二章 黒龍襲来
更新しました。最後まで読んでいただけたら幸いです。藤波真夏
二章 黒龍来襲
「うーん」
痣ができて数日後、真聖はあることに悩まされていた。痣ができたという身の異変はあったもののそれだけではなく、気の異変が発生していた。
今まで感じたことのない不安感に襲われていた。近いうちに何かが起こるような不安感が毎日真聖の精神を支配する。
「柊さま。体の調子が・・・」
その不安感に体調を害され、真聖は医者通いすることが多くなった。しかしどんなに診察をしても悪いところは見当たらない。蓮と外で遊ぶことも少なくなってしまった。真聖の体調を蓮も理解していたため、蓮一人で遊ぶということはせずいつも縁側でたわいもない話をして日々を過ごした。
「真聖。大丈夫だよ! 僕がついてる! だから一緒に遊ぼう!」
「うん」
蓮の明るさのおかげなのか、真聖もだいぶ体調が以前のように回復傾向に進んだ。真聖を襲った体調不良を蓮紀が一番心配していた。ある日、柊を呼んで話をしていた。
「柊。真聖の体調はどうだ?」
「今は回復して蓮さまと過ごしております。一時はどうなるかと思いましたが・・・」
「そうか。しかしまだ小さな背中に重いものを背負わせてしまったな・・・。子供の体に華札の力は日常に支障を出すものなのだな」
「儂ら大人にはただの不安だけですじゃが、子供には辛すぎることなのかもしれませぬな。しかし、まだその不安取れませぬ」
「そうだな」
そう言って立ち上がったその瞬間、蓮紀の潜在意識に雷のような閃光が落ちる。立ったまま動かない。表情が固まり、まるで神のお告げがあったかのようだった。
「蓮紀さま?」
「柊。馬を出せ! 今すぐだ!」
「蓮紀さま?! 何をおっしゃられますか」
「柊のじじい! わからないのか! できるだけ兵を集め、馬を出せ!」
蓮紀の鬼気迫る表情にただ事ではないことを察し、柊はすぐに冬国の将軍に声をかけ兵をかき集めた。蓮紀も鎧を身につけ剣を差して愛馬に乗った。
外が騒がしいことに気がついた蓮と真聖は準備をする蓮紀に何があったの? と近寄る。蓮は不安そうな顔をして蓮紀を見上げる。
「父上・・・」
蓮紀はしゃがんで蓮と真聖と同じ目線になって二人の肩に手を置いて言った。
「蓮。真聖。心配しなくてもいい。それよりお前たちはこの屋敷を守るのだ。柊も屋敷にいる。だが柊はもう年だ。お前たちが守らねばならない。いいね?」
蓮紀がそう言うとはい! と二人で言った。蓮紀の大きな手が二人の頭をくしゃくしゃと撫でた。蓮紀はマントを翻して二人に背中を向けた。そして愛馬に跨ると勢い良く屋敷を出て行った。
「父上! ご武運を!」
「蓮紀さま! ご無事で!」
二人の声は屋敷内に響き渡った。
蓮紀が向かう先は三つの国が交わる場所。そこは冬国が誇る永久凍土のある山を越えた先だ。少数の兵士を連れて蓮紀は森の中へ入る。視界が悪い中、蓮紀たちは進んだ。彼には思い当たる節がある。蓮紀らがとても恐れている存在である。
かつて四季の大陸には、黒龍という魔物が悪さをしていた。黒龍が現れると光が遮られ、海は荒れ、人々は死に絶える。黒龍は悪の限りを尽くし四季を我が物にしようとした時、華札の霊力によって黒龍は封じられた。
二度と復活できないよう、華札に選ばれた十二人の力で抑えられている。
そんな言い伝えを蓮紀は歴史書で読んだ。今では古の魔物として物語に登場する架空の存在になりつつある。
まさか今までの嫌な気配が・・・、まさか、そんなことあるはずがない---!
蓮紀は不安な心を抑えて急いで国境にある黒龍が封印された場所へ向かう。急いで馬を走らせてついに到着する。
すると予想以上に禍々しい雰囲気が漂う。
「なんだこの空気は・・・。息がつまる・・・」
蓮紀が馬から降りて進むと重々しい空気の中に入っていく。目に入ったのは黒龍の絵が彫られた不思議な岩。周囲が霧に包まれる。蓮紀が周囲を警戒していると低く重い声が響く。
「忌々しい華札め・・・。よくも我を封印してくれたな!」
「貴様、まさか・・・。華札の霊力を差し置いて・・・そこから出てくるつもりか?」
蓮紀がそう言うとドクン! と波動が蓮紀を襲う。蓮紀の目に飛び込んできたのは真っ黒な波動に包まれたとぐろを巻いた巨大な龍だった。蓮紀は手首に巻かれた包帯を取り、痣をあらわにさせる。それを見た黒龍の目が光る。
「貴様、只者ではないな・・・。しかもその鶴の痣・・・。そうか、わかったぞ・・・。その鶴の痣、銀色の髪、水色の瞳・・・。睦月の札に選ばれた冬国首領、睦月蓮紀!」
蓮紀はすぐさま剣を抜いて黒龍を睨みつける。
「華札の霊力を・・・上回ったというのか」
蓮紀が斬りかかると黒龍の雄叫びが蓮紀を吹き飛ばす。背中から落ちて痛みをこらえていると背後から兵士が前へ出る。
「首領さま! ここは危険です!」
「お前たちは出るな! 黒龍だぞ! ここは華札の力がなければ太刀打ちできない!」
蓮紀は兵士を自分の後ろに下がらせた。そして黒龍と一対一で向かい合う。剣を振り上げ応戦し黒龍を退ける。しかし気が遠くなるような年月をかけて力を蓄えていた黒龍に蓮紀はおされる。
「睦月蓮紀よ、ここで散れ・・・」
蓮紀が黒龍の攻撃をかわし一撃を喰らわせようとしたその時、黒龍の攻撃をかわそうとした蓮紀がバランスを崩した。その隙をつかれ黒龍の波動が蓮紀に襲いかかる。蓮紀は波動に飲み込まれ叫びをあげた。
「首領さま!」
一人の兵士の声が響いて、あたりはすぐさま沈黙に包まれた。
兵士たちが駆け寄ると黒龍の姿はどこにもない。しかしそこには血を流し、傷だらけで虫の息になって倒れている蓮紀の姿があった。
「首領さま! しっかりしてください!」
兵士たちが駆け寄り蓮紀を助け起こす。すると周囲に黒龍の声が響いた。
愚かな人間どもよ・・・。
我は今、長い時間の中で力を蓄え蘇った・・・。華札の霊力など造作もない! もう霊力は我に通用しない! 我はこの大陸を支配する!
声が聞こえたかと思うと、黒龍が封印されていた岩から三枚の華札が現れた。
「なんだ?! あれは」
兵士たちが見ると不思議な力を宿す華札が光に包まれていた。札は師走の札、霧に鳳凰。そして睦月の札、松に鶴。如月の札、梅にウグイスの三枚だ。冬を司る大事な華札である。華札はそのまま光の粒となって粉々に砕けた。
「華札が・・・消えた・・・?」
兵士たちが呆然としているその頃、異変が起きていたのは冬国だけではなかった。春国、夏国、秋国の国境封印場所でも同様の出来事が起きていた。各場所を守る華札が消滅した。
「大変でございます! 華札の封印が解き放たれました!」
「何?!」
このような報告があちらこちらで行われていた。大陸中が混乱に包まれた。
屋敷で蓮紀の帰りを待っている蓮たちにも異変があった。柊が今まで感じたことのない気の流れをつかんだ。そして真聖も今までより比べ物にならないくらいの不安に襲われた。
「蓮紀さま?」
「真聖?」
何も感じない蓮は心配そうに見つめている。真聖は強くなってその場から動けない。すると背後から慌てた柊がやってくる。
「真聖! 大丈夫か?!」
「柊さま・・・。怖い、怖いです・・・」
「お前も感じたのじゃな・・・。やはり何かことが起こってしまったようじゃ・・・」
柊が何を言っているのか理解できない真聖とまず何も感じずただ理解できずにいる蓮は首をかしげる。今まで心地よい風が不安を誘う怖い風へと変わり、蓮の心をざわめかせた。すると屋敷の門から兵士の声が聞こえてくる。
「柊さま! ただいま戻りましてございます!」
それを聞いた柊は急いで門へ向かう。蓮と真聖も向かう。するとそこには目を疑う光景が広がっていた。
兵士たちは傷つき、蓮紀の剣は真っ二つに割れ愛馬に乗っているのは傷だらけで血に染まった蓮紀がぐったりとしていた。悪い予感が的中してしまった。
「蓮紀さまーっ?!」
柊が駆け寄る。
蓮と真聖も言葉を失う。ほんの数時間前は凛々しい姿をしていたその人は今は傷だらけで弱った姿。あの姿の面影などどこにもなかった。
「父上! 父上! しっかりしてください!」
蓮が裸足で蓮紀に駆け寄る。ところが兵士の一人が蓮を抱えて抑える。蓮さま、落ち着きください、というばかり。しかし蓮が見上げると兵士も涙をこらえて耐えていた。それを見ると蓮は暴れることができなくなってしまった。
その代わりに大粒の涙があふれた。真聖も言葉すら出ず足から力が抜けてそのままへたり込んでしまった。
「蓮紀さま・・・」
黒龍によって重傷を負った蓮紀はすぐに部屋に運ばれ、医者の懸命な手当てが行われた。部屋にはたくさんの大人が出入りしている。様々な声が飛び交い蓮と真聖はその場に立ち尽くすことしかできなかった。
「父上・・・。どうして・・・」
蓮の目から涙が溢れてくる。真聖も涙が溢れてくる。結局部屋に戻っても眠ることなどできず二人は蓮紀の部屋のそばで肩を寄せて眠った。
いつまで経っても部屋に戻らない二人を心配した柊が蓮紀の部屋を通りかかった。すると眠りについている二人を発見する。柊は掛け布団をそっとかけてあげた。
すると蓮紀の治療にあたった医師の一人と目が合う。二人だけではなく、柊も心配している。
「蓮紀さまの容体はどうなのじゃ・・・?」
「なんとか一命は取り留めました・・・。しかし、意識が回復しません・・・。しかもかなりの深手でもう剣を振るうのは不可能かと・・・」
「何?!」
蓮紀はなんとか命の危機は脱したが、その深い傷のせいで意識が回復せず眠り続けていた。部屋にそっと柊が入ると蓮紀は包帯にぐるぐる巻きにされて眠りについている。ところどころから血が滲んでいる。包帯越しとはいえ痛々しい。
「蓮紀さま・・・。なんというお姿・・・」
柊の悲しい声も部屋に小さく聞こえた。
そして朝がきた。
屋敷は不気味なほどに静まり返っていた。蓮と真聖は蓮紀のそばから離れない。蓮と真聖も柊から状況を聞いてさらに落ち込んでしまった。
「蓮・・・。大丈夫だよ、蓮紀さまは強いじゃない! だから・・・」
真聖が出来る限り励まそうとするが蓮の心は晴れなかった。このまま父親を失えば蓮は独りぼっちになってしまう。まだ幼い子供には無情な仕打ちだった。
すると柊が部屋に入る。
「真聖。ちょっと来なさい。話さねばならぬことがある」
真聖は蓮が心配で何度も後ろを向きながら柊と部屋を出た。一人残された蓮は蓮紀にすがって泣き続けた。一人は嫌だ、と何度も言った。しかし大好きな父親は目を覚まさず、手も動かない。あの真聖と一緒に頭を撫でてくれた大きな手には温もりさえない。
「父上・・・」
蓮は思わず蓮紀の手を握った。その時、手首のあるものに目を奪われる。なんだろう、と見るとそれは鶴の痣だった。
「なんだろう、これ。父上は僕に教えてくれなかった・・・」
蓮は鶴の痣にどこか惹かれるように見つめていた。蓮は鶴の痣に惹かれるようにただ蓮紀の手首を見つめていた。
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