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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第四記:秋国編
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七章 ある華札の秘密

藤波真夏です。最新話を更新します。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

七章 ある華札の秘密

 理穏の自室にやってきた。

 九穏院の心の中は懐かしい気持ちで溢れていた。部屋には大量の本。この本を調べれば知らないことを全て知ることができるほどだ。

「理穏陛下。実はお願いがあって参りました」

「お願い?」

 蓮が前へ出た。そして意を決して口を開いた。

「この国には神様と話ができる人がいるって聞きました。国一番の巫女は宮殿の奥深くにいるとも聞いています。どうか、巫女さんに会わせていただきたいのです!」

 蓮が頭を下げた。すると理穏は少し腕を組んで考え込んだ。

「君の気持ちはわかる。彼女にかかれば全てお見通しだろう。しかし・・・」

「しかし?」

 理穏が口を閉ざして唸り始めた。どうしてもこのまま答えを出せない理由がある。

「彼女は少し・・・その・・・」

「?」

 理穏が説明しかねていると理穏の自室の扉が叩かれた。理穏が誰だ? と聞くと扉の向こうから女性の声で「福寿院でございます」と返事がした。

 それを聞いた理穏は噂をすれば、とつぶやいた。部屋に入ることを許可すると、扉が開き、福寿院が入ってきた。蓮と真聖は身を固めている。

「これはこれは・・・、九穏院さま。御歓談中に申し訳ございません」

 福寿院は頭を下げたが理穏は気にするな、と言った。福寿院の視線は蓮と真聖に注がれた。固まっていると九穏院が助け舟を出す。

「彼は冬国から参られたお客様です」

「冬国から? ですがこの御子たちは?」

「彼は蓮殿。冬国を治める首領・蓮紀さまの御子息です。隣にいるのは蓮殿の側仕えをしている真聖殿です」

 二人はぎこちないながらも会釈をした。そして福寿院はあの手紙に書かれていたのはその子たちだったのですね、と。手紙とは一体なんのことだったのだろう、蓮と真聖はきょとんとする。

「あの手紙、したためたのは福寿院さまでしょう?」

「さすがでございます」

 福寿院はそう言った。

 福寿院によると珠が九穏院に宛てた手紙は全て福寿院が代筆し、送ったもの。そして九穏院が理穏、珠宛てにそれぞれ返事を書き中身が暴かれないように鷹の足にくくりつけて空へと飛ばした。

 その手紙を受け取った理穏が中にあった珠宛ての手紙を福寿院に届け、それが珠の目に入るというものである。

 二人は福寿院が蓮と真聖という人間が珠に対して会いたいという願いも存じているはずだと踏んだ。蓮と真聖は福寿院に会いたい旨を伝える。

「私は会わせてあげたいんだが・・・」

「そうですね。実は珠は他人に興味がないのよ」

「興味がない?」

 福寿院の言葉があまりわからない。その訳を福寿院は説明してくれた。

 福寿院によれば、

 珠は元々の性格があまり他人に興味がなく、話しすることも手紙をやりとりすることもできない。さらにあまり外にも出たがらない。所謂いわゆる出不精でぶしょうである。

 理穏、福寿院との会話も成立し、意思疎通ができているが赤の他人には会話は成立しない。しかも珠自身が興味を持ってくれないと話しかけてもくれないのだ。なので珠は全てのものを隔絶し、会話は必要最低限である理穏、福寿院だけに絞られたのだ。

 それを話した福寿院はため息をついた。

「だから、陛下もそう簡単にいいよ、なんて言えないのですよ」

「そうだな。話すらも聞いてもらえないのかもしれないし・・・」

 理穏もそう言った。言葉の重みは相当なものである。

 それを聞いて自身がだんだんと無くなってくる。蓮は唇を噛んだ。もう近くには巫女がいるのに大事な目的を達成できない。

 すると福寿院が蓮のほうをじっと見ている。蓮が視線を移すと首をかしげた。福寿院は蓮に少し話がしたい、と切り出した。蓮はそれを承諾し、立ち上がった。すると真聖も僕も行きます、と言うと福寿院に止められた。

 理由を聞くと内密に話がしたい、と言う。

 いくつもの修羅場をくぐり抜け、地獄も天国も見てきた真聖には不安しかなかった。すると九穏院が立ち上がった。

「真聖。心配いりません。私が付いて行きましょう」

「でも・・・」

 すると理穏が声をかけてくる。九穏に任せておけ、と。理穏の言葉を信じ、真聖は座った。逆に九穏院が立ち上がり、蓮と一緒に部屋を出て行く。

「蓮さま、少しお預かりいたします」

 福寿院はそう言って理穏の部屋を閉じた。理穏と二人部屋に残された真聖は心配でソワソワしていた。理穏は落ち着け、と言った。

「そんなに蓮が心配か?」

「はい。この前も何かあったみたいなんですけど、何にも教えてくれないんです」

「強がってるんだな。きっと」

 理穏がつぶやいた。そうなんですか? と聞くとなんとなくだけどな、と返した。理穏は本棚から数冊の書物を取り出した。そしてそれを開きながら言った。

「人間は見栄を張ってしまう。その理由は多々あるけれど、根本にあるのは大事な人を傷つけたくない・・・心配させたくない、という切実な優しさだ。まるで九穏のようにな・・・」

「九穏院さまが?」

 真聖が聞くと理穏は彼を自分の隣に座らせて書物の中を覗き込ませた。理穏が開いていたのは華札に関する歴史書である。その書物には大陸に伝わる華札が描かれている。そこには真聖自身に刻まれた鳳凰まで描かれている。

「九穏はああ見えて自己犠牲の考えが強いんだ。自分が犠牲になれば生きる意味を見出せると言ったように・・・。俺が出来損ないだったがために多くの大人たちから期待された。自分が期待されれば、それ以外の黒い部分は俺のところへ来る。それを知ったから、九穏はあのように出家の道を選んだのだと思う」

 理穏は少し悲しそうな表情をしているように見えた。

 まるで九穏院の人生そのものを自分が狂わせてしまったかのように感じられた。すると理穏も自分も見栄を張って九穏院を困らせてしまったのかもしれないな、と自重して笑った。


「きっと俺は、首領の座から引きずり降ろされるんだろうな」


 理穏の口から出た言葉。九穏院が不安視していたことを理穏も察していたのだ。しかし、その理由は真聖も知っている。

「皇太后さま、ですか?」

「まあな。母上は九穏をそりゃあ溺愛してる。俺は名前さえ、呼んでもらえない。九穏、九穏、九穏、と。父上が俺を首領にすると決めた時、数ある反対派を収めてくれた。父上が守ってくれたのだ。しかし、俺にはもうそんな脅威から守ってくれる人などいない。見栄を張り、そして自分自身で守らねばならないんだよ」

 理穏の部屋には剣術練習で使われた木刀、さらに本棚には大陸内にたくさんある流派の指南書も置かれていた。

「・・・理穏陛下は」

「ん?」

「理穏陛下はどうしてそんなにも九穏院さまを信頼できるんですか?」

 真聖がそう聞くと、理穏は一瞬目を瞑るとまたゆっくり目を開けるとそこには優しそうに緩んだ金色の目があった。

「俺と九穏は双子だ。体は違えど分かつ魂は同じ。すでに心は奥底で繋がっている・・・。それを切り裂くことなど神や仏でさえできない」

 九穏院に対する絶対的信頼関係を理穏は告げた。真聖はそれに圧倒されて言葉すら出なかった。



 一方、蓮と九穏院は福寿院と対談していた。

「蓮さま。蓮さまのお体には華札継承者の印はございますか?」

 突然の質問に蓮は言葉を返せない。しかし落ち着いてただ一言告げた。

「・・・ありません」

「冬国首領蓮紀さまといえば、睦月の華札を宿す方。その後継ぎである蓮さまに印がないなど・・・」

 福寿院は唸った。蓮は福寿院に言った。

「僕、知りたいんです。僕が一体何者なのかを」

「蓮殿? あなたはあなたではありませんか?」

「時々思うんです。体は冬国首領の息子でも中身はぜんぜん違うような気がして・・・。華札継承者の痣だって大人になったら出てくるものだって思ってました」

 福寿院にこれ以上の詮索をやめるように九穏院は言った。福寿院は蓮に酷な事を強いてごめんなさい、と謝った。福寿院は時間を頂いて申し訳ない、と言って言ってしまった。

 蓮は九穏院に連れられて部屋へ戻ろうとした。蓮の沈んだ表情を見て九穏院は言葉をかけづらかった。

 しかし九穏院にはまだ疑問がある。蓮の瞳が光る現象である。蓮にはその自覚がなく、本人に健康被害などは一切出ていない謎すぎる現象。九穏院の中に刻まれている華札は、ずっと何かに反応し続けている。

 その正体は一切不明だ。

 理穏の部屋の扉を開けるとそこには驚きの表情を浮かべている。一体どうしたんだろう、と覗き込んでいると真聖は何かに弾かれたように理穏の部屋を飛び出した。

「どうしたの?! 真聖?!」

 蓮が叫んだ。しかし真聖はその声に耳を貸さず、走って行ってしまった。蓮が追いかけようとするが見失ってしまった。

「陛下。何があったんですか?!」

 九穏院が理穏に聞くと先ほど見ていた書物を見せてくれた。そこには華札に関することが細かく書かれている。

「九穏の手紙の中に書かれていたことが気になってね、調べてたら急に立ち上がって・・・。俺にはそこまで理由はよく・・・」

 蓮は探してくる! と理穏の部屋を走って行った。理穏が追いかけようとするが子供の足には敵わず見失ってしまった。



「次の者!」

 職人たちの硝子細工や食べ物といった特産品が次々と宮殿の中へ納められて行った。紅葉も順番待ちをしているとついに順番がやってきた。

「岩鉄の代わりに参りました。献上する品はこちらです。どうぞお納め下さい!」

 紅葉は風呂敷を広げて硝子細工を見せる。広げた瞬間に紅葉はその硝子細工に息を飲んだ。鶴の形を模した置物だった。羽の一枚一枚が精密に表現されていた。紅葉はやっぱりスゲェと心の中でつぶやいた。

 羽の先には水色の色彩がつけられ、太陽の光が差し込むとキラキラと輝きだした。

「確かに受け取った。ご苦労様」

 役人に納め終え、紅葉は列から抜けた。仕事を終えて正門のほうへ向かう。蓮たちとまた顔を合わせるのだ。顔を合わせたら失礼します、などと一言添えて帰るつもりである。

 正門へ向かってズンズン進んでいくと遠くに人影が見えた。

「?」

 紅葉が目を細くして注意深く見ていると、その人影はだんだんとこちらへ近づいてくる。だんだんとその正体が分かってくる。こちらに向かっているのは---、

「真聖?」

 真聖が紅葉に向かって猛スピードで走ってくるのが見えた。真聖も紅葉の姿を確認し、急いで紅葉の元へと急いだ。

「お兄さん」

「どうしたんだ? 俺はもうお使い終わったからよ、帰らにゃならねえ。蓮たちによろしく伝えてくれないか?」

 そう言って振り返ろうとするが待って! と真聖が引き止めた。

 真聖は確信に迫るように紅葉に言った。

「お兄さん。僕たちに何か隠してない?」

「隠す? 何をだい? 俺にはお前らに隠し事なんてしてないぜ?」

 紅葉は首をかしげた。本当に何も自覚はないらしい。真聖は意を決して口を開いた。


「お兄さん、華札継承者でしょ?」


 それを聞いた紅葉の視線が鋭くなる。口元は変わらないが、明らかに視線が鋭い。楽観的でいつも笑っている紅葉が真面目な顔になるのはなかなかない。

「華札継承者? どういうことだ?」

 紅葉がそう聞くと真聖は紅葉の右側の太ももを指差した。

「僕は見たんだ。お兄さんの右の太ももに鹿の痣をはっきりと! あんな痣、普通できないからね。偶然では片付けられない」

 それを聞いた紅葉は裾をめくった。すると真聖が見たとおりに鹿の痣がくっきりと太ももに刻まれていた。紅葉はただ黙って真聖の話を聞いていた。

「その痣は神無月の華札「紅葉に鹿」の象徴。だからお兄さん、神無月の華札継承者なんだよ。だからきっと本名は・・・、神無月紅葉カンナヅキクレハ

 真聖と紅葉の間をまた風が通った。髪を揺らす。沈黙の時間が静かに過ぎていく。沈黙を紅葉が破った。

「でもこの痣は子供の頃からあったんだ。でも華札継承者には特別な力があって子供の頃からそれは始まる。でも俺は違う」

 紅葉が風で舞った葉っぱを握る。それを見つめてつぶやいた。

「力なんて一切ない。俺は華札継承者じゃねえ。ただ不思議な痣を持つ、男だよ---」

 持っていた葉っぱを風に乗せて飛ばした。

 紅葉は力があれば他の継承者にその気配が分かるはず、と主張した。すると真聖はその主張を払拭する事実を掴んでいた。その事実を口にする。


「神無月の華札は他の十一枚の華札より少しややこしいものがくっついてるんだって。だから神無月の華札はもう一つ別の名前があるそうだよ。その、もう一つの名前は---、

『シカトの神無月』」


 紅葉は耳を疑った。真聖の口から理解不可能の言葉が飛び出したからだ。それがなんだ、と言わんばかりに理由を問う。

 すると真聖は続けた。

「ずっと感じてた。僕の痣はいつも華札継承者がそばにいると気配を察して熱を発する。宮殿に向かっている最中に九穏院さまとは明らかに違う気配を。初めて鹿の痣を見たとき、疑問が湧いた。どうしてあの痣を持っているのに感じる力は少ないのか。宮殿に入って理穏陛下が開いていた書物にその答えが載っていたよ!」

 蓮と九穏院が席を外していたわずかな時間で真聖は華札に関する書物から何を発見したのか。

 事のあらましはこうである。


 数時間前。

 理穏の自室で真聖の目に入ったのは、華札に関する書物であった。

「理穏陛下。これは?」

「これは華札に関する書物だ」

 真聖が見ていると気になる箇所を見つけた。真聖は読んでみるも説明が難しく、子供には理解が難しい文章で書かれていた。そこで真聖は気になっていた箇所を指差し、理穏に理由を聞いた。理穏は書物に描かれた絵を指差しながら真聖にも分かりやすいように解説をしてくれた。

「華札にはそれぞれ与えてくれる力がそれぞれ違う。それは一番最初の華札継承者の影響力が大きいって言われている。だけどその華札継承者の力が影響するのは別の意味で働くこともある」

「別の意味、ですか?」

「特にこの神無月の札がそうらしいな」

 理穏が指差したのは神無月の札の絵である。理穏が書物に書かれた言葉を再び分かりやすいように話し始めた。

「神無月の札には少し厄介な力がくっついている。それはシカトと呼ばれる呪いだそうだ」

「シカト?」

 真聖は聞いたことのない言葉に首をかしげた。これには理穏もわけがわからない。書物を読み進めていく。

「シカトの呪いは神無月の華札の力を打ち消してしまうらしい。だから華札継承者本人は印である痣はあるが力を全く使うことができない」

「華札継承者なのに力が一切使えないってことですか?」

「いや、何かのきっかけでシカトの呪いは解けて華札継承者として覚醒するらしいな。でもそれまでは本人も華札継承者の自覚がほとんどない。気付かない場合が多いみたいだ。そこからつけられた神無月の華札の別名は『シカトの神無月』」

 それを聞いたとき、真聖の頭の中には紅葉のことが浮かんだ。条件にぴったり合う。そう考えていたらもう体が勝手に動いていた。



「なーる。俺は無自覚の華札継承者だったってわけか」

 紅葉は納得したように言った。

「お兄さんは華札継承者なんだよ。だからお兄さんにお願いがあるんだ」

 真聖は紅葉に旅の目的、黒龍の封印についても教えた。しかしそれを聞いた紅葉は封印に関して拒否をした。真聖が驚いてわけを聞いた。

「怖いんだ。俺の中に知らない力が蠢いてるのが・・・。嫌だ、いつかこの力に殺されるのが・・・」

「お兄さん、お願いです! どうか・・・」

「嫌だ! これ以上、いろんな人が傷ついていくのは見たくない。もう殺される人を見るのはごめんだ!」

 紅葉は声を荒げた。殺された母親の遺体が脳裏に浮かび、紅葉を束縛している。紅葉はそう言って紅葉は来た道を帰っていく。真聖は追いかけようとするが、ついてくるな! と拒絶され紅葉は逃げるようにその場から立ち去った。

 一人残された真聖はつぶやいた。

「無自覚の華札継承者・・・か」

 真聖はふいに手を首の後ろに当てた。鳳凰の痣にはかすかに熱がこもっていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等宜しくお願いします。藤波真夏

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