八章 陰謀
なんだか調子がいいみたいです。なんだか怖くなります。でも最新話ができたので更新します。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏
八章 陰謀
真聖が来た道を引き返してくると、蓮とバッタリ鉢合わせた。
「真聖! ここにいたんだ! どうしたの?」
「ごめん。後で話があるんだ。聞いてもらってもいい?」
「いいけど・・・」
蓮は細かい理由は聞かされなかった。真聖と一緒に理穏と九穏院の元へ戻ってくると二人は心配していた。
その理由を理穏の自室で真聖の口から告げられた。
「え?! 神無月の華札継承者が・・・紅葉さん?!」
蓮は驚きを隠せない。九穏院も同様である。理穏が理由を問うと真聖は先ほど見せてくれた華札に関する書物を貸して欲しいと所望し、理穏は広げて見せた。
「これを見てください」
真聖が指差したのは神無月の札。そこの記述を九穏院が声に出して読んだ。
「『華札にはそれぞれ特殊な力を有している。その力は一番最初の華札継承者が特化していた能力がそのまま引き継がれている。しかしその力は時に呪いとなって華札継承者を縛ることもある。華札の中で呪いがあるのが神無月の札である。
神無月の札にはシカトの呪いがかかっている。これは華札の力を打ち消してしまう。神無月の華札継承者は印である痣は体にあるものの、華札継承者としての力は使うことができない。華札継承者本人も自分が華札を宿している自覚は全くない。
シカトの呪いは自分自身のきっかけで解放され、華札継承者として覚醒する。
その呪いがある神無月の華札は別名・シカトの神無月とも呼ばれている』・・・」
蓮はまさか華札にそんな呪いがあることなど知らなかった。蓮は思いつく。じゃあ今すぐにでも紅葉さん連れてきて、と。きっと今頃、献上品を納め終えている頃だから、と思った。
「紅葉さん連れてこよう!」
蓮がそう言ったが真聖が無理だよ、と告げた。どういうこと? と聞くと、真聖はうつむきながら答えた。
「このことをお兄さんに言ったんだ。そしたら『俺はこれ以上人が傷つけられていくのは見たくない』って拒絶されて・・・帰っちゃった」
それを聞いた蓮は脱力した。体からだんだんと力が抜けていく。蓮の頭の中は絶望の真っ黒な色に染まってしまった。
このままでは黒龍を封印することができない。今までの努力が水の泡と化してしまう。
「どうするんだよ! このままじゃ・・・封印できない・・・」
蓮が肩を震わしている。悲しみと悔しさが蓮を支配している。だんだんと苛立ちが募り始める。
「蓮。ごめん・・・、本当に---」
「もうそんな言葉聞き飽きたよ!」
蓮が急に声を荒げた。それに驚き目を見開いた真聖の目に飛び込んだのは怒りで顔が歪んだ蓮だった。
「華札継承者は嫌われることもあるのを春国で思い知ったでしょ?! 真聖、わからなくないはずだ!」
「蓮・・・」
「勝手に行動して取り返しがつかないことになったらどうしてくれる?! 父上は無駄に血を流したことになるんだよ」
真聖はなかなか言い返せない。何ふりかまわない行動が蓮の怒りを買ってしまったのだ。蓮と真聖の間に理穏と九穏院が割って入った。
「喧嘩をするんじゃない!」
「蓮殿! 真聖殿! 落ち着いてください!」
蓮と真聖は少し落ち着きを取り戻したが、蓮は真聖と視線を合わせようとしなかった。
冬国王子とその側仕え。小さい頃から非常に仲が良く喧嘩もあまりしたことのない二人の仲に溝が入った瞬間だった。
その様子を理穏と九穏院はただ黙って見ていることしかできなかった。
それから時間は流れ、宴が明日に迫った。
二人の仲は修正されないままだった。二人きりの時はなかなか言葉を発せない。言葉をつぶやいた瞬間にまた喧嘩が勃発しかねなかった。
真聖も蓮もお互いが相手の心を読もうとせめぎあいをし、結局話せずじまいだ。
その様子を誰よりも心配していたのは九穏院であった。明日からの宴では蓮を理穏の隣に配置し、理穏を守る極秘任務を遂行しなくてはいけない。しかし、このままではその任務すら出来かねる。
「こうなれば・・・」
九穏院がある場所へ向かって歩き出す。その様子を息を殺して見ている人物がいた。母親の絢妃であった。
「九穏。私は、信じています。この国に必要なのは・・・長月理穏ではない。長月九穏だと・・・」
そして手に持ったガラスの瓶には透明な摩訶不思議な液体で満たされていた。それを見ては怪しい笑みを浮かべていた。そして音も立てずにその場から消えた。
九穏院が入ったのは、珠のいる部屋。
「珠殿」
九穏院が声をかけると、ろうそくの明かり一つで手を合わせ神に祈り続けている。九穏院は何度も声をかけた。珠はようやく九穏院に応待し始めた。
「九穏院さま。こんな夜更けに出歩きとは・・・感心いたしませんね」
「珠殿。単刀直入にお聞きします。明日の宴のこと、神に問うていただけませんか?」
珠はなぜそのようなことを? と九穏院に聞いた。そして自分は宴だとかいう乱痴気騒ぎには興味はありませんし関心もない、私には無関係である、と主張した。
九穏院は分かっている。珠が少し変わり者で興味を引いてもらうのは本当に難しい。そこれ九穏院は珠にこう言った。
「蓮殿についてご存知でしょうか?」
「銀髪の少年でしょう? あの子には少し興味があります」
蓮の名前を使って珠の興味を引く作戦だ。九穏院は作戦通り珠の口から「興味がある」という言葉を引き出した。そしてさらに続けた。
「彼のことを知りたいのです。彼は儚そうな外見のわりに思い切った行動、自らの立場を有効活用した考え・・・。宴に参加するにあたって彼の行動を予測しておきたいのです。見ていただけませんか?」
そう九穏院が言うと深く頭を下げた。
「頭をお上げください、九穏院さま。興味が湧いてきました。神に問うてみましょう」
珠の興味を蓮に集中させる作戦は成功した。早速珠は手を合わせて瞑想に入る。ところが、十分以上経過しても珠の反応が一切ない。珠ならばすぐにでも神の声が聞こえて伝えてくれる。
「どうやら、一筋縄ではいかないようです」
「大丈夫なのですか?」
九穏院が声をかけると珠はご心配には及びません、と返した。すると今まで両目を覆っていた布がスルスルと取れる。長い間光を遮っていた鎖が解けて、珠が再び瞳を開ける。九穏院に珠が振り返り、目を開けた。
「その目・・・」
珠の瞳は銀色。そして右目の虹彩の中に何かの模様が見える。九穏院が瞳の中を凝らして見る。虹彩には柳の木のような模様が見えた。それを自覚した瞬間、スネにある痣が熱を帯びる。
「珠殿・・・。もしや、あなたは・・・。その瞳の柳の木は・・・」
珠はニヤリと笑った。
「私の本名は霜月珠でございます。霜月の札「柳に蛙」の華札継承者でございます」
九穏院はこれで自分を含めた秋国総ての華札継承者の情報を掴んだ。誰もが宮殿の奥深くにいるとは思うまい。珠は右目に手を添えた。
「私の華札の力は総てを見通す神眼。普段はこの力に頼らず己の力のみを使う為、常に両目に被いをつけて真実を汲み取れるようにしましたが、今回ばかりはこの力を使わざるを得ませぬ」
珠は笑った。
普通の力で見えぬのならいっその事、華札の力を借りてしまおうという珠最大の奥の手である。本当に見えぬのですか? と聞いた九穏院に珠は大丈夫です、と告げた。
「私のこの瞳の前では誰も虚実を申し上げる事はできません。華札の力には誰も逆らえない。華札の宿るこの目を持ってすれば見えぬものなどないのです」
そしてまた手を合わせて、祈りを始める。口がもごもごと動いた。
「我の中に住まう柳に蛙の華札よ、そして秋国を守りし古の神々よ。私の求める願いをこの瞳の前で語り、真実を見せよ!」
そう叫んだ。
すると珠の体から華札の力が満ちていくのを九穏院は感じた。
珠の目には蓮が鮮明に映っていた。
真聖! ごめん! 僕のせいだ・・・!
そんな声が聞こえて来る。蓮の声であろうか? すると今度は蓮の水色の瞳が光り始める。しかしそれ以上のことを意地悪にも華札は見せてくれなかった。
その後は誰かの腕から血が滴る様子。向かい側には腕を切ったと思われる人物が硝子の破片を持って息を切らしている。そしてすぐに腕を切りつけたられた人物がまるで黒くて大きなものに包まれて囚われる、といったあまり心の穏やかにならない様子が珠には見えた。
すると今度は鮮明に声が聞こえてきた。
『月の皇子、危機に瀕す時、黄の鳳凰と白き龍によって救われ、謀った悪霊は罰を受けるだろう。のち、白き龍朱に染まり、黒き龍によってその身を囚われるだろう。愛する我が国を守る守護者が現れ、混乱は終結する』
お告げを聞いた珠は少し驚き顏であった。そして自重するように笑った。
「神は私に混乱を終結させよ、と命令するか・・・」
「珠殿?」
九穏院が珠に聞くとお告げのことを九穏院に伝える。すると九穏院は何かに引っかかる。
「白き龍とは一体・・・。黒き龍が黒龍だとするならば、白き龍が大怪我をすることを神は予言しているのですか?!」
「私の華札を持ってしても神は深くは教えてくださいませんでした。意地悪です。ただ・・・」
「ただ?」
「最初に華札が見せてくれたのは、叫び声でした。誰のかは分かりかねますが、『真聖! ごめん! 僕のせいだ・・・!』と絞り出すような声で聞こえてきたのです」
珠には蓮の名前は伝えたが真聖の名前は一切話していない。
やはり珠の力は本物である。九穏院は息を飲んだ。頭の中には仮説が浮かぶ。真聖の身に何かが起こる、と。白き龍の存在が不明であると。
「珠殿。感謝いたします」
九穏院が珠の部屋を出ようとすると珠がそれを引き止めた。九穏院が振り返るとそこには再び布で両目を隠す珠の姿があった。
「九穏院さまのおっしゃっていた、蓮とかいう少年。非常に興味がある。是非にもお会いしたい」
「そうお伝えしときましょう」
そう言って九穏院は部屋を後にした。
そして宴当日。
宮殿は準備に追われていた。宮殿の厨房ではたくさんの女官たちがごちそう作りに追われる。そして身の回りを世話する人たちも宴の席を飾り付け、席などの準備に追われた。そして警備も抜かりなく行っている。珠のお告げはすでに警備の上層部にも届いており、万全を整えた。
そして多くの来賓が宮殿へ入り、宴の席へ着いた。
理穏が玉座へ座る。九穏院、蓮と真聖は三人で理穏の一番近い場所に座って待機をしていた。理穏が集まった来賓たちに挨拶をする。
「皆様よく来てくださいました。本日は最後までお楽しみください!」
来賓たちから拍手が起こった。来賓たちは賑やかにおしゃべりしながら宴を楽しんでいる。数人の女性たちが酒を注いだ。
理穏は九穏院に手招きをした。九穏院は理穏のそばへ寄る。その様子を見た国賓たちは小さな声で囁き合う。
「陛下と弟君の九穏院さまだ」
「本当にそっくりなご兄弟ですな。流石、太陽と月の皇子ですな」
それを聞いた蓮が前へ進む。兄弟を比べる言葉に蓮は憤りを覚える。しかし蓮の腕を掴む。
「これ以上行ったら迷惑かけちゃうよ」
「わかってるよ」
蓮が真聖の腕を乱暴に振り払った。まだ真聖を許す気はないらしい。真聖はシュンと気を落とし蓮の後ろに控えていた。
すると真聖の耳に聞こえてきた会話があった。真聖が急に走り出した。蓮が振り返り追いかけようとしたがこれ以上は追わなかった。
真聖が会話を頼りに廊下を走る。薄暗い廊下を明かりなしで走った。すると人の気配がして柱に身を隠した。真聖は全神経を耳に集中させる。
「さあ、これを使って」
「これの中に?」
「ええ。これを理穏の杯にね。失敗はしないでちょうだい」
「承知いたしました」
真聖の耳には小さな声がはっきりと聞こえていた。多少の華札の力が働いている。柱の陰から覗き、女性が硝子の瓶を渡した。その女性をよーく凝らして見ると、見覚えのある顔をしていた。
「あれは・・・理穏陛下のお母さん?」
頭の中をめぐる絢妃の言葉。その時頭の中で言葉が聞こえて来る。
『少年よ、分からぬか。早く行かねば、陰謀が成立するぞ。我の力で耳を冴えさせたのに分からぬのか? 師走の華札継承者、師走真聖・・・』
華札の声だった。このままでは陰謀が成立してしまう。血相を変えてその場から急いで宴の会場へ向かった。頭の中で硝子の瓶の形を忘れないように頭の中に叩き込む。今見たことをすぐに九穏院と理穏、さらに蓮に伝えなければならない。
一方、宴の会場では盛り上がりを見せている。話に花が咲く。
「特に変わったことはありませんね」
蓮が九穏院に耳打ちをする。それには九穏院も頷いた。すると宴の会場に絢妃がやってきた。宴の雰囲気にあった美しい着物を来て来賓に挨拶を交わす。
すると理穏のそばに杯を持った女性がやってくる。女性はそれを差し出す。理穏が中身を聞くと酔い覚ましの水が入っていると答えた。そうか、いただこう、と注いでもらった。
すると玉座の後ろから真聖が飛び出してきた。
「理穏陛下!」
「ま、真聖?!」
理穏が思わず大きな声を出し、国賓たちの視線が一気に理穏に集中する。真聖はその場しのぎで笑った。これには蓮と九穏院も呆気にとられていた。
「理穏陛下。それは何ですか?」
「酔い覚ましの水だが?」
真聖は杯の近くにある瓶の形を確認し、息を飲んだ。そして真聖は平常心を取り戻しながら理穏に言った。
「僕にそのお水分けてくれませんか?」
「え?」
「理穏陛下からのお酌で水を飲みたいんです」
国賓たちは騒めいた。陛下に向かってなんて無礼なことを言う子供なんだ、という声が憩えてくる。蓮も何をしてるんだよ! と苛立ち始める。すると理穏が真聖を大声で真聖はこれでも皆様と同じ来賓である、とその場しのぎではあるが紹介をした。
疑問視する声も聞こえてきたが次第に収まった。
「真聖」
理穏は真聖に言った通り、杯に水を注いだ。そして杯に満たされた水をジーッと見つめると、いただきまーすと言って水を一気に飲み干した。
あー、おいしい! と真聖は言った。
「もう見てられない!」
蓮がしびれを切らし、理穏の元へと急ぐ。真聖に声をかけようと手を伸ばした次の瞬間、
「くはっ?!」
真聖が激しい咳をし、口から真っ赤な血を吐いた。そしてそのまま、荒い息をしてその場に崩れるように倒れた。しかも蓮の目の前で倒れた。
「真聖!」
蓮は大声をあげてすがった。倒れた真聖の体をゆすり、真聖の安否を確認する。九穏院も駆けつけて真聖の名前を呼び続ける。
「なんということでしょう・・・」
九穏院はすぐに真聖の脈を測る。微かであるがまだ脈はあった。しかし今すぐにでも処置をしなければ命を落としてしまう危険性があった。
「兄上! すぐに医者を!」
「宴は中止だ! すぐに医者を連れて参れ! 来賓の皆様をお部屋へご案内するのだ! そして警備の者を呼んでこい! この瓶に毒を持った下手人を突き止めるのだ! 九穏!」
「はい、兄上!」
「真聖を安全な場所に運ぶのだ! 医者はそちらへまわそう。真聖を頼むぞ!」
「はい!」
理穏が速やかにかつ的確な指示を出す。そして九穏院に真聖を頼み、自らは家来の指示に追われた。
「真聖殿! 大丈夫ですよ、気を確かに!」
九穏院は真聖を抱き上げ、急いで九穏院が宮殿に暮らしていた頃に使っていた部屋へ運び込む。真聖が運ばれた後、蓮はその場に動けなかった。蓮もその場に崩れ落ちた。偶然にも真聖が吐いた真っ赤な血に手が触った。
手のひらを見ると真っ赤な血が蓮の手を染めていた。
その瞬間、蓮は真聖を失う恐怖に襲われた。幼い頃からずっと一緒で側仕えと王子という関係ではあるがそれ以上に親友という強い絆で繋がった存在。頭の中に浮かんだのは今までの旅の中で互いを信頼し協力し、困難を乗り越えた日々。そして笑い合い泣き合った日々だった。
「まなとォーッ!!」
蓮の悲痛な叫びが人が動き回る宴会場に聞こえた。蓮はずっと泣き続けた。そして、絞り出すように言った。
「真聖! ごめん! 僕のせいだ・・・!」
真聖はすぐに布団の上に寝かされ、医者もすぐに呼ばれ懸命な治療が行われている。九穏院も部屋から締め出され、廊下で処置が終わるのを待っていた。解毒剤をつくるため、薬草などを煎じながらの処置になる。部屋には何人も人が出入りした。
思い出したのは珠の予言。
「月の皇子、危機に瀕す時、黄の鳳凰と白き龍によって救われ、謀った悪霊は罰を受けるだろう・・・。あの予言はこのことだったというのですか?! 真聖が犠牲になるなどあってはならないのです!」
九穏院は手を合わせてお経を唱え始めた。
そこへ後始末に追われた理穏が駆けつけた。真聖の安否を問われるとまだ分からない、と答えた。
「まさか、あの杯に毒が・・・。子供の真聖が毒に耐えられるか・・・」
「心配ですが信じましょう」
「真聖が死ぬくらいなら・・・俺が飲めば・・・」
それを聞いた九穏院が今まで聞いたことのないほどの声を出してそんなことをおっしゃるのはお止めください! と反論した。この国を平和に治められるのはあなただけなのです、と力強く言った。
「お願いです。もうそんなこと言わないでください!」
「・・・すまない」
しかし理穏を庇い、毒に倒れたことは事実である。これは明らかに理穏を狙った毒殺未遂だ。今すぐにでも犯人を捕らえたい。しかし捕まえるための手がかりがない。犯人探しは暗礁に乗り上げていた。
九穏院は昨日の夜に珠が教えてくれた神からの予言を理穏に伝えた。それに対し理穏は驚いた。予言通りになったのである。あの珠が言うことを聞いたことにも笑いながら驚いた。
九穏院はどうしても不安で念のために珠に協力してもらった、と説明した。理穏を信じていないわけではない、と弁明した。
「蓮殿は・・・?」
「恐らくまだ宴会場だろう。目の前で親友が血を吐いて倒れたんだ。心には相当な傷を負っただろう・・・。心配だな」
理穏が宴会場へ向かおうとすると九穏院が待ってください、と止めた。私が参ります、と告げたのだ。理穏が渋ると九穏院は大丈夫です、と言った。
「真聖はきっと理穏陛下がそばにいたほうが安心いたします」
「わかった。次は、蓮を頼むぞ」
「はい」
九穏院は礼をして急いで宴の会場へ急いだ。すると真聖が倒れた場所で動けずに固まっている蓮を発見し駆け寄る。九穏院が何度声をかけても蓮は反応しない。目の前の現実を受け入れられず、心に大きなショックを受けていた。
「蓮殿」
ようやく蓮が九穏院の方をゆっくりと向いた。蓮の瞳には涙が溢れ、止まることを知らずにどんどんと流れていた。表情も強張り、動かせない状態だった。
「僕のせいだ・・・。僕が・・・真聖に、あんなこと言わなければ・・・」
「蓮殿。真聖殿は大丈夫です。今、医者が診てくれています。さ、落ち着ける場所へ行きましょう」
九穏院は蓮を立たせて部屋への移動を促した。
廊下を歩いていると九穏院が急に足を止める。
「く、九穏院さま・・・?」
九穏院は咄嗟に蓮を自分の後ろに隠す。すると声が聞こえてきた。
「九穏」
「母上・・・。このような事態の時にどんなご用でしょうか?」
「恐ろしいと思いましてね。理穏が狙われたということは私の愛しい九穏にも危害が及ぶと心配していたのですよ?」
「これ以上理穏陛下を・・・、兄上を侮辱するのはお止めください! 私は兄上を殺そうとした黒幕を暴きます。これは長月の華札継承者に対する冒涜です。兄上も華札継承者の血を受け継ぐ尊い方です」
絢妃はその場から逃げるように九穏院の横を素通りしようとする。しかし九穏院は絢妃を引き止めた。
「兄上を殺すことは私をも敵に回すことと同じこと。これ以上、冒涜を続けるようならば、長月九穏として華札の力を使い、成敗いたします。それが母上であってもです・・・」
九穏院も真聖と喧嘩をしていた蓮と同じように怒りに震えていた。絢妃は急いでその場から後にした。隠れていた蓮が顔を出す。すると九穏院は蓮にこう言った。
「恐らく理穏陛下を殺そうとしたのは、母上です・・・」
「根拠は・・・あるんですか?」
「彼の方は利己的で権力欲が強い。そして理穏陛下を王位から引きずり降ろそうとしています。こうなれば・・・また珠殿に力をお貸ししてもらわねばダメかもしれませんね」
九穏院はそう言って蓮を連れて珠のいる場所へ向かった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏




