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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第四記:秋国編
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二章 金色の瞳

長い間更新をせず、申し訳ありません。ゆっくり更新していきたいと思います。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

二章 金色の瞳

 息苦しさに蓮は目を覚ました。銀色の髪が風に揺れた。蓮は小春からもらった髪紐で一つに結わいた。あの夢のことを抹殺することなどできない。

「蓮。大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

 真聖に聞かれて軽く相槌を打ったが、蓮の心はなかなか晴れない。久しぶりの野宿でなかなか眠れなかったのだと真聖は錯覚する。しかし蓮の抱えている重みに気づかなかった。

 荷物をたたんで街へ向かう。

 道にできた水たまりを思わず覗き込んだ。本当に自分が映っていなかったらと考えただけで恐ろしい。

 再び街へ出ると色づいた木々が二人を出迎える。少し肌寒くて身を縮こめた。蓮の瞳に青い空が吸い込まれそうになる。蓮の上の空状態に真聖は少し心配している。また何かが蓮を苦しめているのではないか、と考えてしまう。

「ねえ。この国の首領さまに会えないのかな?」

「どうだろう。別に春国を引きずっているわけじゃないけど、なんか怖いな・・・」

 飛び入りで謁見まで持ち込むのは至難の技だ。春国では壮が手はずを整えてくれて、夏国では涼羽と七夕の夫婦に連れられて謁見という形になった。しかし今回はそんな人は誰一人としていない。

 すると真聖があることを思い出す。

「海袮さん言ってたよね? 秋国は夏国と同盟を結んでいて夏国が秋国を守っているから、この国には軍隊がない平和な国だ、って」

 そういえばそうだったね、と蓮は言う。

「てことは、よっぽど変なことをしない限り・・・連行はされないってこと?」

「そういうことなのかな? 軍隊といえば夏国の人たちだもん。義理人情に厚い人たちだから信頼できるかもよ?」

 真聖の言葉を聞いて蓮の考えは確信に変わる。

「真聖。宮殿へ行こう」

「乗り込む気?!」

 突発的な発言に真聖は唖然とする。さっきまでの弱気な発言はどこへ行ったのか分からない。根拠は? と聞くと蓮は歩きながら言う。

「謁見する前に自分の身分を名乗る。でもそれでも危害を加えてくるなら夏国の名前を使うんだ。翠徳さまに確認してもらえば僕たちが怪しくないってならない? その時はきっと・・・」

「涼羽さんと七夕さんも?」

「あたり! 翠徳さまが一番なんだろうけど、きっと涼羽さんと七夕さんなら絶対に味方になってくれる。僕たちのお父さん、お母さんが・・・」

「そうだね」

 急に思い出に胸を踊らせる。しかしこれはあくまで最終手段。決してすぐには使いたくない、と蓮は念を押した。これは翠徳や七夕たちにまた迷惑をかけてしまうことになるためだ。

「いつの間にそんなこと考えていたの?」

 真聖が驚いていると蓮は照れたように笑った。宮殿に行こう、と蓮は手を伸ばした。真聖と手をつないで宮殿のある方向へ歩き出した。



 蓮と真聖が宮殿に向かって歩いているまさにその時。

 蝋燭一本のみで照らされた部屋に一人、珠が祈りを捧げている。白い布で視力の自由を奪われている珠には生まれ持った霊力で今、外で何が起きているのかを知ることができる。珠の脳裏に浮かんだのは蓮と真聖が宮殿への道を歩いている様子だった。

「おやおや・・・」

 珠の口元が笑いで緩んだ。

 珠はさらに深く探り始める。以前告げられた神のお告げと合致している。終始驚いている。まさかあのお告げにあった人物たちが自分よりもはるかに幼い子どもだからだ。

 珠は息を吐くと女官を呼び、言った。

「理穏陛下を今すぐここに」

 女官は慌てて出て行った。

 一人残された珠はまた手を合わせて祈り始める。そして小さな声で呟いた。


「白銀の髪をもつ少年ね・・・。この目で見てみたいものだわ」



 蓮と真聖は宮殿の前までやってきた。真っ赤な鳥居の門が二人をお出迎えしている。ここにも神様を敬っている証拠が出てくる。宮殿ももはや神社のように朱色に塗られている。中へ入ろうとすると門を守る兵士に止められる。

「お前たち、何者だ?」

 蓮はすぐに口を開いた。

「僕は冬国首領、蓮紀の息子、蓮。隣にいるのは側仕えの真聖。突然押し掛けて申し訳ありません。秋国首領さまに謁見したいんですが・・・」

 兵士たちは蓮をジロジロと見る。冬国首領は代々銀色の髪の毛を持っているというのは誰もが知ることだ。しかし兵士は相手が子どもであるがために、まだ疑いの目を向けている。

 このままではらちがあかないと踏んで蓮が口を開いた次の瞬間、声が響いた。

「その者たちを疑う必要は無い」

 振り返るとそこには秋国首領の理穏本人が立っていた。理穏がこちらへ向かって歩いてくる。それには兵士たちも驚いてすぐに体を地にひれ伏した。何が起こっているのか分からず、蓮と真聖は兵士たちと一緒にひれ伏した。

「この者たちは何用で宮殿まで来たと?」

「は、はい! この者は蓮紀の息子と名乗り、陛下に謁見したいと・・・」

 兵士が事の次第を理穏に伝えた。理穏は兵士にただ一言、神のお告げがあったとだけ伝えた。すると兵士はそうでしたか、と納得して業務に戻っていった。その場に取り残された蓮と真聖は一体何が起こったのか理解できていない。

 理穏は膝をついて顔を上げるように説得する。蓮と真聖は恐る恐る顔を上げるとそこには金色の瞳を持つ、凛々しい青年がいた。

 蓮の思考は完全に停止して言葉が出てこない。頼みの綱である真聖も何もできない状態に陥ってしまった。

「蓮紀さまの息子である蓮。その側仕えで十二月の華札に選ばれた師走真聖。お前たちのことは知っている」

「なぜですか?!」

 蓮と真聖は驚いて声を大きくして問いかける。

「神からのお告げがあったのだよ。さあ、宮殿内を案内しよう」

 理穏が軽く説明すると蓮と真聖に背中を向けた。話がトントン拍子に進みすぎて蓮と真聖は慌てる。ちょっと待ってください! と苦し紛れに叫んだ。

「あなたは一体誰なんですか?」

 理穏は息を吐くと蓮と真聖の目線の高さまでしゃがんだ。蓮の瞳に飛び込んできたのは金色に輝く瞳だった。まるで秋国そのものを表しているかのような色をしている。

「私はこの国を治める理穏だ」

 それを聞いた瞬間、蓮と真聖の驚きの声が轟いたのはそれから数秒後の話である。



 蓮と真聖は宮殿の廊下を歩いていた。秋国首領である理穏自ら宮殿の中を案内している。普通だったらありえない話である。中庭にある大きな池、そしてそこにひらひらと舞い落ちる紅葉。風流という言葉が一番似合う光景だった。

「失礼を申し上げますが、理穏さまは今おいくつなんですか?」

「私はまだ二十三だ。この国の重臣達にとってみればまだまだ若造で頼りないって思っているに違いない」

 理穏はクスッと笑う反面、少し寂しそうな表情を垣間見せた。

 すると僕たち大事な話があるんです、と蓮が切り出す。真聖もキリッと真面目な表情になって理穏を見上げる。口を開こうとした次の瞬間、理穏が蓮の言葉を遮った。

「華札継承者を探している、そうだろう?」

「なんで?!」

「これも神からのお告げがあったんだ。この宮殿にはこの国一番の巫女がいるからな。彼女にかかれば造作もない。君たちがこの国に来ることも目的も・・・神はすべてお見通しだ」

 それを聞いて蓮の心の中で鈴の音が鳴る。

 思い出したくもない悪夢が関係している。神様ならあの悪夢の意味を教えてくれるはずである、とどこかで期待をしている。しかし今はそれを考えている場合ではない。蓮は自分を律した。

「神はおっしゃられた。白銀の髪を持つ者、その身に火の鳥・鳳凰を宿す者が我が国に入っている。其の者たちに協力せよ、とね。そのお告げの通りに君たちがここへやってきた。神の御意志によるものだろうね」

 白銀の髪を持つ者は蓮、鳳凰を宿す者は真聖。まさにお告げの通りだった。理穏は神様からのお告げに従い、協力をすると続けた。

 じゃあ早速、と蓮は口を開いた。

「理穏さま。華札継承者の方をご存じありませんか?」

 すると理穏が口を開いて言葉を発しようとすると背後から女性の声が聞こえて来る。振り返るとそこには紫色に染まった着物を着て黒い髪の毛は結い上げられ金色の簪を挿した中年の女性だった。

「母上・・・」

 理穏が驚いた表情をしている。理穏の母で皇太后の立場にある絢妃アヤヒである。

「な、何かご用でしょうか?」

「理穏。何をしているのです。急いで公務に戻られませ」

「しかし、この子たちは神のお告げによりこの地に訪れた。放っておくわけにはまいりません」

 理穏はそう説得しようとするが絢妃には通用しない。

「何でもかんでも神任せはいささか危険かと存じますが? 理穏」

 まるで理穏を見下し、さらには威圧するような声色で理穏を見つめる。理穏の表情はだんだんと暗みを帯びる。理穏は絢妃に頭を下げて以後気をつけます、と言うと蓮と真聖の背中を押してその場からそそくさと移動しようとする。

 絢妃の真横をすれ違った瞬間、絢妃が口元に歪めてまた言う。

九穏クオンならば・・・、こんなことはしないでしょうに・・・」

 一瞬理穏が足を止めた。しかし言葉を飲み込んで、さあ行こうと無理矢理に笑みを作って蓮と真聖の背中を押した。

 まるでその場から逃げるように立ち去った。

 蓮と真聖が通されたのは理穏が公務外の時間を過ごす部屋だ。部屋には真っ赤な紅葉が生けられ、畳の匂いが部屋中を包んだ。理穏は机の向かいに二人を座らせると自らお茶を注ぎ作り始めた。

 その光景はとても珍しいものだった。

 高貴な身分の人間、ましてや国を治める首領の立場にある人間が、お茶を注いでいるのはありえないことだった。理穏は口元を緩ませた。

「私は自分でできることはなるべく自分でやりたんだ。来客のもてなしは私のやるべきことだ」

 湯のみを差し出して言う。

 蓮と真聖はお茶を口に含んだ。口の中に程よい苦味が広がった。丁度いいという言葉はふさわしい。すると部屋の奥にある本棚には、有名な書家が出版したであろう書物が大量にしまっている。

 奥には硯と筆が置かれている。

「理穏さまは勉強が得意なんですか?」

「え?」

「後ろの本棚にたくさん書物がしまってあったので」

 理穏は本棚から書物を取り出して中を見せる。そこには流れるような書体で書かれた文字が。美しい字である。

「私は子供の頃から書が得意でね。これは全部首領になる前に揃えたものだ」

 真聖は理穏の手を見て納得がいった。理穏の手はとても綺麗で書家の手をしていた。理穏は穏やかで優しい首領さまだった。それが理穏の本当の姿のように思えてきた。

 そうだ、本題に行こうと理穏が切り出した。

「この秋国には長月、神無月、霜月の華札継承者がいるって聞いています。何か知っていますか?」

 すると理穏は口を開いた。

「・・・清涼院セイリョウイン

「清涼院? それはなんですか?」

「あ、いや。秋国のはずれにある屋敷の名前だ。そこに暮らす者なら何か知っているのではないだろうか?」

 理穏が言っているのはこのようなことだった。

 現在蓮と真聖がいる宮殿から東側の方向にある清涼院という場所。ここは秋国で唯一仏を祀る場所である。現在では仏に仕える僧たちが静かに読経をしながら暮らしているという。

 それを聞いて疑問に思ったのが真聖である。違和感を覚えた真聖は理穏に質問をした。

「秋国って神様を崇める国って聞いたんですけど、どうして仏さまが?」

 理穏はその理由をこのように話してくれた。

 確かに秋国では昔から神様を敬い、それを政治に活かしている。仏は数百年前に秋国に伝えられたもの。理穏の先祖が取り入れたのだ。しかし、なかなか浸透はしなかった。その名残であるという。

 現在では仏の教えに心を打たれた人間が僧となり、清涼院で読経の日々を送っているという。

「蓮。明日、清涼院に行ってみようよ!」

「そうだね。何か手がかりがあるのかもしれない」

 明日のやるべきことは決まった。完全に藁にもすがる思いである。蓮と真聖は手を握り返して頑張ろうと言い合った。その様子を見ていた理穏はフッと笑った。

「私は神の御言葉に従い、君たちに全面的に協力しよう。何かあったら私に話を通せ」

 理穏がそう言うと蓮と真聖は笑顔ではい、と言った。



 理穏と長い時間話し込んでいるうちに日が傾いた。

 蓮と真聖は理穏のご厚意により、今日は宮殿に宿泊することになった。

 通された部屋の障子を開けると中庭が見える。理穏の部屋で見た真っ赤に染まった木の葉が中庭を真っ赤に染める。美しい織物を見ているようだった。蓮と真聖は綺麗! と口々に言い合った。次第に笑顔が溢れる。

 その様子を静かに見つめる影が一つ。

 理穏である。彼は静かに二人のことを見守っていた。一息ついて廊下を歩いていると、絢妃とすれ違った。軽く会釈をすると扇を仰いだ。

「あの子どもたちを宮殿におくのですか?」

「私が決めたことです」

 理穏はそそくさと退散しようとするが絢妃は逃がさないとばかりに追い打ちをかけるような言葉をかけてくる。

「あなたには首領が重すぎたかもしれませんね」

「何が言いたいのですか?」

「言葉の通りです。私は九穏に首領はどうか? と薦めたのにも関わらずこのように・・・。ま、首を切られないように注意するのですね」

 絢妃は不気味に笑うとしずしずと理穏から離れていった。

 部屋に戻った理穏は机に拳を突きつけた。鈍い音が響いた。先ほどまで笑顔はどこかへ消えてしまった。

 月明かりに照らされた中庭を眺める理穏。拳には少し血が滲んでいた。彼の特徴的な金色の瞳は輝きを失っていた。その時脳裏に浮かんだのは蓮と真聖が笑いあっている姿だった。理穏は知らず知らずのうちに自分に重ねているようだった。

「私は・・・この世に生を受けるべきではなかったのだろうか・・・」

 理穏の力なき声が口から出てきた。



 一方その頃。

 蓮と真聖が明日向かう予定の清涼院では一人の僧が仏像の前に座禅を組み、読経をしていた。完全な剃髪をしておらず断髪で済ませている僧。読経が終わり、目を開くと金色に輝いていた。

「御仏よ、私に道を示し給え」

 手を合わせて静かに目をつぶって祈った。

 清涼院の外にも秋国随一の職人たちがいる。彼らは明日に向けて準備をしている。硝子細工を施すために硝子の結晶を荷車に乗せてそれを工場へと運ぶ作業をしているようだ。

「ほら、急げ!」

 男たちの声が響いた。硝子の結晶を運ぶ作業をする少年は汗をぬぐった。

「もう少しだ!」

 秋国東のはずれでは僧侶の読経と職人たちの勇ましい声で溢れていた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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