十一章 絆は永遠に
更新しました。今回で夏国編最終章となります。最後まで読んでいただけたら幸いです。藤波真夏
十一章 絆は永遠に
夜が明けて蓮と真聖は荷物を準備し、海袮との待ち合わせのため城へ向かった。見送りには涼羽と七夕、織も一緒だ。
城にはすでに海袮が待っていた。
「おせえぞ! 待ちくたびれたぜ!」
相変わらずの態度で話しかけてくる。馬を引いて待っててくれている。すると涼羽は二人の目線に合わせた。そして頭を撫でた。
「蓮。真聖。これから気をつけるのよ。もし、恋しくなったらいつでも訪ねてらっしゃい」
「はい。涼羽さん、ありがとうございました」
涼羽は蓮と真聖を抱きしめた。
やはり涼羽からは母親の匂いがした。すると織もする! と蓮と真聖の背中を織が腕を広げてくっついた。涼羽から離れると織はいつものように蓮と真聖の手をつないだ。そうだ、と七夕があるものを取り出した。
「蓮。真聖。渡したいものがある」
七夕が布で包んだものを取り出した。包みを広げるとそこには二本の短刀が。一つには銀で鶴の細工が彫られ、水色の水晶が鶴の目に埋め込まれている。もう一つは銀で鳳凰の細工が彫られ、貴重な黄色の水晶が鳳凰の目に埋め込まれている。
「僕と涼羽、そして翠徳さまからの餞別の品だ」
蓮には鶴のほうを、真聖には鳳凰のほうを渡された。これは何? と聞き返すと七夕は言った。
「これは短剣。君たちが持てるように小さいものにしたよ。これから先、君たちは剣をとるんだと思う。せめて自分自身を守るための短剣だ」
「自分を守るための?」
七夕は頷いた。そして短剣を蓮と真聖の腰に差した。体にあった大きさだ。蓮と真聖は短剣を抜く。光に照らされて反射する。そして蓮と真聖が扱いやすいように軽く作られていた。
「武器は簡単に人の命を奪う。きっとそれについて悩むことがあるかもしれない。本当なら渡したくはないが、でも君たちが成長する上で必要だ」
蓮と真聖は短剣を鞘にしまう。そし七夕も涼羽同様二人の目線に合わせてしゃがんだ。
「二人に出会えて僕は幸せだった。これから大変な道のりかもしれない。頑張るんだよ。蓮、真聖、君たちは僕の大事な息子たちだよ」
「七夕さん・・・」
蓮と真聖は七夕にしがみついた。七夕は二人の背中をさすった。七夕は夏国滞在中に涼羽同様に世話を焼いてくれた人だ。もう父親同然だ。
「おいおい。俺を忘れてくれねえか? 置いてくのは勘弁してくれ」
海袮が頭を掻きながら言った。すまない、と七夕は言う。さあ、時間だ、と海袮が言う。蓮と真聖は海袮に荷物を渡して馬に積んだ。
「気をつけるんだよ」
涼羽がそう言った途端、今度は織が真聖にしがみついた。何?! と驚いていると織が涙を流しながら言う。
「行かないで! ずっとここにいて!」
「織。我儘言っちゃダメ。蓮と真聖は次の国に行かなきゃいけないの。さようならは?」
「いやっ! 蓮にぃにと真聖にぃにと一緒にいたい! にぃになの! 織のにぃになの!」
織にとっては大好きなお兄ちゃんであり、遊び相手である。もう居候の域ではない。大事な家族になっていた。織を諌める涼羽も気持ちが分からないわけではない。涼羽にとっても蓮と真聖の存在は大きかった。できることならばもう少しいてほしいが、可愛い子には旅をさせよが頭に浮かんで、心を律している。
すると真聖はしゃがんで織に優しく語りかけた。
「ごめんね、織。でもね、もう会えないわけじゃないんだよ。全部が落ち着いたらまた会えるよ。また会いに行く」
純粋な瞳に大粒の涙を浮かべて声をしゃくりあげながら本当? と聞く。すると蓮が出てきて織に言う。
「本当だよ。僕たち、嘘はつかないから」
蓮と真聖は織の涙を拭った。織は涙を拭いて笑った。
「泣けてくるぜ」
蓮と真聖の後ろで海袮も若干の感動を覚え、涙を拭いた。それを見た涼羽はフッと笑った。
「へえ。シグレ賊の頭ともあろう者が涙とは・・・。不思議なものだ」
「水無月。言うなあ・・・。てめえ、覚えておけよ」
「蓮と真聖に変なことしたら許さないからね」
「わ、わあってるよ。そんなこえぇ目すんなって」
涼羽の視線が知らない間に鋭くなっていた。まるで鋭利な刃物のようなものだった。それを飄々とかわす海袮。織と別れの挨拶をすませ、海袮に手伝ってもらいながら馬にまたがる。視界が変わり、涼羽と七夕を見下す形になった。
「蓮、真聖。気をつけるんだよ」
「本当にお世話になりました。七夕さん、僕、人のために戦います」
「よく言ったね。気をつけるんだよ」
七夕がそう言うと海袮の目を見た。すると海袮は手綱を握りしめた。
「さあ、二人とも。しっかり掴まってろ! 振り落とされんな!」
馬が歩き出す。その瞬間、涼羽と七夕たちの姿がだんだんと遠ざかっていく。蓮は振り返ると織を抱いた涼羽が手を伸ばそうとしている。
まるで引き止めようとしているかのように。
織は見た。織を抱きしめながら涼羽が涙を流している。織は涼羽を見ながらなんで泣いているの? と聞く。すると七夕が涼羽に代わり、言う。
「母さまもにぃにたちとお別れするのが辛いんだよ」
「母さま・・・」
七夕がそう言うと涼羽は自分の顔を七夕の胸に預けた。今まで強かった涼羽が弱々しく見えた。七夕の胸の中で涼羽は静かに涙を流して泣いた。
まるで大事な家族がいなくなったかのように、三人は寂しさを覚えていた。先ほどの織と同じくらいに涼羽も悲しみに暮れた。
三人の姿が見えなくなった時、海袮と一緒に秋国へと続く街道へ向かう。もう街からは離れて木々が生い茂る場所へとやってくる。シグレ賊の集落も近い。
「まさかお前たちを送り届けるとは思わなかったぜ。ま、任せときな」
海袮はニヤリと笑って馬を走らせる。
蓮と真聖は別れが相当堪えて言葉を発せずにいた。海袮はその空気を察する。それを払拭しようと言葉を考えて紡ぎ出す。
「別れは出会いの始まりだぜ。そんなに落ち込むなよ。別に水無月や文月、嬢ちゃんにに度と会えないわけじゃねえんだ。いつまでも悲しんでられねえだろ? 秋の華札継承者を探すんだろ?」
海袮の言葉で心の中に涼しい風が通り抜ける感覚が走る。いつまでも悲しみに暮れているわけにはいかない、とごく自然に蓮と真聖の心が動く。
「そうだね、僕たちにはやらなきゃいけないことがある。頑張ろう、真聖」
「うん、蓮」
二人は意思を強く持つ。海袮は思った。
母親譲りだな。
母親・・・、本当の息子のように接してくれた涼羽のことを思い浮かべる。
すると海袮は蓮に聞いた。
「なあ、蓮。お前、華札封印したとき、なんか術でも使ったのか?」
「?」
蓮は首をかしげた。見当もつかないと言わんばかりだ。真聖に同意を求めるが真聖は同意などしなかった。真聖も海袮と同様言った。
それを聞いた蓮は言葉を失った。
「ねえ、蓮。春国の華札封印のときも、夏国の華札封印のときも・・・、蓮の目が光ったんだよ。心当たりある?」
自覚症状ゼロのことを聞かれ、蓮は返答に困る。
「目が光る? どういうこと? 僕は・・・」
「気になっただけだよ。もしかしたら見間違いかもしれないし」
真聖はそう言うが蓮は心に何かがつっかえてしまい、なかなか返答できない。海袮の言った質問の意味がなんとなく分かった。
蓮の中に疑問が生まれた。
まるで瞳の色、髪の色は同じなのに潜在的な中身が全く違うような思いだった。蓮の中に一抹の不安がよぎる。するとその不安を察した海袮が言った。
「俺には何もわかんねえ。でも、秋国に行けば何か分かるんじゃねえの?」
「秋国? 何でですか?」
「秋国は独特の発展を遂げた国だからな。古来の神を崇め、神の言葉を聞いてそれを政治に活かすくらいだからな」
秋国のことを語り始めた海袮。海袮の言葉から秋国が四季の中でもなかなか異質なものという想像が浮かぶ。
「秋国には神の声を聞く輩がいる。もしかしたら、そいつらに聞けば分かるんじゃねえか? ま、そう簡単に会える存在じゃねえと思うけど」
海袮はそう吐き捨てる。
夏国特有の緑色の木々はだんだんとなくなり、赤、橙、黄に色づいた葉が舞い始める。美しく紅葉した山の景色が見えて来る。それを見て感じる。もうすぐだ、と---。
蓮と真聖が次に向かう国・・・、それは---。
美しい紅葉が目立ち、四季の中でも独自の発展を遂げて古来からの神を崇める国。そして、「神々の国」という異名を持つ国・・・。
秋国である---。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回で夏国編は終了となります。次は秋国編となります。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏




