の前にいるのは自分のご先祖さまであることに気付き始める。


「なぜ俺の目の前に出てくる・・・?」


『私は死して華札の中に魂が溶け込んだ。そして何百年の時を超えてそなたも見た。嬉しさも悲しさも、全てだ・・・。華札の力を覚醒するのだ、紅葉』


「覚醒って・・・知らねえよ! そんなこと! 力を持てば母ちゃんを殺したヤツと同じだ!」

 

 紅葉は頭を抱えて叫んだ。紅葉なりの拒絶だった。しかし小夜はジーッとただ紅葉を見つめていた。すると小夜が静かに話を切り出した。


『神無月の札は沈黙の華札。シカトの呪いは私がこの手でかけた。後の平和な世になって華札の力を悪用せぬように、己の壁を乗り越えた時に呪いを解放し華札の力を覚醒できるように仕向けた・・・。全ては私だ。私の行き過ぎる優しさが産み出した代償なのだ・・・』


「意味わからん。それでも俺は絶対に・・・」


『確かに華札の力は悪用する者もいる。しかし、お前のその心があれば華札の力を良き方向に使えるかもしれぬ。それに華札の力は圧倒的に清い霊力で作られている。我が神無月の華札を継承する者は優しく思いやりのある者にしか宿らぬわ』


 それを聞いた紅葉はハッと思い出した。「紅葉は優しい子」という母親の言葉を。神無月の華札は優しく思いやりのある者にしか宿らない、という小夜の言葉が突き刺さった。

 小夜はそろそろ私の霊力もここまでだな、とつぶやいた。そして最後にあるものを見せてくれた。そこに映ったのは宮殿の内部。宴の様子だった。

 そこには真聖が血を吐き、倒れる。それを見た蓮がどうすることもできずに動けずにいる。九穏院が真聖を抱きかかえ、宴の会場を出ていく様子だった。


「これは一体?!」


『お前がいない間に大変なことが起きているようだ。あのワラシが王を守る為、自ら毒入りの水を飲んだようだ。命知らずなことを・・・。ま、流石、なりふり構わぬところは相も変わらず。師走の華札』


「師走の華札? まさか、真聖は・・・」


『今毒を飲んだ童は師走の華札をその身に宿しておる。そなたとまったく違う。あの童は守りたいものがあるからこそ、ああやって体を張るのだ。華札一つでも欠ければ、我らが命懸けで作った封印が崩壊する。そなたはどうだ? ずっと暖かい殻の中でいつまでも寝ているつもりなのか? まだ生まれてもおらぬ、雛よ・・・』


 紅葉は反論できなかった。自分は真聖とは違う。嫌なことがあれば逃げればいい。それは正しいことかもしれない。しかし、時として人は大切なものを守る為、ひいては己自身で強くそして正しく生き抜く為には逃げずに壁にぶつからなければならない。

 それをまったくしてこなかった紅葉はまさに雛に等しい。小夜はそう言っているのだった。


「壁を乗り越える・・・」


『そうだ・・・。さあ、選べ。このまま華札を眠らせておくのか、壁を乗り越えて華札を覚醒させるのか・・・』


 紅葉は目をつぶって考え、頭の中で今までのことを思い返す。蓮の笑顔、そして鬼気迫る顔、絶望した顔、真聖の真剣な顔、覚悟を決めた顔、意識のない無表情。そして母親の暖かい顔、そして最期の顔---。

 紅葉が意を決して小夜に言った。


「俺は・・・、華札継承者であることを受け入れる! 華札を覚醒させて、たくさんの大切なものを守る!」


 それを聞いた小夜は静かに笑った。そしてやはり、優しくてお人好しの性格はやはり神無月の血に刻まれたものか、とつぶやいた。小夜は紅葉に視線を移して告げた。


『やはり、そなたは神無月の札を受け継ぐに相応しい男だ。では、私についてくるがいい!』


 小夜が光の粒になって飛んでいく。紅葉は走ってついていく。するとたどり着いたのはなんと岩鉄の工房。光は岩鉄が作った硝子細工の前で止まった。

「ここって師匠の工房? なんでここに?」

 紅葉は困惑していた。すると光は再び鹿の姿に戻る。


『ここには硝子がたくさんある。そなたの心の傷を作ったものだ。そなたが新たな気持ちを胸に硝子に触れることでシカトの呪いは消える』


 紅葉は深呼吸をして、ゆっくりと硝子細工に手を触れた。その瞬間、紅葉の体に何かが入ってくるような感覚が生まれる。まるで風のようにスッと。その風は紅葉の髪を揺らし、波動が少しずつ生まれていく。

「俺の中に眠りし、神無月の華札よ。今こそ華札を縛りし鎖解き放て。神無月紅葉、我こそ・・・神無月の華札継承者なり!」

 その言葉を叫んだ瞬間、紅葉の体から大きな波動が生まれる。じわじわと力が紅葉の体に染みていく。神無月の華札を縛っていたシカトの呪いが音を立てて崩れた。紅葉の体から橙色の波動がちらついて硝子が夕日のように輝き出す。

 波動が全て紅葉の中に入った瞬間、太ももの痣が少し熱く感じた。

 ついに華札の力を覚醒してしまった・・・と思ってしまう。しかし、後戻りはできない。母親の死を乗り越え、大切なものを守るためにこの力を使う。紅葉はそう決めてシカトの呪いを解放した。


『私の役目は終わった・・・。そなたの母上には感謝せねばならぬな。私の血をここまで繋いでくれたのだから。そして、そなたはその母から血を受け継いだ。その華札の力、十二分に活かすのだよ』


 鹿が目を細める。きっと微笑んでいるのだろう。

 鹿の形がだんだんと薄れ、その姿は人間の形になっていった。紅葉が目をこらすと自分と同じ橙色の瞳を持った女性が立っていた。彼女こそ最初の継承者である小夜なのであろうか。

 しかし紅葉にはその姿が別の人物に見えた。

「母ちゃん!」

 紅葉はそう叫んで手を伸ばそうとするも小夜らしき女性は首を横に振り、近づくなと言っているようだった。

 彼女は優しく微笑んで消えていった。

 小夜の顔が自分の母親の顔に似ていたのだ。これは偶然か必然か、紅葉にもわからなかった。しかし彼女の言葉で決意をして、シカトの呪いを解放した。もう迷わない、と紅葉は心に決めた。

 紅葉は急いで家へ帰った。楓が心配しているだろう、と走った。紅葉の家は岩鉄の工房からそこまで遠くではない。楓にしばらく家を空けることを言わなくてはいけない。

「ただいま!」

 紅葉が扉を開けるとそこには誰もいなかった。楓は買い出しに言っているのかもしれないな、と紅葉は思った。そしておもむろに棚に手をかける。その瞬間、紅葉の体に悪寒がした。

「・・・ない。硝子の破片がない!」

 棚の中にしまってあった母親のそばに落ちていた硝子の破片。母親のことを忘れないために紅葉兄妹が引き取ったものだ。盗まれたのだろうか? その考えがよぎる。しかし、紅葉の暮らしているこの一帯で盗みなどほとんど聞かない。

 なぜなら紅葉の家などが含まれた職人町から数里先に九穏院の暮らしている清涼院があるからだ。九穏院は出家をしていても首領の血を引いている人物。警備はばっちりなのだ。その影響は職人町にも及んでいる。

 紅葉は考えた。そしてある仮説が浮かんだ。紅葉は家の中を探した。

「楓の・・・荷物がねぇ・・・」

 そうと分かれば行動するが吉日と見て、紅葉はすぐさま家を飛び出した。

 紅葉は宮殿への道へ急いだ。すると買い出しから戻ってきた岩鉄と遭遇した。岩鉄は紅葉を引き止めた。

「おめえ、留守番しねえで何してんだよ?!」

「師匠!」

「それで結論は出たのかよ?」

「出た」

 紅葉はそう言って岩鉄をまっすぐに見つめた。すると華札継承者ではない岩鉄でさえも、紅葉の中から溢れ出る華札の力を感じていた。紅葉の体から感じるのは燃え盛る炎のようにとめどなく溢れ出るもの。

「俺はずっと逃げてた。母ちゃんが死んだのは妖怪のせいじゃねえって。でも口ではそう言えても心の中までは変えられなかった・・・。神無月の華札は心優しい人間にしか宿らない。だから・・・」

「だから、覚醒させたと?」

 紅葉は頷いた。紅葉の目は真剣だ。紅葉の思いは岩鉄にも分かった。そして最後に岩鉄は後悔しないか? と聞いた。すると紅葉はまっすぐに見つめて言った。

 後悔なんかしない、と。

 岩鉄は安堵の表情を浮かべて再びそうか、とつぶやいた。すると紅葉は岩鉄に楓のことを聞いた。楓知らない? と。すると岩鉄は紅葉が岩鉄の代理で宮殿に向かった翌日くらいに血相を変えてどこかへ行ったと。

「師匠! その時、なんか話した?!」

「く、紅葉?!」

「いいんだ! 小さなことでもいいから教えてくれ!」

 岩鉄はあの時のことをよーく思い返す。するとその時に楓と交わした会話が頭の中に浮かんできた。

「そ、そういえば、お前の居場所を聞いていたな」

「俺の?」

「ああ。俺の代理で宮殿に行ったと。あと九穏院さまや真聖、蓮も一緒だと」

「なんだって?!」

 紅葉が青ざめた。紅葉は岩鉄に宮殿へ行ってくる、と吐き捨てて走って行ってしまった。岩鉄が理由を聞くために紅葉の名前を呼び続けるも紅葉にはその声は届かなかった。


 このままじゃ、蓮が危ねえ!


 心の中ではそう叫んでいた。



 一方、宮殿では真聖の懸命な治療が行われていた。

 一応解毒は完了し、あとは体力回復を待つのみとなっていた。蓮は真聖が寝ている部屋の廊下で待機し、その側では後処理に追われる理穏の代わりに福寿院がついた。

 ようやく蓮と福寿院が中へ通された。

 真聖は最後に見た時とは違い、死んだように眠っていた。蓮は思わずすがりつきそうになったが福寿院がそれを諌めた。蓮の代わりに医者に詳細を聞いた。

「あの坊やの容体は?」

「最初は大量の血を吐いたので心配ではありましたが、解毒薬を飲ませましたらだいぶ落ち着いてまいりました。後は回復を信じるのみです」

「回復って・・・、まだ予断を許さないのですか?」

「はい。飲んだ毒がどれくらいだったかは分かりかねます。解毒薬の量的に推測するに少量の毒であると思われます。しかしいずれにせよそれを飲んだだけで大量の血を吐くということは毒性が強く、大人でも負担はある。それが子供の体では大人以上の負担がかかる」

 それを聞いて福寿院は驚きのあまり言葉が出ない。

 蓮も同じだ。難しい言葉が飛び交って理解が乏しいが、真聖は未だに油断できない状況にあることだけは理解できた。

「蓮さま。大丈夫です。この福寿院がついておりますよ」

 蓮は福寿院の着物にすがった。そして真聖の側に二人で座り様子を見ていた。すると蓮は言った。

「九穏院さまは皇太后さまが仕組んだって言ってました」

「皇太后さまが?! 九穏院さまがそのように?」

「僕も最初どうしてだろう、と思いましたけどあの表情、してやったって顔してたような・・・」

 それを聞いた福寿院はもしそれが本当だとしたら大変なことになる、と。皇太后が仕組んだ毒入りの水を理穏が飲んでいたら国がひっくり返ってしまう。それこそ、絢妃の思うままに国が動いてしまう可能性だってあるのだ。

「真聖にあんなこと言わなければ・・・、こんなことには・・・。悪いのは、全部・・・ぼ、く・・・」

「蓮さま。あなたのせいではありませんよ。落ち着いて。もう夜も遅い。本日は私がついておりますから」

 福寿院にそう言われ蓮は言われた通りに床についた。あまりにも心配で真聖のそばにしてもらった。福寿院も床に布団をしいて眠った。

 深夜になった。まだ表の方が少し騒がしいが蓮たちがいる奥宮では静寂に包まれていた。月明かりが部屋に差し込んだ。

 するとぬくっと蓮が起き上がった。そして真聖のそばまでより手に触れた。蓮が起きたことで目が覚めた福寿院は起き上がり、蓮のいる方向を見てみると福寿院は一気に眠気が飛んだ。

「蓮、さま?」

 蓮の水色の瞳は美しく輝き出し、体からは真っ白な波動が生まれている。福寿院が声をかけようとすると蓮を包んでいた波動が真聖に移った。それが終わると蓮は急に力なく倒れた。

「蓮さま!」

 福寿院が蓮のそばによると蓮は静かに寝息を立てていた。寝てる? と顔を覗き込んだ福寿院。これは九穏院に報告しなければ、と決めた。しかし今は夜中。蓮を再び布団の中に入れてあげた。福寿院も布団に戻り眠りについた。


 その頃、理穏の自室。

 理穏は九穏院と二人で深夜にも関わらず話し込んでいた。

「あの硝子の瓶は?」

「はい。女官たちによるとあの瓶を今までに見たことはないと警備から聞きました。恐らくは、今日追加されたものかと・・・」

「九穏。お前もそう思うか」

「はい」

 理穏は腕を組んだ。しかし九穏院は決して隠したりせず言った。首謀者は絢妃であると理穏に突きつけた。それには理穏は驚き、証拠は? 根拠は? と幾度も質問する。九穏院は話し始めた。

「理穏陛下を恨みに思う人物を考えた時、自分の子だというのに愛さず、挙げ句の果てにはこの国を手中に収めようとした母上しか考えられないのです。理穏陛下を殺せば、全ての実権を握るのは母上です。思う通りにしようと考えているのですよ」

 すると理穏は九穏院を見つめて少し自重気味に言った。

 俺を殺して、お前を還俗ゲンゾクさせて首領に据えるのかもしれないぞ、と。それを聞いた九穏院はそのことは決してありえないこと、と反論した。本当か? と疑う理穏に九穏院はきっぱりと言った。

「私が蓮を迎えに行った時に母上にお会いしました。その時、もしこれ以上の陛下に対する冒涜を続けるようならば、長月の華札の力を使って成敗する、と伝えました。そして決して首領の座を継げ、と言われても継ぐ気は毛頭ございません、とも」

 九穏院の意志は固くはっきりとしている。今まで九穏院と一緒にいてこのような視線を向けて裏切ることは一切なかった。

「私は陛下を全力でお支えするおつもりです。この華札の力を持って・・・。兄上を殺すことは華札継承者を攻撃することと同じことでございますゆえ・・・」

「九穏・・・」

 再び兄弟の絆を確かめ合った二人。しかし理穏の言う通り証拠はない。宴の会場に人が揃っていて目撃者はいないのだ。それを理穏が言った時、九穏院は実は絢妃と別れた後に珠の元へ向かいその様子を透視してもらったという。

 なんと九穏院もその透視を見るため、華札の力を使ったというから驚きだ。その時に見えたことを理穏は聞いた。


「実はあの瓶が見えたのです。渡しているのは着物の柄から推測して母上です。そしてあのそばにはもう一人いたのです。聞き耳を立てている真聖です」


 理穏は真聖が?! と驚き言葉が出ない。さらに詳細を聞くと九穏院は答えた。

 母上の会話を聞いてあの瓶に毒が入っていると気づいた真聖は、理穏陛下が飲まないように体を張ったのだと思います、と。その真聖が目覚め、ことの真相を語れば神の透視だけではなく、重要な証拠になる、と。

「真聖が・・・俺を、守ってくれたのか・・・。それは、感謝せねばならんな。真聖を死の淵に立たせて悪いことをしてしまった・・・」

「理穏陛下・・・」

 九穏院はただ下を向いていた。すると蓮はどうしてる? と理穏が聞いてきた。蓮は真聖の寝ている部屋で福寿院がそばについて寝ている、と九穏院は答えた。すると九穏院はあることを思い出した。

「そうだ、理穏陛下。華札に関する書物を見せていただけませんか?」

「お、おう」

 理穏はすぐに棚から華札に関する書物を全て出した。それを九穏院は開いて読み始めた。一体どういうことなのか、と聞くと九穏院は蓮のことだと話す。蓮の身に起こる不可思議な現象がもしかしたら華札絡みかもしれないと思ったのだった。

「蓮は蓮紀さまの息子だ。蓮紀さまといえば睦月の札だ。蓮はそれを継ぐんだろう?」

「いいえ。実は蓮殿の体のどこにも睦月の華札継承者の証である痣がないのです! おかしすぎます。しかも蓮殿は知らない間に瞳が光り出すこともあるのです。しかも本人は無自覚で何も覚えていないのですよ?」

「それは摩訶不思議な・・・」

 九穏院と理穏はひたすらに書物を読み漁った。たった一つの手がかりを求めて---。

 毒殺未遂騒動から数時間が経過した夜のことだった。


最後まで読んでくださりありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。

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