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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第四記:秋国編
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六章 紅葉の語り草

長くお待たせして申し訳ありません。最新話を更新します。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

六章 紅葉の語り草

「それでは行ってまいります」

「お気をつけて」

 円珍に見送られて九穏院と蓮、真聖は宴に参加するために清涼院を出発した。九穏院は宮殿に上がるために相応の着物を準備した。蓮と真聖の着物も旅の中で汚れなどが目立っていたため九穏院と円珍の計らいで着物を手配してくれた。

 着物は秋国方式で真聖は黄色を基調としたもの、蓮は白を基調としたものになった。

 九穏院と並んで歩いていると蓮と真聖は真新しい着物が気になってしょうがない。

「なんだか、変な感じだね」

「うん」

 蓮と真聖が話していると九穏院がクスッと笑った。

「二人とも、お似合いですよ。円珍さまの見立て通りですね」

 そう話しながら三人は職人町へ差し掛かる。すると岩鉄の工房から出てきた紅葉と遭遇した。どうしたの? と聞くとそっちこそ、と返した。蓮は宮殿の宴に参加するために宮殿にこれから向かうのだと話す。すると、紅葉は驚きの表情を見せる。

「え? 蓮たちも?」

「え?」

「実は、俺も宮殿に行かなきゃならないんだ」

 紅葉は照れくさそうに頭をかいた。その理由を聞くと紅葉はこう答えた。

 実は秋国にいる多くの職人たちは作った作品を献上品として宮殿に届けなくてはならない決まりがある。それは岩鉄も例外ではない。職人たちは決まった日に宮殿に献上品を持ってくる。

 ところが岩鉄がまさかのギックリ腰になってしまい、届けることができなくなった。そこで弟子の紅葉が代理で届けることになったという。

「昨日はあんなに元気だったのに・・・」

「俺たちが帰った後になったらしいよ。ま、俺もびっくりしたけど」

 紅葉は笑った。そんな彼の手には風呂敷に包まれた木箱がある。きっとその中に岩鉄の作った硝子細工が入っている。それを担いだ紅葉。

 すると九穏院がよかったら一緒に宮殿へ参りましょう、と誘った。紅葉は喜んで、と頭を下げた。紅葉も加わって四人で向かうことになった。すると紅葉が何か気になることがあるのか、九穏院に聞いた。

「九穏院さま。俺、この格好で宮殿に入って良いのでしょうか?」

 蓮にも紅葉がそう言う理由がなんとなく分かった。煤で汚れてどうも宮殿に上がるのは気が引ける。九穏院は口を開いた。

「献上品納品だけならば追い返されるわけはございませんが、私が少しお手伝いいたしましょう」

「九穏院さま! 仏さまだあ・・・」

 紅葉が手を合わせて感謝を述べる。九穏院は苦笑を浮かべた。さあ、参りましょうか、と九穏院が促した。そしてまた四人で歩き始めた。すると紅葉が蓮の隣へやってきた。そして言った。

「蓮。この前は悪かったな」

「この前?」

 蓮が首をかしげると、妹である楓の話題を出した。楓が蓮のことを「硝子お化け」と揶揄したことについて謝っている。紅葉は蓮に何度も言い聞かせた。あれは妹の勝手な思い込みで蓮には何の罪もない、妹にはキツく言い聞かせたから許してほしい、と、

 蓮はその時の情景がすぐに脳裏に浮かんだ。まるで自分自身の存在を否定されているかのような気持ちになってきた。

「でも紅葉さん。硝子お化けって一体・・・」

 蓮がそう言った時、真聖が話に割り込んできた。「硝子お化け? 聞いたことないぞ?」と首をかしげた。冬国でも聞いたことがない名称だった。すると紅葉が口を開いた。

「硝子お化けっていうのは秋国に昔から伝わっている悪い妖怪なんだ。言い伝えでは誰もが寝静まる真夜中に現れ、一人歩いている人間を切りつけて襲いかかる。容姿は硝子のように透明な体に手には鋭い破片、瞳は真水を湛えた淡い水色」

 それを聞いた瞬間、蓮の背筋が凍りついていくのが分かった。

 楓が硝子お化けと言った理由が分かってきた。蓮の容姿は瞳の色が水色である。水色の瞳は冬国にのみ存在する瞳の色で、しかも冬国首領の血を受け継いでいる。そして・・・、睦月の華札を継承している人間だけが持つ色である。

 珍しい瞳の色であるために誤解を生んでしまっていた。

「まさか、蓮のことを硝子お化けだと思ってるんですか?!」

 真聖が紅葉に問いただす。今までの旅の中で大きな勘違いから自らが死にかけ、自らを追い込んでしまった。それは蓮の心に未だに見えない傷を残している。

「真聖。そんなことないだろう? むしろ謝らなきゃならないのはこっちさ」

 紅葉はそう言う。

「硝子お化けなんてただの言い伝え。俺は信じてねえよ」

 真聖は不完全燃焼のまま、再び前を向いて歩き出した。

 目の前には黄色い葉っぱが風に乗って舞っていた。まるで地面は黄色い絨毯である。その上を通っている時九穏院がつぶやいた。

「硝子お化けは通り魔の象徴。歩いている人間を襲っては逃げるを繰り返してる。でも、昔にも硝子お化けのような事件がありました」

 それを聞いた紅葉がハッとした。

「九穏院さま?!」

「紅葉殿。古傷をえぐり出して申し訳ありません。でも、硝子お化けと揶揄されてしまった蓮殿に理由を話したほうがよいと私は思うのです」

 九穏院はそう言った。

 紅葉の表情が先ほどとは変わっている。九穏院さま・・・と呟く紅葉。蓮と真聖は一体何が起こっているのか分かっていない。紅葉は意を決して歩きながら蓮たちに話し出した。



 楓が蓮のことを硝子お化けって言ったのには理由があるんだ。

 三年前、俺と楓と母さんの三人で暮らしてたんだ。貧乏だったけどそれなりに生活できていて楽しかったんだ。でもあの日を境に幸せは奪われた・・・。

 忘れもしない雨の日。その日は強めの雨が降ってた。待っても待っても母さんは帰ってこなかった。心配した俺と楓は二人で母さんを探しに行ったんだ。すると大通りの前に人だかりができていて何だろうってそばに寄ったんだ。

 すると周囲の大人たちが囁いていることが聞こえてきたんだ。

「通り魔だってさ」

「怖いね」

 通り魔。それを聞いて俺も怖いな、って思ったさ。通りすがりに人を傷つけるなんてって当時の俺は身震いがするほど怖かったさ。

 でも通り魔にやられた被害者を見たとき、さらに言葉を失ったよ! 目の前に血まみれで倒れていたのは俺たちの母さんだったからだ!

 俺はすぐに駆け寄って何度も呼んだ。けれど母さんは一言たりとも発さなかった。楓もそれに気づいて二人で泣き叫んだよ。

 兵士たちに聞いたらそばには硝子の破片が落ちていてそこには母さんの血がべったりくっついていたらしいんだ。それを聞いた楓が「硝子お化けだ。硝子お化けがお母さんを殺したんだよ!」って言い出したんだ。俺もまだ未熟だったからそうだろう、って思った。

 だけど時間の流れとともに硝子お化けのせいじゃないって思い始めて、それで今だ。

 でも楓は未だに硝子お化けが母さんを殺した犯人だって思っている。あいつ、ああ見えて結構頑固だからね。だから、特徴が似ている蓮を硝子お化けだって言い張ったんだと思う。



「お母さんが通り魔に・・・?」

 蓮がつぶやいた。暗い表情になっていく蓮に紅葉はちょっと待って! と蓮に言った。

「蓮! 別に君が俺たちの母さんを襲ったわけじゃないだろ?! 気にしないでくれ!」

「でもお母さんを殺した犯人は捕まったの?」

「捕まってねえよ」

 そのとき、紅葉たちの間を風が吹いて通り抜けた。その風がさらに木々を揺らし、葉っぱをゆり落とす。真っ赤に染まったモミジの葉が紅葉の目の前をゆっくりとひらひらと落ちていった。

 そのとき、真聖の首の後ろにある鳳凰の痣が熱を帯び始める。春国でも夏国でもあったこの現象。その現象が起きるときは決まって、華札継承者が自分たちのそばにいるとき。しかし、華札継承者は九穏院だけである。九穏院とは違う何かがいるように感じる。

「お兄さん・・・」

「何だい?」

「もしかして・・・」

 真聖が紅葉に何かを言いかけたとき、九穏院が声を出した。

「宮殿が見えてきましたよ!」

 九穏院が指差す方向に真っ赤で大きな鳥居がある。あの鳥居は宮殿下の大きな街の入口の目印である。紅葉もうひゃあ! と声を上げた。

「まさかまたお目にかかれるとはなー!」

「へえ。お兄さん、宮殿の近くに来るの初めてなんですか?」

「ガキん頃に一回だけな。それ以来だ」

 そう言って紅葉はニヤッと笑った。するとあっ、そうだ、と紅葉が真聖に声をかける。さっき言いかけたのは何だったのか? と聞いたのだ。すると真聖はへ? と間の抜けた声を出した。

 真聖が言葉を詰まらせているとどうしたんだろう? とこちらを見つめる蓮が目に入った。少し心配を含んだ表情をしていた。その表情を見て何も言えず、真聖は謎を胸の奥深くにしまい込んだ。

「な、なんでもないです! 僕の勘違いだったみたい!」

「そうなのか? ま、別にいいけれど」

 紅葉は向き直った。その瞬間、また風が吹いて着物の裾がひらひらとなびいた。突風にも似た強い風だった。

「すごい風!」

 蓮はフードを元に戻す。九穏院は空を見上げて太陽の位置を確認する。

「さ、参りましょうか。宮殿に入る時間は決まっているんです。時間を少しでも逃せばたとえ私といえど入れませんから」

 九穏院は笑って促した。わかりました! と蓮と紅葉はそう言って歩き出す。しかし真聖だけその場で立ち尽くしていた。蓮は立ち尽くしている真聖に言う。

「真聖? どうかした?」

「え?! いや、ごめん! なんでもないよ! 行こう!」

 真聖は三人の後を追うように走り出した。


 紅葉さんの太ももにあったあの痣。

 あの形はまぎれもない鹿の形。あんな痣、ちょっとやそっとじゃできない・・・! 鹿の痣といえば、「紅葉に鹿」!

 紅葉に鹿は神無月の札!

 まさか、あの人・・・華札継承者?! あの僕が感じた熱はこの人の力に反応したからだ! でも、華札継承者の力はあんまり感じなかった。

 九穏院さまみたいに明確じゃない・・・。

 どういうことなんだ?!


 真聖はそう心のなかで叫んだ。



 宮殿に近い街へ入ると九穏院はある店へ立ち寄った。着物を販売している店だ。店主がいらっしゃい、と声をかけると同時にそのお客さんが九穏院であることに驚きを隠せなかった。

「まさか、院さまがお越しなさるとは・・・。今日は如何いたしました?」

「彼に似合う着物を見立てて欲しいのです。これより宮殿へ入るので、相応のものを」

 九穏院の依頼を受けて店主は紅葉に似合う着物を見繕い始めた。白に紅葉と同じ瞳の色の橙色の着物を着た。予想以上に華やかで店主もどうでしょうか? と九穏院に聞いた。九穏院は十分です、と笑った。

 店主の見繕い通りに九穏院は紅葉に着物を送った。最初こそ九穏院にお金を払わせたくない、と支払いを拒んだが九穏院は折角宮殿に上がるのだから御祝い金だと言ってむしろ私から払わせてくれませんか? と告げた。

 紅葉は頭を下げて心の底から礼を述べた。

 着物に身を包んだ紅葉と共に四人は宮殿の裏入口に到着した。そこには紅葉と同じ献上品を運んできた人たちが多い。運んでいるのは全員大人だ。そのなかで見る限り少年は紅葉だけだ。

「紅葉殿。あなたはそちらより宮殿へお入りなさい。私たちは別の入口から入りますから、後でお会いしましょう」

「はい、九穏院さま!」

 そこで紅葉とは一旦別れた。

 蓮たちは宮殿の正面へ向かう。立派な門の前で九穏院が大きな声を上げた。

「長月九穏、ここに参りました! 門をお開けください!」

 すると大きな門が開いた。門番たちが久しぶりの九穏院の訪問に敬意を表した。九穏院は会釈をしながら宮殿のなかへ入って行った。宮殿のなかにある謁見の間に通され、蓮と真聖も一緒に待っていると部屋の奥から理穏がやってきた。

 そして玉座に座り、声をかけた。

「九穏、久しいな。よく来てくれた」

「いえ。こうして再び陛下にお会いできて嬉しゅうございます」

 九穏院は頭を下げた。蓮は二人を横目で見ていたが、当たり前ではあるが理穏と九穏院は双子の兄弟。顔が本当にそっくりで髪型さえ同じであればどっちかわからないくらいだ。

「蓮、それに真聖。お前たちも息災そうでなにより」

「はい。それよりも九穏院さまにお引き合わせ頂いた理穏さまのお気持ち、感謝します」

 蓮と真聖も頭を下げた。そして話題は二日後に開催される宴についてに移る。宴に参加してくれてありがとう、と理穏は礼を述べる。九穏院は兄弟水入らずで語れる機会、断る理由などありません、と返した。

 しかし、その言葉に蓮と真聖は重みを感じていた。

 確かに久しぶりに理穏と話す機会ではあるが、それ以上に理穏の命を狙う何かから守らねばならない。その決意が言葉の重みからにじみ出ていた。

「九穏。ここではなんだ、部屋で語り合おう。蓮、真聖も来るがいい」

「え? いいんですか?」

「ああ。お前たちの話も聞きたいからな。九穏、どうだろう?」

「私は構いませんよ」

 じゃあお言葉に甘えて、と蓮と真聖もついていくことになった。

 理穏、九穏院、そして蓮と真聖は理穏の自室へ向かうため、宮殿の廊下を歩いていた。すると前方から見覚えのある女性がこちらへ歩いてくる。

「・・・母上」

 九穏院が声を出すと絢妃は少し早足でこちらへやってくる。

「九穏! 久しいですね! 元気にしておりましたか?」

 絢妃は久しぶりに会った九穏院に笑顔で接している。これは息子との再会に喜ぶ母親の顔だった。しかしそんな顔を理穏は一切向けられたことはない。

「九穏。お話ししましょう」

「すいません、母上。私は陛下とお話が---」

 理穏のことは一切無視し連れて行こうとする。すると理穏が口を開いた。

「母上。申し訳ございません。九穏の先約は私です」

 理穏は会釈をして参ろうと歩き出した。絢妃の真横をすり抜ける理穏を扇子で顔を隠しながらも視線は睨んでいた。それを見た九穏院は一切絢妃に振り返らず言った。

「母上。私は出家したことを後悔したことなど一度もございません。そして私は、たとえ還俗しても首領にはなりません」

 きっぱりとそう言うと九穏院は歩き出した。

 一人取り残された絢妃の表情は怒りの表情であった。

「やはり! あの男に首領など務まるわけがない! 首領にふさわしいのは九穏! 覚えておれ・・・、長月理穏・・・!」

 ひときわ低い声で恨み節を吐くように絢妃がつぶやいた。



 そして同時刻頃。岩鉄の工房。

 岩鉄はギックリ腰で動くこともできず、硝子細工も一切制作できないでいた。しかも小言を吐いている。

「ったく、あの医者のオヤジめ・・・。絶対安静だァ?! 俺はこれでも生粋の職人だぞ?! おちおち寝てられるかってんだ---っ、イテテテテ・・・」

 起き上がろうとしても腰の痛みは収まらず、結局横になって安静にしていた。

「こんにちは」

 誰かがやってきた。楓だった。

「お兄ちゃんはどこですか?」

「ああ、紅葉なら宮殿に行ったよ」

「宮殿? なんでそんなところに?」

「俺がこの通り、動けねえから宮殿に献上品を納めに行ってくれたんだ。そういや、九穏院さまや蓮、真聖も一緒だったぞ」

 それを聞いた楓の表情が変わった。

「蓮ってあの水色の瞳の?!」

「あ、ああ」

「私、宮殿に行かなきゃ・・・」

 楓はそう言うと自分の家へ戻っていった。岩鉄の声も楓には一切届かなかった。

 家に戻った楓は出かける準備をする。そして棚に置かれた布に手を伸ばす。その布には硝子の破片が包まれていた。

 その硝子の破片こそ通り魔によって命を奪われた母親のそばに落ちていた凶器である。幼い楓のなかに硝子お化けに対する憎悪が次第に殺人鬼にも似た狂気に変わっていった。

「このままじゃお兄ちゃんが硝子お化けに殺される・・・」

 布に包んだ硝子の破片を布で作られたカバンに入れて、家を出て行った。


 

 二つの狂気が蓮、そして理穏に忍び寄っているとは知らず・・・時間は過ぎていった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願い致します。藤波真夏

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